大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・199『銀之助に宿題を出される』

2021-04-04 14:54:28 | ノベル

・199

『銀之助に宿題を出される』さくら     

 

 

 ちょっと期待はあった。

 なにかと言うと、SOS団。

 ほら、わが文芸部の唯一の男子部員の夏目銀之助。

 その銀之助が言うてた『ひとりSOS団』です。

 SOS団というのは『涼宮ハルヒの憂鬱』から始まる、いわゆるハルヒシリーズ。

 初出から二十年近く続いてるラノベで、アニメも2クールやってて、映画にもなって大ヒット!

 アニメの制作は、あの京アニ!

 ちょっと不思議で生意気な美少女ハルヒが巻き起こす、様々な不思議やら冒険の物語で、非日常系ラノベとして累計2000万分も売れている化け物ラノベです!

 で、SOS団というのは、ハルヒが結成した部活で、不思議なことや面白いことにチャレンジすることを目標にしている。

 メンバーはキョン以外は、未来人、宇宙人、超能力者で構成されていて、毎回ぶっ飛んだストーリー展開になってて、読者を飽きさせません。

 それを、たった一人とは言え、銀之助がやってるというので、いやが上にも期待は高まるというもんです。

 何万回と続く夏休み! 離島で繰り広げられる殺人事件! 校庭に書かれたナスカの地上絵的図形! ハチャメチャな文化祭の映画作り! 巨大なカマドウマ! 思念体の暴走! 閉鎖空間! 数々の禁則事項!

 ひょっとしたら、うちらの文芸部の記録を出版したら、ハルヒシリーズみたいに2000万部売れたら……印税を5%としても、定価600円で……ろ、六億円!?

 

「先輩、僕のは、あくまで本の中のSOS団で……」

「あ、うん……本の中?」

「はい、読んだ本の中で不思議なことに出くわしたら、それについて色々調べてみるというやつで……」

「え、どういうこと?」

 留美ちゃんもブレーキがかかってつんのめったような顔になる。

「たとえば、小説とか読んでると、三人称で『彼』とか『彼女』とか出てくるじゃないですか」

「「うん」」

「そういう三人称って、いつから、誰が始めたのか?」

「「え?」」

「だって、江戸時代以前には、そういう言葉は無かったんです。きっと、誰かが発明したんだって思いません?」

「ああ、そう言えば……」

「親のことを『お父さん』『お母さん』て言うじゃないですか」

「うん」

「だれが決めたか分かります?」

「それ、知ってます!」

 三人しか居てへんのに、留美ちゃんが律儀に手を挙げる。

「はい、榊原先輩」

「明治になって、政府が統一した日本語表現を作るために決めたんです。それまでは身分によって『父上』とか『おとっつあん』とか『おでいちゃん』とか、地域によっても『おっとう』とかいろいろだったのを統一したんです。井上ひさしさんの本にありました」

「さすがは、榊原先輩!」

「えへへ」

「留美ちゃんもすごい」

「でも、『彼』と『彼女』は知らないよ。やっぱり文部省?」

「文部省? 文科省ちゃうのん?」

「「違います」」

 二人の声がそろう。

「昔は文部省っていったんです」

「平成のいつだったか、文部省と科学技術庁をいっしょにして名称を変えたんだよ」

「2001年、平成13年です」

「アハハ……で、『彼』と『彼女』は?」

「二葉亭四迷だと言われています。明治になって書き言葉と話し言葉の統一を計ろうと言う『言文一致運動』というのが巻き起こって、その中で四迷が作った造語だと言われています」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「他にも、静かな状態を表すのに『シーーン』て表現しますよね」

