大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・040『すみれ先生には内緒』

2021-04-13 10:36:45 | 小説4

・040

『すみれ先生には内緒』ダッシュ   

 

 

 おまえら、なにを教えられたんだ?

 

 通関も無事に終わって扶桑第三宇宙港のロビーに出たところで、すみれ先生が回れ右して立ちふさがった。

 名前こそ姉崎すみれってレトロギャルゲーのキャラみたいだけど、身長190センチ、腕とか脚とかは赤松の根っこみたいな筋肉教師だ。腕組みして前に立たれると圧はハンパじゃねえ。

「え、なんすか?」

 すみれ先生に聞かれることは承知の上だ。

 ファルコンZからシャトルに移る前に全員で申し合わせてある。

 すみれ先生には内緒な(^_^;)

 なにが内緒かと言うと、ミクの本物と偽物の見分け方だ。

 せっかく取り戻したパスポートがあくる日には、こともあろうにアキバの交番の中ですり替えられたって、ファルコンZのクルーたちに教えられた。

 加藤恵って天狗党の女が、そのパスポートを使って、すでに火星に戻っている。むろん外形もミクに化けてだ。二十三世紀の変装(擬態)ってのは細胞の遺伝子レベルまで化けちまうから、正体を見破るのが難しい。

 むろん、違法な変装だ。

 映画とか動画(言葉は二百年前のままだけど、グレードは全然違う。また、きっかけがあったら説明する)とかで扮装したりするけど、その時はフェイクだってシグナルを打ち込むことが法律で決まってる。フェイクだってことがアナライズレベルで分からない扮装・仮装は違法ってわけだ。

 むろん、悪党やテロリストが法律を守るわけがない。

 だから、ミクに化けたテロリスト(たぶん加藤恵)が本物に化けていたら見分けがつかない。すでに、やつはミクのパスポートを使って火星に戻っているんだしな。

 それで、コスモスさんが教えてくれたんだ。一発で見破る方法ってのをな。

 でも、生徒には教えてくれたけど、担任のすみれ先生には内緒なんだ。

 教師ってのは基本公務員だしな、公務員てのは組織の人間で職務命令とかで迫られたら嘘はつけねえしな。

 むろん、すみれ先生は俺たち生徒のことを思ってくれているのは分かってる。

 だけど、単純な筋肉バ……いや、お人よし筋肉マンだから、ちょっと誘導されたりすると、ポロっと喋ってしまうのは、犬が西向きゃ尾は東ってくらいに確実なんだ。だから、すみれ先生に、本当の事は言えない。

「先生、秘密は守ってもらえますか……」

 ミクが三年に一度くらいの真剣な顔ですみれ先生の前に立つ。

「あ、あたりまえだ。教師ってのはいつでもどこでも生徒を守ることが使命なんだからな」

 組んだ腕に、いっそうの力を入れる。なんだか、浅草の雷門で見た仁王様のようになってきた。

「ファルコンZで……宮さまや元帥が乗っていたこと……くれぐれも内緒だと念を押されたんです。むろん、先生は大人だし、栄えある扶桑第三高校の教師だから、釈迦に説法だからくどい念押しはしないって、船長も言ってました……そういうことなんです」

「な、なんだ、そうか。そのことなら、問題は無い。漢(おとこ)姉崎すみれ、天下の大事は、ちゃんと心得ている。そうか、船長も分かっているではないか。お前たちも、くれぐれも気を付けるんだぞ」

「「「「はい!」」」」

 良い子ブリッコの声が揃う。

「ところで……」

 今度は、すみれ先生が腕を解いて、俺たちに寄ってきた。

「今度の修学旅行では学園艦が爆破されると言う大惨事に遭遇した。お前たちにはパニックにならないように心理的麻酔がかかっているが、明日の朝には切れてしまう。朝、顔を洗ったらお日様を拝め。地球で見るよりはお日様は小さいが、大気組成が薄いから身に浴びるセロトニンの量は多い。お日様から元気をもらって、乗り切ってくれ。どうしてもダメだったら学校に来い。俺は、明日から出勤しているからな。お前たちは代休だ。しっかり旅の疲れを癒して、元気な顔で明後日登校してこい。いいな、それでは、家に着くまでが修学旅行だ、真っ直ぐ、無事に帰れ!」

