ライトノベルセレクト
{The Wizard of The Education}
おもしろい男が応募してきた。
元はアメリカのマジシャンで、数年前に来日、一年余りジョージのマジックショーでゴールデンタイムで38の数字を叩きだした男だ。
一年で、ふっつりと番組を辞めた。
「一年契約だし、私のタネを見抜けた人間が現れなかったからね」
ジョージは、それから全国的に有名な進学塾の講師を務め、教え子の99%を希望校に進学させた。1%は不幸にして交通事故で亡くなった5人の高校生。だから並の統計方法では100%になる。ジョージはThe Wizard of The Educationと呼ばれた。
そいつが、日本国籍を取得してO市の民間人校長に応募してきたのだ。
「三年で、国公立への進学率を50%に引き上げます」
自信満々でジョージは言ってのけた。論文も面接も非の打ちどころが無かった。
演説や論戦では自信のある市長が言い負かされた。市長は上機嫌でジョージを採用した。
「君、そう君だよ」
校長の辞令をもらったジョージは、市役所の廊下を歩いていて、悄然として市教委に向かおうとしていた初老の男を呼び止めた。
「君は、立花さんだね。訓戒か戒告で済むように祈ってるよ。まあ、期待薄だがね……君は結果を出せなかった」
立花は、私立X高校の民間人校長だが、彼が校長になって以来X高への進学希望者も、大学への進学率も落ち目で、おまけにパワハラで元職員と係争中である。市教委は事情聴取というカタチでアリバイを作り、この年度末で諭旨免職にもっていく腹である。
ジョージは着任式で、ボロ校舎が立派な新築になるイリュージョンを見せた。どよめきが起こった。
「今のはイリュージョンだが、私と君たちとのホープでもある。大事なものはイマジンだ。二年生は二年後、三年は一年後の自分をイメージしてみよう。I wish I wereじゃなくてI shall! I will!だ。目をつぶりなさい。one, two,three,で目に浮かんだもの、それが君たちの将来の世界だ。one,two,three! どうだ、浮かんだかい。浮かばない人のために奇跡をおこそう」
ジョージが指を鳴らすとAKPの人形が現れた。
「この人形に魔法をかけよう。1……2……3!」
ジョージが手を叩くと人形は本物の選抜メンバーに変わった。そして『恋するフォーチュンキャンディー』がかかり、ジョージが先頭を切って、選抜メンバーと踊りだした。数秒後には次々と生徒が、教職員が踊り始めた。ジョージのスタッフたちが、それをビデオに撮って、午後の入学式が終わったころには、ユーチューブに投稿され、その日のうちにアクセスは三万を超えた。
変わったところでは、人権推進部の先生に「在日外国人の生徒に本名宣言を迫るのはやめてください」と真剣に言った。
「しかし、社会の差別や偏見と戦うために……」
「戦わせた、その結果に、先生や学校が責任をもてますか。大事なのは差別し偏見を持つ人や社会と先生自身が戦うことです」
このジョージの言葉は賛否両論だったが、ジョージの人気は決定的だった。
三年後、ジョージはX高校の国公立進学率を本当に50%にしてしまった。
市長は喜び、共同の記者会見を開いた。
「私は三年前にお約束した通りX高校の進学率を伸ばしました。そうですね市長」
「おっしゃる通り、民間人校長の登用は間違っていませんでした。ジョージ校長に脱帽です!」
「しかし、先生が二人亡くなりました。五十人の生徒が学校を去りました。二つの運動部と三つのクラブが廃部になりました。ただ、私は、それを楽しくやって見せました。たしかに進学者は増えました。X高校としては……でも、大学の定員に変化はありません。つまり、他の有能で本来なら国公立に合格できた他の生徒を排除しただけです。私のやったことは魔法と同じです。ここに落ちてくる爆弾は排除できますが、それは他に落ちるだけ……と同じです。先に述べたように犠牲者も出しました。でも、本人も周りも犠牲とは思わないように……そうしただけです。それでは約束を果たしましたので、私はこれで失礼します」
ジョージは辞表を出して、その場を去った。そして、その年の選挙で常勝の市長は初めて落選した。
