大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・89『S市Bブロックから』

2018-12-15 06:01:39 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・89 
『S市Bブロックから』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……さて、今回のターゲットが絞り込まれてきた。


 Bブロックとは、名前の通りB級の住宅街だった。

 百坪ほどの敷地に、四十坪ほどの似たような住宅が並び、半分近くが長引く不況で売りに出されていた。遠目には閑静な住宅街だったが、中に入ってみれば、荒廃しかけたアメリカそのものだった。

「あの家よ」

 ジェシカ(紀香)が指差す通りに向けてジャック(滝川)はハンドルを回した。その家は、わずかに生活感があり、庭の芝生も程よく刈られて、程よく手入れされていない。アプローチや玄関前には枯れ葉やゴミが散見され、ここの住人が、あまり、ここでの生活に熱意がないことが伺われた。

「中に人は居ないな」
「でも、ついさっきまで居た気配がするわ」
「ワケありね……」

 かけられた鍵を難なく開けて、三人は家の中に入った。
 一階のリビングは、義体の力がなくても分かる。ついさっきまで人が居た温もりが残っていた。
「三人居たな……ほんの十分ほど前までだ。二階に一人。いったん、ここで話して、この玄関から出て行っている」
「残留思念を探ってみましょう」
 ジェシカが読み始めた。
「待って……」
「そうだ、なんか怪しい。これだけの痕跡を残しながら、読まなければ分からない残留思念……おれたちなら、読まなくても見えて当然だ……」
「これ……トラップかも」
 ミリー(友子)は、ソファーを一撫でして、玄関を指差した。
 
 三人は、家を出てブロックの端まで戻った。

「じゃ、読んでみるわ」
 とたんに、その家は前後左右の空き家を巻き込んで吹っ飛んでしまった。
「バリアーを張れ!」
 直後大量の中性子の洪水が襲ってきた。
「……今の、まともに受けていたら、あたしたちも危なかったわね。まして家の中に居たんじゃ」
「今のは、何をダミーにして読んだ?」
「ソファー……下手に義体のコピーなんか置いてきたら、リンクしているオリジナルまで影響を受けるところだったわ」
「どの程度の影響?」
「CPUが破壊されていただろうな」

 ミリーは瞬間読み取れた情報を二人に送った。あの家に住んでいたのは、中年の女と若い女……おそらくハイティーン。で、親子。父親は……なんと、あの司教!
 ただ、司教は自分の娘だとは思っていない……なんと神の子であると思っている。三人のCPUは、司教が強烈なパラノイアであるという結論を出していた。その司教が聖骸布を持っている。

 出てくる結論は……何が起こるか分からないということだった。

「水道局。もうテレポで行くぞ!」
 司教は、もう、このS市には居ない。義体であることを隠す必要もない……というか、とうに三人の正体は分かってしまっている。これも聖骸布の力だろう。

 まず局長室に行ってみた。局長は瞬間にフリーズドライにされたように死んでいた。ジャックが腕を持ち上げると朽ち木のように崩れてしまった。
「ひどい、実の弟を……」
「あの司教の力は計りしれんな」
「T町への送水管を!」
 浄水装置のある建物に行き、送水管を調べた。何も出てこなかった。
「おかしい、確かに、あのモーテルの水はおかしかったのに」
「友子、他の送水管を調べろ」
「もう調べた。平均的なアメリカの水道水よ。洗濯には使えても飲み水には適さない」
「T町のは純粋な水。東京の水道よりきれい……ん……だんだん水質が悪くなる……他のといっしょになった」
「証拠を隠滅した直後だったのね」
「T町に戻るぞ!」

 T町は、たった今まで人が居た気配。モーテルのオヤジの部屋で、電子レンジが任務終了の「チン」を鳴らしていた。かすかにビーフの良い香りがした。ジョッキの中のビールは、まだ盛んに泡を立てている。

「くそ、どこもかしこも一歩先をいかれてる!」

 滝川が、珍しくいら立ちを顕わにした。それがT町で唯一の人間的な気配だった……。
 

コメント
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