トモコパラドクス・84
『聖骸布の謎・2』
三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……さて、聖骸布のなぞとは!?
聖骸布のレプリカからは、とんでもない情報が読み取れた……。
それは、聖杯の存在とその在りか。そして聖杯の在りかにたどり着くまでの方法と能力に関してである。しかしレプリカの悲しさ、分かるのはそこまでであった。
聖杯の具体的な在りかはゴルゴダの丘から、半径五百キロのどこか。方法と能力については、友子が直接目にした「空を飛ぶ力」しか分からなかった。
聖杯の力については、皆目分からなかった。
「仕方がない。なにか動きがあるまでは待つしかないわね」
友子と紀香は、そう結論づけた。
ゴルゴダの丘の半径五百キロ以内では毎日事件が起こっていた。カッパライから戦争に至るまで、怪しいと思える事件は数万件もある。中には聖杯がらみのこととはっきり分かるものが何件かあった。
実際聖杯の強奪事件というのもあった。だが、自分の分身をテレポさせて調べても、先祖代々「聖杯と信じ」保管されていたものが盗まれ、トレースしていくと、ガラクタ、あるいは単なる骨董品に過ぎなかった。
――そっちは、どう?――
――とても手に負えない。自分のCPUで「聖杯欲しい」で、検索したら、サッカーのワールドカップよ――
紀香もお手上げのようだ。
「ちょっと、ハナ連れてお散歩に行ってくる」
気分転換のつもりで日曜の街に出た。ハナも少し大きくなった。滝川からもらった赤い首輪がかわいい。生後三か月といったところで、人間で言えば五歳ぐらいになる。好奇心も旺盛で、一秒もじっとしていない。あっちの電柱、こっちの生け垣などで匂いの嗅ぎまくり。動くものにはなんでも興味を示す。通り行く人や犬には、だれかれかまわずに興味を持って追いかける。
カワイイとは思うのだが、考え事をしているので、いささかわずらわしい。
「こら、どこ行くの!」
ちょっと気を抜いた隙に、ハナは一人で駆け出した。自分としたことが……と、思ったら、友子の手にはリーダーが握られたまま。リーダーと首輪が外れたようだ。
角を曲がると、ハナは喫茶店の前でお座りしていた。見ると『喫茶 乃木坂』であった。
これは、友だちのポチの匂いを……ということは、滝川がいる。入ろうとしたら張り紙が目に付いた。
――ペットの持ち込み、ご遠慮願います――
「どうしろってのよ……?」
すると、ハナが五歳ぐらいの女の子に変身した。
「トモちゃん、入ろうよ。アイス食べたい」
そう言いながら、ワンピのポケットに首輪をしまった。
「おお、ハナ、ちょっと見ないうちに大きくなったな!」
九歳ぐらいの男の子が後ろの席から声をかけてきた。その子の前には、新聞を読んでいる滝川の背中が見えた。
「ポチ……クンですか?」
「うん、人間の姿してるから」
「すみませーん、アイスとコーヒー、ブレンドで」
「趣味があうようだね」
ウェイトレスのオネーサンが二組のアイスとコーヒーを持ってきた。
「どうして、ペットの持ち込み禁止になったんですか?」
「マスターの気まぐれ。たまにはペットの実年齢や、個性をしっかり知っておけってことらしいよ」
なるほど、人の姿にするとよく分かる。アイスを食べてじっとしていられなくなったハナとポチは公園に行きたがった。
「遠くにいくんじゃないぞ、犬の姿に戻ってしまうからな」
「うん」
「ちゃんと、ハナちゃんの面倒みるんだぞ」
「分かってらい。ハナ、行くぞ!」
二人は、元気に公園に行った。
「なにか、困っているようだね?」
「ええ……」
義体同士なので、瞬間で情報が伝わった。
「ゴルゴダ教団で、検索してごらん」
「やりました。ゴルゴダのつくキリスト教系の宗教団体は二十ほどありましたけど、どれも無関係でした」
「名前は、仲間内でしか使ってないんだね」
「でも、バチカン大使には名乗っていってます」
「多少の敬意ははらっているのか、ブラフなのか……じゃ、これで」
「教祖の本人または身内が不治の病……」
ポチとハナが泥だらけになって戻ってきたとき、ターゲットが絞り込めた……。