「え、あ、うん」

「あれは漫画家の手塚治虫の発明だと言われています」

「え?」

「そうなの?」

「それまで『しんと静まる』って表現はあったんですが、伸ばして『シーーン』にしたのは手塚だと言われています」

「へ、へえ、そうなんだ……」

「あ、そうだ。手塚治虫って、下に『虫』がつきますよね?」

「え、そう?」

「ほら」

 銀之助は書架から『火の鳥』を出して表紙を見せてくれる。

「ほんまやあ」

「そうだ、これ、宿題にします。二葉亭四迷と言うのもかなり変わった名前ですよね、むろんペンネームなんですけど、その由来も調べてきてください。次の部活で答え合わせしましょう!」

 後輩の一年坊主に宿題出されてしもた(^_^;)。

 横で留美ちゃんがクスクス笑ってる。どうやら、答えを知ってるみたいや。

「最悪、ググってもいいですけど、それは言ってくださいね。ググるのは最終手段ですから(^▽^)/」

「アハハ」

 留美ちゃんも笑いよって……こいつら鬼や。 

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誤訳怪訳日本の神話・33『駆け落ち 追いかける親父』

2021-04-04 09:37:04 | 評論

訳日本の神話・33
『駆け落ち 追いかける親父』    

 

 

 オオナムチが鏑矢を持って焼け野原から帰還して、スサノオはやけ酒を飲んで寝てしまいます。

 

 ちょっと前のスサノオなら暴れたでしょうね。

 愛するものには見境が無くなるのがスサノオです。高天原では、亡き母にそっくりな姉のアマテラスが冷たくて、その歓心を買うために暴れまわりました。ヤマタノオロチをやっつけたのはクシナダヒメに恋をしていたからこその鬼神の働きでありました。それまでと同じキレやすい男なら、きっとオオナムチに体を張った勝負を挑んだでしょう。

 それが、やけ酒のふて寝ですから、そこらへんの親父と変わらない反応です。

 愛娘を持っていかれる父親の浅はかさと哀感に満ちております。

 オオナムチも、そんなスサノオを「このクソオヤジ!」などと抗うこともなく、ちょっと困った顔をしただけで、同じ屋根の下で普通に寝てしまいます。

「……ねえ、起きて、起きてよオオナムチ!」

 方やまんじりともできなかったスセリヒメは、こっそり起きると、ぐっすり寝ているオオナムチを起こします。

「え、え……?」

 起こされたオオナムチの頭はすぐには回りません。

「シーッ! わたしの言うこと、しっかり聞いて!」

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を読んだ時に、このスセリヒメの下りを思い出しました。

 寝ている兄貴に馬乗りになって頬っぺたを張り倒して「人生相談があるの!」と迫って、大きくドラマが展開していく、あのシーンと同じポテンシャルを感じました。

 スセリヒメは生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)を袖に包み持って「これを持って駆け落ちしよっ!」と迫ります。モノは違いますが、桐乃が京介を自分の部屋に連れて行って禁断のコレクションを見せて、自分の趣味への共感を強いるシーンと被ります。

「ス、スセリは大胆だなあ……」

 押し切られて、オオナムチはスセリと二人で根の国を脱出する決心をしますが、暗い中なので天沼琴(アメノヌゴト)を踏んでしまいます。

 ポロロン♪

 その音で目を覚ましたスサノオが追いかけてきます。

 ヤマタノオロチをギタギタにやっつけたスサノオですが、娘が自分を捨てて好きな男と逃げる姿を見ては怒りも冷めてきます。おそらくは寂しさだけが胸を締め付けたでありましょう。

 両手をメガホンにして、若い二人に声をかけます。

「若造! その太刀も弓矢もくれてやる! それを持って、どこへでも駆け落ちしろ! いいか! その代わり、娘を、スセリヒメを幸せにしてやるんだぞおおおおおおお!!」

「お、おとうさん……」

「いいか、娘の為に高天原まで届くような立派な千木のある宮を建てるんだ! 名前も、婿に相応しいのに変えるんだ! ウツシクニノタマかオオクニヌシと名乗るんだぞ!」

 そして、オオナムチは先につけられたアシハラシコオ(日本一の醜男)からウツシクニノタマの神になり、スサノオのところから持ってきた武器で兄弟のヤソガミたちを従えてヤチホコの神、そして、偉大な国の神という意味の大国主神、つまり大黒様になっていきました。

 このオオナムチの変遷ぶりがモチーフになって『ノラガミ』の大黒のキャラが生まれますが、それは紹介にとどめ、先に進みたいと思います。

 オオナムチ、いえ大国主の神さま生活。それは、始まりドラマチックな割には、なかなか上手くは進みません。

 次回は、大国主とスセリヒメのその後をたどってみたいと思います。

 

 

 

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わたしの徒然草62『ふたつ文字』

2021-04-04 07:07:59 | 自己紹介

わたしの然草・62
『ふたつ文字』     

 


徒然草 第六十二段

 延政門院、いときなくおはしましける時、院へ参る人に、御言つてとて申させ給ひける御歌、

 ふたつ文字、牛の角文字、直ぐな文字、歪み文字とぞ君は覚ゆる

 恋しく思ひ参らせ給ふとなり。


 この段は、皇后であった延政門院が、子どものころに、御所に来た人に預けて、父君の後嵯峨天皇にあてて詠んだ歌です。

 「ふたつ文字  牛のつの文字  直ぐな文字 ゆがみ文字 と君を思う」

 父君を「恋しく」と詠まれています。

☆なぞなぞ

 これは、なぞなんですねえ。

「ふたつ文字、牛の角文字、まっ直ぐな文字、ゆがみ文字」が何故「恋しく」なのか? ちょっと考えてみましょう。

☆なぞなぞの答え

 これは、ひらがなの形をなぞらえています。
「ふたつ文字」はひらがなの「こ」、牛の角文字は「い」、まっ直ぐな文字は「し」、ゆがみ文字は「く」。あわせて「こ・い・し・く」。

 今の子はなぞなぞをやるんでしょうか?
 昔はよくやりました。
「上は大水、下は大火事、なーんだ?(答・お風呂)」
 文字のなぞなぞもあります。「辶」に離して「首」が書いてある(答・分かれ道)とか、「雨」の真ん中の縦棒が下に長く伸びて「ん」になる(答・アーメン)などとやっていました。

 以前も、このエッセーで触れましたが、今の子は、あまり人にあだ名をつけなくなりました。
 昔はやりました。原田武という先生がいた。あだ名は「チョ-ビゲンタム」、お分かりでしょうか。この先生はチョビ髭であられました。それに「原田武」を湯桶読みして「ゲンタム」 で、二つを合成して「チョ-ビゲンタム」となります。
 出っ歯の先生は八重桜「ハナより先にハが出る」の意味。
 今の子は、先生を呼び捨てにして済ませることがおおいでしょうね。「オオハシ」とか「ムツオ」とか、直裁的で芸が無い。大阪弁というのは、言葉そのものに遊びや、シャレの種がある。「オオハシサン」をつづめると「オッサン」になる。和尚さんも、つづめると「オッサン」。文字にすれば同じですが、発音すれば明確な違いがあります(少なくとも大阪人には分かる)。それも最近は、急速に無くなってきたように感じます。中には心無いあだ名が人を傷つけるというので、あだ名禁止令を出す学校もあるそうです。
 映画の『スゥイングガール』のロケ中に、ガールズたちは、みんなにあだ名を付けていました。
「村長」「ミサイル」「おかん」などなど。語源はよく分かりませんが、「ジュリ」とか「シホリ」とか直裁的なものではありません。

 アニメの『女子高生の無駄づかい』でも、主役の一人のバカがクラス全員にあだ名をつけています。表情に乏しい「ロボ」、オタク趣味の「ヲタ」、ネガティブで暗い「ヤマイ」、礼儀正しく成績のいい「マジメ」、小柄でお婆ちゃん子の「ロリ」、占いや呪いに凝っていて不登校気味の「マジョ」などなど。一見あぶなそうな、イジメに繋がりそうなものもありますが、表現が的確で、面白がっては居ますが、根底にクラスメートへの肯定的な興味と、乱暴ではありますが愛情があります。

 要は、どういう気持ちで呼ぶかが問題で、きちんと名前で呼んでも悪意やオチョクリや敬遠の気持ちが潜んでいれば「大橋君」とか「大橋さん」とか呼ばれても気持ちの悪いものです。

 息子の授業参観の帰り、クラスの友だちが「大橋!」と呼んでいるのを耳にしました。男子なら当たり前の呼び捨てなのですが、その響きには、クラスでの息子のヒエラルキーの低さや、軽いイジメのニュアンスがありました。

 むろん、こんなことで学校に抗議などはしません。二年後の参観に行ったら普通の「大橋」になっていました。


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真凡プレジデント・42《かなりのミーハーのようだ》

2021-04-04 06:23:41 | 小説3

レジデント・42

《かなりのミーハーのようだ》    

 

 

 放送局のコンピューターがウィルスに感染したんだって……ああ、おっかしい。

 

 笑い死に寸前の涙目を拳で拭いながらお姉ちゃん。

「セキュリティーとかは効いてないの?」

 切り替えたお姉ちゃんは、絶対に弱みを見せない。

 だから、寸前までの爆笑を問い詰めることは諦めて、放送局の事に切り替えた。

「並以上のセキュリティーはかけてあるわよ。でも、どうやらとんでもないハッカーにやられたんでしょうね。メインコンピューターから個人のパソコンまで全滅らしいわ。ウィルスが勝手にプログラムを組み立てて、意図的に編集して流しているんだって。もう隠していた偏向映像がダダ洩れ……ひょっとして」

 NHKや他の民放に切り替えると、どこも毎朝テレビの事故を報ずるニュースやワイドショーで一杯だ。

「あ、アンテナを壊すんだ!」

 思い余った毎朝テレビは、局の屋上に立っている送信用のアンテナを破壊することを決心した!

 局のアンテナは幾つかあって、東京タワーの縮尺版みたく赤白に塗り分けられたものから、おわん型のパラボラアンテナや、巨大なボールペンの芯のように真っ直ぐなものまで。

 その全てのアンテナに放射電波を供給する太いケーブルを斧で切断している。

「よっぽど流しちゃまずい映像なんだね」

「だれがやったかは分からないけど、放送法なんて有って無きがごとし、日本のマスメディアはとんでもなく保護されてるし、めったにギャフンとは言わないんだけどね……今回は、相当こたえてるねえ……ネットの時代だよ、アンテナ壊しても停まるもんじゃないよ……さ、大学芋でも買ってくるかなあ~」

「あ、ジャージで行っちゃ……」

 以前のように追いかけることはしなかった。

 お姉ちゃんに負けたというよりは、なんだか、まだまだとんでもないことが起こりそうで、動けなかったというのが本当だ。

 

 予想した通り、アンテナを壊しても事態は変わらなかった。

 

 日本中、いや、世界中で毎朝テレビの映像はコピーされて拡散していった。

 同時に、映像の情報を補完するような映像や資料がSNSを通じて大量に出回ることになった。

 国会見学に来ていた中学生が撮った映像に「ここだけ切り取ればいけるよ」と笑いながら官邸を後にする毎朝テレビのスタッフが写り込んでいたり、バラエティーなどで仕込まれたフェイクがバラされたり、毎朝テレビを始めとしたマスメディアの不正のアレコレが暴露することが流行りになって来た。

 しかし、これの原因になったウィルスを撒いたのはいったいどんな奴だろう……。

 不謹慎かもしれないけど、なんだかワクワクしてきて閉口。

 どうやら、わたしも、かなりのミーハーのようだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)      入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹          真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨          対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二            なつきの弟
  •  藤田先生           定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生           若い生徒会顧問
  •  園田 その子          真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生

 

 

 

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