トモコパラドクス・95
『友子の修学旅行・1』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかし反対勢力により義体として一命を取り留めた。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 久々に女子高生として、マッタリ過ごすはず……今度は、忘れかけていた修学旅行!
コンクールですっかりとんでいたが、来週から修学旅行である。
乃木坂学院も、以前は他の学校同様に海外が流行った。イタリア、ドイツ、オーストリアなどを一週間かけて回っていた。
しかし、他の私学も同様な修学旅行をやり出すと、新鮮みがなくなってきた。
「韓国、中国をまわろう!」
団塊の世代の先生が言い出したこともあるが、理事長が反対した。
「マスコミに乗せられて、生徒に贖罪旅行をさせるつもりですか」
組合を中心とした先生達が、こぞって理事長に反対の直訴に及んだが、見事に論破されてしまった。
「反日に凝り固まった国に行っても得るものはありません。広くアジアに目を向けようということには賛成です。先生方の中で、韓国、中国以外の国にお説があるならうけたまわりましょう」
だれも答えられる教師はいなかった。逆に、バングラディシュ、台湾、ベトナム、パラオなどについて理事長は語り出した。社会科の教師よりも博学で、かつ噛んで含めるように説明した。
「国旗当てクイズをやりましょう」
理事長はアジア数カ国の国旗を見せた。信じられないことに全問正解の教師はいなかった。
「この日の丸に似たのが、バングラディシュとパラオです」
「あ、いま言おうと思っていたところです」
「それは失礼。では、パラオの黄色のマルが、なぜ左に少しだけ寄っているかご存じですか?」
「それは……」
「日本に遠慮されたそうですよ。ベトナムなどにも学ぶべきものがありますが、いかんせん。これらの国々には、修学旅行を受け入れる下地がない。で、どうですか、いっそ国際的に外国人の視線で考えてみては?」
「そ、それは良いことです」
組合の先生達は、うっかり賛意を表してしまった。
「それでは、日本にしましょう」
で、決まってしまった。
「……というわけで、君たちは日本の原点を見極めるために、関西に行きます。コースは十通り、抽選の結果を各担任の先生からしていただきます」
修学旅行担当の先生から全員に決定したコースのパンフレットが渡された。なんと全員が希望通りのコ-スだった。大は八十人から、小は二十人までのコースだった。
これには、理事長の巧みな誘導があるのだが、気づくものは居なかった。
今週いっぱい、二年生の放課後は、修学旅行の準備が優先される。使い方は各自の自由であるが、帰ってから総合学習の一環としてレポートが課されているので、そうそう手抜きもできない。
「ま、レポートは任しといて」
友子の一言で、友子の班は、放課後を旅行準備の買い物にあてた。
言うまでもないが、友子の班は、クラスのお馴染みが全員いた。男子は亮介、大佛。女子は麻衣、妙子、純子、梨花。それに急遽コンクールの赤ちゃん事件から入ってきたC組の滝川コウが入っていた。
「いい、今日は下見ね。慌てて買ったら損するから。ま、どーしてもって人は止めないけどね」
で、八人は、好きな者同士バラバラに行動した。
「ね、友子は、やっぱ自由時間の私服中心に見るのよね?」
「あの……滝川さんの女子高生って、やっぱキモイんですけど」
滝川は、とっくに退役した義体で、本性は着やせはするがムキムキのオッサンである。
「しかたないでしょ。すみれちゃんのことでこうなっちゃったんだから」
友子は、見てくれだけで滝川に接することに決めた。外見は女子高生に擬態しているので、記憶を眠らせてしまえば違和感はない。
――でも、この記憶って、消せないのよね!――
その気になれば、渋谷中のお店の商品情報など簡単に検索できるのだが、今日は、あくまで人間の女子高生、それも修学旅行前のルンルン気分で来ているので、義体としての能力はカットしている。たまには並の女の子として、悩んだり迷ったりしてみたい。
滝川も同様らしく、義体としての思念は感じなかった。
しかし、そこが落とし穴だった。敵は、どういう手を使ったのか、若いシングルマザーに擬態して、すみれを抱っこして、何度も思念を送りながら、友子と滝川に接近していた。気づいた時は、抱っこしたすみれに、ナイフを突きつけていた。むろん人には見えないようにして。
==赤ん坊の命が惜しければ、修学旅行に行くな!==
強烈な思念が、二人のCPUにこだました……!