大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・200『新学年は三年三組』

2021-04-10 09:17:40 | ノベル

・200

『新学年は三年三組』さくら     

 

 

 早いもんで三年目。

 

 お父さんの失踪宣告があって、お母さんの『酒井』の苗字になって如来寺が我が家になった。

 引っ越しと同時に入学した中学も、早いもんで三年生ですわ!

 掲示板を見て確認したクラスは三年三組。

 一年も二年も一組やったから、三年も一組かと思たんやけど、まあ、これも小さな変化でええと思います。

 うちは各学年六クラスやねんけど、二クラスずつの緩いまとまりがあります。

 なんでか言うと、体育の編成が二クラスずつなんですわ。

 一組と二組の男子が一組で、女子は二組で着替え。他の行事でも、基本的に二クラスでまとまってやるさかい、他のクラスよりは近い関係。

 特に三年生は四階のワンフロアにまとまって教室があって、フロアの階段は東西に二か所。一二組と三組の間と、五組と六組の間にある。

 昇降口との関係で、三組までは東階段。四組以降は西階段を使うようになる。

 いきおい、西階段組とは疎遠になる。

 四組とは隣同士やから、まだましやねんけど、階段挟んだ五六組とはほとんど切れてしまう。

 一年からいっしょやった瀬田と田中は六組。留美ちゃんは、こんども同じクラスで、めっちゃラッキー。

 そして、担任も二年生の時のペコちゃん(月島さやか先生)なんですよ!

 

 クラス開きのホームルームは昨日やったんやけど、ペコちゃんは掛け値なしに嬉しそうやった。

「教師になって二年目で三年生を持つことになりました。三年生は進路決定の大事な学年です。君たちは、わたしが持つ最初の卒業生になります。君たちは迷惑かもしれないけど、わたしには一生の思い出になるクラスになると思います。先生、一生懸命がんばるから、みんなも頑張ってね! みんなで楽しく充実したクラスにしていこうね(o^―^o)!」

 パチパチパチパチ

 ペコちゃんの正直な笑顔に、クラスのみんなから拍手が起こった。とりあえずええクラスや!

「先生、がんばってくれたんじゃないかなあ」

「なんで?」

「だって、今年もさくらちゃんと一緒だなんて……」

「え、嫌なん?」

「ち、ちがうよ! さくらちゃんと一緒って、めちゃくちゃラッキーなんだもん(^_^;)」

「あはは、それは、きっと阿弥陀さんのおかげやし(^▽^)/」

 こういうところ、お寺の娘というのは楽ちんや。照れてしまうようなことは、全部阿弥陀さんのお蔭言うといたら済むねんさかいね。

「ふふ、そうね」

 嬉しそうに、でも、ちょびっと済まなさそうに俯きながら階段を下りる。

 ほんまやったら、このまま部室に行くねんけど、コロナの第四波の影響で、室内の部活は休み。

 昇降口で下足に履き替えると、家に帰るしかない。

「なんや、もったいないねえ」

「しゃあないねえ、こんなにええ天気、制服やなかったらごりょうさん(仁徳天皇陵)まで足延ばして、帰りに図書館にでも寄るんやけどね」

 制服姿でウロウロするのは禁止されてる。完全に守れとまでは言われへんけど、新学年早々いうのは、やっぱりはばかられる。

 

 プップー

 

 後ろからクラクション。

 どこのイケズかと思て振り返ると、ごっついRV車。

    いっしゅんギクリとするんやけど、一秒で思い出す。

 テイ兄ちゃんが分不相応に買うて、先週配車されてきたばっかりの新車ですわ。

「ちょっと、ドライブして帰らへんか?」

 運転席の窓開けて、嬉しそうににやけるクソ坊主。

「しゃあないなあ、監視してんと事故りよるからなあ」

 変な理屈をつけて、後部座席に収まる。

「留美ちゃん、しっかりシートベルトしときいや」

「う、うん(^_^;)」

 べつに注文したわけやないけど、RV車はごりょうさんの方角に走っていく。

 

「そうか、三組なんか……」

 

