大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・038『火星周回軌道』

2021-04-02 08:59:20 | 小説4

・038

『火星周回軌道』マーク船長   

 

 

 火星の周回軌道に入った。

 火星での登録は交易船となっている。

 交易船とは、まるで古代の日宋貿易のような名称だが、要は無害な正体不明船。

 船籍証明と積載貨物の申告さえしておけば、火星に自由に出入りできる。むろん、国際宇宙港には入れない。

 国際宇宙港どころか、政府の施政権が及んでいるところには着陸させてもらえない。

 火星は、一応30余りの独立国と自治領に分割されているが、それぞれの政府の支配が及んでいるのは、ザックリ言って1/3ほどでしかない。あとの2/3は支配はおろか、人が住んでいるのも稀な未開の地だ。

 例えて言うなら……そう、地球で言えば排他的経済水域ってやつだな。

 排他的経済水域は漁業資源や鉱物資源を採取しなければ、外国の船でも、たとえ軍艦でも自由に航行できる。領海通行のように、いちいち許可を取らなくていいし、不法行為を働かない限り臨検されることもない。

 まあ、その排他的経済水域の陸上版だと思えばおおよその間違いはない。もっとも、火星に海は存在しないんだけどな。

 俺のアジトは扶桑国の辺境のカサギっていう山岳地帯。

 山岳地帯と言っても、山に緑は無い。ゴツゴツした岩ばかりだ。

 口の悪い同業者からは牛魔王の棲み処みたいだと言われる。牛魔王って知ってっか?

 西遊記に出てくる牛の化け物で、三蔵法師をさらって食ってやろうとしたら、孫悟空の返り討ちでこっぴどくやっつけられるって、西遊記前半のファーストダンジョンのボスキャラだ。

 西遊記みたいだって言われた時は、ちょっと揉めた。

 うちのクルーは、俺さまを入れて四人だ。ちょうど西遊記のクルーと同じ人数。

「俺が三蔵法師だな(^▽^)/」

 なんの疑いもなく飯のついでに言った。

 エーーーーーー!?

 そろって俺の顔を見やがった。

「三蔵法師ってのはお坊様ですよ!」

「ドラマや映画では、どうかすると女性がやってますよね、歴史的には夏目雅子の三蔵法師が最高だと言われています」

 まず、女二人が異議を唱える。

「船長なら、誰が見ても孫悟空」

 バルスがボソリと止めを刺しやがる。

「俺は、猿か!?」

「「「はい!」」」

 声を揃えやがる。

「じゃ、おまえらは豚か河童のどれかだろ」

「だから、船長、女は三蔵法師なんっですってば」

「でも、女は二人じゃねえか、コスモスとミナホ。どっちかにしろ」

「三蔵法師は二人で交代してやりまーす(^▽^)/」

「そりゃ反則だろが」

「だって、ブリッジは交代勤務ですよ」

「口の減らねえ奴ばっかだ」

 

 アハハハハハ

 

 カサギ着陸を一時間後に控え、荷物を揃えた高校生組にヨタを飛ばしていた。

 宮さまと元帥はカサギに下りてもらうが、高校生はシャトルに乗せて正規の宇宙港に向かわせる。学園艦を喪失したとはいえ、こいつらは修学旅行中なのだからな。

 あら?

 宇宙港と連絡を取っていたコスモスの手が止まった。

「どうかしたか?」

「上陸者の確認をやっていたんですけど、キャンセルが出てきました……」

「キャンセルだと?」

 キャンセルとは上陸不適格者のことだ。

「姉崎先生かなあ……」

 たしかに見かけの怪しさでは姉崎は俺といい勝負だ。

 しかし、違った。

「緒方未来さんです」

「ええ、あたし!?」

「というか、未来さんはすでに三日前に上陸していることになっています」

 ええ?

「コスモス、上陸記録を見せろ」

「はい、これです」

 正面のモニターに空港のセキュリティー画像が出る。

 国際線のゲートで入館審査中の未来の姿が映っている。

「ええ、そんなあ……」

「3Dホログラムにしろ」

「はい、高解像度で出します」

 サロンに3Dの未来が現れる。セキュリティー映像なので、通関中の三十秒がループして再生される。

「バイオメモリーを検索にかけろ」

「やっておきました、これです」

 未来のホログラムの周囲に生物学的な記録が細胞の単位で検証される。空港のセキュリティーを通っているのだから、万一にも間違いはないのだが、念のためだ。

「完全に本人です」

「ええ…………」

 困惑する未来に全員の視線が集まる。

 じゃあ、おまえは誰だ?

