大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・207『上野大仏の首』

2021-04-14 09:17:30 | 小説

魔法少女マヂカ・207

『上野大仏の首』語り手:マヂカ     

 

 

 ブリンダがカンザス男を連れてきたことは驚かなかった。

 今般の大震災は、世界中が同情やら好奇心の目を向けている。

 同情、好奇心、どちらも好きな言葉じゃないけど、結果的に被災者支援や復興の役に立つなら歓迎しなければならない。

 だから、カンザストリビューンという新聞記者の相手もないがしろにしてはいけない。

「地球の裏側からのご支援、ありがとうございます!」

 とりあえずは、学習院の女生徒らしく折り目正しい挨拶をしておく。

 挨拶した顔を上げると、新聞記者をやるよりはオフブロードウェイで陽気なコントをやっていた方が似合いそうな三十がらみの男だ。

「実は、上野大仏を買いたいんだって」

「上野大仏……」

 ピンとこなかった。

 日本には奈良と鎌倉以外にも、ご当地の名前を冠した大仏が存在するが、その多くは昭和のバブル期に税金対策や成金趣味で建てられたものが多く、大正時代に存在しているのは、ごくわずか地方に建てられたものがあるきりで、東京に大仏が存在していた記憶がない。

「ちょっと待ってください」

 わたしは、テントの奥でボランティアのシフトを調整している帝大生に聞いてみた。

「自分は仙台の出身ですので……」

 そう言うと、帳面にしおりを挟んで隣の救護テントで老人の治療をしている医学生に声をかけてくれた。

 その医学生も地方の出身なのか要領を得なかったのだけど、治療してもらっている老人が痛んでいない方の手を挙げた。

「それなら不忍池に行く途中にありまさあ」

 そう言うと、老人は三角巾の腕を庇いながら、我々を誘導してくれる。

「なんでも、三代さま(家光)のころに、越後の殿様が討ち死にした敵味方の霊を慰めるためにお建てになったのが始まりで、そのあと地震やなんやで何度も傷んだんですがね、その時その時の江戸っ子やお上の心意気で修理したのが、今度の震災じゃ……ほれ、ご覧の通りでさ」

 上野の山が不忍池に向かって下りになるところに倒壊したお堂の瓦礫がそのままになっていて、回り込むと、瓦礫の中から首が落ちた大仏の姿が見えてきた。

「お首は、こちらの方に……」

 老人が指差したそこには、その周囲だけ瓦礫が取り除かれて、まるで戦国の昔に首実検された兜首のように大仏の首が据えられていた。

「ナマンダブナマンダブ……」

 老人は、大仏の首を片手拝みして後ろに下がった。

 首の前には、一対の花瓶に花が生けられ、ひしゃげた香炉には線香が焚かれている。

 思い出した!

 こいつは『合格大仏』だ。

 魔法少女だからと言って、昔の事をコンピューターのように記憶しているわけではない。殺伐とした戦いばかリだったので、こういう市民の憩いの場である公園の事などには疎い。

 まして、第一次大戦後の大正時代は、ヨーロッパやロシアが不穏で、わたしは日本を留守にすることが多かった。

 二年前、渡辺真智香として眠りから覚めた時に、一通り東京を巡ってみた。

 その時訪れた上野公園にあったのが『合格大仏』だ。

 コンクリートの枠の中に顔面だけのレリーフがあって、どこぞの仏像の首が落ちて、再建されることなく、顔面だけが残されたと、由緒書きを斜め読みした記憶がある。

『合格大仏』の由来は――地面にまで落ちた首なので、これ以上落ちることはない――というダジャレから来ている。そういう洒落めいたことなので苦笑しただけで通り過ぎた。

「この大仏を買い取ろうと?」

「うん、こういうのはエキゾチックで、たとえ壊れていてもオブジェとしての需要があるんだ」

「オブジェ?」

「今は新聞記者をやってるんだけど、これからは東洋美術とかの貿易をやってみようと思ってるんだよ」

 なんだ、商売のタネか。老人が聞いたら「罰当たりな!」と目をむきそうだが、老人に英語は分からない……いや、いつの間にか姿を消している。

「案内の役は果たしたって、ちょっとお礼しようと思ったんだけど、滅相もないって行っちゃった」

 ブリンダが肩をすくめる。

「むろん新聞の記事にもするよ、少しでもアメリカ人に興味を持ってもらって、それが日本への支援に繋がったらいいと思うんだ」

「そうですか、取りあえず、ミスターオズマをご案内できてよかったです」

「ああ、どうもありがとう」

 このカンザス男がやろうとしていることに賛否のつけようがないし、他の仕事もあることだし、これで失礼しようとしたら、ギョッとした。

 大仏の首が、一瞬、将門の首に見えた……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいと古典・わたしの徒然草72『賤しげなる物』

2021-04-14 06:34:35 | 自己紹介

わたしの然草・72
『賤しげなる物』    

 



徒然草 第七十二段

 賤しげなる物、居たるあたりに調度の多き。硯に筆の多き。持仏堂に仏の多き。前栽に石・草木の多き。家の内に子孫の多き。人にあひて詞の多き。願文に作善多く書き載せたる。
 多くて見苦しからぬは、文車の文。塵塚の塵。


 徒然草は、清少納言の枕草子を意識していると時に言われますが、この七十二段などは枕草子のスタイルそのものですね。清少納言も四百年の後のオッサンのエッセーのモチーフになるとは思わなかったでしょう。しかし鴨長明と並んで日本三大随筆になるんだから、やはり兼好というおっさんは偉いのでしょう。

 わたしも時々AKB48のタイトルや、歌詞をモチーフに小話を書きますが、やっぱグレードがちがいます(^_^;)。
 この『わたしの徒然草』は兼好が十四世紀にものしたもののモジリであります。
 ちなみに「わたしの徒然草」で検索すると二百六十万件も出てきます。兼好のおっさんにあやかっている人はかなりおられるようである。ちなみに、わたしの『わたしの徒然草』は第九位……いささか前フリが長いです(;^_^A。

 正直、この段を読むと、わたし自身のことを「賤しげなる者」と非難されているような気がします。原文は「賤しげなる物」で「者」ではなく「物」であり、状態を賤しげであると言っているに過ぎず、人格である「者」を否定しているわけではないようです。

 ガラクタが多いのはいかんと兼好は言い切ります。同じことをカミサンも言います。
 カミサンは物離れのいいたちで、暇さえあれば家の中を片づけ、捨てています。テレビが地デジになったとき、カミサンは家中のアナログテレビを「捨てる!」と宣言しました。わたしは「もったいない、モニターとしては、まだ使える」と主張しました。で、その場は収まりましたが、折に触れて「捨てろ!」と言われ続けています。あるとき「なに言うてんねん、これなんかテレビデオやねんぞ。これ捨てたらビデオが観られんようになる」と抗弁。
「ほんなら、溜まったビデオごと捨ててしまい!」
 やぶ蛇でありました。カミサンはとうに数百本のビデオを惜しげもなく捨てておりました。テレビデオごときものを捨てるのになんの躊躇もありません。

 で、わたしは、この埃の被ったビデオを鑑賞しているのかと言えば、もう二十年以上観ていないものばかりであります。
「三年間、一度も使わなければ、それは不要品である」
 という理屈があるらしい。このデンでいくと、わたしの持ち物の九十パーセントは不要品であります。十二台もあるゲーム機、と、それに見合ったゲームソフトやゲーム関連の小物、十一領のヨロイ、二百あまりのプラモデル、劇団をやっていた頃の衣装、小道具、数千冊の本……書き出してみると、カミサンの小言もむべなるかなではあります。

 解せないのは子孫(こまご)の多さであります。

 兼好の時代は子孫が多くて当たり前の時代です。あらゆることに平衡感覚に秀でた人ではありますが、この段のこの部分は、やや異様。ひょっとしたら、兼好自身が生涯独身であったことと関係しているのかもしれませんね。

 人にあひて詞の多き……巧言令色少なし仁である。

 これは、少し耳が痛い。現職中は「男のオバサン」と言われるぐらい喋るオッサンでありました。
 人を相手にする仕事をしていたので、相手が単数であれ複数であれ、その場の空気を読んで、会話に間が開かないように気をつかい、時に「気をつかうレベルを超えて」喋っておりました。

 ただ、これだけは言えます。場の空気や人の気持ちに心を配り話ができる人は極めて少ない。わたしの浅い経験則ですが、職場での地位の高い人間ほど、その傾向が強い。そういう地位の人は、もともとそうであったのか、地位がそうさせてしまったのか見極めがつきません。おそらくは複合的な問題ではあるのだろうけど、幾人かの首長さんや首相経験者に顕著に「人にあひて詞の多き」人がいます。地位が高いぶん、社会的な影響力、もっと直裁に言えば害毒のある人々で、歴史用語ではデマゴーグといいます。
 逆に、話の名手がいます。むろん面識はありませんが、いずれも故人の司馬遼太郎・小松左京・桂米朝のお三方で、企んだわけではありませんが、お三方とも大阪の人間であります。歴史的には吉田松陰・羽柴と名乗っていたころまでの秀吉などがこれにあたるでしょう。

 わたしの少し上の全共闘世代もよく喋った人々でありましたが、戦時中の軍人のよう雄弁で、エキセントリックでした。酒性度や揮発性の高い言葉を使い、よく自分自身の言葉に酩酊しておられました。
 今でも、こと言葉や会話について、自分は発展途上人であると思っていますが深入りはしません。

 多くて見苦しからぬは、文車の文。塵塚の塵。

 前半は、よく分かります。わたしなどは、図書館や書店に並んでいる本を見ているだけで心が豊かになっていくような気がします。気がするだけであって、大方は錯覚なのですが(^_^;)。その錯覚が、わたしの本棚の大半を占めていて、最近、自分の本棚に限っては自己嫌悪の対象になり果てております。

 後半の塵塚の塵は分かりにくいかもしれません。

 日本は、前世紀までは、あちこちにゴミの不法投棄がありました。子どもの頃は、不法投棄されたゴミは宝の山で、怪しげなものを拾ってきては親に叱られたものです。ある時などは不法投棄されたバッテリーを分解して、中の硫酸でやけどをしたこともありました。
 

 この項、書き出したらきりがありませんので、いずれ改めて続きを書きたいと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・52《良心的性悪女と証明写真》

2021-04-14 06:08:33 | 小説3

レジデント・52

良心的性悪女と証明写真》       

 

 

 放送局……という人物評というかあだ名があったそうだ。

 

 あいつに言ったら、またたくうちに広まってしまう。そんなお喋りな人を揶揄して使う昭和的な言葉だ。

 困った奴だというほどのニュアンスで、わずかに――愛すべきお喋り――という温もりがあった。

 それが、この半月余りで意味が変わった。

 単なるお喋りでは無くて、嘘をまき散らしては人を陥れる犯罪者。ということになってきた。

 

 毎朝テレビが原因不明の電波停止になり、代わりに隠していたニュースや記録がSNSで流れてしまい、瞬くうちにフェイクニュースを垂れ流していたことが世間に知れたからだ。

 あっという間にスポンサーが下り始め、たとえ電波が戻ってきても放送事業が再開できる状況ではなくなってきた。

 ディレクターとかアナウンサーとかコメンテータというのも、真面目な顔して嘘を言う奴というニュアンスが付き始めた。

 毎朝テレビのチーフディレクターで創業者の孫である池島大輔が、自分の不正を隠すために部下の室井ディレクターを殺害して東京湾に沈めたことが発覚したからだ。

 こうなってくると弱り目に祟り目、ネットはもちろんのこと新聞や雑誌も放送局を叩き始め、SNSは放送局や放送局の事実上の支配者である大手広告代理店への非難で一杯になった。

 女子アナと言う、昭和平成の時代では女性最高のステータスもほとんど性悪女と同義語になりつつある。

 

 あーーーサッパリしたあ!

 

 久々に女子アナ時代のサマースーツで出かけたお姉ちゃんは、帰って来るなりシャワーを浴びて、ジャージ姿で上がってくると、サマースーツをゴミ袋にぶち込み、缶ビールあおってソファーにひっくり返った。

「全部しゃべってきたの?」

「うん、あらいざらいね」

「総理をイジメたことも?」

「うん、セクハラのねつ造もね。ひどいプレーを強制されたアメフト選手の気持ちが良く分かります……と締めくくっておいたから、まあ、良心的性悪女くらいのところで許してもらえるよ」

 お姉ちゃんは、毎朝テレビのドキュメントを扱ったNHKの特集番組に出てきたのだ。

「来年の秋には電波オークションが始まるって。まあ、NHKは安定の例外扱いと思ってるから、あんな番組つくれるんだろーね……あ、そだ」

 濡れた髪を拭くのを止めてスマホを取り出した。

「ね、真凡の感覚だと、どの写真がベストだと思う?」

 良心的性悪女は、数十枚の自分の写真をスクロールして見せた。全て前向きのバストアップだ。

「ひょっとして、指名手配用の写真?」

「ばか、証明写真よ」

「そっか、これなんかいいんじゃない?」

 いちばん穏やかな、髪をアップにしてるのを選んでやる。

「あんたも、そう思うよね……でもダメなんだよね~」

「どうして?」

「アップにした髪が、上のとこ切れてるじゃん」

「うん、それが?」

「髪が切れてると、その上になに隠してるか分からないからダメなんだよ」

「いったい、なんの証明写真?」

「パスポート」

「な……」

 

 国外逃亡でもやらかそうというんだろうか……?

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする