大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・『クリスマスには還る』

2016-12-20 09:10:57 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『クリスマスには還る』
                 


 還るって字に期待した。帰るというお気楽な字ではないから。

 帰還の還だぜ。昔なら兵隊さんが戦争に行って、男の戦いをやって帰って来るときに使った言葉だぜ。ネットで調べたんだけど、昔シベリアに抑留されていた軍人や軍属の人たちが日本にかえってくるときに『シベリア帰還兵』なんかに使った言葉だ。帰を前座に、真打ちにドッシリと構えた『還』だ。「還御=天皇・上皇などの貴人が外出先から居所に帰還することを言う」ってのもあった。とにかく、強い決心、尊い、そんなイメージをまとった言葉だ。

 その言葉を使って、あんたは言ったんだ。「クリスマスには還る」って……。

 あれから、もう十か月。

 でも、あんたは還ってこない。連絡もアネキにだけだ。なんで、あのクソアネキにだけは連絡してんだよ。もう二十四にもなろうって女が、セーラー服まがいのチャラチャラしたの着て、短いスカートひらりさせてパンツなんか見せやがって。弟として恥ずかしい。

 昨日はブログの更新の日だったんで、思いっきり書いてやったぜ『セーラー婆あとオレ』ってさ。どうしようもねえ姉弟の有ること無いこと書いてやったら、アクセスPV:2500、IP:875だぜ。さすがに、イニシャルにしてやったけどさ。こんないかれた姉弟ねえもんな。
 世間は、自分よりアホな奴と、ひでえ境遇見たり読んだりして喜んでんだよ。

 チ……またあいつが覗いてやがる。

 三つ隣の田中って家の黒猫。子猫のときはかわいがってやった。あそこの美紀とはクラスがいっしょだったから。

「もらってきたネコなんだけどカワイイでしょ!」
「お、やっと目が開いたぐらいじゃん。あ、名前当ててやろうか!?」
「え、アッチャンにわかるかなあ?」
「あのな、前から言ってるけど、その呼び方すんなよな。オレはAKBじゃねえんだから」
「だって、敦夫君なんて、小学生みたいでしょ? アー君……」
「アハハハ!」

 思わず笑っちまった。あのころのオレは隙のあるハンチクな男だったからな。

 で、子猫の名前は一発で分かった。『ジジ』だ。美紀はジブリファンだったから、黒の子猫と言えば、それしかない。
「当たった、すごい。アッチャン!」
 で、名前の由来を説明してやると、笑いやがんの。
「いつまでも、魔女の宅急便じゃないわよ。この子ね、鳴き声がオジイチャンみたいなの。それで『ジジ』」
「ほ-」
 そう言って、頭を撫でてやると、なるほど年寄りみたいな声で鳴きやがる。

 そいつが、大きくなって、ベランダづたいに時々通る。そして、おれが、その気配に気づくのを待ってやがる。それからは、にらみ合いだ。おれは、ジジの「なにもかも知ってるぞ」という目が嫌いだ。一度ブチギレて、ベランダの手すりから帚で落としてやったことがある。残酷? 死にやしない。ここは一階だもん。

 飼い主は、この一年ほど口をきいていない。ゴミホリなんかで一緒になっても(オレって、割にきれい好きなんだぜ)微妙にタイミングずらして、目を合わせないようにしやがる。フェリペなんて、名前だけのお嬢学校に行くからだ。

 オレは、二回目の二年生。それも留年確定。ま、いいじゃん、選挙権持ってる高校生なんて、そうザラにはいない。そこまで勝負してやるぜ。

 めずらしくアネキが早帰り。キャップ目深に被って、やっぱ世間の目が気になるんだろうな。二十四にもなって、セーラー服まがい。まともにお天道様おがめねえんだろ。でも、アネキといえど女だ。オレは優しく声を掛ける。
「お姉ちゃん、風呂入るんだったら、用意するけど」
「ありがと、お願いするわ」

 で、オレは、セーラー婆あのために風呂掃除して、湯を張ってやる。入浴剤を入れて完ぺきに仕上げて洗面にいくと、アネキが早くも、ほぼスッポッンポン。
「いくら姉弟でも、たしなみってのがあるだろ」
「だったら、ジロジロ見ない」
「もう、今の稼業考えなよ」
 閉めたカーテン越しに言う。
「アッチャンには、分かんないの、お姉ちゃんなりに……」
 あとは、くぐもった鼻歌とシャワーの音で聞こえない。

「明日から博多、二日は帰らないから、アッチャンお願いね」
「ああ、いいよ」
「それから、あのブログ傑作だったね!?」
「あ、バレた?」
「バレルよ。イニシャル出てんだもん。文才あるって、秋吉先生も言ってた。今夜、セーラー婆あってバラして、ブログにしとくわね……」
 そう、オレ……いや、ボクは文章にだけは自信があった。定期考査の問題を添削して国語の先生に見せたら嫌がられた。あのときも……翻りて、と、翻してで顧問ともめた。で、あれが、学校から足が遠のく原因になった。ボクは、もう高校演劇はこりごりだ……。
「ねえ、聞いてる。今度ブログまとめて単行本にするの。アッチャンのも載せていいよね。出典が明らかにならないと面白くないもんね。並のアイドルの本にはしたくないのよ。ひょっとしたらAKRの小野寺純としては……」