 口には出さないが、そんな疑問がみんなの頭に灯っている。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略

 

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らいと古典・わたしの徒然草60『芋頭といふ物を好みて』

2021-04-02 06:06:50 | 自己紹介

わたしの然草・60
『芋頭といふ物を好みて』   



 この六十段は、長いので原文は割愛しますが、要約するとこんな感じです。

 仁和寺の真乗院に、盛親僧都(じょうしんそうず)という、変わり者の坊主がいた。
 芋頭(いもがしら)という里芋が大好きで、年中こればかり食べている。師の坊さんが亡くなったとき、少しばかりの貯えを、この坊さんに残したが、それも全部芋頭の食い代にするような坊主である。
 そして行儀が悪い。お経を唱えるときも、病気でひっくりかえっていても、この芋頭を食べながら。法事に呼ばれても、皆が揃わないうちに、さっさと食べ始め、食べ終わると挨拶も無しで帰ってしまう。人に適当にあだ名をつける。それがふるっている。
「しろるうり」
「『しろるうり』て、なんでんねん?」
 人に聞かれると、こうだ。
「そんなもん知らん。もし、『しろるうり』いうもんがあったら、そうやねんやろ」
 と、下手なコントのボケのように取り留めがない。
 と言って、破戒僧でもない。 姿よくて、力強く。書、学、論、全てに優れ、寺でも重く扱われていた。

 この段は、普通、こう解釈されているようです。

 能力や才能に長けた者は、多少の奇行(イカレた言動)があっても大目にみてもらえる。

 わたしの住まいの近くに、かつて今東光(こんとこう)という怪僧がいました。横浜の船長の息子として生まれ、日本プロレタリア映画同盟の委員長をやったりしましたが、いろいろとあった後、天台宗の坊主になり。わたしの近所の天台院という無住のお寺の住職になって、そこに住み着いていたインチキ坊主を叩き出しました。
 叩き出したのはよかったけども、檀家は三十軒しかないという貧乏寺。檀家まわりに行くときの袈裟もないので、風呂敷を肩で結んでごまかした。賭け事、ケンカも大好きで、河内の風土が体にあって、河内を舞台にした小説『悪名』などを残しています。
 近所の流行らない床屋に行ったとき、お女将さんに頼まれました。
「オッサン(和尚さんの意味で、いわゆるオッサンとはアクセントが違う。ちなみに、大橋さんも、つづまると、オッサン)なんか、流行りそうな店の名前、考えとくれやす」
「おう、まかしとけ」
 で、数日後、墨痕鮮やかに『美人館』と、書いてやってきました。昭和二十年代の話しでありますが、今でもこの床屋さんは健在である……というのは、ちょっと前に書きましたね(^_^;)。
「人間死んだら、どこへ行くんですか?」と、聞かれれば、こう答えます。
「知らねえよ、張り倒すぞ」
「じゃ、極楽は?」
「それも行ったことねえから、分かんねえ」
「髪が薄いんですが……」
「髪の毛有る奴見ると、ああ、むさっくるしいだろうなって、同情しちゃうね」
 というあんばい。
 しかし、『お吟さま』で直木賞をとり、後年は国会議員になったり、中尊寺の貫主になった。瀬戸内晴美が出家するときには、自分の法名春聴から一字をとり寂聴としたりしました。

 教師の話をします。

 昔の教師は、生徒の目から見ても、教師は玉石混淆(良いのも悪いのも混ざっている)でありましたた。
 生徒は、独特の勘で、それを見分け、玉の先生からは得難い影響を受けていました。以前書いた和気史郎先生などは、その典型です(分からない人はネットで検索してください。瀬戸内寂聴をして「狂気と正気の境目に立つ画家」と、言わしめた人です)。 そんな先生が、公立の学校に平気な顔で普通に教え、偉大な影響を生徒達に与えました。

 古くは宮沢賢治、夏目漱石も教師でありました。夏目漱石は、鼻毛を抜いて、鏡に植え付けたり、子どもをタンスの上に上げ「そこから飛び降りなさい!」と命じたりして奥さんから、よく叱られていたそうです。
 わたしのひい祖父さんは尋常小学校の先生をやっていましたが、人が通らない田んぼの間や、野原を通って学校に通い、いつのまにか細い道になりました。
 村の人達は、その奇行をおかしがり、ひい祖父さんの名前をつけて侍従道と名付けました。
 
 昔の教師は安月給な分、気楽であったようです。
「一学期、まことにご苦労様でした。明日からの夏休み、どうか、ゆっくりとご休養ください」
 昔の校長が、終業式のあと、先生たちに言った言葉です。今の教師は夏休みでも毎日定刻に出退勤しなければなりません。
 昔の教師は、情熱のある人は、部活や補習。中には自主的に生徒を連れて体験学習をやったり。むろん怠け倒して、休んでいる人もいましたが。
 今は、形で教師を縛ります。IDカードで出退勤を管理され、パソコンを使って、常にレポートや、報告書を求められ、免許さえ十年おきに更新しなくてはなりません。
 確かに管理は行き届くようにはなりました。
 しかし、学校は官僚機構のようになり、先生は玉石共にいなくなったように感じます。

