大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・76『鏡に映して見ることは構わないんだ』

2021-04-30 09:35:03 | ライトノベルセレクト

やく物語・76

『鏡に映して見ることは構わないんだ』    

 

 

 転校して来て一年を超えて、学校の中で知らない場所はほとんどない。

 入ったことが無いところは校庭の隅にある変電室とか、旧正門(染井さんと愛ちゃんが居る通用門)脇の旧守衛室、他に倉庫とかね。普通に生徒が出入りするところはたいてい足を踏み込んでいると思う。

「じゃあね……体育館に行ってみよう」

 教頭先生の言葉には――小泉さんは行ったことが無いだろうけど――というニュアンスがあった。

 そういうことってあるでしょ?

 どこそこに行こうって人が言う時には、三つのパターンがある。

 その場所を二人とも知っている。その場所を片方しか知らない。その場所を二人とも知らない。

 でしょ?

 教頭先生の「……体育館に行ってみよう」は「……」の部分に「小泉さんは知らないだろうけど」というニュアンスがあった。

 ――体育館ですか?――という気持ちは浮かんだけれど、口にもしないし目で問いかけることもしなかった。

 だって、昼休みの職員室だよ。他の先生もいっぱいいるし、用事があって来ている生徒もいるしね。「はい」と小さく言って、教頭先生のあとに続いた。

 

 教頭先生は体育館のフロアーには入らずに、横の階段を上がっていく。

 ああ、ギャラリーに行く階段?

 ギャラリーに上がるのは初めて。上がってみると、いつも使っているフロアーが眼下に見えるんだけど、なんだか別の学校に来たみたいな気になる。

 パチン

 教頭先生がスイッチを入れるとギャラリーの後ろの方が明るくなる。

 意外に広いんだ。

 ギャラリーなんて踏み込んだこともないし、今みたいに照明も点いていないし、意識の外にある。

 階段状のベンチの前が、駅のプラットホームほどの空間になっていることに新鮮な驚きがある。

「ダンス部とかが使っているんだよ。フロアーじゃ、他のクラブと邪魔になるからね」

 そう言いながら、先生はキャスター付きの姿見を調整している。

「姿見ですか?」

「うん、普段はカバーをかけて裏返しにしてあるんだけどね……ダンス部とかが使っているんだ……」

 そうか、自分のポーズとか動きとか確認するためだ。フロアーに置いていたら危ないものね。

「よし、こっちに来て」

「はい」

 先生に習って、姿見の前に斜めに立つ。

 開け放ったギャラリーの窓の向こう、本館の四階部分と屋上が映っている。

『階段室の上、給水タンクの横を見てごらん』

『はい』

 蟹歩きすると給水タンクが見えて……ビックリした!

 まっくろくろすけと言うかスライムというか、牛ほどの大きさのフニフニした真っ黒けなのが、そよいでいるような、呼吸をしているような感じでうずくもっている。

 有機ELD画面の黒い部分のように真っ黒で、縁の方はグラデーションになって周囲の景色に溶け込んでいる。

 巨大なまりものようにも、神さまがインクをこぼしてできたシミのようにも見える。

『詮索はしない方がいい。正体は分からないけど、とても悪いものだと思う。学校や、二丁目断層の妖たちも、あいつには関わりたくない様子なんだよ』

『そ、そうなんですか(;'∀')』

『鏡に映して見る分には影響は無いようなんだがね、それも、あまりやらない方がいい。映して見ているのに気付いたら災いがあるような気がするんだよ』

『は、はい、分かりました……』

『ぼくは学校でしか見たことがないんだけどね、時々、鏡にも写らないことがある。たぶん、学校の外に出ているんだと思うよ。きみは僕よりも見えるようだから、くれぐれも気を付けた方がいい』

『はい、分かりました……』

 教頭先生は、小さくため息をつくと、姿見にカバーをかけて元の場所に戻して電気のスイッチを切った。

 体育館の前で先生と分かれると、昼休みも残り五分ほどになっていて、急いで教室に戻ったよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

 

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ライトノベルベスト『重力シンパイシー』

2021-04-30 06:14:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『重力シンパイシー』   




 否定形のアイデンティティ。

 簡単に言えば、自分は普通のナニナニではない。という「ない」というところにアクセントのあるアイデンティティ(自己意識)の持ち方で、青年期に特徴的なものである。

 上の二行は、本屋さんで『青年心理学』というラノベの表紙が付いた本から、斜め読みで得た知識。

 あたしは、人と同じ事が大嫌い。道を歩いていて、前の人と歩調が合ったりすると、もう気持ちが悪い。街で、同じ服装の女の子に出会ったりすると「こんな子と同じファッション感覚!?」とイヤになる。
 だから、流行りモノには手を出さない。必ず同じ服装、同じ物を持った子に出会うからだ。

