大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・205『上野公園でボランティーア』

2021-04-03 09:55:01 | 小説

魔法少女マヂカ・205

『上野公園でボランティーア』語り手:マヂカ    

 

 

 やあ、君たちは女子学習院の生徒たちだね。

 

 救護所に近づくと白シャツを腕まくりして仲間の学生に指示を与えている帝大生が気づいてくれた。

「はい、お役に立てることがあればとやってきました」

「授業はいいのかい? たしか女子学習院はほとんど被害は無かったはずだが」

「はい、被災者のお役に立つことならお手伝いしなさいと言われております」

 キリリと霧子が応える。

 半分嘘だ。たしかに言われてはいるが、あらかじめ学校に申し出ておかなければならない。

 もっとも、数週間とはいえ過去にさかのぼっているので、学校にはもう一人の霧子がいる。確認などしたら混乱してしまう。

「じゃあ、このボランティーア名簿に署名してくれたまえ、その間に手伝ってもらうところを決めるから」

 そう言うと、帝大生はたすき掛けの女子学生と替わって、となりの老人たちが手当てを受けているテントに向かった。一人で複数の担当をやっているんだ、これは、真剣にお手伝いしなきゃな。

「あなた、外国の女学生さん?」

「ハイ、アメリカの交換留学生です」

 大使の娘であることは伏せて自己紹介するブリンダ。もっとも大使令嬢というのもフェイクなんだけどね。

「ちょうどいい、通訳が不足しているの、よかったら、池の向こうの通訳テントの方に行ってもらえるかしら」

「外国人も居るんですか?」

「数は少ないけど、被災者もいるんだけど、外国のプレスとかの対応ね。わたしたちの英語じゃなかなか通じなくて、ネイティブさんなら大助かり」

「分かりました」

「サンキュー!」

「ユーアー ウェルカム!」

「あなたたちは、あっち。児童預所、よろしくね!」

 それだけ言うと、たすき掛けは帝大生の向かったテントに戻っていった。テントには『高齢者治療所』と札が掛かっていたが、なにやら言葉を交わしたあと、高齢者の三文字を墨で塗りつぶした。とたんに、ケガをした中年やら子供を抱っこしたお母さんやらがテントに入って来る。どうも、あちこち、救護体制はいっぱいいっぱいのようだ。文字通りお手上げをしたたすき掛けさんが手をメガホンにして「一人、こっちに来てえ!」と救援要請。

「わたし、行ってくる!」

 まなじりを挙げて霧子が向かう。伏見大地震で一番に秀吉の元に駆けつけたご先祖、高坂光孝の姿が心に浮かんでいるのかもしれない。

「マヂカ、魔法で病人とか怪我人とか治してあげられへんのん?」

「へたにやれば、すぐに噂が広まって、処理できない人数が集まってしまう。我々もいつまでも居られるわけじゃないんだからね」

「そっか、じゃ、子どもたちの相手しにいこうか」

「そうだな」

 児童預所に向かうと、子どもたちが溢れかえっていた。

 大きな子は小学五年生くらい、小さな子は一歳児くらいで、小学生の女の子たちがオンブしている。この時代は、上の子が下の子の面倒を見るのが当たり前だったんだ。それより小さな乳飲み子はお母さんが抱っこしたりおんぶしたり。むろん、お母さんたちは赤ん坊の面倒を見ながら避難所での家事をこなしている。