 ちなみに教員採用試験の倍率は三倍を切って久しいと言います。他の公務員や民間企業では最低でも七倍の倍率が無いと組織を維持する水準の人材は取れないと言われます。

 ある校長先生がおっしゃっていました。

「いやあ、個性を殺さず、採ってから育てます、大丈夫です」

 期待してます。

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真凡プレジデント・40《なつきんちのテレビでけいおんを観る》

2021-04-02 05:42:00 | 小説3

レジデント・40

《なつきんちのテレビでけいおんを観る》   

 

 

 あれから放課後になるとなつきの部屋に通っている。

 

 早まって退学届など書かせないためなんだけど、いまはモチベーションの問題だ。

 一人で引きこもっていては、ろくなことを考えない。

 綾乃もみずきも一緒に行こうかと言うんだけど、大勢で行っては、当方の――気にかけているんだ――という自己満足とアリバイにはなるけど、落ち込んでいるなつきには逆効果になる。

 もう、説教もしないし引きとめもしない。まったりと時間を過ごしているだけ。

 毎日通って、ただただまったり過ごすというのは、ちょっとした芸だと言っていい。肩の力を抜いて、お互い空気のようになるには、慣れた関係でなきゃできない。

 しかし毎日となると、まったりにも工夫がいる。

「なんだ、ゲームしかしてないのか」

 中古が安くなったのでモンハンを買ってきて、インストールしようとして気づいた。

「え、あ、だってゲーム機だし」

「ツ-ルバーを見なよ。いろんな機能が付いてるでしょ」

「……なんか、むつかしそうで、見たことない」

「テレビがおっきいんだからさ、ユーチューブとか迫力だし…ANIMAXとかは、アニメ見放題なんだよ」

「なんか、欄外のCMくらいしか思ってなかった」

「ハハ、なつき、教科書とかも欄外読んだりしないもんね」

「バカにしないでよ、教科書そのものを読まないわよさ!」

「そーいうとこで自慢すんな……よし、ここをポチッとやれば、とりあえず一か月はタダで観られる。やってみそ」

「えーー、でも、クレジットとか」

「なつきのカードでいけるよ。課金は一か月後からだし、嫌になったらいつでも止められるし」

 

 そうやって、今日は『けいおん』を観ている。

 

 古いアニメで、最初のクールなんかは画面がアナログサイズなんだけど、このマッタリ感は薬になると思う。

 京アニの作品で、架空の街……と言っても、そのロケーションは京都の宇治あたり。スタジオが京都にあるから、最初はお手軽に済ませたと思ったんだけど、けいおんの雰囲気にはピッタリ。ちなみに、学校のロケーションは滋賀県の小学校で、階段の手すりにウサギとカメが付いていたりする。そのウサギとカメの階段を三階まで上がった音楽準備室が部室で、女子五人の軽音楽部は、まさに平仮名のけいおんと表現するのがピッタリのユルさで、毎日、ちっとも練習しないでお茶ばかりやってるという日常系アニメの金字塔。

「あ~~~~いいね~~~唯ちゃんの感じ~(^^♪」

 ダラダラ、グズグズが大好きで、勉強が苦手で、集中力が無くて、お茶してばっかりの唯とけいおんの有り方に、すぐに共鳴するなつき。ひとまずは作戦成功。

「こういう妹が欲しいなあ~」

 なつきは、唯のよくできた妹の優(うい)を羨ましがる。

「健二がいるじゃん」

「健二じゃねえ~、だいいち健二、男だし」

「いいやつだよ、健二」

「手のかかるやつだよぉ、こないだも野球で怪我して真凡もいっしょに迎えに行ったじゃん」

「おまえが言うな」

 ポコ

「いて!」

 今回の事でも、健二はずいぶん心配してくれて、最初に知らせてくれたのも健二だ。だけど、そこから入ったらなつきを傷つけそうなので控える。

 

 階下のお好み焼きのお店がなんだかざわついている。

 

「また、ソースの瓶でもひっくり返したかなあ?」

 呑気なことを言っていると、なつきのお母さんが上がって来た。

「ね、ちょっと毎朝テレビにしてみてよ」

「ええ、いまアニメ見てんだけど」

「いいじゃん、いつでも続きから観れるし」

 リモコンでテレビに切り替えた。

「え……映らない」

 毎朝テレビのチャンネルは砂あらしの状態だ。これはアンテナが電波を受信できないときなどに起こる症状だ。

「にしては……受信不良のアラームとかは出てこないし」

 つまり、アンテナはきちんと受信しているんだけど、放送局から発せられる電波に中身がないということになる。

 フットワークの軽いお母さんは、商店街のお店の様子を見に行く。五分ほどして戻って来たお母さんは首をひねっている。

 どうやら、どこでも毎朝テレビは観られないことになっているようなのだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)      入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹          真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨          対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二            なつきの弟
  •  藤田先生           定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生           若い生徒会顧問
  •  園田 その子          真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生

 

 

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