大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・206『Interpreterのブリンダ』

2021-04-08 09:28:55 | 小説

魔法少女マヂカ・206

『Interpreterのブリンダ』語り手:ブリンダ    

 

 

 ジェネラル・グラントの真ん前とは考えたな。

 

 上野公園は日本初の都市公園だが、そこいら辺の街中の公園とはけた違いに広い。

 不忍池を挟んだ東京帝国大学の敷地よりも広く、そもそも不忍池そのものが上野公園の一部だ。

 その上野公園で外国人専用の通訳ボランティアを頼まれたのだが、よっぽど分かりやすいところに居なければ、役に立たない。

 それで、学生たちが考えたのがジェネラル・グラントの松の前なのだ。

 ジェネラル・グラントは北軍の英雄で、退役後は18代大統領になって、大統領退任後、夫人を伴って来日している。たしか、1879年だから、関東大震災の30年あまり前だ。

 大統領経験者の初来日というので大歓迎を受け、明治天皇はジェネラルの宿泊先として浜離宮公園を提供し、接遇に当っては、天皇自らが足を運ぶという厚遇ぶりだった。

 ジェネラルと天皇は気が合って、数時間もアジア情勢などに付いて論議をしたというから、ジェネラルも天皇も偉かったと思う。

 そのジェネラル・グラントが記念植樹した松が上野公園の真ん中にあって、帝都の人間には西郷の銅像と並んで知られている。目印の松も30年の間に目につくほどの高さになって、案内する方もされる方も分かりやすい。

 しかし、分かりやすいのは場所だけで、日本人学生の発音する英語は分かりにくい。日本人の発音下手は百年後もこの時代も大差はない。リスニングも、日本人はいわゆるクィーンズイングリッシュ、イギリスのエスタブリッシュやアメリカ東北部の発音は聞き取れても、中西部や西部、南部訛にはお手上げだ。

 英語でこれなので、独仏語はもっと苦しく、会話の2/3は筆談に頼っているありさまだ。

 むろん、外国人と言っても欧米だけでは無くて中国や朝鮮を始めとするアジア人も居るんだが、そちらは欧米よりも付き合いが長いせいか、在日の者が同胞の世話を兼ねて通訳に当っている。

「エクスキューズミー」

 三件の通訳を終えてテントに戻ろうとしたら、カンザス訛で声を掛けられた。

「はい、なにかお困り?」

「オー、きみもカンザス!?」

 カンザス訛に合わせてやったら、感激の様子で両手で握手してきやがった。

 見かけは新聞記者のようだが、この馴れ馴れしさは鼻につく。

「友だちがドロシーってカンザスの子で、ちょっとね」

「おお、ぼくのお袋もドロシーってんだ、奇遇だね!」

「そうね、で、ご用件はなにかしら? よかったら、お名前と所属もうかがいたいんだけど」

 握った手をやんわりと振り放して本題に入る。

「失礼、ボクはカンザストリビューンのオズマ・ギルバート、あ、これ、名刺」

「どうも……ん? 名刺はオズ・ギルバートになってるけど?」

「maを抜いちゃうと、なんだか間が抜けるでしょ」

「ひょっとして日本語喋れる?」

「ほとんどダメ。日本語ってカンザス人にとってはアク……魔法使いの言葉みたいでさ」

「いま、悪魔って言いかけた?」

「あ、悪魔だなんて! 口にしただけで呪いがかかりそうだよ! エンガチョ!……えと、切ってくれないと収まらないんだけど?」

 両手の人差し指と親指をくっつけて差し出してきやがる。

「ウ……エ、エンガチョ切った!」

 右手を手刀にして切ってやると「OH!!」と大げさに感動しやがる。声が大きいので、周囲のボランティーアたちまでが手を停めて注目する。そりゃ、外人のオッサンと女学生がエンガチョしてるのは日本人がセントラルパークでいきなりタップダンスをやるくらいに珍しいだろうからな。

「オーキードーキー(^▽^)!」

「で、用件は?」

 オズマは息を吸い込むと、ウォルトディズニーのようなウエルカムな顔で言いやがった。

「大仏を買い取りたいんだ!」

「だ、大仏だと!?」

 

 interpreter(通訳)の腕章をしていなかったら、さっさと追っ払いたい衝動にかられたぞ(^_^;)!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

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らいと古典・わたしの徒然草66『花に鳥つくるすべ』

2021-04-08 06:12:58 | 自己紹介

わたしの然草・66
『花に鳥つくるすべ』  


 

 第六十六段「花に鳥つくるすべ知り候はず、一枝に二つつくることも存じ候はず」

 この段は難しいですね。岡本関白殿(近衛家平)が鷹匠に、鷹狩りの獲物を誰かに(天皇?)献上しようとしたことを書いたものです。
「花のついた枝に二羽くっつけて、差し上げて欲しいねんけど」
 関白さんは、自分のアイデアを、家人である鷹匠に言いつけました。ところが鷹匠は、こう答えました。
「花に鳥つくるすべ知り候はず、一枝に二つつくることも存じ候はず」

