大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・71『やくもの4月1日』

2021-04-01 09:53:07 | ライトノベルセレクト

やく物語・71

やくもの4月1日』    

 

 

 プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル

 電話が鳴っている……それは分かってるんだけど、起きれない……

 プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル

 電話……えと……

 ポシャ

 何十回鳴っただろ、やっと、寝返りうって、手だけ伸ばして黒電話の受話器を取る。

 

『やっと出たあ』

 

「えと……どなたですかあ?」

『交換手です』

「あ、そか……」

 わたしの電話は古式ゆかしい昭和の黒電話。いろいろイワクのある電話なんだけど、起き抜けの低血圧、それも春眠暁を覚えずの春休みの真っ最中。解説してる余裕はないよ。

 で、普通じゃない黒電話は、まず最初に交換手さんが出てくる。

 しょっちゅう掛かってくることもあるけど、何日も掛かってこないこともある。

 ここしばらく掛かってこなかったのと、春眠の目覚めでボーっとしていてトンチンカンを言ってしまった。

『お地蔵さんからだったんですけど、やくもが、なかなか出てこないんで伝言です』

「え、あ、うん……」

『勾玉の有効期限が切れるので、今日中に返しにくるように……ということです。三月中にに返さないと年度を跨ってしまって、手続きややこしくなるそうです』

「あ……うん、分かった。顔洗ったら行きます……」

『じゃ、よろしく』

 起きようと思ったら、口に違和感。髪の毛が口の中に入ってしまって、ぺッ、ペッ。

 鏡を見たら、爆発頭の間抜け顔。『アナと雪の女王』にこんなのがあった……わたしは、アナほど可愛くないと思いつつ顔だけ洗って、ササッと着替えてお地蔵さんの祠に向かう。

 朝ごはん食べたかったんだけど、相手はお地蔵さん、それも、わざわざ電話をしてこられるんだ、さっさと済ませなきゃ。

 杉野君に憑りついた『そいつ』もケリはついていない。

 どうも、お地蔵さんの手にも余る相手らしいんだけど、ま、これからもお世話にならなきゃならないだろうし……あ、ついでにお財布持ってコンビニにでも行けばと思う。夕べ冷蔵庫を覗いたらコーヒー牛乳が切れかけ。お爺ちゃんの分を残しておかなきゃならないので、風呂上がりの一杯は諦めたんだ。

 でも、お財布持って出てないし。

 考えてるうちにお地蔵さんの祠にたどり着く。

「すみません、遅くなって。じゃ……ここに置いておきますんで、よろしくお願いします」

 手を合わせると、お守り石の一つが口をきいた。

『いや、ごくろうさま。お地蔵さまはお出かけしておられるから、お伝えしておきます。受け取り忘れずに持って行ってね』

 そう言うと、賽銭箱の横に受け取りの紙が現れた。

「そいじゃ、失礼します」

 もっかい一礼して帰途に就く。

 明日から四月、桜の満開は過ぎたけど、帰り道のあちこちに、チラホラと花びらを散らせながら、人に例えたら女ざかりって感じで咲き続けている。

 家に帰って朝ごはん。

 牛乳で我慢しようと思っていたら、コーヒー牛乳が一人分残ったまま。

「お爺ちゃん、ありがとう、やくもに残しておいてくれたんだね」

「あ、いや、忘れていただけだよ」

 新聞から目を離さないでお爺ちゃん。嘘をつくのがヘタだ。

 ありがたくいただいて、朝食をとる。

「え……?」

 お爺ちゃんの新聞を見て気が付いた。

 日付が4月1日。

 部屋に戻って交換手さんに聞いてみる。

『そうですよ。今日はエイプリルフール』

 あ、やられた。

 春休みで日にちの感覚が無くなってる方も悪いんだけどね(^_^;)。

『でもね、やくもが遅れたことを自覚してしまうと、ほんとに災いを背負い込んでしまうの。だから、お地蔵さんと相談して……大丈夫、ずっと3月31日だと思ってたでしょ』

「うん」

『じゃあ、いい新年度にしましょうね(^▽^)』

「はい、交換手さんもね」

 受話器を置いて思った。

 こういうイタズラめいたことができるのも、お互い馴染んだからなんだよね。

 そう思うと、ちょっと嬉しい。

 

