大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・202『ご葬儀のお作法』

2021-04-22 13:14:29 | ノベル

・202

『ご葬儀のお作法』頼子     

 

 

 喪服の事が心配だった。

 

 ほら授業中にお祖母ちゃんから国際電話がかかってきて、エリザベス女王の夫君・フィリップ殿下がお亡くなりになったと聞かされて。

 これは、お祖母ちゃんの名代として式に参列しなければならないと覚悟した。

 そうよ、覚悟が居るのよ。

 王族のお葬式、しきたりとかドレスコードとか、お作法とか、いろいろうるさいことがある。

「レクチャーいたします」

 ソフィーと二人で『イギリス王室の作法』という動画を見ていると、ジョン・スミスがやってきて宣告する。

「どこでやるのかしら?」

「チャペルで行います、あそこが環境的にご葬儀会場に近い施設ですから」

「分かったわ、すぐに行きます」

 ソフィーと連れだって、領事館の敷地にあるチャペルに向かう。

 ヤマセンブルグの大阪総領事館は東京の大使館よりも広い。

 戦後、日本との国交が回復した時に、さる財界人から寄付された二千坪もある敷地にお城のような館が立っている。

 放っておくと財産税として取り上げられるところを、戦前から親交のあったヤマセンブルグに寄付することでまぬかれた。

「こちらです、すでにお作法の先生が中で待っておられます」

「お作法の先生? 日本のお方かしら?」

「いいえ、ヤマセンブルグの、殿下もすでにご存じの人物です」

 言いながら、ジョン・スミスはチャペルのドアを開ける。

 ああ……ここかあ(-_-;)。

 正式な場でお祖母ちゃんにするような、膝を折って挨拶する仕草をする。違いは、俯きながら胸に十字を切るところ。

 子どものころに、初めてやらされた時は、まるで『サウンドオブミュージック』のマリアが修道院を辞めて、トラップ大佐の家に家庭教師に行くときみたいだと思った。

 マリアは院長先生に挨拶して『クライム エブリマウンテン』とかって元気の出る歌を聞かされて出ていくだけなんだけど、わたしは、事あるごとに、教会とか王室の躾けや作法を叩きこまれて、あまりいい印象はない。まあ、入ったら二時間……ひょっとしたら、晩御飯まで缶詰にされるかもしれない。

 顔を上げると、一番前の席にお作法先生の後姿。とりあえず女の先生だ。ひょっとしたら神父様かと覚悟していたんだけどね。神父様は、もう九十歳くらいで、耳が遠い。耳が遠いくせに自覚がないので「もっと大きな声で!」と理不尽な注意をされる。おまけに、ボケ始めているので同じことを何度もやらされることがある。本人を傷つけてはいけないので「さっき、やりました」的な口ごたえは禁止。何度もやらされることで確実に身につくからとお祖母ちゃんは涼しい顔。おかげで、当の神父様からは「王女様は覚えが早うございます!」と褒められてるけどね。

 取りあえず、その神父様ではないので、ちょっと安心。

「ごきげんよう、ヨリコ殿下」

 ニッコリ振り返った先生の顔を見て、グラリと体が揺れて、地震が起こったかと思った。

 その先生は、お祖母ちゃんの一の子分で、お祖母ちゃんを除いては宮殿トップの位置に君臨するメイド長だったのよ!

 ミス・イザベラ!

 憶えてるでしょ、一昨年、さくらと留美ちゃんを連れてエディンバラとヤマセンブルグに行った旅行!

 あそこで、さんざんお世話になった、ミス・イザベラのオバハンなのよおおおおおお!

