大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・75『すみれの花さくころ・1』

2018-12-02 06:35:52 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・75
『すみれの花さくころ・1』
 
      

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……台風一過、さあ、コンクールまで二日だ!


「ねえ、こんなのアップロードされてるよ!」

 妙子が二つ目のコロッケを食べながら、食堂から現れた。
「なによ、またエグザイルのブログでも更新された?」
 紀香は我関せずと、黙ったまま世界のニュースを秒速五万件の速度で閲覧していた。大事なコンクールを前に、自分たちの邪魔をするような、未来からの干渉の兆候がないかを探っているのだ。ちょうど「空飛ぶ円盤出現」のニュースにあたっているところで、妙子が、紀香の無関心に気がついた。
「紀香先輩も見てくださいよ」
 紀香は、チラ見して、すぐ中身を理解した。しかし妙子の人間的な感動を大事にしてやるために、あえてブロックした。友子も同様で、熱心に、妙子のスマホを見ていた。

「すごい、すみれの最高傑作……みたいね」
「うん、一昨日アップされたみたい。スマホじゃ画面ちっこいし、時間もないから放課後見ようよ」
「そだね、パケット代もバカにならないしね」

 ということで、放課後、図書室のパソコンで観ることにした。

 名古屋のN音楽大学が『すみれの花さくころ』を音楽劇にして、学内のホールで抽選で選ばれた一般の人たちに観てもらったときの記録だった。
 何もない平戸間の舞台に箱が二つ。これは友子たちの平台二枚と変わらない。
 しかし、さすがに音楽大学だけあって、効果や音響は、パーカッションとピアノの生である。創作の歌とダンスがふんだんに入っていて、まるで、友子たちの作品とは違った。

 もともと、この話は、すみれという女子高生が、かおるという東京大空襲で亡くなった幽霊さんと出会い、宝塚に入りたかったという夢を、すみれに取り憑くことで実現しようと、かおるがすみれにお願いしまくる話である。
 なかなか、その気になれないすみれはいったん断るが、荒川でふたり紙ヒコーキを飛ばそうとしているところ、かおるの体が消えかかり……つまり、幽霊であることさえできなくなり、消滅が始まる。
 友情が芽生えたすみれは「わたしに取り憑いて!」と叫ぶが、「すみれちゃんの人生は、すみれちゃんのもの。そんなことしちゃいけなかったんだ」そう言って、かおるは、荒川の流れの中で消えていこうとし、そこで歌われる『お別れだけど、さよならじゃない』は、曲だけで泣かせるものであった。浄化のカタルシスさえ表現され、ジブリの短編アニメを観ているようだった。

「これ、いただこうよ!」
 紀香が言った。
「え、今からじゃ無理だよ。もっと早くアップしていてくれていたら……」
 管理人の作者を怨めしく思った。
「大丈夫、あたしと友子は音楽得意だから」
「え、そうだっけ……」
「そうなの、少し編曲させてもらって、やってみるね!」
 紀香のCPUがすぐに編曲して、友子のCPUとシンクロした。

「……すごい、今までの十倍すごいよ!」
 一本通してみて、妙子が感動した。うまい具合に、歌はすみれとかおるだけだし、フィナーレのダンスは、AKBファンの妙子自身がアレンジして、ほぼ完成品になった。とても人間業とは思えない(事実、友子と紀香は義体だが)力だが、付き合いの長い妙子は、二人を含め、自分たちは天才だと思った。

「ちょっと、先に行ってて」

 いつもより一時間も長く稽古した帰り道、友子は、妙子と紀香に言った。
――宇宙人のマイが、アンノウンを追いかけてる――
――一人で大丈夫?――
 紀香とはCPU同士で、瞬間に会話し、紀香は昼間検索したUFOに関する情報を、友子に送った。
「じゃ、先に行ってるわ」
「うん、あとでパンケーキ屋さんで」

 二人と別れた友子は、青山通りにワープした。

 宇宙人同士が、人の目に止まらない早さで戦っていた。一人は言わずと知れた都立乃木坂高校のマイであった。
 友子は、マイに加勢して、三十秒ほどで、青山霊園に追いつめた。
「さあ、始末するわ」
 マイが、右腕を四十ミリの波動砲に変えた。

「待って、殺さないで」
「だって、こいつは敵のスパイだよ。ドジなやつで、侵入するときに大勢に目撃されちまってるけど。情報は取られてる」
「わたしにまかせて、こいつのメモリーを細工するわ」
「ウィルスだったら、効かないわよ」
「そうじゃない……」

 友子は、東京大空襲のとき亡くなった十万人分の悲しみを、スパイの宇宙人に情念として植え付けた。宇宙人の心は、怒り、悲しみ、絶望、恐怖でいっぱいになり、自我の一部は壊れかけた。

「この情報を知ったら、地球に来ようなんて思わないわ」
「こんなショックどこで……そうか、そうだったんだね」
 東京大空襲で追体験した情報を圧縮して、マイに送ったら、瞬時にマイは理解してくれた。

 そして、このことが何日かあとに、面倒なことになるとは、マイも友子も想像もできなかった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする