大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・203『非常事態宣言の中のうちら』

2021-04-28 10:55:15 | ノベル

・203

『非常事態宣言の中のうちら』さくら     

 

 

 わたしたちバカになるかも……

 安西さんの最後の言葉がリフレインする。

 

 安西さんいうのは、学年で一番と言われてる才女でベッピンさんのクラスメート。頼子さんが卒業してからは、この安西さんが才色兼備のミス安泰中学!

 クラスメートいうても、教室で一緒やったんは三週間ほど。

 学年はじめなんで、席は『あいうえお順』で、苗字が酒井のわたしの横。サ行のわたしは『あいうえお順』の席やとア行の人がくることが多い。

 頼子さんで耐性の付いたうちは、わりと平気で才色兼備の安西さんと話ができた。

 その安西さんが「わたしたちバカになるかも……」と呟いた。

 ペコちゃん先生が「オンライン授業になります」と宣言したから。

 ペコちゃん先生は学校の決定を伝えただけやから罪は無い。

 学校も教育委員会の決定に従っただけやから罪は無い。

 教育委員会も日本国政府の非常事態宣言に忠実に従っただけやさかい罪は無い。

 日本国政府もコロナの蔓延のために止む無く出した宣言やから罪は無い。

 悪いのはコロナやさかい……ああ、もう! 考えると行き止まりになる!

 

 パンピーのうちは「ああ、もう!」と言うしかないねんけど、才色兼備さんは「わたしたちバカになるかも……」と、一歩進んだ予想を立てる。

 オンライン授業では、やっぱり授業になれへん。

 先生も生徒もモニターの画面越しでは普通の授業の半分ほどしか入ってこーへん。質的にも量的にもね。

 ペコちゃん先生は二日に一回くらいの割で生徒の家を訪れる。

 プリント配るのと回収するため。

 その出で立ちは、ごっついマスクにサバゲー用のゴーグル。カバンの中に入れた携帯用の消毒スプレーを手に吹きかけてからプリントを渡すという念の入れよう。

 それで、きちんと90センチのディスタンスを守って、それでもTwitter二回分くらいのコミニケーションをとっていかはる。一件につき2分くらいやと思う。

――先生も大変なんだ、頭が下がります――

 先生の訪問を受けた安西さんは、わたしにメールをくれる。

 家の人に撮ってもろたんやろ、ペコちゃん先生とツーショットの写真付き。

――いつか、笑って、この写真を見れる日が来るよ。その時の為に面白写真いろいろ残します。酒井さんも面白いの撮れたら送ってください――

 ほんまに行き届いたひとです。

 

 その安西さんはオンライン家庭教師を付けた。

 

――カテキの先生も熱心にやってくださるけど、やっぱり学校のオンラインてアリバイでしかないんだよね。もう十カ月もしたら受験だし、ちょっとがんばります(^▽^)!――

 カテキてなんやろ?

 数十秒考えて家庭教師のことやと見当がつく。いわゆるJKスラング。うちらはまだJCやのに、安西さんは進んでます。

 いやはや、頭が下がります(^_^;)。

 

 うちらの問題は部活。

 

 部活禁止令が出てしもたさかいね。

「去年も夏ごろまでは、こんなだったね」

 コタツを挟んで留美ちゃんとわたし。

 文芸部の本拠地は本堂裏のお座敷。ここは窓が無くて、直接には日が差さへん部屋なんで、四月の末やいうのに、まだコタツが出してあるんです。

 部活禁止やから二年の夏目銀之助は来られへん。ちょっと可哀そうやけどね。

 オンライン授業は、ここで受ける。

 自分の部屋で受けてもええねんけど、オンラインでも授業は授業、部屋を変えた方が切り替えがききます。

 部室いうことは学校の一部いうことやし、気が散るようなものは置いてないしね。

 なんちゅうても、同居人でありクラスメートである留美ちゃんといっしょに授業受けられるいうのんは、このご時世、ちょっと贅沢をしてるみたいで、ポテンシャルが上がります。

 銀之助の発案で、アニメ化されたラノベを読んでます。

 アニメはネットフリックスとAMAZONプライムビデオがあるねんけど、画質はAMAZONプライムの方がええさかい。AMAZONで見てます。AMAZONプライムはテイ兄ちゃんが入ってるんで、部室のテレビでも観られるようにしてもろてやってます。

 けいおん 氷菓 輝けユーホニアム たまこまーけっと 甘城ブリリアントパーク 中二病でも恋がしたい

 四月に入って、原作を読んでアニメを観たものをざっと挙げるとこんな感じ。

 すでに観たことがあるものもあるけど、文芸部であらためて観たり読んだりすると感慨ひとしおやったりします。

『先輩、なにか気が付きました?』

 モニターの向こうで銀之助が得意そうな顔で聞いてきよる。

「え、まあ、ほとんどあんたが推薦したもんやけど、なかなか面白かったよ」

 ラノベもアニメも「ウフフ」「アハハ」「なるほど」「魅せますなあ」という作品ばっかりやった。

「フフ、わたし分かったよ(ΦωΦ)」

 留美ちゃんが得意そうな猫顔になる。

「え、なになに?」

 うち、一人分からへん。

「アニメは全部、京アニの作品だよね?」

「え、ほんま?」

『え、酒井先輩は気が付かなかったんですか?』

「え、あ、あ、ああ、そう言えば……(^_^;)」

 アハハハハ

「わ、笑うな! ええもんはええと分かってんねんやさかい!」

「ごめんごめん、そんなつもりじゃないんだよ、わたしも夏目君も」

『そうですよ、先輩のそういう反応、可愛いですよ(^▽^)/』

「年下の癖にかわいい言うなあ!」

『ハハハ、すみません。じゃ、今週の夏目の推薦はこれです……』

 あらかじめ仕込んであったんやろ、パソコンの画面はアニメのPVに変わった。

 なんや、ぶっとんだロボゲーいう感じのアニメ。

「ガンダム……ちゃうなあ」

「あ、これは」

「留美ちゃん、言うたらあかんで……う~ん……エヴァンゲリオン……でもないなあ……」

 悩んでるうちにタイトルが出てきた。

『フルメタルパニック』

「ロボット戦隊ものか……」

 こういうジャンルのには、ちょっと弱い。それに、見慣れた京アニやないし。

「ううん、これも京アニだよ」

「え、このロボゲーが!?」

 心の声を読んだのか、留美ちゃんが嬉しそうに注釈。

 う、う、う、京アニ恐るべし……

 二人にアハハと笑われてると、スマホの着信音。留美ちゃんのスマホや。

「えと……え…………ええ!?」

 メールを読んだ留美ちゃんの顔色がみるみる青ざめていった……。 

 

 

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『となりのアソコ・2』

2021-04-28 08:11:59 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト

『となりのアソコ・2』  




 学校に行くついでにゴミを出すと、電柱の側で隣の奥さんが倒れていた。

「大丈夫ですか、或角さん!?」
「……大丈夫」
 と、一言言って、ほとんど気を失った。あたしは或角さんの玄関のドアを叩いた。
「或角さん、或角さん、奥さんが、奥さんが!」
「しゅ、主人は、出かけて……」
「お、奥さん! 或角さん!」
 側によると、本格的に気を失った。顔面蒼白。ただごとじゃない。あたしはスマホを取りだして救急車を呼び、家にいたお母さんを呼んだ。
「困ったわね、お母さん、これから仕事だし……」
 ちなみにお母さんは、パートでヘルパーをやっている。他の仕事と違っておいそれとは休めない。
「いいわよ、お母さん。あたしが病院まで付いていく」
「そう、じゃあ、なにかあったらすぐにお母さんに電話して。最初の鈴木さんが済めば、あとは代わってもらえそうだから」

「ちょっと重症な貧血ですね」

 お医者さんが、そう言った。旦那さんも駆けつけてきたが、文字通り駆けてきたんだろう、上着も脱いでネクタイも外し、汗みずくだった。
「とりあえず、今から点滴と輸血をします」
「あ、申し訳ありませんが、宗教上の理由で輸血出来ないんです」

 けっきょく奥さんは点滴と、増血剤を処方されて、夕方まで安静ということになった。

 学校は二時間目から間に合った。どこでどう間違って情報が伝わったのか、あたしが急病で救急車で搬送されたと伝わっていて、あたしが授業中の教室に入ると、どよめきがおこった。
 しかし、我がクラスメートながら、なんと健康的で、噂好きなことであることか。
 一見真っ当そうな女子高だけど、裏では結構いろんなことをやっている。昔と違ってただの耳年増ということだけじゃない……て、Hなこと想像した人は、もう前世紀のオッサン。
 むろん、そっちの方で体験済みやら、研究熱心な子もいるけど、健康や美容に気を付けて、サプリメントを試したり、中にはエステに通っている子や、プチ整形やってる子もいる。まあ、あたしみたいにオリーブオイル飲んでる子はいないだろうけど。

 奥さんが倒れてから、或角さんちは静かになった。もう、窓を開けても、アソコから物音もしなければ、コウモリが出入りすることも無くなった。
 いつの間にか、バラの季節も終わり、紫陽花が顔色を変えるようになってきた、ある晩のこと……。

 人の気配で、目が覚めた。

 一瞬の恐怖。その晩、お父さんは出張。お母さんは、ヘルパーの泊まりだった。
「ごめん、起こしてしまったね」
 ため息混じりに、そう言ったのは或角さんのご主人だった。
「ど、どうして或角さん……!」
「あ、要件を言う前に、事情を説明しとくね。ま、したって夜中に女の子の部屋に忍び込むなんて、とんでもないことなんだけど、まあ、聞いてくれるかい?」
「え、ええ……」
 その時の或角さんは、なんだか、とてもくたびれていた。

「実は、僕はバンパイアなんだ」

「アンパイア……野球の?」
 思わぬズッコケに、或角さんは可笑しそうに、でも力無く笑った。
「いい子だ、奈月くんは……あんまり日本語にしたくないけど、吸血鬼」
「じぇじぇじぇじぇ!」
「アルカードって、英語のスペルでAlucard。これ、デングリガエすと……」
「D・r・a・c・u・l・a……Dracula(ドラキュラ)!」
「そう、由緒あるバンパイア一族のみに許された隠し姓」
「そのドラキュラさんが、何を……!?」
「あ、半分は想像の通り。奈月くんの血を分けてもらいに来たの。あとの半分は間違い。別に奈月くんは吸血鬼になったりしないから。あれは、単なる伝説」
「あ、でも、あたし晩ご飯ギョウザだったから」
「ニンニクも平気」
 あたしは、せっぱ詰まって机に手を伸ばしシャ-ペン二本で十字を作った。賢いことに、机の照明をつけたので、ちょうど十字の影がもろに或角さんに被った。
「それも平気」
「もう!」
「実は、この街なら、清純な血液に不足ないと思って越してきたんだけどね……アテが外れたよ」
「純潔な乙女の血じゃなきゃ、だめなのね」
「それは……ビンゴ」

 どうしよう、あたしって、まだ清純なままだ……!

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真凡プレジデント・66《退院と時をかけるまあちゃん》

2021-04-28 06:52:04 | 小説3

レジデント・66

《退院と時をかけるまあちゃん》    

 

 

 脳波は戻ったけど、10キロの体重は戻らない。

 

 しかし、他に異常は無いので週に一回の通院を条件に退院することになった。

 両親は間に合わないので、生徒会の三人が付き添ってくれる。

「ケーキバイキングは延期になったからね」

 なつきが嬉しそうに言う。

「やっぱ、みんなで行かなきゃね」

「四人揃っての方がおいしいもんね」

「あ、すみません、荷物くらい持ちます」

 ロビーに来てくれた綾乃とみずきさんが手荷物をかっさらう。

「いいよいいよ、こういうときくらい甘えていいわよ」

「すみません」

「他人行儀だわよ」

「ちょっと痩せたんじゃない?」

「あは、ダイエットになったかな(^_^;)」

「羨ましいなあ、ケーキいっぱい食べられるわよ」

「あたしもダイエットするから、ケーキバイキングは月末にしようよ」

「なつきは、うんと食べて縦に伸びなきゃ」

「あたしは、まだ育ちざかりなんです!」

 

 三人とも気を引き立てようとしてバカな話ばかり、事件のことには触れないようにしてくれているんだ。

 ありがたいことだと思う。

 たった二日間のことだったけど、病院を出た時の空気はとても爽やか。

 子どものころ亡くなったお祖母ちゃんちに行って、お姉ちゃんや従兄妹たちとかくれんぼした時のことを思いだした。

 奥座敷の押し入れの布団の間に潜り込んだわたしは、影の薄い子だったせいか誰にも見つけてもらえなくって、そのまま寝てしまった。お姉ちゃんは従兄妹たちと蝉取りに出かけてしまい、わたしが発見されたのは、お祖母ちゃんが、子どもたちが寝る布団を出そうと押し入れを開けて、よっこらしょっと布団を出した時。

 お祖母ちゃんの「あれ?」って声と、押し入れの中まで届いた西日で目が覚めた。

 お祖母ちゃんの「あれ?」は『この子誰だったっけ?』という響きがあった。「……あ、お祖母ちゃん」と目が覚めると声で分かって「ああ、まあちゃん(お祖母ちゃんは真凡じゃなくて、愛称の『まあちゃん』で呼んでくれてた)かくれんぼしてて寝ちゃったんだねえ(^▽^)。さあ、もう晩御飯だから、表の座敷に行きな」と押し入れから出してくれた。

 長い弓型の縁側を通って母屋に、ちょっと前に夕立があったのか、庭の苔や木々は葉っぱに露を宿してつやつやし、空気がとても爽やかだった。

 そう、あの時の爽やかさに似ている。

 どこかで、ヒグラシの鳴く声が聞こえたような気がした。母屋に向かう縁側ではヒグラシの鳴く声がしていたのを思い出して、母屋への縁側から見た田舎のイメージが今までになく鮮明になった。

 子ども心にも、ひょっとして、わたしてばリープした……?

 テレビで女子高生がタイムリープするドラマが高視聴率をとっていて、そのドラマの事が頭に浮かんで時めいた。

 わたしは、現実によーく似た異世界に飛ばされたのかもしれない……。

『時をかけるまあちゃん』なんてタイトルが浮かんで、ひとりワクワクしていたっけ……。

 

「あ、タクシーー来たよ」

 みずきさんが、病院のゲートに差し掛かったタクシーに手を上げる。

「ちょっと窮屈だけど、四人揃っての方がいいよね」

 綾乃の提案にみんな賛成。

 タクシーのトランクに荷物を入れると、卒業旅行のノリでシートに収まる。

 病院のゲートを出て、四車線の道路に入るためにグッと旋回。

 

 一瞬、向こう側の歩道を歩いているのが目に入った。

 もう一人のわたしが、ゆるゆると歩いているのが……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

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