大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・『美男高校他球防衛部』

2016-12-30 07:14:44 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『美男高校他球防衛部』
        


「おい、あいつら全員野球部に入れちまえ!」

 監督の伊藤が、唾を飛ばしながらキャプテンの野々村に叫んだ。
 監督は実力の割に声がでかいので、メガホンを通した声は場内放送のマイクも拾って、市民野球場全体に響き渡った。

 なんといっても、3対0で迎えた9回裏の攻撃で、臨時で入れた他球防衛部の連中が出撃。あっと言う間にノーアウト満塁でホームランをかっ飛ばしたのである。まさに奇跡の救世主である。こんな連中を放っておくのはもったいない。

「だめです監督、あいつらとの契約は、この試合限りっすから。明日は、あつらサッカー部の助っ人です」

 そう、花田充(みつる)を始めとする五人の他球防衛部は、名前の通りピンチに陥った球技部のお助けをやるという変わったクラブなのだ。
 ボールを使うクラブなら、野球から卓球部まで、なんでも来いの助っ人クラブだった。創部は去年だが、もう九クラブを敗北の縁から救っている。
 変わったところでは壊滅寸前の演劇部まで救った。演劇部は文化部の玉であるとして臨時部員となり、去年のコンクールでは関東大会まで進出。惜しくも選外であったが、その審査に不服を申し立て、信じられないことに東京地方裁判所で係争中である。

「花田、これで間に合うか……?」

 副部長の角野が、こっそり聞いた。
「野球はポピュラーな分得点が低い、なんとかしなくちゃ、時間がない……」
「演劇部で全国大会までいけたら、ギリギリなんとかなったんだが」
「あたしたちだって、がんばったのよ」
 女子部の瑠璃は聞き逃さなかった。美男高校と異名をとる宇宙(そら)学園高校の中でも紅一点の美人と言っていい。今日の試合は長い髪をショ-トボブにして、胸をサラシでつぶして参加していた。
「裁判の結果を待っているわけにはいかない。なにか手を考えなくちゃな」
「しかし、悔しいわよ。だれが観たって、あたしたちの芝居がピカイチだったのに」
「あそこまで、演劇の審査がいい加減だとは計算外だったな」
 角野が瑠璃に同調すると、他の部員たちも大きく頷いた。
「だいたい、大阪から来た審査員が……」
「言うな、過ぎたことだ。夏までにもう50ポイントは稼がなきゃ、あれは……救えない」

 他球防衛部のメンバーは眉間にしわを寄せながら駅への道を急いだ。で、パチンコ屋の前で瑠璃の足が停まった。

「どうした瑠璃?」
「うちの生徒がパチンコしてる」
「みのがしてやれよ、制服でやってるわけじゃないんだから」
「ううん、待ってて!」
 瑠璃は一人制服を着ていない(なんたって、男ということで、今日の野球部を助けてやった)のでズカズカと店に入り、負けのこんでいる三年の滝川の横に座った。で、あっという間にフィーバーになった。やっと滝川が気が付いた。
「おまえ……他球防衛部の瑠璃、おまえパチンコの腕ハンパないぞ……」
「玉半分あげるから、質問に答えて」
「な、なんだよ……」
 滝川は、緊張と感心で汗が流れてきた。

「パチンコ、部活にしない?」

 宇宙高校は、美男が多く真面目で通っていたが、裏に回れば滝川みたいなのもいる。仲間が4人いると聞いて、その場で宇宙高校パチンコ部にしてしまった。むろん非合法部活である。ただ大事なのは青春を賭けた部活であるという自覚であった。

 あくる日曜のサッカー部の試合を勝利で終わらせると、全員私服に着替えて、夜の9時まで掛けて合計50台のパチンコ台を終了させてしまった。

 希少部活(日本でただ一つ)のポイントは高かった。一気に30ポイントを稼いだ。

「これで、オレたちの星も、地球も救われる……」

 花田が感無量で呟いた。

 他球防衛部は、11万光年先のミランダ星から地球に送り込まれていた。地球もミランダも気候変化や自然破壊に晒されていた。
 宇宙の神が言った。
「地球に宇宙高校を作った。そこの球技部を助ければ、そなたたちの誠意と認め、破滅寸前の両方の星を救ってやろう。ただ地球の方が寿命が短い。一年で成し遂げなければ、この話はチャラじゃ」

 他球防衛部は、みごと使命を果たし、夏休みには母星に帰って行った。ただ瑠璃だけが、しばらく地球に残った。
 去年の演劇部の審査の裁判結果を見届けるためである。結果は勝訴だった。

「やったー!」

 しかし、演劇部の全国組織は即時上告した

 あまりのアホらしさに、瑠璃も帰途に就いた……。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『おかしなジパング図版帖』

2016-12-30 06:35:46 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『おかしなジパング図版帖』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


 好きなんですよねぇ……この類の本。

 本書は1669年、オランダ人モンタヌスが著した『日本誌』の挿し絵を中心に『ファンタジー アイランド ジパング』がどう描かれたのか……というビジュアル本です。
 とはいえ、モンタヌス自身は訪日した事が無く、フリシウスの『江戸参府日記』を基に、当時ヨーロッパで流行していた未知の地への旅行記を出版した。
 ヨーロッパ人の日本発見が1500年台 フロイスの『日本史』やリンスホーテン、カロンなど先行する出版は割と多いが モンタヌスの画期的な点は90以上の新しい挿し絵で紹介した事にある。
 ただ、前述のように彼自身は来日経験無し、報告書からの書き起こしで 文章そのものにも勘違い、誤り、中には「妄想」もある。 挿し絵職人はそれの又聞きで描く訳だから……こりゃあ一体どこの国? いや、そもそも地球上のどこかかい? ってな挿し絵のオンパレード。
 それでも、当時の知りうる限りの情報・資料を基に、最もリアルな日本を描こうとしたのであって まさに海の彼方にワンダーランド・ニッポンがあったのである。

 今の私たちからすれば極めてユーモラスな図版の連続、当時の日本人が目にしてもぶっ飛んだであろう事は間違いない。
 どのような絵なのか、とても口では説明出来ない。今なら平積みしている本屋もあるので立ち見をオススメいたします。
 マルコポーロ以来、東方に黄金の国・ジパングが有ると考えられたが、17世紀当時 ニッポンとジパングは分けて考えられたらしい。日本はすでに金輸出国では無くなっていて、ジパングを信じる人々は さらに東方に存在すると考えられたらしい。
 マルコポーロの『黄金の国・ジパング』は中国人からの聞き取りで、例えば奥州藤原と宋との貿易話が伝わったとも考えられる。中尊寺・金色堂やまだあたらしい金銅仏を見れば いかにも黄金の国に違いない。これが伝言ゲームに乗っかって、最後にマルコポーロが聞いたなら、さてもいかなる話になっていたやら……タイムマシンができたなら、是非とも一緒に聞いてみたい会話の一つです。
 時代はモンタヌスから200年以上、外国人には門戸を閉じたため、図版に現れる日本はシーボルトまで封印される。シーボルトの図版はリアルではあるが どこか陰鬱であり、ここに『幻のワンダーランド・ニッポン』は姿を消す。
 著者はこれを指して「日本は二度発見された」と書いています。これは政治、軍事、文化等 対ヨーロッパの歴史の中で必ず言われる表現で、何を取っても日本はワンダーランドだったのでしょうね。まぁ、未だに理解されない部分もありますから… さて、次はどこを発見してくれるんでしょうね。

 明日は、アクション映画二本、押し付けます。お楽しみに〓

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