 新しいクラスを言うて三年生のクラス編成を披露すると、テイ兄ちゃんは、ちょっと感慨深げになる。

「なんかあるのん?」

「留美ちゃんがいっしょになったんは、やっぱり配慮やと思う」

「そ、そうなんですか」

「負担に思わんでもええねんで、留美ちゃんはしっかりしてるし、うちの寺もええ環境やしなあ。どっちかいうと留美ちゃんもさくらも教師にとってはやりやすい生徒やと思うで」

「えへへ、そうなん?」

「それよりも、五六組やなあ……他の三年生の動線からも外れてるし、担任もベテランの男の先生やし……ぼくのころも、五六組はヤンチャの多いクラスで……そういう配慮かもしれへんなあ」

「そうなんですか?」

「うん、そういう配慮は行き届いてる学校やと思うで」

 瀬田と田中の顔が浮かぶ。

 あんたら、無事に卒業しいや……。

 

 言うてるうちに大仙公園。

 テイ兄ちゃんが、ちょっと早いアイスを奢ってくれて、名残の八重桜を観て帰りました。

 

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らいと古典・わたしの徒然草68『土大根』

2021-04-10 06:40:35 | 自己紹介

わたしの然草・68
『土大根』      




第六十八段『土大根』

 筑紫に、なにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが、土大根を万にいみじき薬とて、朝ごとに二つづつ焼きて食ひける事、年久しくなりぬ。
 或時、館の内に人もなかりける隙をはかりて、敵襲ひ来りて、囲み攻めけるに、館の内に兵二人出で来て、命を惜しまず戦ひて、皆追い返してげり。いと不思議に覚えて、「日比ここにものし給ふとも見ぬ人々の、かく戦ひし給ふは、いかなる人ぞ」と問ひければ、「年来頼みて、朝な朝な召しつる土大根らに候う」と言ひて、失せにけり。
 深く信を致しぬれば、かかる徳もありけるにこそ。

 筑紫=九州の北っぽ。の横領使(領外の官で地方の警察長官みたいなもの)が、健康のためにと強く思いこみ、毎日、土大根を焼いて食べていました。
 ある時、館の人数が少なくなってきたときに、その隙を狙って盗賊の一団が進入してきました。落ちぶれ果てたとは言え、警察長官の館を襲おうというのだから、気合いの入った盗賊であります。で、危うく盗賊たちにイカレコレにされそうになったとき、どこからともなく二人の兵(つわもの)が現れて、盗賊たちをやっつけてしまいました。

「君達は、どこの兵なんだね!?」
 横領使が、感極まって聞いてみると、こう答えた。
「我らは、あなたが毎日お食べになっている土大根でござる」
 と、告げて消えてしまった。
 なにごとも、深く信じて行えばええことがある!

 そういう話であります。


 要は、健康にいいと思いながらも、好きな食べ物に助けられたというファンタジーなんですね。
 土大根が、どんな大根かは分かりませんが、日に二本とはかなりのものです。
 ただ、こんな言い回しが昔からありました。令和の時代「大根足」と、ご婦人に言えば張り倒されます。
 しかし、昔は誉め言葉でありました「大根のようなおみ足」と言えば、白魚が美しい指のシンボルであったことと並んで、細くてカッコイイ足を示していました。
 そう、昔の大根は小振りでほっそりしたものであったのです。今ス-パーで堂々と並んでいるタクマシイものではなかったのです。今時の大根は、とても日に二本は食べられません。

 土大根は、ハッピーフードなのですね。

 今の時代、こういう感覚は持ちにくいようです。現代日本人は、たいていの食べ物に慣れてしまっています。わたしの息子など、わたしが作った料理など口にしません。
 わたしは、四十歳まで独身でいたので、料理は苦手ではありません。チャーハン、カレー、鍋物、みそ汁、卵料理など、そこらへんの主婦のみなさんに負けない自信がありました。それを息子は食べない。これは、血族としての親子の関係の大きな絆の一本を拒否していることと同じであり、由々しき問題なのですが、別の段で触れることにします。

 ハッピーフードと言えば、ポパイのほうれん草があります。あのマンガ(昔はアニメなどとは言わなかった)を観て以来、苦手なほうれん草を進んで食べるようになりました。
 パパパン、パッパパーンのファンファーレとともに、筋肉ムキムキになり悪漢をやっつけられると信じたものであります。大人になって、あれはほうれん草の缶詰会社の宣伝が元であることを知りガックリきた記憶があります。おまけに腎臓結石を煩って以来、医者からほうれん草は禁じられてしまいました。

 ポパイのほうれん草ほどではなくとも、匂いを嗅いだだけでハッピーになれる食べ物が、我々、アラ還世代以上の者にはあります。え、若い者だって? いえいえ、こと食べ物の「好き」は、それ以後の「飽食の世代」には解らないハッピネスであります。
 カレー、玉子焼き、お好み焼き、タコ焼き、もんじゃ焼きなどなど。スペシャルなものとしては、焼き肉、すき焼き……こういうものは、お正月などの特別な思い出と共に、記憶の奥底に焼き付いています。肉は霜降りなどであってはならない。潔く白身と赤身に分かれ、口中に含めば、百回ぐらい咀嚼しなければ飲み下せないほどの牛肉魂に溢れたものでなければならず。長じて霜降り肉のすき焼きに出会ったとき、それはショックでした。肉が肉であることを自己否定したようなタヨリナイものでありました。

 こんなものを食っているから、今の若者=アラ還以下の世代の顔は小顔で、顎が未発達なのです。マンガを見れば明らかであります。鉄腕アトム、鉄人28号の正太郎君、リボンの騎士などはマルマッチク、たくましい顎をしています。作者自身がアラ還以上の作者であれば、アンパンマン、ゲゲゲの鬼太郎、のび太くんなど皆そうです。それ以下の世代によって描かれたキャラクターは、そのほとんどが顎が尖ってキャシャです。うなづけば、そのまま顎が、胸に刺さりそうなほどに鋭利でさえあります。

 他にも、初めて魚肉ではないソーセージを食べた時の感動。コーラを初めて飲んだときの爆発的な戸惑い。こういう感動は、今の若者には解らないでしょう。解ってたまるか! という自負心すら湧いてきます。
 気まぐれに、息子に自作のタコ焼きを勧めました。息子は路傍の虫が鳴いたほどの興味も示さず、冷凍庫から南極の昭和基地に置き忘れられたような冷凍ピザを出して、レンジでチンしおりました。

 願わくば、臨終に望んで、わたしは、懐かしのすき焼きの百回咀嚼の牛肉を口に含んで枕教のチンをしてもらいたい。

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真凡プレジデント・48《カッコ悪すぎる》

2021-04-10 06:24:43 | 小説3

レジデント・48

《カッコ悪すぎる》   

 

 

  テレビ局というのは巨大な壁だと思っていた。

 そして、壁でいいと思っていた。

 世の中の良識や放送文化を守るためには、少々の事では動じない壁であることは重要であるとさえ思っていた。壁の芯さえしっかりしていれば、それでいい。

 しかし、壁自身はしんどいものだから、私自身が壁の成分になるつもりは無かった。

 でも、気づくと、いつのまにか自分も壁の成分になってしまった……それが、とっても嫌で三月に辞めた。

 

 最初の違和感は、大輔の父で毎朝テレビの創設者輔一氏。

 安保法案が衆議院を通過した夜の特番。駆け出しであるにもかかわらず、キャスターの助手として出してもらった。

 輔一氏は、引退した会長でありながら、止むにやまれず出演していた。

「これで日本は戦争ができる国になってしまいました。この法案に賛成する人はよく聞いてください。戦争に行くのは自衛隊だと思っているでしょう。そして自分自身は戦争なんか関係ないと思っているでしょう。つまり他人事だと。戦争になったら、そういうあなたたちが駆り出されるんです! 戦場に行く勇気ありますか? 他人事だと思っているなら、これについて議論する資格はありません! 法案に賛成するなんてもってのほかです! 駆り出される危機感、駆り出される人の身になれないものに論評する資格はない!」

 言論人の矜持ここにありという熱弁で、スタジオはシーンとしてしまった。

 違うと思った。

 駆り出される人の身にならなければ……切実な言葉のように思えるけど、それって変だ。

 だって、その論法で行くと、教師にならない者は学校教育に関する批判はできないことになる。医者や看護師になる気持ちが無ければ病院や医療の批判はできないことになる。スタジオのみんなは拍手して、アシスタントのわたしも拍手したけど、心では違うんじゃないだろうかと感じていた。