「おねえちゃん、上手だね(^▽^)!」

 むずかる背中の子をあやしてやると、尊敬される。

 もう千年年以上魔法少女をやっているのだ、子守ぐらいは朝めし前だ。

 それに引き換え……

「おねえちゃん、なんにも知らねえんだなあ」

 呆れられっぱなしのノンコ。

 なんせ令和の女子高生だ、大正時代の子どもの遊びなどには通じていない。

 ゴム縄、ケンパ、缶けり、鬼ごっこ、お手玉、おはじき、なにをやっても大正少年や少女にはかなわない。

「……じゃなくって、こーやるんだよ」

「こう?」

「んじゃなくって、こうやったら、敵のおはじきが……ほら、二つ取れた!」

「すごい、みよちゃん天才!」

「天才って、おはじきくらいでぇ大げさ、アハハハ((´∀`))」

「こんどは、オレがだるまさんがころんだ教えてやんよ!」

「ずるいぃ、今度はこっち!」

 なんと、子どもたちがノンコに教えるのを面白がっている。

 そうか、この時代、ここまで遊び方を知らない奴も珍しいんだ。

 なによりも、ノンコ自身が教え教えられると言う子ども同士の感覚が新鮮で、正直面白がっている。

 いや、ノンコのもの喜びして遊びを憶えるのはノンコの才能なのかもしれない。

「こらあ、そんなことでは艦隊は全滅するぞ!」

「姉ちゃん、強すぎい!」

「ふつう、捕まえられねえって……逃げろケンちゃん!」

「ギャー、やられたああああ」

 わたしは、駆逐本艦で元気の余ったガキどもを全滅させて、尊敬……されずに顰蹙を買う。

「大の大人が、子ども相手に本気になんなよなあ……」

「「「「そーだそーだ!」」」」

 夕方には、ノンコは救護所一の人気者になって、片やわたしは、いっしょに遊んでくれる子どもが居なくなってしまった(^_^;)。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草61『まじなひなり』

2021-04-03 06:48:19 | 自己紹介

わたしの然草・61
『まじなひなり』  

 



徒然草 第六十一段

 御産の時、甑落す事は、定まれる事にはあらず。御胞衣とどこほる時のまじなひなり。とどこおらせ給はねば、この事なし。
 下ざまより事起りて、させる本説なし。大原の里の甑を召すなり。古き宝蔵の絵に、賤しき人の子産みたる所に、甑落したるを書きたり。

 この段は、呪いについてであります。

 兼好の時代は、お産にあたって、屋根の上から甑(こしき)をを落とし、安産のおまじないをしたそうで、その(甑)も大原産のものがいい。という話しであります。 甑(こしき)とは、土器の蒸し器の事。底に穴が開いており、ここから蒸気を取り入れ上にふたをして米とか蒸したものです。

 どうやら、昔からのシキタリではなく、この時代、庶民の中で始まり、貴族社会にも浸透した、新しいお呪いだそうで、有職故実(昔のシキタリ)にうるさい兼好には珍しいことだったようです。

 で、今回は、お呪いについて語ることにします。

 お呪いの歴史は古く、旧石器の時代に抜歯や、前歯をノコギリ状に切れ込みを入れるもの、埋葬に当たっては、母胎の中の赤ちゃんと同じように、体を丸めて葬る屈葬をして、死者の生まれ変わりを願ったものあたりに始まりがあります。魏志倭人伝の中にも、倭人は、魔よけに、入れ墨(お呪いとして)をしていたとあります。
 清少納言も枕草子の中で、恋しい人の夢を見るためには、着物を裏返しに着て寝ればいいと書いています。

 今はどうなんでしょう。

 子どもの頃は、怪我をしたら「ちちんぷいぷい」「痛いの痛いの、とんでけ~!」や、「えんがちょ」などが生きていました。『千と千尋の神隠し』でも、釜爺が千尋に「えんがちょ」を切ってやるシーンが出てきますね。

 でも、今の子はやるんだろうか……。

 正月には、初夢で良い夢が見られるように、枕の下に見たい夢の絵を描いておいた記憶があります。
 前世紀には、コックリさんや、「愛国駅から幸福駅行きの切符」などが流行りました。わたしも北海道の友人から、昭和六十二年二月一日付のそれをもらって、いまでも大事にしています。清明神社とおみやげ屋さんとがグッズの販売をめぐって争ったことも耳に新しく残っています。
 しかし、ごくローカルなものや、ほんの流行りとしてのものを除いて、お呪いというのは廃れてきているのではないでしょうか。
『千と千尋の神隠し』の「えんがちょ」も意味が分からず、ネットの知恵袋で質問している人がいました。「ちちんぷいぷい」も珍しく懐かしいために、テレビのバラエティー番組のタイトルになっているともいえます。

