大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・72『在校生は参加しない入学式』

2021-04-06 09:40:13 | ライトノベルセレクト

やく物語・72

在校生は参加しない入学式』    

 

 

 今日は学校の入学式。

 例年なら二年生の学級委員が在校生代表で参加する。参加すると、紅白のお饅頭がもらえるので、ちょっと楽しみにしていた。

 紅白のお饅頭なんて、いつでも買えるし、値段だってしれてるんだけど、式に参列した証に学校からもらえるとなると、ちょっと特別な感じがする。

 でもね、コロナが第四波のピークだとかで、在校生の参加は無くなってしまった。

 

 昨日は小学校の入学式だった。

 中学になって転校してきたので、この市(まち)の習慣は分からない。

 自転車で散歩に出たら、小学校の校門に入学式の看板が出ていたので、中学とは日にちが違うんだと思った。

「なんでかな?」

 牛乳を飲みながらお爺ちゃんに聞いてみる。

「そりゃ、兄弟で小学校と中学の入学式が重なったら、困る親が出てくるだろ」

 温めたコーヒー牛乳を飲みながらお爺ちゃん。

「あ、そうか」

 納得しかけたら、お婆ちゃんが意見を言う。

「ただの習慣でしょ。小学生と中学生の新入生がいる家なんかめったにありませんよ」

「でも、めったにはあるんだから、配慮してるんじゃないかなあ」

「いいえ、ただの習慣。年度末に道路工事が増えるのと同じです」

「アハハ、そうかそうか」

 お爺ちゃんは、笑って、それ以上の話にはしなかった。

 入学式と道路工事はいっしょにはならないだろうと、わたしでも思う。

 ひょっとしたら、お婆ちゃんは役所とかに思うところがあるのかもしれない。それを知っているから、お爺ちゃんは、あっさり引き下がった?

「やくもはコーヒー牛乳でなくてもいいのか?」

 話題を変えようとしたのか、先日のコーヒー牛乳のやり取りを憶えていたのか、わたしの牛乳を見咎める。

「うん、牛乳の方が発育にいいっていうし」

 何気ない合いの手のような返事なんだけど、お爺ちゃんの視線が、わたしの胸に向く。

「あ、あ、そーいうことじゃなくって(^_^;)」

「昭介さん!」

 お婆ちゃんが亭主を叱る。

「あ、いや、ちがうちがうよ、ねえ、お爺ちゃん(^_^;)」

 ワタワタと手を振る、グラスをシンクに置いて「散歩行ってきまーす!」と玄関に。

 

 その入学式を寿ぐような日本晴れ!

 わたしは、名残の桜でも愛でようかと愛車のペダルを蹴った。

 街の桜はほとんどがソメイヨシノ。

 ソメイヨシノは接ぎ木とか挿し木とかで増えていくので、みんなクローンなんだそうだ。

 それでも個性はあるみたいで、大半のソメイヨシノが散っても残っているのが居る。

 そういうのを見て回って――がんばってるんだ――と、エールの交換をするんだ。

 二丁目の坂を下る曲がり角。

 曲がると、目の前をうちのセーラー服が二人歩いている。

 ひとりは、ダブッとして白線もスカートのプリーツも初々しい新入生。

 もう一人はピッタリサイズの在校生。

 姉妹?

 でも、在校生の参列は無くなったはず……?

 追い越しざまにチラ見する。

 あ、染井さん!?

 染井さんは、旧正門の脇に立ってる桜の精。ときどき生徒の姿になって歩いている。

 でも、現れるのは校内と学校の周辺だけで、こんなに遠くに現れることはない。

――坂を下って曲がったところで待ってて――

 染井さんの思念が飛び込んできた。

「分かった」

 言われた通り、角を曲がって片足ついて自転車を止める。

――実は、この子学校に行くのが怖くって家から出られなかったの。このままじゃ、入学式にも出られないまま不登校になりそうで、それでね、エイヤ!って、ちょっと頑張ってお迎えに行ったわけなの――

「そうなんだ……」

――ちょっと力使いすぎてるから、当分は人の姿にはなれないの。やくも、心配してくれてるみたいだから、事情だけは説明しとくね――

「そ、そうか……がんばってね」

――うん。先に行ってくれる。見えてる人が居ると、ちょっと力使いすぎるから――

「うん、分かった」

 グン!

