秘録エロイムエッサイム・14
(楽観的リフレイン・2)
学校からの帰り道、サンタクロースに出会った。
一見恰幅がいいだけの地味なお爺さんだけど、一見してサンタクロースだと分かった。多分魔力のせい。
だから、目が合ってニッコリされると、思わず笑顔を返してしまった。
「よかった、一目で分かってもらって」
そう言って、サンタは実のお祖父ちゃんのような気楽さで、真由の横を歩き出した。
「そこに車が止めてある。ちょっといっしょに乗ってくれるかな」
サンタが示したところに、赤い軽自動車が見えた。運転席には、きれいなオネエサンがアイドリング掛けながら待っていた。
「ウズメさんから話は聞いていると思うんだけど……」
後部座席のドアを開けながらサンタが言った。
「話は、ゆっくりでいいんじゃないですか?」
オネエサンが言った。
「そうだね、時間は十分ある。どうも歳を取るとせっかちになっていけない。あ、運転してくれるのは、専属のアカハナさん」
「赤鼻のトナカイ?」
「それは、先々代のお祖父ちゃん。まあ、赤鼻ってのは世襲名みたいなもんだから、それでいいんだけど。ニュアンスとしてはカタカナで呼んでくれると嬉しいわ」
「わしも、カタカナのアカハナに慣れるのには苦労したよ」
「こだわるんですね」
「主義者だと思われるのヤダから。そんなことより肝心の話を」
そのとき、びっくりした。ズラリと渋滞した車列を飛び越して、車が空を飛び始めたからだ。
「ウソー、空飛んでる!」
「もともとサンタの橇だから、空ぐらいは飛ぶ。だけど他の人には見えていないから」
「飛行機にぶつからんようにな」
「自動衝突防止装置付ですぅ。それよりもお話を」
「そうそう、まずこれを」
サンタは、真由にパスのようなものを渡した。
「え……ヘブンリーアーティスト認定証?」
「ああ、本物だよ。東京の指定された場所なら、どこでも自由にパフォーマンスができるという優れものだ」
「あたし、なにもできないわ」
「なにを言っとる。日本のみんなが幸せになるんなら、なんでもしますって、ウズメさんに言ったんだろ?」
ウズメさんとの話は、いっぱいありすぎて、全部は覚えていない。ただ楽観的リフレインでやって欲しいと言われたことだけを覚えている。希望的リフレインと聞き間違ったからだ。
「意味は似たようなもんだが、希望的にすると著作権の問題が絡んでくるんでね」
「どうも年寄りの考える言葉はダサくってさ。楽観的なんて付けると、あたしなんか小林多喜二の『蟹工船』なんか思い出しちゃう」
「あれはあれで、存在価値がある。プロレタリア文学の代表作だ」
「お祖父ちゃんみたいなこと言わないでくださいね。あんなの文学的には、ただのオポチュニズムで、無頼派ほどの価値もない」
「傑作とは、言っとらん。そういうものがかつてあったことは記憶に留めておくべきだ」
「本題からずれてま~す」
「あ、そうそう。リフレインというのは、一昔前の言葉ではヘビーローテーション。同じ曲を何度も歌ってもらう。今日から年末にかけて、真由くんは超特急でアイドルになってもらう」
「そ、そんな、あたしできない」
「エロイムエッサイムで一発じゃ。あれは敵を倒すためだけの呪文じゃない」
「今の日本は、軸が無いの。だから孫悟嬢みたいなハスッパに式神使われたりすんのよ。団結って言葉は嫌いだけど、なにか拠り所になるものが居る。それをウズメさんは、真由ちゃんに期待したのよ」
「それが、アイドルなんですか?」
「ウズメさんは、芸能の神さまだからね。得意分野できたんだろう」
「あたしは、正攻法だと思う。人の心を掴むのは歌が一番よ」
「とりあえず、上野あたりからいこうか?」
「そうじゃな。コスは儂からのプレゼントじゃ」
サンタは、女もののサンタ服をくれた。
「ここで着替えるんですか?」
「エロイムエッサイムと、唱える」
慣れない真由は、呪文を唱えると、一瞬下着姿になってしまった。着替えはまず脱ぐことからだという固定観念が抜けていない。
「アハハ、目の保養だったわね、サンタの爺ちゃん。そういう人間的なところが抜けない魔法使いになってね」
「え、あ、あたし魔法使いなんだ」
サンタの車は笑いに満ちながら、上野についた。