「では、さっそく歩く練習からいたします」

「あ、それは、完璧にマスターしてるわよ。天皇陛下にお会いした時も問題なくやれたしい……」

「それは、ようございました。でも、それは平時の歩行術。この度は、ご葬儀のお作法でございます」

「えと……違いがあるの(^_^;)?」

「もちろんでございます! まずは復習から!」

「え、またあ!?」

 王女の歩き方……背中に物差しを突っ込まれて、幅五センチのテープの上を歩かされる。

 それを三十分やったあとは階段の上り下り。礼拝のやり方並びにお作法、お葬式用の会話の仕方、食事の仕方、求められた時のスピーチのやり方、あくびの噛み殺し方……等々。

 困ったのは、わたしってロイヤルファミリーとしての最低基準のマナーしか知らないし、それは骨の髄まで染み込んでる。だから、人の前に立つと自然にアルカイックスマイルになってしまうのよ!

「ですから、口角を上げてはいけません!」

「はい……」

「それは、ただの仏頂面!」

「はい……」

「疲れた顔になっております!」

「はい……」

 本当に疲れてるんですけど。

 

 そんなこんなを半日やらされて、顔も膝もガクガクになったころに、ジョン・スミスが呼びに来てくれた

 

「レッスン中申し訳ありません、女王陛下からお電話です」

「あ、ありがとう!」

 思わず笑顔になって、ミス・イザベラに睨まれる。

「お部屋に繋いであります」

「はい、すぐに!」

 部屋に戻って受話器を取る。ご葬儀の日取りが決まったんだろうか、ミス・イザベラのレクチャーは受けたけど、いまからスグに来いと言われたら、さすがに自信は無いよ。

「ヨリコ、ご葬儀は王室のお身内だけでおやりになると、知らせが入ったわ」

「え、あ、あ……そう」

 とたんに疲れが押し寄せてくる……。

 あとで、公式のニュースを見ると、参列者三十人という、家族葬のようなご葬儀だった。

 むろん、コロナのせいなんだけどね。

 ミス・イザベラのレッスンを免れた安堵よりも、寂しさが胸に迫ってきた……。

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誤訳怪訳日本の神話・36『門前のオオクニヌシ』

2021-04-22 09:37:58 | 評論

訳日本の神話・36
『門前のオオクニヌシ』  

 

 

 オオクニヌシがヤチホコノカミとして越の国(福井・富山・新潟)に向かったのはヌナカハヒメを口説き落とすためと古事記には書いてありますが、これはオオクニヌシに代表される出雲勢力が北上して、北陸地方に力を伸ばしたことを現しているのではないかと思います。

 大和朝廷の勢力は、その名の通り大和(奈良県)が本拠で、4世紀に勢力を広げて、5世紀には関東以南を支配下に置きます。

 当然、それぞれの地方には支配者が居たわけで、大和勢力は、硬軟様々な手法で地方政権と渡り合いました。

 その実相を明らかにするような能力はありませんので、得意の妄想で迫ったり脱線したりしたいと思います(^_^;)。

 越の国は古くから宝玉である翡翠(ひすい)の産地であります。薄緑の宝石で、古代には玉や勾玉に加工されて、単なる装身具だけではなく、呪術的な力を持った宝器とし扱われました。

 その翡翠の女神様がヌナカハヒメで、おそらくは越の国の主神、あるいは主神クラスの女神に違いなく、令和の今日でも糸魚川あたりの三か所にヌナカハヒメを祀った神社があります。

 

 オオクニヌシはヌナカハヒメの宮殿の前まで来ると、歌(和歌)を送って、姫のご機嫌をうかがいます。

「越の国に美しい姫がおられると聞いて、矢も楯もたまらずに、出雲からやってきました。美しい姫とはヌナカハヒメ、貴女の事です。どうか門を開いて、このヤチホコノカミに顔を見せてください!」

 意味としては、上のような和歌を門の外から姫に送ります。

 どんなニュアンスであったのかを訳す能力がありませんので、おおよその訳です(^_^;)。

 古代における恋愛は妻問婚が基本です。近年まで使われた言葉では『夜這い』でありましょうか。

 話は飛びますが、西郷隆盛が西南戦争で政府軍に夜襲をかけようと、深夜、鹿児島部隊を引き連れ、息を殺して敵陣地に向かいます。部隊の薩摩士族たちは、ものすごく緊張して息を潜めて進みます。

「まっで、ヨベのごたる」

 口語訳すると「まるで、夜這いに行くみたいだなあ」になりますが、鹿児島弁でないとおかしみが伝わりません(#^―^#)。

 西郷が呟くと、夜襲部隊のあちこちからクスクスと笑い声が起こります。

 この、ユーモアの感覚は独特のもので、西郷の魅力の一つなのですが、主題ではありません。

 鹿児島士族の若者には『夜這い』のイメージを浮かべるとクスクスになるのですね。

 真剣で、時めきながらも、どこか可笑しい男の姿であります。

 いまでは、夜這いという風俗はありません。遊学旅行で「おい、あそこから女子の風呂が覗けるぞ!」と情報を得て、男子こぞって覗きに行く感覚に近いと言えましょうか。

 ヌナカハヒメの門前に立った時のオオクニヌシは、むろん一人です。

 ヌナカハヒメは返事を寄こしません。一度の手紙や歌で反応するのは無作法なのですねえ。

 なんだか、女の方がガッツいている印象になります。

 何度か、オオクニヌシからの便りがあって、やっとヌナカハヒメは返事を出します。

 そういう駆け引きややり取りが合って、やっと男女の関係になります。

 

 昔は、よく手紙を書きました。

 あ、オオクニヌシのではなく、わたしの昔です。

 わたしの青春時代にも電話はありましたが、一家に一台の固定電話です。

 携帯電話ではないので、誰が出るか分かりません。

 彼女の父親などが出たら最悪です。

 本人が出たとしても、娘に男から電話がかかってきたというのは丸わかりになってしまいます(^_^;)。

 また、電話で発する言葉はリアルタイムですので取り返しがつきません。

 そこで、いきおい手紙になります。

 手紙は、考えながら書きますし、書き直しもできます。

 電話やメールやラインと違って、やり取りに間合いがあります。ラインと違って既読のシグナルもありません。

 昔……ばかり枕詞のように言って恐縮です。

 かつては、雑誌に文通コーナーというのがあって、文通相手の募集とかやっていました。

 そういう、文通コーナーや、友だちの紹介や、部活の付き合いなどから「手紙書いていいですか?」とか「文通してもらえますか?」から始まって、やっと手紙を書いて、相手に着くのに二日。

 相手が読んで返事を出すのに、早くても二日。

 特急で、手紙が着いたその日に返事を出すことやもらうこともありましたが、ちょっと軽い感じがしないでもありませんでした。オオクニヌシが最初の歌に返事が来ると、こういう感じがしたでしょうね。

 相手が手紙を出してポストに投函して、着くのに二日。

 文通と言うのは往診と返信で、最低一週間、普通は十日から一か月。

 ライン一本、短い返事なら数秒で戻って来る21世紀の今日の便利さや性急さは隔世の感があります。

 ダークダックスだったかの『幼なじみ』という歌の中に、こんなのがあります。

『出す当てなしのラブレター 書いて何度も読み返し 貴女のイニシャルなんとなく 書いて破いて 捨てた~っけ(^^♪』

 脱線しました(;^_^A

 次回はオオクニヌシとヌナカハヒメのその後に戻りますm(^_^;)m。

 

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ライトノベル・ベスト『UZAとお茶の空き缶』

2021-04-22 06:19:02 | 自己紹介

ライトノベル・ベスト
UZAお茶の空き缶
        


 

 UZA……って言われしまった。

「ウザイの……サブのそういうとこが」

 正確には、そう言った。

 でも、感じとしてはUZAだった。去り際に、もうヒトコト言おうとして息吸ったら、まるで、それを見抜いたように沙耶は、げんなり左向きに振り返って、そう言った。

 UZA……ぼくの心は、カビキラーをかけられたカビのようだった。最初にバシャッってかけられて、ショック。そして、ジワーっと心の奥まで染みこんでいく、浸透力のある言葉。そして、ぼくの心に残っていた沙耶への愛情は「痛い」というカタチのまま石灰化してしまった。

 自分で言うのもなんだけど、ぼくは人なつっこい。だから、元カノの沙耶が「ノート貸して」と言ってくれば「いいよ」とお気楽に貸しにいく。浩一なんかは、こういう。

「そういうとこが無節操てか、ケジメねーんだよ」

 で、ヘコンダまま駅のホームに立っている。ヘコンだ理由は、もう一つ、ウジウジ考えながら駅に向かったら、ホームに駆け上がった直後に電車が出てしまった。
 

 アチャー……

 オッサンみたいな声をあげて、ノッソリとベンチに座り込む。向かいのホームの待合室に、その姿が映る。
まるで、ヘコンで曲がったお茶の空き缶のようだった。我ながら嫌になって、時刻表を見る。見なくても登下校のダイヤぐらいは覚えてるんだけど、諦めがわるく見てしまう――ひょっとして、ぼくの記憶が間違っていて、次の快速は二十五分後ではないことを期待しながら……こういうところの記憶は正しく、自分の念の押し方がいじましく思われる。

 未練たらしく、去りゆく快速のお尻を見たら、ホームの端に、もう一本お茶の空き缶が立っていた。でも、この空き缶は、ヘコミも曲がりもせずに、ぼくに軽く手を振った。

「田島くんよね?」

 空き缶が近寄って口をきいた。

「あ……碧(みどり)……さん」
「嬉し、覚えててくれたんや」
 この空き缶は、今日転校してきた、ナントカ碧だ。ぼくは、朝から沙耶のことばかり考えていて、朝のショートの時、担任が紹介したのも、この子の関西弁の自己紹介もほとんど聞いていない。ただ、すぐにクラスのみんなに馴染んで「ミドリちゃん」と呼ばれていたのと、碧って字が珍しくて記憶に残っている。
「L高の子らが『おーいお茶』て言うたんやけど、なんの意味?」
「あ、この制服」
「え……?」
「色が、そのお茶のボトルとか缶の色といっしょだろ」
「あ、ああ……あたしは、シックでええと思うけどなあ。ちょっと立ってみて」
 碧は遠慮無く、ぼくを立たせると、ホームの姿見に二人の姿を映した。
「うん、デザイン的にも男女のバランスええし、イケテルと思うよ」
 そう言うと、碧は遠慮無く、ぼくのベンチの真横に座った。そのとき碧のセミロングがフワっとして、ラベンダーの香りがした。そして何より近い! 近すぎる! 普通、転校したてだと、座るにしても、一人分ぐらいの距離を空けるだろう。ぼくは不覚にもドギマギしてしまった。人なつっこいぼくだけど。ほとんど初対面の人間への距離の取り方では無いと思った。

「田島くんは快速?」
「うん、たいてい今のか、もう一本前の快速……ってか、ぼくの名前覚えてくれてたんだ」
「フフ、渡り廊下に居てても聞こえてきたから」
「え……それって?」
「人からノート借りといて、UZAはないよねえ」
「聞いてたのか……」
「聞こえてきたの。二人とも声大きいし、あのトドメの一言はあかんなあ」
「ああ……UZAはないよなあ」
「ちゃうよ。UZAて言われて、呼び止めたらあかんわ」
「え、オレ呼び止めた?」
「うん、『沙耶あ!』て……覚えてへんのん?」
 ぼくは、ほんの二十分前のことを思い出した。で、碧が言ったことは、思い出さなかった。

 ホームの上を「アホー」と言いながら、カラスが一羽飛んでいく。

「あれえ、覚えてへんのん!?」
「うん……」

 ばつの悪い間が空いた。ぼくはお気楽なつもりでいたんだけど、実際は、みっともないほど未練たらしいようだった。その時、特急が凄い轟音とともに駅を通過していった。おかげでぼくのため息は、碧にも気づかれずにすんだようだ。
「その、みっともないため息のつきかた、ちょっとも変わってへんなあ……」
 そう言うと、碧は、カバンから手紙のようなものを取りだして、ゴミ箱のところにいくと、ビリビリに破って捨てた。ぼくの、ばつの悪さを見ない心遣いのようにも、何かに怒っているようにも見えた。その姿が、なんか懐かしい。
「あたしのこと、思い出さない?」
 碧は、ゴミ箱のところで、東京弁でそう言った。
「え? あ…………ああ!?」
 バグった頭が再起動した。
「みどりちゃん……吉田さんちのみどりちゃん?」
「やっと思い出したあ、ちょっと遅いけど。やっぱ、手紙じゃなく、直に思い出してくれんのが一番だよね」