 そうだよ、だって輔一氏自身「俺は、どんなに誘いを受けても政治家になる気なんかないよ」と、野党からの誘いを断ってきている。その、政治家になる気のない者が政治を批判してるって自己矛盾でしょ。

 広報に問い合わせたら、同じ疑問や不信を持って局に抗議してきた人や疑問に感じた人が数百人電話してきたそうだ。広報は「局としても会長としても矛盾とは感じておりません、十分なご理解がいただけますよう、これからも努力してまいります。貴重なご意見有難うございました」と返答し、抗議電話があったことは会長には伏せられた。

「なぜ、報告しないんですか?」

「苦情や抗議は毎日来ている、それを処理するのが広報の仕事。いちいち報告していたんじゃ、ただのメッセンジャーボーイでしょ」

 どこを誤解したらそうなるのか、広報部長は自慢げにズレた眼鏡を押し上げた。

 

 そして、なにより、他のマスコミで問題にされることもなく、一部のネトウヨがしつこく書き込みをするだけになった。あのころのネットなんか屁みたいな。ものだったしね。

 そしてね……ある日、将来の勉強のためだからと言うので、編成会議を見学させてもらうことになった。

 編成会議って、重役会と同じだから、たとえ見学といえど同席させてもらえるのは、そういうルートに載せてやってもいいぞというサインでもある。

 だから、わたしも大したものだ……と、思うようなところがあったのも事実。

 部屋を出る時に輔一氏の手がわたしの胸に触れた。

 「あ、いや、ごめん。身のこなしがガサツなもんで、済まなかった!」

 顔を真っ赤にして詫びる輔一氏に、わたしは好感さえ持った。

 とてもシャイで、少年のように恥じらいを見せる氏に――真っ直ぐな人なんだ――と思った。

 そこに息子でチーフディレクターの大輔が寄って来た。

「気を付けろよ、あれが親父の手だ。つぎは偶然出会った廊下とかでお茶に誘われる。その次が食事で、そのあと酔ったふりしてホテルの部屋まで送らされて行為に及ぶから」

「ま、まさか、お父さんでしょ!?」

「だから注意してんだ」

 

 大輔の指摘は当たっていた。

 

 わたしはタイミングが合わなかったということもあって、氏の興味は薄れていき、代わりに後輩の女子アナが毒牙に掛かった。たった一年で局を辞めた彼女は海外にいるらしいが、いきさつはあえて調べない。

 その後、大輔自身が同じ手を使ってきたので、微笑ましいやらアホらしいやら。脛を蹴飛ばしてやったらそれっきりになった。

 池島親子が特殊なのではなくて、放送局と言うのは多かれ少なかれ、こういうアンモラルなところがある。

 こういう世界に居るので、五年目にはすっかり慣れて屁とも思わないお局様になった。

 

「すまん、M省のA局長の証言とってきて」

 

 M省のA局長は次期事務次官の噂も高いやり手でM省に関わる許認可では大きな権限を握っている。当然いろんな噂があって、その裏と弱みを握ってくるのが仕事だ。

 こいつをセクハラでやりこめた。大輔のアイデアでインタビューを録音し、それを編集して文芸毎朝に持ち込んだ。

――勇気ある女性記者、A局長のセクハラを暴露!――

 ということになり、二週間でA局長を辞職に追い込み、M省大臣を引責辞任の手前まで持って行った。

 

 そして、阿倍野首相に対する――記者の呼びかけを完全に無視して去っていく総理――の現場に立ち会ってしまった。

 

 疼痛のような嫌気がさして、三月で仕事を辞めた。

 いろいろあって、毎朝テレビなんてどうにでもなれと思っていたが、まさか潰れるとは思わなかった。

 NHKのニュースで知って、涙がこぼれるとは思わなかった。

 巨大な壁は、十日余り電波が停まることで、実にあっけなく潰れてしまった。

 なんの涙か、自分でも分からないけど、妹の真凡に悟られるわけにはいかない。

 だって、カッコ悪すぎる。 

 ドラマの主役がやっていたのがカッコよくて真似してみたが。

 

 アルミ缶を握りつぶすときは気を付けよう。手のひらを二センチも切ってしまったよ(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

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