大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・209『逢魔が時の張り紙お化け』

2021-04-26 09:00:32 | 小説

魔法少女マヂカ・209

『逢魔が時の張り紙お化け』語り手:マヂカ     

 

 

 黄昏色に染まる上野公園のあちこちから炊飯の煙が上がる。

 避難民の数が多いので、官や慈善団体の炊き出しでは間に合わずに、あちこちで夕食の準備が始まるのだ。

 火の用心には悪いのだけど禁止するわけにはいかない、公的な炊き出しが間に合わないんだ。火の始末の指導に学生ボランティーアはテントを離れている。

 

 大正十二年の九月は令和の時代よりも秋は早い。

 地表は昼間の残暑に温められてボランティーアの学生たちの額には汗がにじんでいるが、地表数十メートルのところには秋の空気が掛け布団のように蟠り、炊飯の煙を留めてしまって、あたかも上野公園の上に霞の蓋をしたようになっている。

 その霞の蓋も不忍池を舐めるように差し込む夕日のために茜に染まっていたが、ノンコやブリンダと簡易夕食の食後のお茶を頂いているうちに、逢魔時の妖色に変わってきた。

「ちょっと、妖しい空気になってきてしもたわね……」

 半日、子どもたちの遊び相手をしていたノンコも、子どもたちが、それぞれのテントやバラックに戻ってしまうと、火照りが覚めて妖色の霞に怖気を振るう。

「ここは幕末の上野戦争の激戦地だったのだろう?」

「ブリンダ、上野戦争なんて知ってるの?」

「ああ、いちおう千駄木女学院の生徒だからな、日本史の授業で習った。彰義隊の少年たちが大勢死んだ。会津の白虎隊と並んで有名な悲劇だ」

「そうだね、もともと上野の山を開いたのは百二十歳まで生きたと言われる化け物坊主の天海大僧正だしね」

「て、てんかい?」

 暗示にかかったノンコが眉をヘタレさせて寄って来る。

「うん、一説によると天王山の戦いで敗れた明智光秀が死なずに生きていて坊主になって、家康に匿われていたものとか、関東一の化け物が人に化けたものとかいう噂がある。まあ、そういう化け物じみた奴じゃなきゃ、江戸の鬼門に寺を建てて江戸の厄除けになろうとは思わなかっただろうね」

「江戸の厄除けって……神田明神じゃ」

「あれは、関東全域の総鎮守だ。まあ、神田明神にしろ天海大僧正にしろ、妖を封じるのには妖をもってするしかないという家康の知恵なんだろうがな」

「じゃ、じゃあ……」

「まして、大震災の後だ……」

「なにかあるかもしれないぞ……」

「ひええええええ」

 わたしもブリンダも意地が悪い、怖がりのノンコをつい弄ってしまう。

 お嬢様の霧子なら「そんなに人を脅かすものじゃないわよ」とか言って止めるのだろうが、夕食を済ましてからは、疲れが出たのだろう、救援物資の山に寄り掛かって居眠りしている。

「ちょ、ちょっと、あれ……なに!?」

 怯えたノンコが道の向こうを指さした。

「「うん?」」

 ブリンダと目を凝らしてみると、公園南口に通じる石段を紙屑の山が上がって来るのが見えた。

「か、紙くずお化けええええええ!!」

 腰を抜かしたノンコが四つん這いになってわたしの後ろに回り込む。

「あれは、張り紙の山だぞ!」

 見覚えがある、公園の南口に尋ね人の張り紙が重ね貼りになったのがあった。

 もともとあったオブジェなのか、ボランティーアが用意した掲示板なのか、行方不明の身内を想う気が凝り固まって、ちょっと化け物じみた感じになっていた。

 その化け物が、のっしのっしと歩いて来て、わたしたちのテントを目指すように進んでくる。

「ここで戦いになったらマズいぞ」

「不忍池の方に誘導しよう、ノンコは霧子を庇って隠れてろ」

「う、うん」

 ノンコが霧子を庇っているのを見届けて、ブリンダと二人で表に飛び出し、化け物を前後から挟んだ。

 すると、化け物は左右から伸びた手のようなものを回して、首のあたりの張り紙を観音開きにした……。

「おのれ!」

「やるか!?」

 ブリンダと二人、後ろに撥ね飛んで姿勢を低くする。

 わたしの手には風切丸、ブリンダの手にはエクスカリバーが具現化している。

 化け物が身じろぎ一つしても、前後から打ち込める体勢になった。

「ちょっ、待っちょくれ」

 化け物が口をきいた……え……この訛は?

