大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・80『九段北3−1周辺』

2018-12-07 06:35:17 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・80
『九段北3−1周辺』
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……彼岸花の共同幻想から、やっと覚めた……。


 けっきょくは、クラスの生徒だけで行くことになった……。

 早咲きの彼岸花を見ているうちに、友子達は高山理事長の若き日の沖縄戦の体験を共同幻想として見てしまった。百人を超える中隊が五人にまで減ってしまうところまで戦い、十人の女学生の命を救った。これは過去の事実。その女学生や旧制中学生に友子達は入り込んで、実際の戦争を体験してしまった。

 何かをしなければならないと思った。

 その日はオープンスクールの日で、沢山の中学生や保護者がやってくる。で、生徒達は午前中は授業で、昼からは、いろんな係りに当てられている。でも全校生徒が残らなければならないというほどでもない。

 そこに委員長である大佛が目を付けた。

「この時間に、試合に出かけるクラブなんかもある。有志による社会見学ということにしよう」
 ということで、理事長先生にも頼んだ。
「うまいことを考えたもんだね。しかし、世の中にはいろいろ言う人がいるからね。ぼくは遠慮しておくよ」
 で、生徒八人だけで行くことになった。

 友子、紀香、大佛、亮介、妙子、麻衣、純子、梨花の八人だ。

 学校への届け出には「九段北3−1周辺の文化財、外交施設見学」とした。確かに、あのあたりは大使館がチラホラある。その説明で生指の許可は、あっさり下りた。
「大佛クン、アッタマいい!」
 女子のみんなが喜んだ。亮介は影が薄くなった。

 で、八人がやってきたのは靖国神社であった。

 幻想とは言え、あの中に出てきた兵隊さんたちは本物だ。名前が分かっているのは吉田さん池尻さんら数名だけど、彼岸花をまき散らすように死んでいく姿は何人も見た。
 その人達にできること……これしか思い浮かばなかった。

 平日の午後だというのに、たくさんの人たちが来ていた。

 門をくぐり玉砂利を踏んでいくと、死んでいった吉田さんたちの顔がうかんでくる。
 ただ、友子と紀香は、緊張を感じていた。
 そこここにいる警備員の人たち、外苑付近にいた警察官の人たちの目が険しい。

――ちょっと前に、放火未遂があったようね――
――今日は大丈夫みたい――
 紀香と友子は、義体同士だけで通じる会話をした。
 手水舎で手を洗い、うがいをした。妙子や麻衣はやり方が分からなくてキョロキョロしている。
「鈴木、さまになってんな」
「竹田さんが、こないだテレビでやってんの見て覚えちゃった」
 亮介には、そう言ったが。義体である友子は礼法をインストールしてある。

 間口の広い拝殿は八人全員が横に並んで、まだ余裕がある。二礼二拍手の二礼目に、一番端にいた亮介の横にオッサンが立った。

 直前まで分からなかった。オッサンは一礼目で、横の紙袋に手を伸ばした。

「亮介、その紙袋奪って!」
「奪ったら、人の居ないところに投げる!」
「て、どこに!?」
 亮介は紙袋を持ってアタフタ。オッサンはナイフを出して亮介を追い回し始めた。
「小僧、それをよこせ!」

 紀香が飛び出し、亮介から紙袋を受け取り、社務所近くのポッカリ人の居ないところに投げた。紙袋はそこで小爆発を起こしたあと、激しく炎を吹き上げた。
 オッサンが振り回したナイフが、紀香の制服を浅く切り裂いた。
――人間らしく反応して!――
「キャー!」
 シオらしい悲鳴を上げて、紀香が突っ伏した。
 オッサンは、もはやこれまでと、ナイフを自分の首に突き立てようとした。刹那、友子の飛びけりが入り、ナイフは宙を飛び、麻衣の足もとに突き刺さり、もう一つ悲鳴が上がった。
 友子はオッサンに当て身をくらわすと、ハンカチをオッサンの口に突っこんだ。

 ようやく警備員と、警察官が駆けつけてきた。
「この人、自殺します。警戒してください」
――友子、そのオッサンは暗示をかけられてるだけだ、本当の犯人は――
――分かってる、でも、今動いたら義体ってことが分かってしまう!――

 犯人達の本当の狙いは分かっている。靖国は単なるブラフだ、褒め称える警備員や警察官に取り巻かれながら、今から、すぐ近所でおころうとしている犯行に手も出せない友子であった。

コメント
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