{The Wizard of The Education}
おもしろい男が応募してきた。
元はアメリカのマジシャンで、数年前に来日、一年余りジョージのマジックショーでゴールデンタイムで38の数字を叩きだした男だ。
一年で、ふっつりと番組を辞めた。
「一年契約だし、私のタネを見抜けた人間が現れなかったからね」
ジョージは、それから全国的に有名な進学塾の講師を務め、教え子の99%を希望校に進学させた。1%は不幸にして交通事故で亡くなった5人の高校生。だから並の統計方法では100%になる。ジョージはThe Wizard of The Educationと呼ばれた。
そいつが、日本国籍を取得してO市の民間人校長に応募してきたのだ。
「三年で、国公立への進学率を50%に引き上げます」
自信満々でジョージは言ってのけた。論文も面接も非の打ちどころが無かった。
演説や論戦では自信のある市長が言い負かされた。市長は上機嫌でジョージを採用した。
「君、そう君だよ」
校長の辞令をもらったジョージは、市役所の廊下を歩いていて、悄然として市教委に向かおうとしていた初老の男を呼び止めた。
「君は、立花さんだね。訓戒か戒告で済むように祈ってるよ。まあ、期待薄だがね……君は結果を出せなかった」
立花は、私立X高校の民間人校長だが、彼が校長になって以来X高への進学希望者も、大学への進学率も落ち目で、おまけにパワハラで元職員と係争中である。市教委は事情聴取というカタチでアリバイを作り、この年度末で諭旨免職にもっていく腹である。
ジョージは着任式で、ボロ校舎が立派な新築になるイリュージョンを見せた。どよめきが起こった。
「今のはイリュージョンだが、私と君たちとのホープでもある。大事なものはイマジンだ。二年生は二年後、三年は一年後の自分をイメージしてみよう。I wish I wereじゃなくてI shall! I will!だ。目をつぶりなさい。one, two,three,で目に浮かんだもの、それが君たちの将来の世界だ。one,two,three! どうだ、浮かんだかい。浮かばない人のために奇跡をおこそう」
ジョージが指を鳴らすとAKPの人形が現れた。
「この人形に魔法をかけよう。1……2……3!」
ジョージが手を叩くと人形は本物の選抜メンバーに変わった。そして『恋するフォーチュンキャンディー』がかかり、ジョージが先頭を切って、選抜メンバーと踊りだした。数秒後には次々と生徒が、教職員が踊り始めた。ジョージのスタッフたちが、それをビデオに撮って、午後の入学式が終わったころには、ユーチューブに投稿され、その日のうちにアクセスは三万を超えた。
変わったところでは、人権推進部の先生に「在日外国人の生徒に本名宣言を迫るのはやめてください」と真剣に言った。
「しかし、社会の差別や偏見と戦うために……」
「戦わせた、その結果に、先生や学校が責任をもてますか。大事なのは差別し偏見を持つ人や社会と先生自身が戦うことです」
このジョージの言葉は賛否両論だったが、ジョージの人気は決定的だった。
三年後、ジョージはX高校の国公立進学率を本当に50%にしてしまった。
市長は喜び、共同の記者会見を開いた。
「私は三年前にお約束した通りX高校の進学率を伸ばしました。そうですね市長」
「おっしゃる通り、民間人校長の登用は間違っていませんでした。ジョージ校長に脱帽です!」
「しかし、先生が二人亡くなりました。五十人の生徒が学校を去りました。二つの運動部と三つのクラブが廃部になりました。ただ、私は、それを楽しくやって見せました。たしかに進学者は増えました。X高校としては……でも、大学の定員に変化はありません。つまり、他の有能で本来なら国公立に合格できた他の生徒を排除しただけです。私のやったことは魔法と同じです。ここに落ちてくる爆弾は排除できますが、それは他に落ちるだけ……と同じです。先に述べたように犠牲者も出しました。でも、本人も周りも犠牲とは思わないように……そうしただけです。それでは約束を果たしましたので、私はこれで失礼します」
ジョージは辞表を出して、その場を去った。そして、その年の選挙で常勝の市長は初めて落選した。