「さ、西郷さん!?」

 張り紙の観音開きが全開になって現れた顔は、久しぶりの西郷隆盛の銅像だった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

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ライトノベルベスト〔2元1次連立方程式・2〕

2021-04-26 06:05:12 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔2元1次連立方程式・2〕  




 この日は違った。

 気づいたらシャコタンのローリング族みたいな車が二台歩道まで乗り上げて、ボクらの前後を塞いだ!

「よう、なかなかマブイねーちゃん連れてんじゃんかよ」
 二台のシャコタンから、スタジャンやらジージャンやら怪しげに羽織った四人の悪たれが下りてきた。
「な、オレの勘あたったろ。オスはしょぼいけどメスはいけてるって」
 一番ブ男の反っ歯が言った。
「こりゃ、走りは中止して、パーティーにするか……」
 ブタッパナが同調した。
「お前ら、それでもローリング族の看板しょってるつもりかよ」
 リーダーらしい細目がニンマリ笑いながら言う。
「そうさ、戦の前だ……」
「だって、兄貴、こんなマブイのに、もったいないっすよ」
「だから戦の前に、ネーチャンに精力つけさせてもらうのよ」
 男たちが、ジリっと前後から寄ってくる。細目が不二子の手をとろうとしたとき、不二子の回し蹴りが細目の顎に炸裂し、旋回し終えたところで、ブタッパナの鳩尾に拳をめり込ませていた。

「拓馬、逃げて!」

 ボクは動けなかった。不二子一人を置いて逃げられないという気持ちと、怖さがないまぜになって体が動かない。
「拓馬、早く逃げて、110番して!」
 ようやく意味を理解して、スマホを出し、前の車のボンネットに足をかけようとしたら……天地がひっくり返った。反っ歯に足払いをかけられたと気づいたときには、右手が捩じりあげられていた。
「味な真似してくれんじゃねーか」
「それ以上やると、このタクマの腕がへし折れるぜ」
「ウ……ッ!!」
 細目が、不二子の手を摑まえ、後ろ手に捻りあげた。
「だれかー!!」
 思いっきり叫んだが、産業道路の騒音にかき消される。そして腕が折れる寸前まで、捩じられる。
 ボクも不二子も猿ぐつわをかまされ、手足を縛られて、二台の車の後部座席の床に放りこまれた。

 車が急発進した。もう足かけ五年も通っていてこんなことは初めてだ。何かが狂ってる。

「おい、今のうちに薬打っちまいな。ラリっちまったら、なにしたって分んねえからな」
「あいよ」
 注射器を取り出す気配がする。

 何かが間違ってる。

 何かが今日違ったんだ。

 ボクは必死で考えた……そうだ、今日の塾は阿倍野先生が休みで代講の佐藤先生だった。そしていつもの2元1次連立方程式をやっていないことに気付いた。溺れる者は藁をつかんで沈んでいくのかもしれないけど、ボクはかけてみた。x+y=a 2x+4y=bのaとbに8と16という数字を代入してみた。塾に入った時に初めてやらされた2元1次連立方程式だ。

 答えはすぐに出た。x=3 y=5だ!

 すると不二子を乗せた前の車がバナナの皮を踏んだみたいにスリップし、ボクが乗せられた車が、そこへ追突しした!

 二台とも、車はうんともすんとも動かなくなり、誰かが110番してくれたんだろう、パトカーまでやってきてボクと不二子は事なきを得た。
 解放されて気が付いた。2元1次連立方程式というのは鶴亀算なんだ。阿倍野先生の2元1次連立方程式は、そうだったんだ!