 今は、お呪いは後退して、現実的な対処法が流行っています。結婚や就職は、神社などに願掛けに行くよりも、婚活、就活のセミナーなどが流行りで、一部のお呪いは人権上問題があるとされたりして廃れてしまいました。まあ、時代の流れであると言えばそれまでなのですが、なんだか生活上の潤いを失ってしまったと感じるのは、わたしだけでしょうか。

 お呪いというのは、地域の中にコミュニティーが存在していて、年寄りから子供たちへ、子供たちの中でも、年長者から幼い者に伝達されてきたものです。
 だから、お呪いの廃れというのは、日本固有の地域社会が衰退してしまったことの現れではないかと思うのですが。

 現代社会のお呪いにあたるものは、一見文化的、科学的であります。
 たとえば、空気清浄機、空気清浄剤で清潔を保つという「お呪い」です。あれって、大腸菌などの常在菌まで殺してしまって、人間の耐性を落としているとも言われます。

 海外旅行に行くと水とかが合わずに、真っ先にお腹を壊してしまうのは日本人だと言われています。

 また、今般のコロナ感染者が諸外国に比べて二けた少ないのも、サニタリーに関する日本人の感覚と言われています。これは、潔癖症とバカには出来ないですね。

 スペイン風邪が流行った時、ポーランドの罹患者が少なかったと言われています。ポーランドでは、食後の食卓を度のキツイお酒で拭く習慣があって、そのために罹患者が少なかったという説があります。お呪いというか生活習慣の賜物といったところなのかもしれません。

 携帯電話という神機があります。ここに、メールとかラインとかのメッセという「お呪い」が絶えず入ってきます。

――今、何してる?
――どこにいる?
――カラオケ行こうぜ!
 いろんなお呪いが、入ってきて、人々は簡単に、このお呪いにかかってしまいます。
――今、何してる?――特になにも――じゃ、遊びに行こう。
――どこにいる?――電車の中――じゃ帰りにコンビニで、あれ買ってきて。
――カラオケ行こうぜ!――行く行く(本当は気乗りがしていないのに)

 気弱な現代人は、携帯電話で、お互いにお呪いをかけて、縛りあっているように、わたしには思えるのです。だから……というわけでもないにですが、わたしは、携帯電話を持ちません。

 日本最大のお呪いは、日本国憲法である。と言ったらお叱りを受けるでしょうか。

 日本の国の有りよう(The national polity)を無視して作られた憲法は、日本人の紐帯(結びつき)を崩してしまい。今や、日本の世帯人数は二人を割り込もうとしています。

『日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』
 人間相互の関係を支配する崇高な理想……ちちんぷいぷいから、叙情性と人肌の温もりを抜いたら、こんな言葉になるのでしょう。
「ちちんぷいぷい」は、怪我をした子どもの周りに他の子達が集まって「大丈夫やよってに、泣かんとき」と癒しの言葉といっしょに出てくる温もりがありますが、前文は、政党のマニュフェストのように抽象的で温もりがありません。
 平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して……に至っては、人類愛の極致であり、宗教の教義としては有効かもしれませんが、最高法規としての憲法としては、お呪いとしか言いようがないように感じます。

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真凡プレジデント・41《毎朝テレビの垂れ流し映像》

2021-04-03 06:23:55 | 小説3

レジデント・41

《毎朝テレビの垂れ流し映像》    

 

 