 小さかったから、字までは覚えていなかった。みどりは碧と書いたんだ。小学校にあがる寸前に関西の方に引っ越していった、吉田みどりだった。

「今は、苗字変わってしまったから。わからなくても、仕方ないっちゃ仕方ないけど。あたしは、一目見て分かったよ、サブちゃん。改めて言っとくね。あたし羽座碧」
「ウザ……?」
「うん、結婚して、苗字変わっちゃたから」
「け、結婚!」
「ばか、お母さんよ。三回目だけどね」

――二番線、間もなくY行きの準急がまいります。白線の後ろまで下がっておまちください――向かいのホームのアナウンスが聞こえた。

「じゃ、あたし行くね、向こうの準急だから。それから『沙耶!』って叫んではなかった。ただ顔は、そういう顔してたけどね……ほな、さいなら!」
 
 そう言うと、碧は、走って跨道橋を渡って、向かいのホームに急いだ。同時に準急が入ってきて、すぐに発車した。前から三両目の窓で碧が小さく手を振っているのが見えた。
 ぼくのUZAに、新しいニュアンスが加わった……。

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真凡プレジデント・60《上から下までお姉ちゃん》

2021-04-22 05:42:59 | 小説3

レジデント・60

《上から下までお姉ちゃん》   

 

 

 

 体温よりも高い猛暑の中をケーキバイキングに行く!

 

 中谷先生にもらったSホテルのケーキバイキング優待券。

 ホテルに行くのだから私服に着替える。

 とくにドレスコードがあるわけじゃないんだけど、制服で行くとかえって目立ってしまう。

 それに、ちょっぴりオシャレをしてみたいという気持ちもあったりする。

 

 あ、ナフタリン臭いよ。

 

 久々に出したオシャレ着、胸に当てて鏡で見ていたらお母さんに指摘される。

 仕方がないので失踪中のお姉ちゃんのクローゼットをまさぐる。

 退職後はジャージばっか着ていたけど、やっぱ天下の女子アナだ、持っている衣装はハンパではない。

 トップかボトムか、一点だけ拝借して間に合わせようと思うんだけど、やっぱ、さり気に見える衣装でも、女子アナの衣装だ。ちゃちな女子高生の服には合わない。

 仕方がない、たった一日の事でもあるし。大半をお姉ちゃんので間に合わす。

 まあ、キャップだけでも自分のいこうか。

 それで、パステルピンクのキュロットに淡い水色のカットソー、その上にオフホワイトのボレロ。

 体形がほとんどいっしょなのでピッタリ収まる。

 これを学校に持って行って、午前中の授業が終わったら四人で着替えてくり出す算段だ。

 

 ローファーはありえないでしょ。

 

 玄関を出ようとしたらお母さんに言われる。

 お姉ちゃんが居なくなってから、さすがに心配になって帰って来たんだけど、あれこれとうるさい。

 でも、さすがに年の功。

 制服姿なんだけど、学校で私服に着替えることを知っているので、するどく指摘してくれたんだ。

 

「えーー、って、そだよね」

 

 鏡の前でファッションショーやった時には足元まで気が及ばない。

「サイズいっしょだから、これ持っていきな」

 お母さんが渡してくれたのはお姉ちゃんのパンプスだった。

 上から下までお姉ちゃんのグッズ……忸怩たるものがあるけど、四の五の言っていては遅刻する。

 行ってきまーす!

 ……パンプスは持ったがキャップを忘れた。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 

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