 そう言うと、すみれ先生は野球のグローブのような手で一人一人の頭をわしゃわしゃ撫でていった。

「じゃ、解散!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

 一応の礼節は守る。火星では、地球では滅んでしまった、あるいは廃れてしまった礼節が生きているんだ。

 ………………………。

 やっぱり緊張していたんだ、空港駐車場に向かっていくすみれ先生の背中を見ながら、しばらくは声の出ない俺たちだった。

「じゃ、いちおう電話してくれる?」

「お、おう」

 ミクの家には、班長のヒコが電話を入れることになっている。

 万一ニセモノと鉢合わせしたら大変なことになる。おそらくニセモノも、俺たちが帰ってくることは分かっているだろうから、さっさとずらかっているだろうけどな。

 いや、要は火星への密入国を果たしたいだけなら、空港を出たところで変装を解いて目的地に行ってるだろうけどな。

 そういう探りを入れる電話だ。本人がするわけにはいかない。

 フウウウウウウ

 さすがのヒコも深呼吸して、ハンベを電話モードに切り替えた……

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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らいと古典・わたしの徒然草71『名を聞くより』

2021-04-13 06:09:06 | 自己紹介

わたしの然草・71
『名を聞くより』   

 



徒然草 第七十一段

 名を聞くより、やがて、面影は推し測らるる心地するを、見る時は、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ、昔物語を聞きても、この比の人の家のそこほどにてぞありけんと覚え、人も、今見る人の中に思ひよそへらるるは、誰もかく覚ゆるにや。
 また、如何なる折ぞ、ただ今、人の言ふ事も、目に見ゆる物も、我が心の中に、かかる事のいつぞやありしかと覚えて、いつとは思ひ出でねども、まさしくありし心地のするは、我ばかりかく思ふにや。


 この段は、思索的ですね。

 兼好は三つのことを言っています。

 第一は、名前を聞いただけで「ああ、こんな感じの人か」と思うけど、当たったためしがない。思い込みの不確かさを述べています。ごく当たり前なことなのですが、かみしめると味わいがあります。

「かおる」という名前がある。源氏物語にも出てくるユカシイ名前ですね。わたしの旧友に、咲〇かおるという宝塚の女優さんのような名前の女の子がいました。この人は会ってみると、めずらしく名前のとおりの可愛い女子高生でありました。しかし、長じて、わたしの劇団に入って分かりました。自他への規律心が強く、ラノベ風に言いますと明るい目の「委員長」タイプ。大分類すると元AKB48の高橋みなみに似ているかもしれません。
 しかし、一般に「かおる」というのは、名前だけでは男女の区別がむつかしいですね。
 ちょっと兼好の意図からは外れるかもしれませんが、名は体を表さないが、時代と、その空気を表すものがかなりある、という話をしたいと思います。

 子どもの頃の年寄りの名前は単純でした。女性に限って言っても、くめ・とら・よね・ちず・はな・とめ・よし・しま……など二音の名前が多かったように思います。人が呼ぶ場合、頭に「お」お尻に「ちゃん」が付く。例えば「よね」は「およねちゃん」で。安物の時代劇で、「名はなんと申す」と聞かれ「はい、およねでございます」ときたら、もう嘘です。自称では「よね」である。で、こういう命名は明治の中頃までであるように感じます。

 その後、女性の名前は「~子」が流行りになります。古来、女性の名前に「子」が付いたのはお公家さんちの娘だけであり、庶民が付けることはありませんでした。明治も中頃過ぎになると遠慮もなくなり、まずお金持ちの娘たちに付き始め、大正頃からは庶民も遠慮無く付け始め、長らく女性の名前の定番になりました。昭和三十三年・三十四年生まれの女性に「美智子」が多いのも時代的な背景がありますね。言うまでもなく、今の上皇后陛下のお名前にあやかったもので、「美智子」は、人柄はともかく時代はよく分かります。親日国で有名なトルコでも、この年代生まれの女性に「MICHIKO」多いそうです。
 昭和の終わり頃から、お人形さんや、タレントさん、アニメの主人公のような名前が流行りました。「真央」や「みなみ」「ゆうな」「りか」などが、その代表でしょうか。
 今の時代は、昭和二十年代生まれのわたしには、とっさに思いつかないキラキラ名前が主流でしょうか。

 キラキラネームでググると本気(マジ)とか姫星(キティ)なんてものがありました(^_^;)

 しかし、いずれにせよ、名は体を表さないのは、兼好の時代も、今も同じではあるのでしょう。

 第二、第三は、今昔の違いはありますが、見たり聞いたりしたことに思いをいたすということであります。

一昔前、落語ブームがありました。わたしもそのブームに乗った一人で、米朝さんの古典落語全集を持っている。

「天狗さばき」という古典があります。

 ある男が、おもしろい夢を見て目覚めます。よほどおもしろかったのでしょう。寝ながらケタケタと笑っていました。で、目覚めてカミサンに聞かれます「どんな夢みてたん?」 

 ところが男は、夢の中味は忘れてしまって説明ができない。「そんな、わてにも言えんような夢みてたんかいな!」と叱られます。同じ長屋の男が間に入り、「まあまあ……で、どんな夢みたんや?」 男は答えることができず、次々に大物が仲裁に入ってきます。大家が、町奉行の奉行が、そして最後に鞍馬の天狗まで出てきて、「で……どんな夢を見たんじゃ?」になり、答えられず天狗に懲らしめられているところで、カミサンに起こされ「えらいうなされて、あんた、どんな夢見たん?」と落ちになります。
 そして、この落語に接したものは、アハハと笑いながらも「そういうことってあるよな」と、自分に引き込んで感じてしまいます。
 今の芸人さんたちにも、わずかに、こういう人は存在するが、大半は相方や客をいじるか、極端にキャラを誇張して、笑いをとる。そこには場合によってはイジメのタネになりそうなスラプスティックなギャグも多く。昭和生まれのわたしは笑えないことが多くあります。
 昔、石原裕次郎や加山雄三の映画を観たアンチャンたちは、映画館を出てくる時には、なんだか、目の配り方や、姿勢までもが、石原裕次郎、加山雄三になって映画館から出てきました。
 今、映画館から出てくる人は、感動はしているが「カメラワークがどうたら……脇の弱さは制作費が……」などと評論しながら映画館から出てきます。

 第三は、今目にしたこと、聞いたことが「同じようなことがあったよなあ」というデジャブ=既視感(きしかん)であります。デジャブなのですが、これはまた章を改めて触れたいと思います。

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真凡プレジデント・51《いま駅前なんだけど》

2021-04-13 05:33:05 | 小説3

レジデント・51

《いま駅前なんだけど》    

 

 

 なつきの家からの帰り道、知った人に出会う。

 それも、ドシンとぶつかって、相手の胸に倒れ掛かり、ほんの一瞬気を失ったとする。手を怪我して包帯でぐるぐる巻き、ブラウスの胸には血しぶきなんか付いていたとして。

 一瞬だから、すぐに正気に戻って「あ、え、大丈夫ですか?」とか聞かれる。

 どうも、相手はわたしのことを忘れている気配。

 

 ここで「お久しぶりです」とか言ってしまったら、相手は記憶の引き出しの中から『田中真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生』というキーワード。

 引き出せれば良し。

 引き出せなければ、「あ、いえ、すみません」とか不得要領な答えをしてオタオタして気まずく分かれる。ひっかかるので、その後記憶と記録の総ざらえをやって――ああ、あの学校訪問にやってきた……――と、思い出す。

 思い出して、なんで記憶に残らなかった? とか思う。

 仮にも二の丸高校の生徒会長、記憶には自信がある。それが、覚えていなかった……世の中には、こんな子もいるんだなあ……。

 まるで希少動物の珍種を発見したような感慨におちいる。

 そこで、失念していたお詫びやら、社交儀礼的な会話が始まる。ついこないだ学校に招いて、親しく交流した他校の生徒会長の顔を忘れているというのは、社会通念上、ちょっと失礼なレベルの失礼なので、きっと、伊達さんは持てる社交能力をフル動員して失礼を挽回しようとする。

 路上で話すには、ちょっと長い話になって、通行人の人たちが注目する。まして、わたしの右手は包帯でぐるぐる巻きで、ブラウスの上にはベッチョリ血の跡が付いている。

 ここは、サッサと立ち去るしかない(;゚Д゚)!

 

「だ、大丈夫です、失礼しました!」

 

 瞬間で判断して、斜め横の角度でお辞儀すると、そそくさと、その場を離れた。

 

 駅前まで来るとスマホが鳴る。

 あ、伊達利宗!

 やっと私の事を思い出して、先ほどの忘却の無礼を……詫びなくってもいいのに! こういう気まずいやり取りは苦手だ!

 で、伊達さんのはずもなく。あの人はわたしの番号なんか知らないもんね(^_^;)。

「なにぃ、いま駅前なんだけど」

 画面の発信者の名前を確認して、わたしの機嫌は180度反対を向く。

「だったら回れ右、駅前の桜屋でお弁当買ってきて。お母さん帰り遅くなるそうだから」

「あのね……」

「それから、ヤマゲンでコロッケもヨロ~」

 電話の主は、駅前を都合よく誤解している。わたしは、これから電車に乗るところなのだ。

 でも、それを言ったら、こっちの駅前の、グレードの高いお店を指定されて、お弁当を買わされる。

 お弁当のニオイを発散させながら電車に乗るなんて真っ平なので訂正せずに「わかった」とだけ返事しておいた。

 大げさな包帯は解いて、カバンでブラウスの血痕を隠しながら改札を潜ったわたしであった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

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