(楽観的リフレイン・2)
学校からの帰り道、サンタクロースに出会った。
一見恰幅がいいだけの地味なお爺さんだけど、一見してサンタクロースだと分かった。多分魔力のせい。
だから、目が合ってニッコリされると、思わず笑顔を返してしまった。
「よかった、一目で分かってもらって」
そう言って、サンタは実のお祖父ちゃんのような気楽さで、真由の横を歩き出した。
「そこに車が止めてある。ちょっといっしょに乗ってくれるかな」
サンタが示したところに、赤い軽自動車が見えた。運転席には、きれいなオネエサンがアイドリング掛けながら待っていた。
「ウズメさんから話は聞いていると思うんだけど……」
後部座席のドアを開けながらサンタが言った。
「話は、ゆっくりでいいんじゃないですか?」
オネエサンが言った。
「そうだね、時間は十分ある。どうも歳を取るとせっかちになっていけない。あ、運転してくれるのは、専属のアカハナさん」
「赤鼻のトナカイ?」
「それは、先々代のお祖父ちゃん。まあ、赤鼻ってのは世襲名みたいなもんだから、それでいいんだけど。ニュアンスとしてはカタカナで呼んでくれると嬉しいわ」
「わしも、カタカナのアカハナに慣れるのには苦労したよ」
「こだわるんですね」
「主義者だと思われるのヤダから。そんなことより肝心の話を」
そのとき、びっくりした。ズラリと渋滞した車列を飛び越して、車が空を飛び始めたからだ。
「ウソー、空飛んでる!」
「もともとサンタの橇だから、空ぐらいは飛ぶ。だけど他の人には見えていないから」
「飛行機にぶつからんようにな」
「自動衝突防止装置付ですぅ。それよりもお話を」
「そうそう、まずこれを」
サンタは、真由にパスのようなものを渡した。
「え……ヘブンリーアーティスト認定証?」
「ああ、本物だよ。東京の指定された場所なら、どこでも自由にパフォーマンスができるという優れものだ」
「あたし、なにもできないわ」
「なにを言っとる。日本のみんなが幸せになるんなら、なんでもしますって、ウズメさんに言ったんだろ?」
ウズメさんとの話は、いっぱいありすぎて、全部は覚えていない。ただ楽観的リフレインでやって欲しいと言われたことだけを覚えている。希望的リフレインと聞き間違ったからだ。
「意味は似たようなもんだが、希望的にすると著作権の問題が絡んでくるんでね」
「どうも年寄りの考える言葉はダサくってさ。楽観的なんて付けると、あたしなんか小林多喜二の『蟹工船』なんか思い出しちゃう」
「あれはあれで、存在価値がある。プロレタリア文学の代表作だ」
「お祖父ちゃんみたいなこと言わないでくださいね。あんなの文学的には、ただのオポチュニズムで、無頼派ほどの価値もない」
「傑作とは、言っとらん。そういうものがかつてあったことは記憶に留めておくべきだ」
「本題からずれてま~す」
「あ、そうそう。リフレインというのは、一昔前の言葉ではヘビーローテーション。同じ曲を何度も歌ってもらう。今日から年末にかけて、真由くんは超特急でアイドルになってもらう」
「そ、そんな、あたしできない」
「エロイムエッサイムで一発じゃ。あれは敵を倒すためだけの呪文じゃない」
「今の日本は、軸が無いの。だから孫悟嬢みたいなハスッパに式神使われたりすんのよ。団結って言葉は嫌いだけど、なにか拠り所になるものが居る。それをウズメさんは、真由ちゃんに期待したのよ」
「それが、アイドルなんですか?」
「ウズメさんは、芸能の神さまだからね。得意分野できたんだろう」
「あたしは、正攻法だと思う。人の心を掴むのは歌が一番よ」
「とりあえず、上野あたりからいこうか?」
「そうじゃな。コスは儂からのプレゼントじゃ」
サンタは、女もののサンタ服をくれた。
「ここで着替えるんですか?」
「エロイムエッサイムと、唱える」
慣れない真由は、呪文を唱えると、一瞬下着姿になってしまった。着替えはまず脱ぐことからだという固定観念が抜けていない。
「アハハ、目の保養だったわね、サンタの爺ちゃん。そういう人間的なところが抜けない魔法使いになってね」
「え、あ、あたし魔法使いなんだ」
サンタの車は笑いに満ちながら、上野についた。