 ペダルを踏み込むと、そのまま学校の前まで自転車を走らせる。

 正門には『令和三年度入学式』の看板が置かれて、門柱脇の桜は二割ほど残った花びらをハラハラと散らせている。

 通用門まで行ってみると、昨日まで半分くらい残っていた花が全部落ちてしまって、なんだか骸骨みたいになっている。

 染井さん、あの子の為に全力出し切ったんだ。

 ちょっと胸が熱くなる。

――気づいてあげてくれたのね、ありがとう――

 振り向くと、銅像の愛さんが微笑んでいた。

 開いていたら気づく人もいたかもしれないけど、安全のためなのか人手不足のせいか、通用門は締め切られたままだった。

 

「お饅頭届けてくださったわよ」

 家に帰るとお婆ちゃん。

「え、だれが?」

「うん、インタホンで『係りの三年生です』って。出て見たら郵便受けに置いてあった」

 

 きっと、染井さんだ……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草64『車の五緒=ステータスシンボル』

2021-04-06 06:51:06 | 自己紹介

わたしの然草・64
『車の五緒=ステータスシンボル』  



徒然草 第六十四段

「車の五緒は、必ず人によらず、程につけて、極むる官・位に至りぬれば、乗るものなり」とぞ、或人仰せられし。


 短い段ですが、解説がいりますね。

 車とは牛車のことで、「車の五緒」とは、車輪の上のコンパートメントのような部分の簾(すだれ)にかけられた、細い平帯状の飾りのことです。兼好から見て昔の平安時代とかには、この五緒の簾をかけた牛車に乗れるのは、それなりの身分、位階を持った人間で、いわば、それに乗っているだけで「カッコイイ! セレブゥ!!」と、羨ましがられたステータスシンボルでありました。
 それが、兼好の時代は、貴族の衰退と共にやかましく言われなくなり、それほどの身分でなくても乗れたわけで、有職故実(昔のシキタリ)に詳しい兼好には、ややナゲカワシイことであるようです。で「或人仰せられし」などと人が言ったようにしていますが、本当は本人の嘆きであるようです。

 で、今回はステータスシンボルについて考えてみようと思います。

 昭和の懐かしい時代には「三種の神器」というステータスシンボルがありました。
 テレビ、洗濯機、冷蔵庫、がそれです。今は、こんなもの誰でも持っています。

 最近はテレビが必需品の座から滑り落ちかけて、若い人はスマホかパソコンがあれば十分という人もいて、半世紀以上続いたテレビの神器としての価値は急速に薄れようとしています。

 時代がくだると、「3C」と言われ、自動車(特に外車)、カラーテレビ、エアコン(昔はクーラーと言った)になりました。これも今ではステータスシンボルとは言えなくなってきました。今の若者は車に乗らない人が増えてきたし、アナログのカラーテレビは常識どころか、地デジのおかげで過去の産物になり果ててています。エアコンなど当たり前で、どうかするとエアコンを使わずに、涼をとるほうが、なんだか「エコやってます」と、カッコイイと思われるくらいであります。
 車で外車なんか乗っていると、「燃費の悪い車に乗ってアホかいな」と思われた時代も、もう古く、車なんぞ、今や靴と同じ感覚。履いていて当たり前。中には、サンダルやスニーカーで済ませる若者やオジサンも増え、ステータスシンボルでは無く、趣味の問題になりつつあります。

 現代社会は、ステータスシンボルが無くなった。あるいは、あまり意味のない時代になってきたように思うのですが、どうでしょう。

 で、ステータスシンボルとまでは言わなくとも、一般にカッコイイと思われることを考えてみました。
「成城に住んでますの」
 ちょっとカッコイイ。しかし「葛飾柴又です」というのも同程度にカッコイイ。
 関西では、芦屋や近鉄の「学園前」などカッコよかったが、今は、それほどではありません。
「海外留学」昔は、たいそうなお嬢ちゃん、お坊ちゃんがなさることでしたが、今では、長期の海外旅行とあまり意味は変わりません。むろんマサチューセッツ工科大学やケンブリッジなどは別格ですが、別格ということが一般化していないのでステータスシンボルとは言えません。「ケンブリッジ……どこのブリッジ?」の世の中であります。