 その夜、お風呂に入って湯船に浸かると、胸にボーっと赤く勾玉の影が浮かび上がる。

 やっぱ、無自覚とはいえ返却が遅れてしまったから残っちゃった……かな。

 でも、お風呂から上がって体を拭こうとしたら消えている。

 まあ、人とお風呂に入ることもないんだからいいか……日焼けみたく、そのうち消えるだろうし。

 みなさんの四月一日はどうでしたか?

 じゃ、おやすみなさい。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

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らいと古典・わたしの徒然草・59『大事を思ひたたん人』

2021-04-01 07:11:52 | 自己紹介

わたしの然草・59
『大事を思ひたたん人』    

 



 徒然草 第五十九段

 大事を思ひ立たん人は、去り難く、心にかからん事の本意を遂げずして、さながら捨つべきなり。

 
 大事なことを思い立ったら、他のことには目もくれず、やらなきゃダメだ!

 兼好のご託宣であります。

 本来はこの「大事」は仏道を指しますが、人生一般の大事なことと解していいでしょう。歌謡曲、特に演歌などに出てくる「なんとかしたら、命がけ~♪」の、ことですね。

 ちょっと懐かしいAKB48風に言えば、マックスハイテンションでラライングゲットしたいほどのものですね。
 一見簡単そうです。恋にせよ、仕事にせよ、「これだ!」と思ったら、脇目もふらずガンバリなはれ! というメッセージなのですから。

 カビの生えた言葉では「初志貫徹!」「ボーイズ、ビー、アンビシャス!」でしょうか。景気の良い言葉で、明治このかた、教師が新入生や卒業生に送る言葉に、同類のものが良く出てきます。卒業アルバムや、文集などにいろんな言葉を書かされましたが、わたしはこの手の言葉は書いたことがありません。
 なぜかと言いますと、初志や人生の大事など簡単に見つかりません……見つかってもいないものに「がんばれ!」の言葉は無責任だと感じるのです。

 遅刻すんなよ! 忘れ物しないよう 今度はモーニングコールする側に! たまには先生の話も聞いてね 笑顔が良くなったね キミの質問は面白かったぞ 

 ひねりはありませんが、その子が気にしていたことや、癖になっていたことについて短く書いてあげました。具体性のある一言の方が距離が近くて温もりがあると思ったからです。

 たまに気になって、他の先生がお書きになったものをチラ見しましたが、わたしより長い言葉で同じ趣旨の事を書いておられました。わたし自身、先輩の先生のやり方を見て、無意識に、そのショートバージョンをやっていたようです。

 司馬遼太郎さんが倒れられて緊急手術をしなければならなくなられ、手術室に運ばれるときの話です。

 奥さんだったと思うのですが、ストレッチャーの横について「がんばって!」とおっしゃったそうです。

 司馬さんは「がんばって!」という言葉はあまり使われませんでした。

 でも、この時、司馬さんは「うん、頑張って来る」と応えられたそうです。

 ご自身のエッセーに書かれていたと記憶しますので、最後の入院ではなかったのかもしれません。あるいは奥さんのみどりさんがお書きになったのを、そう思っているだけなのかもしれません。

 手術室までの、おそらく数十秒の間、掛けられる言葉は多くはありません。考えている暇もありません。

 こういう時は「がんばって!」しかないのでしょう。

 ようは、どんな気持ちを言葉に載せられるかという、言葉をかける側とかけられる側の関係次第。

 そう言えば、若いころ、ちょっと大きな手術をしましたが、ストレッチャーに載せられて手術室に向かうわたしに、大正生まれの母は無言でした。

 無言でありましたが、気持ちは十分に伝わりました。

 もっとも、麻酔から覚めて、手術跡の痛さにすっかり忘れてしまう親不孝者ではありましたが。

 どうも、今回もとりとめがありません。

 

 

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真凡プレジデント・39《琢磨の本気の本気の本気》

2021-04-01 06:06:37 | 小説3

レジデント・39

《琢磨の本気の本気本気》      

 

 

  総理! 総理! 総理ぃーーーー!!

 記者の呼びかけを完全に無視し、総理は足早に官邸を出て行きました……。

 

 キャスターは事実だけを述べ、言外に――総理のひどい傲慢さが現れています――非難の色を滲ませた。

 後を受けて、政治評論家やコメンテーターが引き取って、あれこれ総理と与党の非難を繰り返した。

 

 ここだけを見れば、だれでも、そう思う。

 

 だが、これには編集されてカットされた部分がある。

「え、どこが編集されてるんですか?」

 その子は、画面をリピートにして二度繰り返したが、納得がいかない様子だ。しかし、それだけで投げ出してしまわないところは、それなりに物事を調べてみようという姿勢がある証拠だと思う。

 俺は、採点ミスで中町高校の入試を落とされた女の子とスタバで話し合っている最中なのだ。

 こんなところで会ったら、マスコミが放っておくわけがないのだが、それは織り込み済みである。

 通路に面したガラス張りのカウンターにいるので、写真も動画も撮り放題だ。ついさっき入って来た両脇の客が毎朝テレビと週刊文潮の記者であることも合点承知の上だ。

「う~ん、やっぱ、分かんない。カメラの切り替えもないワンカットだし、編集の痕跡なんて見えませんけど」

 タブレットから目を上げるが、諦めてはいない。その証拠に半分残ったカフェオレには手を出さないし、上げた目で俺の顔をしっかり睨んでいる。きちんと応えないと、次の瞬間には敵に回る顔つきだ。

「編集されたのは、これの前だよ……」

 画面にタッチして、その前の映像を見せてやる。

 

 総理!

 はい、なんですか?

 

 記者の呼びかけに応えて、総理はきちんと体ごと振り返っている。

 

 あの、呼びかけたのはどなたですか?

 

 並み居る記者たちは無言で互いの顔を見合わせている。

 総理は、苦笑いすると、振り返って歩き出す。

 

 総理! 総理!

 

 二度目の呼びかけ。再び総理は振り返るが、今度も記者たちは――え?――という顔になる。

「そして、園田さんが見た映像に繋がる……」

「……ほんとだ」

 総理は三度目の呼びかけだけを無視して行ってしまったのである。

「だから『記者の呼びかけを完全に無視し、総理は足早に官邸を出て行きました』というコメントに嘘はない。ただ、その前に呼びかけておきながら無視するというイジメ同然の事をやっていたことには触れない」

「それって、ひどくないですか!?」

 その子は真っ当な返答をした。

 俺は、タブレットを横にやって、その子を正面にとらえる。

「キミを取材しているのは、こういうマスメディアなんだ。そこを承知して俺の話を聞いてくれるかな」

「はい、ちょっとショックですけど。きちんと理解したいですから」

「よし、じゃ、コーヒーのお代わりだ。オーレ?」

「あ、今度はブラックでいきます!」

「よし、ちょっと待っててね」

 トレーを持ってカウンターを離れる。

 

 真正面から話して正解だと思った。その子は園田その子という。ちょっと冗談みたいな名前だが、真っ直ぐな子だ。

 コーヒーのお代わりを取りに行く俺を視野に入れているので、客に化けた記者が、タブレットに繋いだUSBを抜き取っていることにも気が付かないでいる。

 俺は、列車事故の時と同じくらいの本気になってきている。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)      入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹          真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨          対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二            なつきの弟
  •  藤田先生           定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生           若い生徒会顧問
  •  園田 その子          真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生

 

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