 映らなかったのは三十分ほどだった。

 でも、三十分間映らないテレビを切りもしないで、チラ見とはいえ画面に注目していたのは、テレビの魔力なのかもしれない。

 毎朝テレビも回復させようと必死の努力をしたんだと思う。

 辞めたとはいえ、お姉ちゃんが女子アナだったので、放送局のあれこれは聞きかじっている。

 昭和の三十年代は、よく放送がストップして魔法陣みたいなテストパターンが出て――まもなく放送が回復いたします、チャンネルはそのままでしばらくお待ちください――という画面に切り替わったそうだ。

 その間、放送局の技術スタッフは必死で原因を探って回復に勤めるんだそうだ。

 今は、局の放送そのものが中断してしまうようなことはありえないんだけれど、万々一、そのありえない事態になっても、コンピューターがチェックと回復操作を行って、長くても数分で回復するのだそうだ。

 

 あ、映った。

 

 三十分たって回復した映像はとんでもないものだった。

 総理が記者の呼びかけを完全に無視していく映像で、総理は記者の呼びかけを鼻にもかけず足早に立ち去っていきました。

 という非難がましい映像だ。

 わたしは、何度か、この映像を観ている。お姉ちゃんが写っているからだ。

 先輩記者に付き添って、立ち去る総理にマイクを突き付けている姿が数秒写っている。女子アナを辞めた直後、何度か見てはため息をついていた。ひょっとしたら、これが辞めた理由……あるいは原因の一つかと思った。

 

 今度のは違った……というか、前半部分が付け加わっている。

 

 記者が二度――総理! 総理!――と呼びかけて、その都度総理は振り返るんだけど、記者たちは知らんぷり。

 これって、ガキがやるイジメと同じだよ。

 後ろから呼びかけて、他社の記者たちと知らんふり。振り返っても振り返らなくても囃し立てられる。

 ガキのやるイジメも陰惨だけど、放送局は、最後の一回だけを取り上げて――総理は記者の呼びかけを無視して足早に立ち去っていきました――という悪意のあるコメントを付けている。

 印象操作……いや、悪意ある放送テロだ。

 

 なつきんちからの帰りの交差点。

 書店の上の大型モニターには、くりかえし映像が流れていたが、渡り始めたところで切り替わった。

 歩行者や信号待ちをしている人たちも脚を停めて注目する。

 こんな光景は、前の天皇陛下が退位すると国民に語られて以来のことだ。

 そして、大型モニターが映し出した映像はとんでもないものだ( ゚Д゚)

 なんと、毎朝テレビの局内で起こったセクハラに関する映像が流れ始めたのだ!

 一見して、番組用に作られたものではなく。偶然映った、または、被害者の女性(アナウンサーやらADやらタレントやら事務職やら様々)。中には財務省のセクハラを毎日糾弾していたキャスターが若い女子アナの肩に手を回しやらし~く迫っているものもあった。「いや」「あの」「ちょ、やめ……て……」などと女性の声も背景音に混じって流れている。

「ドッキリか?」

「新手の番宣?」

「でも、ひどくね?」

「ヤラセだろ」

「にしても、悪趣味」

「真に迫ってるじゃん……」

「いつまで流してんだろ」

「しつこいよな」

 道行く人も、おもしろい、めずらしい、から不愉快な声を上げる人が多くなってきた。

 

 こんなのを気にしていたら家にたどり着けないので、足早に家に帰る。

 

「ただいま~……あれ?」

 おかえりの返事は無くて、リビングの方からお姉ちゃんの笑い声が聞こえてきた。

 アハハハハハハハハハハ(#`艸´#) ムハハハハハ(〃艸〃) クハハハハハハ(#´0`#)

 友だちと電話してる? 読んでたマンガがツボにはまった? 笑ダケにあたった? とうとうイカレた?

 

「お姉ちゃん……え?」

 

 ちがった。

 お姉ちゃんは毎朝テレビの垂れ流し映像を観ながら、狂ったように笑っていたのだった(;'∀')。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)      入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹          真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨          対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二            なつきの弟
  •  藤田先生           定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生           若い生徒会顧問
  •  園田 その子          真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生

 

 

 

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