 帰りの無事を期するためのおまじないだったんだ。鶴亀、つるかめ、ツルカメ……。

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真凡プレジデント・64《真凡の絶体絶命・2》

2021-04-26 05:48:48 | 小説3

レジデント・64

《真凡の絶体絶命・2》    

 

 

 犯人は自分のアバターが『ゴルゴ13』ではなくて『ドラえもん』だと気づいて、めちゃくちゃ機嫌が悪くなった。ひょっとしたら、このまま発見されることもなく死んでしまうんじゃないかと心配になる(;゚Д゚)。

 どうやら冷房が効いているようなので、熱中症になることはないだろうけど、このまま、なにも飲めず食べることも出来なかったら……人間飲まず食わずでも一週間は生きられると何かで読んだ。

 でも、今は、凄いストレスだ。

 手と足を縛られて芋虫のように転がされて、冷房……ってことは空気が乾燥している。

 水分を摂らずにいたら、この乾燥状態では三日はもたないだろう。

 何か月も放置されて、ミイラみたくなって発見される。あまりに変わり果てた姿にDNA鑑定しなければ身元が確定できなかったり?

 いや、豊洲の冷凍庫じゃないんだから、冷房と言うのは、やがては切れるか切られるか。

 目が慣れると、どうやら使われなくなった写真スタジオ……的な?

 

 あ、でも、冷房が切れたら、この灼熱の季節。エアコン以外には換気もされていない様子、数時間もすれば40度くらいには室温が上がってしまうだろう。

 熱中症間違いなしだ。

 気だるさや頭痛から始まり、やがて意識がもうろうとして死んでしまう。たぶん半日くらいは苦しんで死ぬんだろうなあ。

 でも、今のところ冷房は効いている……いや、効きすぎている。

 寝転がらされている上に部屋は換気されていないので、いわば冷気の底にいるかっこうだ。

 リノリウムらしき床の下は、おそらくコンクリート。今や寒いと言っていい冷気は数十分後には拷問になっていくだろう。

 

 う……

 

 出かける前にトイレに行かなかったことを思い出す。

 ヤバイ……そうだ、お通じもこの二日ないんだ💦

 思い至ると、三日ぶりの〇意を感じる。

 グヌヌ……ヤバイヤバイ。

 自分の身から出たモノにまみれたあげくに熱中症のグダグダになって発見されるって真っ平だ!

 

 そ、そうだ、気をそらすんだ!

 

 なにか他の事を考えて、気をそらすんだ!

 すると犯人の言葉が浮かんだ――姉に似すぎているんで、お前自身の印象が薄いんだ――

 これは、ひょっとして真実なのかもしれない。

 子どものころから、お姉ちゃんは目立つ子だった。

 可愛くって、どこか天然で、でも、いざという時はシャキッとしていて、周囲の大人たちからも愛されていた。

 なまじ、顔のパーツが似ているもんで、人は、わたしの顔を思い浮かべるとお姉ちゃんの顔になってしまい――はて、妹の真凡はどんな顔だったっけ?――ということになってしまったのではないだろうか。

 だから、こうやってお姉ちゃんに間違われて拉致されてしまった。

 そうだ、これからは、もっと自分を磨かなければならないんだ! 自分の感性を研ぎ澄まさなきゃならないんだ!

 研ぐという言葉から、包丁が砥石で研がれているところが浮かんだ。

 包丁は、数十回研がれると水を掛けられて、研ぎ具合を見られながら、さらに水を掛けながら……ああ、水を思い浮かべると床と冷気の冷たさがひとしおになっていくよ~💦

 せっかく64回目を迎えた連載も、これでお終いか……主人公が死んで終わりになるラノベって、ちょっとルール違反……いや、あいつならやりかねない……いえ、ごめんなさい! 作者の事は信じていますから、なんとか……もっと活躍しますから……そこをなんとか……ああ、ああ……目の前が暗くなってき……た…………

 

☆ 主な登場人物

 田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生

 田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ

 橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き

 藤田先生     定年間近の生徒会顧問

 中谷先生     若い生徒会顧問

 柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス

 北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲

 福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長

 伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

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