 口語訳

「花のついた枝に鳥を付けて差し上げるような作法は知りまへんなあ。一枝に二羽くっつけて差し上げることもマナーにはおまへん」
 そう言って、鷹匠は、主人の関白さんに作法を、こんこんと説いて、きちんと作法通りやってのけた。それを兼好のオッチャンは「偉い鷹匠や!」と感心しているのであります。有職故実(ゆうそくこじつ)に詳しい兼好ならではの段であります。

 有職故実というのは、礼儀作法を含めた古来のシキタリのことであります。「有職雛人形」などの言葉に、現在でも、かすかに言葉の意味が伝わっております。
「有職雛人形」とは、古来からのシキタリにのっとった、由緒正しいお雛様である……と、いうことですね。
 しかし、シキタリというものは、時代によって微妙に変化します。例えばお雛様は、お内裏さまが、向かって左。お雛様が右側となっていますが、これは明治に入ってきた欧米のシキタリを真似たもので、それ以前は左右が逆であります。
 時代劇で、武士が正座し、刀を右に置くのは江戸時代に入ってから。それまでは胡座で、刀も左側に置いていました。これは、何かの拍子でキレた武士のオッサンが、勢いで刀を抜いて相手に斬りかかりにくいようにしたものであります。正座のまま刀を抜こうとしたら、胡座より刀を構えるのに時間がかかります。右に置くのもそう。いったん左手に持たなければ刀は抜けません。そのわずかの隙に相手は、身を引けるようにして、「カッとなって切りました」ということが起こりにくいようにしてある。

 シキタリは、長い時間をかけて変化し、取捨選択されてカタチになっていくものです。

 戦後……戦後とは、昭和二十年に終わった大東亜戦争の後の時代を指します。で、戦後、このシキタリが日本史上の最速の早さで、変化し……いえ、その多くは無くなってしまいました。
 分かり易いところでは、トイレ。名前からして変わってしまいました。昔は「便所、雪隠、ご不浄、はばかり、東司、厠」と様々、今は便所以外は通用しないでしょうね。そして、トイレそのものの様式であります。シャレではないが洋式になってしまいました。前世紀末から、これにウォシュレットなるものまで、シキタリ化してきました。
 結婚式、葬式などの変化も著しいものがあります。シブチンの晩婚であったわたしなど、結婚式そのものをやっていません。めんどくさいことと、費用の節約のためであったが、これで縁が切れてしまった親類もいて、今は、いささか反省しております。

 無くなったシキタリで、わたしが一番気にしているのは、卒業式のシキタリです。卒業式という言葉そのものが、公立の学校からは消えてしまいました。卒業証書授与式といいます、なんだか運転免許の交付のように軽々しい言葉になっています。しかし、みんな言葉では「卒業式」といいますね。「卒業証書授与式」という軽い言葉は、司会の教頭が開式と閉式に言うだけです。女性警官を婦警さん、女性看護師を看護婦さんというシキタリも、日常では、まだ生きていると思うのですが。女警とは言いませんよね。

 卒業式で無くなったシキタリは、別れの歌としての『仰げば尊し』『蛍の光』であります。わたしが、ハナタレであったころには、このシキタリは生きていました。昭和四十年ごろから無くなってきて、これは、式日に日の丸を掲揚しなくなった時期と重なると感じます。柔らかくは「市民運動」「学生運動」の活発化の中で。アカラサマには、社会の心情的左傾化の中で消えてきてしまいました。

 卒業式には、生徒からアンケートをとり、年ごとに卒業ソングを決めています。たいていその年の流行歌から選ばれます。個人的に歌としていいなあと思う歌もありますが、卒業式は、やはり明治このかた、培ってきたシキタリとしての、『仰げば尊し』『蛍の光』であると思うのですが。

 ようやく、『君が代』がシキタリとして日の目を見始めました。国旗、国歌を軽んずる風潮は、時として、海外邦人は奇異の目で見られたそうです。スポーツ競技の開会式で、たいていの国では国歌を起立して唄うのに、日本人だけがボサーっと座ったままで、叱られたこともあるそうです。前世紀、長野オリンピックで国旗を「選手団の旗」国歌を「選手団の歌」とアナウンスし物議をかもしたこともありました。たしか、この大会では、こともあろうに対立する国の国歌を間違って流してしまったことがあったと思います。ある国の国旗は掲揚の仕方(縦か横か)によってデザインが違うものがあります。横用のものを縦に掲揚して、これも苦情が来ました。
 その昔、東京オリンピックでは、国旗を上下逆さまに掲揚しないように、停め金具を旗の上と下で別ものにして事故が起こらないようにしたそうです。そういうシキタリに関する気配りが岡本関白殿(近衛家平)のように希薄になってきたように思います。

 他にも、エリザベス女王が来日された際、イギリス国旗を上下逆さまに掲揚したことがあるそうです。札幌オリンピックでは、日の丸飛行隊と呼ばれたスキージャンプの選手が、優勝の喜びのあまり日の丸をかざして滑走したところ、その日の丸をトリミングして消した某新聞もありました。で、以来、今日にいたっております。