 学校では、制服をきちんと着ている。一見矛盾に思われるかもしれないけど、今時規定通りの着こなしをしている子なんていないから、キチンとしている方が断然珍しい。

 こんなあたしがアイドルグループの一員だと聞いたら、腰を抜かされるかもしれない。むろん、まだ研究生だけどね。
 アイドルグループというのは、メンバーがみんな同じように見えるけど、実はコスが部分的に微妙に違ったり、フリも全体を通してみると、全員違う箇所がある。ウソだと思ったら動画サイトで確認してください。

 そんなあたしが、一番気に入らないのは、電車なんかでカーブを曲がったり、加速・減速の時に、みんなが重力に支配されて、同じ方向に体が傾いてしまうこと。
 なんだか、目に見えない魔力で、みんなと同じにされているようで気持ちが悪い。まあ、重力には勝てないから仕方ないと諦めてはいる。

 ある日、レッスンのために電車に乗ったとき、他の乗客以上に重力にシンクロしている男子高校生に出くわした。急カーブを曲がるときに足をふんばるタイミング、息の詰め方までいっしょだ。
 三日続いたので車両を替えてみたが、やはり居る。四回替えても居るので、こいつはストーカーかと思ったが、別に、あたしを見つめるわけでも近づく訳でもない。降りる駅も一つ手前だから、いわゆるストーカーの範疇には入らない。

「お前は、重力心配しいやなあ(^▽^)」

 シアターの改装で、珍しく土日が休みになったので、田舎のオジイチャンのところに行った。オジイチャンが好きなこともあるけど、オジイチャンはクールなんだ。
 オジイチャンは、観光筏流しの船頭をしている。川の流れでできる重力に果敢に抵抗している。本人は「受け流す」と言っているけど、とにかくカッコイイ。

 で、あたしは二日間で、重力に抵抗(受け流す)する方法を学んだ。

「お前は、お母さんと違って勘がええわ
。男やったら、ええ筏師になるのになあ」
 と、惜しんでくれた。

 そして街に帰って、電車に乗った。電車の中で、見事に重力に抵抗できるようになった。他の人のように無様に、重力に流されることが無くなった。むろんヤツとシンクロすることもなくなった。ヤツは、ガラスに映るあたしの姿でも見て居るんだろう。合わない体の動きに、なんだか焦っているようで面白かった。

 あたしが降りる一つ手前の駅でヤツが降りる時に一瞬目が合った。初めて見るヤツの目は寂しげだった。

 なぜだか、胸がキュンとした。

 あたしは否定形でしか、アイデンティティーを持てなかった。でも、否定形であるということは……相手を意識していることであり、さらにえぐって考えれば「好き」と言ってもいい気持ちなんだ。

 やつは、重力への反応でシンパシーを持とうとしていたんだ。ただ、それだけ。ただそれだけだけど、それって人間関係の始まりなんだ。重力シンパイシーのあたしは、ただ逆らっていただけなんだ。

 あたしは、なんだか、とても大事なものを失ったような気がした……。

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真凡プレジデント・68《空飛ぶ消防車》

2021-04-30 05:59:05 | 小説3

 レジデント・68

《空飛ぶ消防車》   

 

 

 びっくりしたぁ?

 

 スカイツリーを超えたところでビッチェはハンドルを手放して、こっちを向いた。

「ハンドル……」

「ここまで来ればオートなの、ポンコツだから発車と停車はマニュアルになっちゃうんだよ。じゃなくて、今の状況?」

「じゅうぶんビックリ。消防車が空飛んでるんだもん、てか、なんで消防車?」

「郵便自動車タイプもあるんだけどね、わたしの担当がこれだから」

「なにの担当?」

「お迎えの担当」

「……ああ」

 

 半年ちょっと前の12月、我が家はいろいろあって恒例のクリスマス会ができなかった。その埋め合わせのドッキリかと思った。サンタさんは夏には弱いだろうから、孫だかひ孫だかのビッチェがお迎えに来たんだ。あとから思うと突拍子もないことなんだけど、思ってしまった。

 

「サンタの孫と思われたのは初めてだ」

 口には出していないのに伝わっている。

「え……じゃ」

 夢かと思った。夢ならなんでもありだ。

「ちょっと近い……消防車は英語でファイアトラック。直訳すると火の車ね。火の車ってのは……」

 ビッチェが右手を上げると、フロントガラスがパソコンの画面見たくショートカットのアイコンがいくつも現れた。

 火の玉のようなアイコンにタッチすると、ゲゲゲの鬼太郎の一コマみたいなのが出てきた。

 鬼たちが、火で燃え盛る牛車……と言っても雅やかなものじゃなくて、鉄格子の檻に車を付けたようなの。

 その中には……ドラえもん!?

 鉄格子を揺さぶって、ドラえもんが泣き叫んでいる。あ、このドラえもん?

「そう、真凡を拉致監禁した奴。あいつ、地獄送りなんだ」

「ドラえもんの姿で?」

「本人の希望でね、ゴルゴ13が希望だったんだけど、みっともなく泣き叫んでいるゴルゴ13じゃ、著作権に関わるんで」

 火の車は、鬼たちに急き立てられ、あっという間に彼方に走り去った。

「ん?……ということは、この消防車も地獄行き?」

「そうなんだけど、そうでもない……やっぱ表現が難しいなあ……あ、もう着いちゃうから、あとはエマちゃんに聞いてくれる」

「エマちゃん?」

「さあ、着くよ、シートベルト締めて!」

 

 下降したかと思うと、消防車は富士山の火口目がけてジェットコースターのように突っ込んでいった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
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かの世界この世界:183『淡路の浜でたこ焼きを』

2021-04-30 05:31:26 | 小説5

かの世界この世界:183

『淡路の浜でたこ焼きを』語り手:テル   

  

 

 

 やればできるものだ。


 ケイトの言う通り、右足を出して、それが沈まぬうちに左足を進め、左足が沈まぬうちに右足をという具合に交互に進めて行くと、背後のオノコロジマはアメノミハシラ共々霞の向こうに滲んで消えた。

「これは、淡路島を抜かしてしまって四国に着いてしまったかもしれない!」

 ちょっと興奮気味なイザナギは浜辺の砂をキュッキュッと踏みしめながら陸に上がっていく。

「ヤッタア(^▽^)/」

 無邪気なケイトは自分の水上歩行術が上手くいったので、足を痙攣させ肩で息をしながらも嬉しそうだ。

 セイ!

 小さく掛け声をかけえてジャンプすると、ヒルデは空中で一回転して地形を確認する。

 ズサ

「わるいがイザナギ、ここはまだ淡路島の南端だ。西の方、水道の彼方に四国の陸地が見えたぞ」

「そうなのか?」

「ああ、生まれて間もない世界なので、グラフィック的に言えばポリゴンが足りないのだろう。アメノミハシラは描写が凝っているから、必要なポリゴンが桁違いで切らざるを得なかったんだろうな」

 そう言えば、アメノミハシラは最初こそ寸胴の電柱のようだったけど、イザナギ・イザナミが国生みするころには、青々と葉を茂らせて巨木のようになっていた。あの描写がテクスチャでなく、木肌の凹凸、葉の一枚一枚を造形していたら、その負荷はテラバイト単位になっていただろう。安易に背景の壁紙にしてしまわないところに、この国を作っていく姿勢が現れているような気がする。

「なんだ、そうかあ……」

 現実を知ったテルが、ヘナヘナと砂浜に膝をついてしまう。

「よし、先はまだ長い。オノコロジマでは水も飲まずに出てきてしまった、ここで食事休憩にしよう」

「すまんな、イザナギ」

「いやいや、わたしの都合に付き合わせているんだしな。それに、こまめに食事休憩をしていれば、自ずと土地々々の産物を使うことになるだろうし、この国の発展にもつながると思う」

