トモコパラドクス・85
『アメリカA郡T町・1』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……さて、今回のターゲットが絞り込まれてきた。
滝川のネットワークと彼の推理でターゲットが絞り込めた。
かなりの人数がマインドコントロールされ、教祖的な存在、もしくは身内に重篤な病気を抱えた者。
その中でも、表だった活動が認められないものを絞り込んだ。
活動が活発なところは、ゲリラ組織、名前の通ったカルト集団ばかりであった。
滝川は考えた。おそらく日常に溶け込んで、教祖の姿さえはっきりしない。そんなところが本拠地であると。
アメリカの中西部、丘の上にポツンと置き忘れられたような町、A郡T町が、そうであった。もう日本にまで手を伸ばす力を持っているので、ターゲットの町は仮名で呼ばれた。
靖国神社を放火しようとした犯人は、数か月前にアメリカへの渡航歴があり、その時アメリカでマインドコントロールされ、指令が与えられたようたようである。指令された時期に、なにかのサインが送られ、そのとき暗示された行動を起こすようにされていた。滝川は爆破装置が送られてきたときだと睨んだ。なぜなら犯行に及んだ男の頭から、爆発物を受け取った、あるいは準備した記憶が無いからである。警察もそこまでは掴み、催眠療法などで男の記憶を引き出そうとしているが、無駄だと思った。
そんなヤワな相手ではない。もし記憶を引き出すことができても、男は自殺するように刷り込まれているだろう。
推理の最大の根拠は、このA郡T町で、ある日を境に犯罪が一件も起きていないことであった。周囲の町は、程よく治安が悪く、T町も似たり寄ったりであった。おそらく町ぐるみマインドコントロールされているのだろう。そして首謀者は目的以外には混乱を好まない。
しかし、こんな状況を長く続けていては、やがては目だって世界中の注目の的になる。聖骸布を手に入れた彼らの行動は早いと睨んだ。
「ちぇ、またエンストかよ」
ジャクソンは、自分のキャンピングカーのバンパーを蹴り上げた。
「あなた、またなの?」
妻のジェシカが降りてきた。
「この車で、大陸横断なんて元から無理なのよ」
娘のミリーは降りもせず、窓を開けてプータレた。
「ロトの50万ドルで、満足すべきだったのよ」
「かもな、でも、このキャンピングカーレースに勝てば100万ドルだぞ!」
そこに保安官の車が通り合わせた。
「あんたらも、トレーラーレースの参加者かい?」
「ああ、でもただのエンストさ、今日中には隣のS市にまで行きたいんだがね」
「あんた、この坂でスピード出し過ぎたんだよ。4マイル先から続いてるから緩く見えるがね、実際は見かけの倍の勾配がある。どれどれ……こりゃオーバーヒートだな。今日はこれで三台目だ。よかったら町の修理屋に電話してあげるが」
「ああ、仕方がない。頼むよ保安官」
「……マイク、保安官のジェフだ。三台目の客だ。レッカーで来てくれるか……そう、場所はナビに出てるとこだ。よろしくな……よかったね、これ以上は面倒見切れないってさ」
「保安官、後ろに積んでる立て札は?」
ミリーが聞いた。
「『スピード落とせ』だよ」
「もうちょっと、早く出してくれればよかったのに……」
「まあ、T町もいい町だ。一晩ゆっくりしていけばいいさ」
そう言い残して保安官は坂を下りていった。
「予定通りね、ジャック」
紀香のジェシカが、滝川のジャクソンに言った。
「今夜が勝負ね」
と、友子のミリー。
まずは敵地潜入に成功ではあった。