 学校の教室を生徒達に掃除させるという有職故実が生きています。

 欧米の国々には無いシキタリのようですね。なかなか良いシキタリだというので、エジプトでは日本式を取り入れてやっているようです。やはり、シキタリにうるさい人間の一人ぐらいは、社会や組織には必要なのかと思います。
 

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真凡プレジデント・46《あら、あたしより早いんだ・2》

2021-04-08 05:43:03 | 小説3

レジデント・46

《あら、あたしより早いんだ・2》   

 

 

 

 あら、あたしより早いんだ。

 

 思わず言ってしまった。

 これまで待ち合わせをしても時間通りに来たことのない池島ディレクター。

 それが、中年になって初めて彼女が出来たオッサンみたいに喫茶店の奥まったシートにチンマリ座っている。

 あまりの奇観に軽口が出てしまう。

 局を辞める三月までだったら、こんな台詞は絶対出てこない。

 辞めた気楽さもあるけど、池島Dにはまとっていたオーラが無い。

 毎朝テレビの敏腕ディレクターにして毎朝テレビ創始者の孫、池島大輔。

 池島Dは、局の数人には友だち然とした軽口を許していた。磊落なディレクターのイメージのためにね。

 あくまでイメージだから、池島本人が望むようなものでなければ許されない。そこんとこを勘違いして干されたり消えて行った業界人が片手では数えられないくらいいる。

 

 今の言い回しは気に入らないはずだ。いつもなら瞬間で表情を強張らせる。

 

 それがフニャフニャと軟体動物的な薄笑いを止めない。

 やっぱ、放送電波の停止が効いてるんだろうか。

「ちょっと新しいことを始めちゃおうってね、思うんだ」

 学生演劇で鍛えた、でも鼻に着く磊落さで、ウェイトレスさんにオーダーするのも待たずに切り出した。

「動画サイト専用の番組を作ろうと思ったりしてね、まあ、十本くらいね。そのうちの幾つかを美樹に任せたいんだけどさ、やってみてくんないかなあ?」

 電波停止から、収録済みの番組をSNSで流している。

 ちょこっと見たけど、やっぱテレビ番組はテレビの額縁を通さないと収まりが悪い。

 スマホで観ると、やっぱ、ゴチャゴチャしすぎてストレスだ。

 なんというか……SNSがカジュアルな普段着だとしたら、テレビのコンテンツはヨソイキのドレスとかスーツとか、コスプレの歌舞伎衣装みたいで暑苦しい。暑苦しいい上に、中身が希薄なものだから、観る気がしない。

 パソコンのモニターで観ればテレビに近いんだけど、SNSの場合、無数のコンテンツの一つになってしまう。

 それが、テレビと同じ尺でやっては持たない。SNSは、十分程度にまとめないとクリックさえしてもらえない。

 

「だから、尺も含めてSNS向きにしてさ」

 

 こういうところは鋭く人の心を読んでいる。七光りとはいえ毎朝テレビのディレクターだけのことはある。

「う~ん、渋谷あたりで一軒店を任せるっていうのなら乗らないことも無いんだけど、テレビは止めとく」

「だったらさ、渋谷の店でもいいから、やりながらさ、店の中から放送するってどーよ」

「え、なに、それ?」

「渋谷のアレコレとか、トピックス式にさ。美樹なら、いいもの作れるよ」

 やわらか頭で切り替えたつもりかもしれないけど、そんなもの、とっくに誰かがやっている。並のユーチューバーがやってるようなことを始めても、スポンサーが満足するような番組が作れるはずがない。

「室井さんとかは? こういう新企画だったら、いつもいっしょじゃない」

「あ、ああ、あいつ、ちょっと連絡付かなくって。それより浮かんだイメージ大事にしたいから直で美樹に連絡とったわけさ」

「ふーーーん」

 取り巻きは、いつでも連絡を取れるようにしておかなければ機嫌の悪い彼の反応ではないような気がする。

「いや、これは美樹がOKくれないと、イメージの段階でポシャってしまうからね」

 ストレートな媚を売るもんだと、ますます気持ちが冷える。

「いや、だから……すまん、電話だ」

 キリリと表情を変えるとポケットからスマホを取り出した。

「もしもし、俺だ……え?……え!? 分かった直ぐに戻る!」

「なにか一大事みたいね」

「あ、ああ、大したことじゃないんだけどね、ちょっと局に戻るよ。あ、また連絡するから……」

 

 そそくさと伝票も掴まずに行ってしまった。

 

 電話の向こうも声が大きいので聞こえてしまっていた。

 どうやら大口のスポンサーが三つばかり降りたようだ。これはドミノ式にスポンサーが離れていくことになるだろう。

 

 帰りの電車の中でネットニュースを見ていると、東京湾に室井ディレクターが浮かんだらしい……。

 ちょっと、ヤバいんじゃね。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
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