トモコパラドクス・76
『すみれの花さくころ・2』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……台風一過、さあ、いよいよコンクールまで本番だ!
中央地区では、都立S高校が『クララ ハイジを待ちながら』で最優秀をとっていた。
友子達も、同じ大橋むつお作の『すみれの花さくころ』である。大いに期待で胸が膨らんだ。
「あたしたちだってやるぞ! オー!」
と、円陣を組んで、AKBの本番前みたいに気合いを入れた……と言っても、顧問のノッキー先生を入れても四人だけども。
四人だけだから、開き直っている。道具は舞台に平台が上下(かみしも=左右)に一個ずつ。それだけ。
照明はツケッパ。顧問のノッキー先生は、緞帳を開けたら、パワーポイント(スライド映写)にかかりっきり。あとは、ひたすら、友子、紀香、妙子の演技にかかっていた。
「あ~あ、勉強ちっともしないで、こんな本借りちゃった……」
友子演ずるすみれが、嘆きながら、うららかな春の荒川の土手道をやってくる。
すると、向こうの新川橋のほうから、ケッタイな女学生がやってくる。
防災ずきんに、モンペ。肩からズタブクロみたいなの下げて、まるで戦時中の女学生! 変なコスプレマニアかと敬遠するすみれであったが、
「こんにちは」
と、挨拶するので、小声で応えてしまった。
「こ、こんにちは……」
「うそ、伝わった……!」
コスプレネエチャンは大喜びではしゃぎまくり、自分は東京大空襲のときに焼け死んだ咲花かおるであると挨拶する。
薄気味悪くなったすみれは「さいならー!」と逃げるが、逃げた先の自販機に一体化してかおるは待ちかまえていた。
「すみれちゃんが借りた本がラッキーアイテム。で、あたしたちお話が出来るの。もともと霊波動が、お互い百万人に一人っていうRHマイナス。すみれちゃんがガキンチョのころから分かってて、ずっと声かけてたんだけどね……そうだったんだ、その本を借りてくれたんで、見えるように、話せるようになったんだ!」
こうして、幽霊のかおると人間のすみれの、おかしくも、友情と涙に溢れた一日が始まる。
かおるは、東京大空襲の夜に、一度は避難するが、宝塚の入試課題曲の譜面を取りに戻り、帰らぬ人になった。
「ね、すみれちゃん。あなた宝塚受ける気ない!?」
と、かおるはすみれに迫る。かおるが取り憑けば、宝塚の娘役としてのスターダムに上れることは確かだ。
しかし、確かにすみれのお母さんは宝塚ファンで、オッカケもやり、娘にも宝塚にちなんだ「すみれ」という名前をつけるが、当のすみれは、AKBならともかく、宝塚には興味がない。
「ごめんね、力になれなくて」
「……いいよ、すみれちゃんの人生だもん」
寂しげに、かおるは諦める。そこに幽霊スマホにメールが! なんと、かおるに八千草ひとみという霊波動の適合する女性が見つかったと連絡が入る。
「その人よ、八千草さんこそ、かおるちゃんの運命の人よ!」
「うん、行ってくる! その間宝塚の体験版でもやってて!」
キャピキャピになって、かおるは八千草のところへ。すみれは体験版の宝塚をやってみて驚く。
「すみれ、すごいよ! 才能あるよ!」
妙子演ずる由香がやってきて絶賛する。無意識な心の中に、かすかな可能性を感じ始めるすみれ。
由香は、アラブで起こった戦争の号外を残して、進路相談……を諦めて(なんたって、担任がよその戦争でワクワク、進路相談どころではない)去っていく。
そこに、かおるが戻ってくる。
「八千草さんは……?」
「九十五歳のお婆ちゃんだった……」
ションボリしたかおるを励まし、戦争の号外で紙飛行機を折り、荒川の土手に飛ばしにいくことになる。
「いくよ、一、二、三……!」
二人が飛ばした紙飛行機は、風に乗って、遠く高く飛んでいく……そして、始まってしまった。
かおるの体が消え始めたのだ!
幽霊は、人に取り憑くか生まれ変わらなければ消えてしまうのである。宗教では美しく「成仏」とか「昇天」とか言うが、要は、幽霊として存在さえできなくなるのである。
「かおるちゃん、お願い。あたしに取り憑いて! あたし宝塚受けるから!」
すみれは、心から叫ぶ。たった半日だったけど、育まれた友情の叫びだった。
「だめよ。本心から思って、願ってないのに、そんなこと、やるべきじゃないわ……」
そして、かおるは、せめて川の中で消えていこうとする。川といっしょに海に流れ、いつか雲になり、雨になって、もどってこられるかもしれないから。
と、そこで、大展開の結末。紙面の都合で書けない……無念!
夕方までかかって審査結果が出たのは、もう夜の八時だった。
「では、最優秀校を発表いたします!」
審査員の先生が立ち上がった。
乃木坂学院は、すでに個人演技賞を三人ともとっている。こういう各賞が多い学校は選に漏れることが多い。読めば読める審査結果だが、あえて、友子も紀香もしなかった。人間としてドキドキしていたかったから。
「最優秀は、乃木坂学院『すみれの花さくころ』であります!」
もう、しがない義体であることも忘れ、たった三人の生徒と、たった一人の顧問ノッキー先生と感動しまくりのひとときだった……。