 その時、ドアのチャイムが鳴った。

「アッチャン出てよ」
「え、あ、うん」

 玄関ホールには、待ちきれない十か月遅れのサンタクロースが立っていた。
 
 山核諸島を日夜警備している、白にブルーのストライプを入れた船の船長が還ってきた……。

 この人には、並の言葉は通じない。本当は、もっとたくさんの言葉をシャウトしたいのに。

「ただいま」
「おかえりなさい……」

 親子の会話は、それだけだった。リビングでは父と娘が邂逅を喜び合っていた……。
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝・3』読了

2016-12-20 07:28:21 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『岳飛伝・3』読了


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは悪友の映画評論家・滝川浩一クンが個人的に流している読書感想ですが、面白いので、本人の了解を得て転載したものです。

  いやいや、年末近い本屋ってのは罠だらけの森みたいなもんで、入ったが最後、何冊も抱えてしまいます。
「岳飛伝」…大橋っさん以外には説明がいりますかねぇ。こいつは北方謙三の水滸伝(19巻)シリーズで、水滸伝が直訳本の半分位の所で宋江(梁山泊頭領)が死んでしまい、その後を頭目の一人、青面獣楊志の養子(洒落ではない)である楊令(楊令伝15巻)が継いで、現在 楊令の死後の話になっています。
 
 岳飛は南宋の軍閥で実在した将軍です。物語では宋の童貫(この人も実在)に鍛えられた武人で、楊令と戦ううちに男同志の絆を深めるという設定になっている。さて、梁山泊に集った108人の好漢達も粗方は亡くなり、もはや10名程が残るのみ、永く梁山泊の頭脳であった智多星呉用も死の床にあり、史進・李俊・燕青らはいるものの、第二世代の時代になっている。双鞭呼延灼の息子 呼延凌が軍総帥、宣賛の子 宣凱が呉用の後を継いでいく。元は宋の王室を私する官僚に反旗を翻すべく集まった梁山泊も、宋滅亡と共に その存在形態を変化させ、今や軍を持つ先進経済地域となっている。

 そんな中にあって、この変化を楊令の抱いた夢と信じて邁進する者、もはや楊令を知らずに育った世代、変化に馴染めず老いを感じ孤独の中に生きる者……と人間模様も多岐に入り組んだ世界になっている。
 そもそも「水滸伝」を知らない向きにはチンプンカンプンですかねぇ。もう少々お付き合い……元の明末~元初に出来た演義(講談本/小説)は宋代に現実に有った反乱を元ネタにしています。梁山泊頭領の宋江なんてな人も実在したそうです。その実話に数々の英雄(関羽の末裔で大刀関勝とか)を加えて壮大なお話にしてあるのです。
 さて、第三シリーズの主人公はかっての敵将・岳飛。この人が実在だとは先述しましたが、実史では北方の金に敗れ、揚子江の南に南宋が建つのですが、南宋丞相榛會は金との講和を目指し、岳飛はあくまで主戦派。南宋成立2~3年で岳飛は榛會に毒殺されるのですが、どうやらこの2年余りで12~3巻にはするつもりみたいですねぇ。この後は ご存知の通り、モンゴルの侵攻で金も南宋も無くなっちまう訳ですが、それでも梁山泊は生き残るのか?まぁ、このペースだと どえらい先の話になりますが………。


 いやはや、なんとも尊敬されたものです。わたし(大橋むつお)は水滸伝(19巻)楊令伝の7巻までは読んでいますが、ざっと読んだだけ。本というのは、好きならば、10回、20回と読むモノです。滝川のオッサンは、そういう読み方をしております。わたしは、もう自分の部屋に本が入りきらないので、図書館で間に合わせておりますが、「罠だらけの森」というのは確かにその通りで、赤川次郎から、瀬戸内寂聴まで、ここで見つけました。わたしは乱読で、読んだ尻から忘れていきます。しかし記憶の引き出しには残っているようで、ときどき、自分で本を書いている時に浮かんできます。
 先日から、新連載小説『真夏ダイアリー』を始めました。ごく最初の部分しかプロットを考えていません。引き出しから、自然に飛び出してくるのを待って書き続けていくつもりです。主人公は「冬野真夏」 そう、名前から、この小説は始まっています。苗字と名前がガチンコしています。そこに青春の矛盾と、「真夏」という名前に、熱い青春を象徴させています。
 マッタリした友だちに「春夏秋冬省吾」というのがいます。苗字読めますか? 「春夏秋冬」で「ひととせ」と読みます。他に「中村玉男」という、どこかで聞いたことがあるような、ちょっとオネエな感じの男の子も出てきます。等身大の高校生(高校演劇で、好んで使われる)を書こうなどとは、思っていません。こんな女子高生、こんな友人関係、こんな青春があったら面白いだろうなあ。そんな思いで書き始めました。
 同じようなモチーフで、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』があり、これは出版されました。書店に出た部数が少なく、今はネット販売で、僅かに出ています。希少本という事らしく。新古品のものなど5万円を超える法外な値段が付いていますが、青雲書房に、直接注文いただければ、定価の1260円でお求めになれます。
 なんだか宣伝になってしまいました。今は小野寺史宣さんの『みつばの郵便屋さん』ポプラ社を読んでいます。メグ・キャボットの『プリンセスダイアリー』なんかもお勧めです。

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