 話しは変わりますが、全学連が存続の危機に立たされているそうです。全学連の参加団体の最大の東京大学が全学連から脱退したからだそうです。
 先日、このことをツイッターで呟くと、「全学連なんて、まだあったんですか!?」というツイートが返ってきました。
 ぼく達の若い頃は、全学連というと、恐れと尊敬の入り交じった目で見られたものであります。このツイートを返してきた人は、まだましで、たいがいの若者は「ゼンガクレンて、なんですか?」になる。
 東京大学も値打ちが下がりました。以前は東大出の芸能人ということだけで売りになりましたが、今は、それほどでもないのではないでしょうか。いつだったか、東大現役女子大生がヌードになったと騒がれたことがあったが、今では、そんなことではスポーツ新聞の記事にもならないでしょう。

 ザックリ言って、現代社会はステータスシンボル喪失の時代なのではないかと思います。
 

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真凡プレジデント・44《勝負はこれからなのだ》

2021-04-06 06:21:19 | 小説3

レジデント・44

《勝負はこれからなのだ》   

 

 

 

 盗難届が受理されたので、スタバなどから防犯ビデオが警察に提供された。

 

 毎朝テレビの記者がUSBを抜き取るところだけ確認できればいいと思っていたが、毛利刑事は近隣の防犯カメラも確認して、記者がタクシーに乗り込むところまでの証拠を確保した。

 タクシーは直ぐに割り出され、運行記録と運転手の証言で毎朝テレビまで客を乗せたことも裏がとれた。

 そして、その記者がもどってから十二分後に毎朝テレビの放送電波が停まってしまったことも判明した。

 

「でもなあ、肝心のところが写ってない……」

 

 毛利刑事は、ジュースのストローの袋を丸めたのに水を垂らしながら呟いた。ストローの袋は断末魔の蛇のようにクネクネと身をよじる。子どもがやりそうな遊びだが、喫茶店でさえタバコが喫えなくなってきたので、苦肉の策で編み出した禁煙対策であるらしい。

「キミがトイレに立った後、キミが居た席の前を二人の客が通過して……通過し終わった時にはUSBが消えている。スローで再生すると、毎朝テレビの記者がわずかに身じろぎしているんだが、盗った瞬間は確認できない。向かいの店のも通行人と被ってしまって、瞬間を捉えられてはいない」

「記者には聴取されたんですか?」

「任意でな。むろん盗ったとは言わないけどな」

 あのUSBにはウィルスが仕込まれているが、毎朝テレビが欲しがっていた不都合な映像もちゃんと入っている。

 時間的に言えば、USBを局のPCに繋いだのが電波停止と重なることが分かるんだけど、同時刻にいろんなPCのキーが叩かれ、ダウンロードやインストールが行われ、いろんなところから信号や情報が送られてくる。どれが感染の原因かは突き止めにくいし、そんなドジなことで放送局にとって命と言っていい放送電波が停止したとは思いたくないだろう。

「並の盗難事件なら、これ以上は追いかけられない。総務省からの指示もあって継続するけど、まあ、あまり期待はしないでくれ」

 それだけ言うと、毛利刑事は伝票をつかんでレジに向かった。

 

 これで十分だ。

 

 警察も努力した。放送局も盗んだことを認めるわけにはいかない。あのUSBを解析しただけでは、それが原因だとは断ぜられない。

 そして、俺はUSBを盗られた被害者の立場が確定した。

 次の展開は予想よりも早くやって来た。

 毎朝テレビはSNSを通して番組を配信し始めたのだ。

 いつまでも電波が停まったままであると、スポンサーが黙っていない。

 これも織り込み済みの話で、本当の勝負はこれからなのだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)      入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹          真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨          対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二            なつきの弟
  •  藤田先生           定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生           若い生徒会顧問
  •  園田 その子          真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生

 

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