大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『となりのアソコ・3』

2021-04-29 06:17:12 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『となりのアソコ・3』  




 どうしよう、あたしって、まだ清純なままだ……!

「ほんの200CCでいい。分けてくれないか。むろん喉に噛みついたりしない。この通り消毒用のアルコールもあるし、注射器もある。ボクの注射は痛くないから。なんたって、この数百年ずっとやってきたからね」
「で、でも……」
「頼む。ボクは、まだ耐えられるけど、妻が……」
「奥さんが?」
「うん、妻は、日本にきてから、摂取した血のいいところだけ集めて作った人間なんだ」
「そんなこと、できるの!?」
「イブは、アダムの肋骨から作られた。バンパイアにも、ぼくぐらいになると、それが出来る。それで、なんとか子孫を残そうと思って……現在確認した中で純潔なバンパイアは、ボク一人だけなんだ……ほら、これが妻だよ」

 或角さんは、弁当箱ぐらいの箱を開けた。そこにはリカちゃん人形ほどに小さくなった奥さんが眠っていた。

「これ以上小さくなると命に関わる。奈月くん、頼むよ」
 顔色も悪く箱の中で眠っている奥さんを見ていると断れなくなってきた。
「じゃ、200CCだけ……」
「ありがとう!」
「はい、どうぞ!」
 駐車嫌いなあたしは、顔を背けて、右腕をさしだした。そのまま十秒ほどたった。
「まだですか?」
「いや、もう頂いたよ」
 見ると注射器の中には、ちょうど200CCと書かれたところまで血が入っていた。
「いつの間に……」
「言ったろ、注射の名人だって。蚊が刺したほどにも感じなかっただろ?」
 そう言いながら、或角さんは、箸ほどの細さの奥さんの腕に注射していった。200CCなんて、この小さな体に入るんだろうかと思ったけど、魔法のように血は全部入っていった。
「これでいい……効き目が現れるのには少し時間がかかるけどね。その間安静にしとかなくっちゃいけないんだ。もう少しいいかな?」
「う、うん。他には誰も居ないから」
「ありがとう……この街なら大丈夫だと思って越してきたんだけどね……真っ当そうに見えるのは表面だけ。十六歳以上で純潔な子なんて、ほとんど居やしない」
「そんなに、Hしまくってはいないと思いますよ……」
「処女でもね、いろいろ健康食品やら、サプリメント使ってたりするとダメなんだ」
「そうなんだ」
「それと、除菌剤とか空気清浄機とかね……あれもダメ。ほら、むかし塩って専売公社の独占で100%NACLだったじゃない。あれって、ミネラルとかなくって、本来の塩とは呼べないものだったんだよ」
「ああ、なんだか分かる気がする。うちはそんなの使ってないし、塩だって赤穂の塩つかってるし」
「今時めずらしいお家だって感心してたんだよ。でも、お隣だろ。奈月くんには手を出さないでおこうって、こいつと、いつも言ってたんだ」

 そのとき、奥さんが「う~ん」と伸びをして起きあがった。まるで生きてるリカちゃん人形。

「あ、気が付いたんだ。やっぱ奈月くんの血は効き目が違う!」
「200CCぐらいでよかったら、毎日でもどうぞ」
「ありがとう、奈月くん」
だめよ、それは
 奥さんの声は、小さくなったせいか初音未来みたいに甲高い声だった。
輸血してもらって分かったの。あたしたちが頂いて良いような血じゃないわ
「だって、こんなに具合が……」
良すぎるの……」

 奥さんは、旦那さんに耳打ちした。

「え、そうだったのか……これは失礼した。ボクたちは、他の街を探すよ」
 或角さんは、そう言うと奥さんといっしょに窓から飛び出した。
「待って!」
 追いかけて、窓から外を見ると、大きいのと小さいのと二匹のコウモリが、遠くへ飛び去っていった。

 また、隣が空き家になった。アソコのひび割れは、もう無くなってしまった。

 あたしは、お父さんの勧めで、えごま油や菜種油も飲むようになった。
「これ、本当に体にいいね」
「だろう。お父さんの家の秘伝だからね」
「……あ」
「なんだい?」
「なんでも」

 あたしは思い出した。お父さんは養子で、旧姓を鍋島っていうんだった……。

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真凡プレジデント・67《クシャ》

2021-04-29 06:01:21 | 小説3

レジデント・67

《クシャ》    

 

 

 あれ?

 

 道の向こうを歩いているのは……なつき・綾乃・みずきの生徒会……みずきさんの陰に……え? わたし?

 

 たった今、退院して……うん、迎えの車は角の向こうのはず?

 体重が10キロ減った他に異常は無いし、体もピンピンしてるから「いいよ、一人で帰れるから」と返事した。

――ごめんね、明日の朝一番で戻らなきゃいけないから――

 お母さんは済まなさそうに、うん、電話の向こうでスマホを挟むようにして手を合わせてる姿まで浮かんできて、思わず笑ってしまった。

 たった二日の入院だったし、拉致されるっていう異常事態だったし、お母さんは無理して戻ってきてくれた。

 警察やら病院、マスコミの対応もみんなやってくれて、夕べ……今朝の未明まで付き添ってくれたんだ、一人で帰るくらいなんでもない。

 急なことなんで、なつきたちにも知らせていない。

 

 逃げ水が見える。

 

 あまりの暑さに、地表近くで空気が屈折して、あたかも水があるように見えてるんだ。

 その逃げ水に紛れて、四人連れはゆらゆら揺らめきながら朧になって消えていく。

 この距離で消えてしまうということは、やっぱ幻なのかもしれない。

 

 えと、二つ目の角……二つ目の……ヤバイ、行き過ぎるところだ。

 

 クシャ

 

 足許を見ると、バラバラになったセミの抜け殻。

 たとえ抜け殻でも踏んづけたと思うと気持ちが悪い。

 でも、死骸でないだけましかな、あちこちに落ちてるし。気を付けよう、踏んづけないように。

 

 俯いた視界の上に赤い圧を感じて視線を上げる。

 

 消防自動車……?     

 

 疑問符が付いたのは、ちょっとレトロな消防自動車だったから。

 ボンネットって言うんだろうか、昔のトラックみたくノーズの長いやつ。

 ビックリしていると、ドアが開いて赤ずきんが下りてきた。

 赤ずきんと言うのは印象で、頭巾なんかは被ってなくて、赤のTシャツに赤のミニスカ。

 小気味のいいポニテの丸顔、ちょっと気の強そうな黒目がクリクリしているのが可愛いんだけど、クリクリ動いているというのは、上から下まで、わたしを観察しているからだ。

 

「おまたせ、あなたが真凡ね」

「え、あ……うん」

「助手席に乗って、すぐに出発だから」

「え?」

「はやくはやく」

「う、うん」

「あたし、ビッチェ。よろ~」

 

 握手しながらアクセルを踏むと、ブルンと身震いして消防自動車は動き出した。

 シートに背中が押し付けられる。

 坂道を上っているのかと思ったら……え?

 消防自動車はゆるゆると空を飛んでいるではないか!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

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