大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・90『絶崖の聖杯・1』

2018-12-16 06:45:15 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・90 
『絶崖の聖杯・1』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……さて、今回のターゲットが絞り込まれてきた。


 かすかに気配が残っていた。T町三千人のテレポの形跡が……。

 町の人間の中には、超能力と言うほどではないが、勘の良い者が1/1000ほどの確率でいる。その二三人の思念が、テレポさせられた先を暗示していた。トルコのカッパドキアの一点を意識の最後に残していたのだ。他の人間は、どこに行くのかも分からずに、なにが起こったのかも分からないままテレポさせられていた。

 滝川、紀香、友子の三人は、カッパドキアのそこにテレポした。

 カッパドキア……古代のカルスト大地に作られた、古代交易の中継点として栄えた都市の跡である。背の低い灌木の群れがチラホラあるだけで、住居に適した木材が無く、古代のカッパドキアの人々は、石と日干し煉瓦で家や城壁を作っていたが、ペルシアの進出と共に寂れ、岩山に穴を穿ち、それをもって住居としていた。
 それは、古代的というよりは、宇宙の別の星にある文化遺跡を思わせるものがあった。実際にスペースファンタジーのロケに使われることも多く、そういうところは観光地化され、様々な国の観光客で賑わっている。

 三人がテレポしたのは、そんなカッパドキアの辺境で、ふだん人の立ち入ることも希な渓谷地帯であった。

「地質的に不安定なところね」
「カルストだからな。石灰岩が多くて浸食がすすんでいる……あ、危ない!」
 紀香も友子も同時にジャンプして、隣の岩山に着地した。滝川だけが、上空を漂い、崩れたばかりの岩庇を見つめている。
「なにしてんの、こっちにきたら?」
「おかしいと思わないか。いくらカルストとは言え、あんなに大きな岩庇が、いきなり崩れたんだ……」
「かすかに感じる。あの岩庇の上に大勢の人間が乗っていたんだ」
「その重みで……トラップ?」
「そこまでは、分からないわ。気配を徹底的に消している」
「三千人分もの人の気配を?」
「多分、聖骸布の力だろ」
「集団テレポもね」
「こう痕跡もなにもなくっちゃ、分からないわね」
 
 三人は途方にくれた。

 感覚を研ぎ澄まし、あたりの気配を伺ったが、ウサギなどの小動物や蛇の気配まで拾ってしまい際限がなかった。
「ね、微かだけど、カツブシみたいな微粒子を検知したわ」
 紀香の一言で、三人はカツブシの正体をさぐりに、岩山をいくつか飛び越えた。

「なんだ……」

 それは、死んでカラカラに乾き、ミイラになったヤギの死体だった。
「今日は、ここで野宿だな」
「待って……T町では、ここへの残留思念が残っていたわ。それは感覚の鋭い人が何人かいたからよ。それが感じられないということは……」
「あたしたちが、追跡できないように始末した?」
「殺せば、死臭がする。おれ達の嗅覚はハゲタカの百倍はある」
「あ……」
「水道局長の殺され方……」
「ミイラ化すれば、死臭はしないわ!」
「でも、さっきのヤギみたいなのは、キリがないわ」
「水道局長とヤギのミイラじゃ、微妙に成分が違う」
「そうね、服や持ち物も同時に乾燥させるから、その成分が違うのよ!」

 三人は、水道局長のデータを基に、あたりを検索した。

「あった、三時の方角!」

 行ってみると、ワンピースを着せられたヤギとキツネのミイラだった。
「敵も読んでいるなあ」
「こうなりゃ、中型動物のミイラ、全部当たるしかないわね」

 五体目でビンゴだったが、ミイラがない。

「ミイラをテレポさせたんだ!」
「だとしたら、手の打ちようがないわね」
「もし、おれ達が、これをやるとしたら、どうする?」
「原子分解する。それだと絶対に分からないから」
「聖骸布は、トモちゃんが一部を引き裂いたんで、完全な力がないんだ。だとしたら……」
「テレポさせやすいのは、元の場所!」

 三人は、もう一度T町にテレポし、それを……発見した。

コメント
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