トモコパラドクス・78
『彼岸花の季節・2』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……今年の彼岸花は、早く咲いた……。
けっきょく、南と南西が運命の分かれ道になった。
南に向かった中隊八十余名は、直ぐに敵に発見され、猛烈な十字砲火を浴びることになり、無事にガマにたどり着けたのは五十名に達しなかった。中隊長は、それでもすぐにガマの別の出口を発見し、そのかろうじて人一人が通り抜けられる出口から半数の兵が抜け出し、散開したところで、敵に発見された。ガマに残っていた兵達が、派手に発砲し、陽動してくれたのである。ある上等兵などは、ガマの入り口付近に隠れ、火炎放射器を持った米兵が至近距離まで来たところで、背中のガソリンタンクを撃ち、三名の米兵を火だるまにした。
そして、鉄鉢(ヘルメット)と、小銃を残し欺瞞とし、さらに前進。大胆にも、米兵が散開しているど真ん中で、手榴弾を四発、ダッシュしながら、続けざまに投げた。ジャングルの中でアメリカ式に大量の弾を撃ちまくると、木の幹や岩にあたり跳弾となって、意外な方向へ弾が飛ぶ。日本兵は、米軍のど真ん中にいるので、米兵たちは同士討ちになり、意外に、この一人の日本兵のために、十名以上が犠牲になった。
上等兵は、死んだ米兵のヘルメットを被り、小銃を取ると、短い小銃を持った米兵を探した。
一方、ガマに残っていた数名の日本兵は、これを好機ととらえ、ガマから出ると、付近の米兵を狙撃し始めた。
薮に紛れた日本兵は、短い小銃を持った米兵を発見、ヘルメットのおかげで正体を見破られることもなく近づくと、その米兵を一発でしとめた。
短い小銃を持っているのは将校=隊長とふんだのだ。
隊長を失った米兵は脆かった。部隊の半数を失って、撤退していった。
安心した上等兵は、警戒しつつも中腰になり、仲間の日本兵は、米兵と思いこみ、彼は、一瞬で倒れた。でも、数秒間意識はあった。
青い空が見えた。数年前、甲子園で本塁打を打ち、球の軌跡を追って見上げた青空が、そこには見えた。
米軍のおかえしは、直ぐに来た。百五十ミリ榴弾砲が、雨のように降ってきて、ガマを出た中隊の半数もこれでやられてしまった。
そのあとはM4戦車二両を先頭に、米軍二個中隊がやってきた。
ガマに残った日本兵は、M4の火炎放射砲で、ガマごと焼き尽くされた。
背後に残った十名ほどの日本兵は、同数ほどの米兵を倒したあとに全滅。重傷を負った少佐参謀一人だけが、意識のないまま捕虜になった。
この南のガマの中隊の奮闘により、南西のガマに向かった高山曹長が率いる第一小隊の残存部隊と女学生たちは、無事に南西のガマに付くことができた。
途中、今まで居たガマの方角で、激しい銃撃、砲撃の音を聞いたが、みな無言だった。そして、高山曹長が撃ち落とした米軍機のパイロットの死体を……見てしまった。
パラシュートが開ききる前に墜ちたので、体は壊れた人形のように、いびつな格好になり、早くも蠅がたかり始めていた。
「ざまあ見ろ、アメ公!」
亮介が毒づいた。
「言ってやるな。こいつも人間なんだ」
曹長は視界には入っているのだろうが、目をやることもなく呟くように言った。
他の女学生たちも、死体には平気であった。今まで何百人も見てきたからだ。
「五体満足なだけ、まだまし……」
麻衣が呟いた。今まで見てきたのは日本人ばかり、それも黒こげや、手足だけ、もしくわ手足の一部、あるいは全部がないものばかり。感覚はマヒしている。
南西のガマは、すぐそこだ……。