大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・14(楽観的リフレイン・2)

2016-12-03 06:23:36 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・14
(楽観的リフレイン・2)



 学校からの帰り道、サンタクロースに出会った。

 一見恰幅がいいだけの地味なお爺さんだけど、一見してサンタクロースだと分かった。多分魔力のせい。
 だから、目が合ってニッコリされると、思わず笑顔を返してしまった。
「よかった、一目で分かってもらって」
 そう言って、サンタは実のお祖父ちゃんのような気楽さで、真由の横を歩き出した。
「そこに車が止めてある。ちょっといっしょに乗ってくれるかな」
 サンタが示したところに、赤い軽自動車が見えた。運転席には、きれいなオネエサンがアイドリング掛けながら待っていた。

「ウズメさんから話は聞いていると思うんだけど……」

 後部座席のドアを開けながらサンタが言った。
「話は、ゆっくりでいいんじゃないですか?」
 オネエサンが言った。
「そうだね、時間は十分ある。どうも歳を取るとせっかちになっていけない。あ、運転してくれるのは、専属のアカハナさん」
「赤鼻のトナカイ?」
「それは、先々代のお祖父ちゃん。まあ、赤鼻ってのは世襲名みたいなもんだから、それでいいんだけど。ニュアンスとしてはカタカナで呼んでくれると嬉しいわ」
「わしも、カタカナのアカハナに慣れるのには苦労したよ」
「こだわるんですね」
「主義者だと思われるのヤダから。そんなことより肝心の話を」

 そのとき、びっくりした。ズラリと渋滞した車列を飛び越して、車が空を飛び始めたからだ。

「ウソー、空飛んでる!」
「もともとサンタの橇だから、空ぐらいは飛ぶ。だけど他の人には見えていないから」
「飛行機にぶつからんようにな」
「自動衝突防止装置付ですぅ。それよりもお話を」
「そうそう、まずこれを」
 サンタは、真由にパスのようなものを渡した。
「え……ヘブンリーアーティスト認定証?」
「ああ、本物だよ。東京の指定された場所なら、どこでも自由にパフォーマンスができるという優れものだ」
「あたし、なにもできないわ」
「なにを言っとる。日本のみんなが幸せになるんなら、なんでもしますって、ウズメさんに言ったんだろ?」

 ウズメさんとの話は、いっぱいありすぎて、全部は覚えていない。ただ楽観的リフレインでやって欲しいと言われたことだけを覚えている。希望的リフレインと聞き間違ったからだ。

「意味は似たようなもんだが、希望的にすると著作権の問題が絡んでくるんでね」
「どうも年寄りの考える言葉はダサくってさ。楽観的なんて付けると、あたしなんか小林多喜二の『蟹工船』なんか思い出しちゃう」
「あれはあれで、存在価値がある。プロレタリア文学の代表作だ」
「お祖父ちゃんみたいなこと言わないでくださいね。あんなの文学的には、ただのオポチュニズムで、無頼派ほどの価値もない」
「傑作とは、言っとらん。そういうものがかつてあったことは記憶に留めておくべきだ」
「本題からずれてま~す」
「あ、そうそう。リフレインというのは、一昔前の言葉ではヘビーローテーション。同じ曲を何度も歌ってもらう。今日から年末にかけて、真由くんは超特急でアイドルになってもらう」
「そ、そんな、あたしできない」
「エロイムエッサイムで一発じゃ。あれは敵を倒すためだけの呪文じゃない」
「今の日本は、軸が無いの。だから孫悟嬢みたいなハスッパに式神使われたりすんのよ。団結って言葉は嫌いだけど、なにか拠り所になるものが居る。それをウズメさんは、真由ちゃんに期待したのよ」
「それが、アイドルなんですか?」
「ウズメさんは、芸能の神さまだからね。得意分野できたんだろう」
「あたしは、正攻法だと思う。人の心を掴むのは歌が一番よ」
「とりあえず、上野あたりからいこうか?」
「そうじゃな。コスは儂からのプレゼントじゃ」
 サンタは、女もののサンタ服をくれた。
「ここで着替えるんですか?」
「エロイムエッサイムと、唱える」

 慣れない真由は、呪文を唱えると、一瞬下着姿になってしまった。着替えはまず脱ぐことからだという固定観念が抜けていない。

「アハハ、目の保養だったわね、サンタの爺ちゃん。そういう人間的なところが抜けない魔法使いになってね」

「え、あ、あたし魔法使いなんだ」

 サンタの車は笑いに満ちながら、上野についた。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・112『攻殻機動隊 ARISE 3』

2016-12-03 06:03:42 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・112
『攻殻機動隊 ARISE 3』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


毎度 この作品の映画評を書くのは難しい。

 士郎正宗の原作をご存知無い方には、なかなかご理解いただけないからで、それだけ原作の世界観は緻密かつ広く、どこか一カ所をすっ飛ばしても置き去りにされてしまいます。
 何も考えず、そのまま受け入れて下さい……とは言いにくい作品なのです。

