RE・友子パラドクス
五百坪はあろうかという敷地に一同は驚いた。
「町の中心部からは離れているけど、この方が落ち着けると思うの」
タクシーの支払いをカードで済ませた梨花は言い訳のように言う。
「でも凄いよ梨花さん。うちんとこの町内が丸ごとおさまっちゃう。ゲフ!」
コーラを半分ほど飲んで、麻子はゲップと感嘆詞をいっしょに吐き出した。
「お庭もきれい!」
「助かったような残念なような(^_^;)」
妙子が感心し、紀香は少し残念そう。
「広いだけじゃないわ、趣味がいいし、手入れが行き届いている。わたし、庭のお手入れ覚悟して軍手もってきちゃった」
同じ軽井沢に別荘を持っている純子が、残念なような嬉しいような様子で軍手を振り回した。
「軍手は正解よ。ほら、裏に周ると……」
「「「「「ああ」」」」」
表から見えないところは、ちゃんと刈り残してある。150坪分ほどはありそうだ。
「表の方は見本なんだね」
妙子が真面目に解釈する。
「アハハ、半分はドッキリだね(^▽^)」
「あと、水やり。四カ所に水道があるから、明日からがんばりましょう。それから、あそこに積んである丸太は一日十本ずつ、冬用の薪割りをしなくちゃならないみたい……よろしくね」
梨花が、済まなさそうに言って中に入る。
建物はロッジ風の二階建てで、それほど巨大には見えないが、スッキリしていることと、建具が標準よりも大きいので、中に入ると広いと友子は思った。
「うわー、外から見るより広いね。ゲフ!」
麻子が、残りのコーラを飲みきって感動した。
「うちよりステキ……」
純子がため息、
「でも、よーく見て」
梨花が視線を低くしたので、みんなもそれに習った。
「オー、ホッコリだーらけ!」
分かっていながら紀香が、おどけるように言った。
「まあ、自助努力の教育よ。がんばろう!」
義体の能力を封印して、友子が宣言した。
「じゃ、とりあえず部屋に行きましょ。わたしたちが使うのは二階のゲストルーム」
「ヤッホー!」
「六人の大部屋のほうだけどね」
「いいじゃん、修学旅行みたいで!」
ゲストルームだけは、掃除が行き届いていた。で、それぞれのベッドの上には、掃除用のツナギ、帽子、マスクなどが揃っていた。
部屋だけ掃除して、廊下は、ちゃんとホコリが積もっている。梨花の両親の気合いの入れ方がよく分かった。
家具に掛けられたカバーを取ると、いっそうホコリが舞い立ったが、そこは若さ、キャーキャー言いながら掃除にかかった。
あらかた終わったところで、梨花が遅い昼ご飯を作りに厨房に入った。
「手伝おうか?」
「じゃ、食器を適当に並べてくれる?」
「お料理の方は?」
「あ……もうやりかけたから、わたしがやるわ」
「なんだか、あたしたち、お料理ヘタクソのオジャマ虫みたいじゃん。梨花」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね(^_^;)」
たしかに、梨花の手際の良さは手伝うと邪魔になりそうだ。
「なんだか悪いねえ」
妙子の言葉が、すまなさそうだが友だち言葉になっている。みんなで労働したことで距離が縮まって仲間意識が芽生え始めたのだろう。
ジュワー!
野菜を炒める盛大な音、見事なフライ返し。みんな、ひたすら、フクロウのように「ホー、ホー!」であった。
「三把刀(サンバーダオ)の華僑って聞いてはいたけど、梨花ちゃんもたいしたもんね」
紀香が先輩面で言う。もっとも昼ご飯の天津飯と唐揚げを最初に平らげたからではあるが。
「なんですか、その三把刀(サンバーダオ)ってのは?」
友子が、分かっていながら後輩の顔で聞く。
「仕立て屋、調理、理容、この三つの技術があると、華僑の人たちは世界中どこでも食べていけるって、たくましさと覚悟を同時に表現した言葉。でしょ、梨花ちゃん?」
「ええ、わたしなんか、まだまだですけど」
奥ゆかしく恥じらう梨花は、清楚な中にタクマシサを感じさせて、友子には好感であった。
「ね、あの油絵の男の人って、孫文さん?」
「あ、それは、わたしの大叔父のお父さんなの」
友子は、たいがいのものからはその情報を読み取ることが出来たが、この絵を描いた人は気迫以外は、みんな消し去っている。人間にこんな事ができるのかと感心した。
そして、この先、この絵が呼び込んだとしか思えない事件……それは、この旅行の少し先に起こることであった……。
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士