「そうか」

「じゃ、お言葉に甘えておこうか」

「うんうん(^▽^)」

「では、こんなもので……えい!」

 イザナギが指を一振りすると屋台が現れた。

「ええと、これは……」

 自分で出しておきながら、何の屋台か分からずにイザナギはインタフェイスのようなものを出してマニュアルを読みだした。

「たこ焼きのようだな……」

「「たこ焼き!?」」

 わたしとケイトはパブロフの犬のようにヨダレが湧いてくる。

「たことは……」

 北欧の戦乙女いは馴染みのない食べ物なので、いぶかし気にマニュアルを覗き込む。

「こ、これはデビルフィッシュではないか!?」

「デビル……?」

「ク、クラーケンだぞ!」

 思い出した。ヨーロッパでは、ごく一部を除いてたこを食べる習慣がないんだ。

 その名もデビルフィッシュ、悪魔の魚と名付けて恐れられている。その巨大魔物はクラーケンと言って海上の船さえ襲って海中に引きずり込むと言われている。

「いや、これは美味しいから(o^―^o)」

 ケイトが寄って来ると、早くもまな板の上にタコが実体化してウネウネと動き始めている。

「ヒエーーー!」

 あっという間にヒルデは淡路島の真ん中あたりまで逃げてしまう。

「あ、悪いことをしたかな(^_^;)」

「いやいや、作り始めたら匂いに釣られて出てくるよ、さっさと作っちゃおうよ!」

 たこ焼きモードに入ったケイトは不人情だ。

「じゃ、焼こうか!」

 イザナギが拳を上げると、たちまちタコは賽の目切りのユデダコになり、ボールの中には薄力粉を溶いた中に山芋が投入されて攪拌される。 

 やがて鉄板も程よく加熱されて、油煙を立ち上らせてきた。

「いくぞ!」

 ジュワーーーー!

「「おお!」」

 鉄板の穴ぼこに柄杓で生地が流される! 思わず歓声が出てしまう!

「よし、タコ投入!」

「イエッサー!」

 嬉々として賽の目切りのタコを投入するケイト、わたしは、言われもしないのにネギとキャベツと天かすと紅ショウガを手際よく投入というか、ばら撒く。

「テルもなかなかの手際だな」

「あ、去年の文化祭で……」

 そこまで言うと、去年、冴子といっしょに文化祭のテントでたこ焼きを焼いたことがフラッシュバックする。

 そうだ、二人の友情を取り戻すためにも頑張らなくちゃ。

 こんどこそ。

 しかし、ここは試練の異世界。目の前のミッションに集中しよう!

 ミッションたこ焼き!

 やがて、一クラス分くらいの穴ぼこでグツグツたこ焼きの下半分が焼き上がると、三人首を突き合わすようにして揃いの千枚通しでたこ焼きをひっくり返す。

「ちゃんと、バリの部分は中に押し込んでからね!」

「うん、このパリパリのバリが美味しいんだよね(^#▽#^)」

「なんだか、黄泉の国遠征も楽勝のような気がしてきた!」

 たこ焼きというのは、やっぱりテンションが上がる。

 でんぐり返しも二度目に入るころには、タコ焼きを焼く匂いが淡路島中にたちこめて、いつの間にかヒルデも涎を垂らしながら戻ってきた。

「この香ばしい匂いがたこ焼きというものなのか?」

「ああ、食べたら世界が変わるよ」

「そ、そうか……」

 ジュワ!

「あ、鉄板の上にヨダレ垂らすなあ!」

 ケイトが真剣に怒る。

「す、すまん」

 こんなヒルデとケイトを見るのも初めてだ。

「よーし、こんなもんだろ!」

 腕まくりしたイザナギは手際よくフネのトレーにたこ焼きを入れて、わたしがソースを塗って、ケイトが青ノリと粉カツオを振りかける。

「「「できたあ!!!」」」

「おお、食べていいのか!?」

「う……」

 返事をしようと思ったら、すでに手にした爪楊枝で真ん中の一個をかっさらったかと思うと、瞬間で頬張るヒルデ。

 さすがはオーディンの娘! ブァルキリアの姫騎士!

「あ、ヒルデ!」 

「うお! ふぁ、ふぁ、ふ……ぁ熱い!」

 見敵必殺の戦乙女の早業が裏目に出た。

「水を飲め!」

 目に一杯涙をためて熱がるが、それでも姫騎士、口から吐き出すと言うような無作法はせずに、イザナギが差し出したペットボトルの水を飲みながら、無事に咀嚼して呑み込んだ。

「ああ、死ぬかと思った……」

「どうだった、ヒルデ?」

 ケイトが身を乗り出す。

「ああ、美味かった。国生みの最初から、こんなものを作るなんて、日本の神話も侮りがたいものだ……」

 ヒルデの真剣な感想に、屋台を囲んだ『黄泉の国を目指す神々の会』は暖かい空気に包まれた。

「さあ、我々もいただこうか」

 四人揃ってたこ焼きをいただく。

 淡路の砂浜で食べるたこ焼きは、なんとも豊かな味わいだ。

 美味しいものを食べると、みんな幸せになるのは嬉しいことだ。ムヘンでは、なかなかなかったことだ。

 大変な旅かもしれないががんばろうという気持ちになった。

 その幸福感のせいか、背後の草叢の気配に気づくのが遅れるわたし達だった……。

 

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
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