 従って、物語世界を知っている者同士のオタク語りになってしまいます。アニメ作品として、新しい試みや、多彩な表現など、見るべき点は多数ありますが、やはり世界観を共有できてこその楽しみです。こればかりは、ARISEシリーズ1から見るだけでは判りません。せめて、漫画原作“攻殻機動隊1”からのご参加をお願いします。(原作には「1.5」「2」の二冊が他にありますが、とりあえず、これは今の所無視で構いません)

 さぁて、原作世界に繋がるエピソードは本作でほぼ出揃いました。

 素子は未だに公安9課の外注コンサルタントですが、トグサを除くフルメンバーで攻勢部隊を結成(資金はどうしてるんでしょうねぇ)、逆に9課荒巻に売り込んでいる気配。荒巻からは「メンバーが一人足りない」と指摘されている(荒巻の指摘の根拠が解りにくい)
 水絡みのテロ(石油の次は水っていう掴みも、アニメの新視点ではなく、91年の原作世界に登場している)や刑事の爆殺、死んだ筈のテロリストの復活などなど、従来のハードボイルドミステリー仕立てには成っているが、本作のデッカい支柱は素子のロマンス。 原作においても、素子は様々な相手(女性相手も有る)と絡んでいるが、その行為は「たとえ義体であっても、自分は人間なのだ」と確認する為の偏執的行為に見えていた(実にさりげなく、当たり前に描かれてあるだけに、かえってそう感じる。幼児期からずっと義体である彼女~この辺はテレビアニメ「STAND ALONE COMPLEX ①」~には、この欲求は生身の人間以上に強迫観念的です。
 少女時代に淡い(しかし、忘れがたい)純愛経験が有るだけに、彼女が求めるものは「心の触れ合いと無条件の信頼関係」SEXの快感は生身の人間以上なので、水に飢える砂漠の旅人のように求めて止まない。本作では、その素子の恋が重要なファクターとして描かれている。義体であるが故の相手の肉体的(?)条件と共通の興味、心の触れあわせ方が語られる。
 本作の底にはもう一つ、「人魚姫」の設定が流れている。海の中から陸の世界にこがれ、本当に人間になる為には愛する王子の命を奪わねばならず、果たせずに海の泡と消えて行く。当然、人魚姫は素子、王子は恋人・ホセとしれるが、いかにして究極の選択を迫られるかは本作のストーリーテリングの見せどころです。ただ、この設定は二重に成っていて、ホセは素子の恋人ではあるが、同じように義体……と言う事は、彼も素子と同族であって「陸の王子」たりえない。 ならば、「陸の王子」は一体誰なのか? これが意外や、殆ど生身・既婚・子持ちのあの人なんだと気付いて「ははぁ~ん」と納得が行きます。
 この点、士郎正宗の設定に元々あったものなのか、ウブカタトウのオリジナルなのかはちょっと判断しかねます。おそらくウブカタトウの読み込みなんだと思っています。
 この設定、バトーの恋愛経験なんかも見てみたいと思うのですが……思いっきりギャグ漫画にしないと、こりゃあ悲惨な話になりそうですね。バトーが同志愛を超えて、素子を想っているのは周知の事なので、出来ればこれを叶えてやりたい所ながら、物語の先では素子はNETの中に入ってしまう。バトーはどこまでもストイックに心を閉じるしかないんでしょうかねぇ。NET世界での素子の心理ってのは変化したのでしょうか? あくまでも「人間という存在」にこだわりがあってほしいとは思っています。

 今シリーズにも「意志を持つA.I.がたびたび登場します、後の「人形使い」登場の布石とも見えます。人間・全身義体・人工知能のせめぎ合いも、本攻殻ワールドの重要なファクターですね。
 本作に501部隊のクルツという女性が登場しますが、これがシリーズ②に出てきたA.I.に良く似ています。何か繋がりが在るんでしょうか。素子が引っ越して来た部屋の風景、新浜市の新旧市街の描き分けなど、画から読み取れる情報も多く、尋常ならざる作り込みを感じます。攻殻ワールドへの深い思い入れを全編に感じます。一回や二回見たからといって、到底全て汲み上げられないでしょう。

 てな訳で、作画には殆ど文句ないんですが、一点気になったのが目元の影の描き方、リアルに見える部分とやり過ぎに見える所がありました。影の在り無しで人物の性格が急変するように見える所がありました。 後、何故かサイトーが、よく居眠りしてるのは、なんでなんですかねぇ?
 さて、本シリーズも9月で終了、④の主要キャラらしき人物も本作に登場しています。さて、一体どんな結末を迎えるのでしょうか。一つの興味は、トグサをチームに加える最終決定がいかにして下されるかであります。

 少々寂しい気もしますが、たった今 続きを見たい欲求もあります。ファンなんてのは勝手なもんでありますなぁ。

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