大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・056『ジュリエットの秘密とわたしの不思議』

2023-10-10 15:09:27 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

056『ジュリエットの秘密とわたしの不思議』   

 

 

 文化祭に続いて体育祭も無事に終わった十月第二週の一時間目。

 授業にやってきた杉野先生が、教壇にも立たずに教室の入り口で告げた。

「いまから、臨時の全校集会だからグラウンドに集合、すぐに移動して」

 同時に教頭先生の声で『一時間目は臨時の全校集会になります、生徒諸君はグラウンドに集合してください。下足には履き替えず上履きのままで集合しなさい』と同じ内容を放送。杉野先生はセカセカした足取りで帰って行ってしまった。

 

「一年四組の栗原恵さんが、先月の26日に亡くなられました」

 

 ええ…………!?

 

 声が上がるわけじゃないんだけど、大方の生徒たちから驚きの気が立ち昇る。

「栗原さんは、健康診断で異常が発見され病院にいきましたが、少し重篤な病気が発見されました。病院は、ただちに入院し治療にあたることを勧めましたが、学校が大好きな栗原さんは、学校に通いながら治療する道を選び、9月25日まで通学されました。ご両親やお医者様たちが懸命の治療に当られましたが、薬石功無く、9月26日早朝、ご両親に見守られながら永眠されました。学校へは、その日のうちに連絡がありましたが、文化祭体育祭を控え、生徒諸君も準備に忙しく、また楽しみにしているということで、ご本人の強い意志で体育祭が終わるまで発表を控えておりました……」

 そこまで教頭先生が説明すると、四組の列からはすすり泣きの声が上がり、中にはしゃがみ込んで立ち上がれない女子も居る。

 花園先生と保健室の村田先生が列の中に入って声をかけている。

 四組の生徒も知らされていなかったんだ。

 治るって言ってたから……戻って来るって……大丈夫だって……なんで……どうして……嗚咽しながらの声がわたしたちの列にまで聞こえる。

 花園先生がジュリエットを演ったわけが分かった。

――わたしは、もうできないけど、文化祭、成功させてくださいね――

 苦しい息の下、栗原さんは花園先生に頼んだんだ。

――先生がジュリエット演ったら、みんな喜ぶと思います……わたしも観てみたいし……――

 それで、花園先生、急きょジュリエットをやることになったんだ……体育館のギャラリーでご両親が観ていたのは、そういうことだったんだ……。

 

「それでは、栗原さんのご冥福を祈って一分間の黙とうを捧げます」

 

 1200人の生徒が居住まいを正した。

 

「黙祷!」

 

 すこし気合いの入った声で号令をかける教頭先生。

 

――細かい説明は後日にしましょう――はい、生徒たちも動揺していますんで――

 校長先生と花園先生とのやりとり、朝礼台の教頭先生にもヒソヒソと伝えられて、三人の学年主任の先生にも申し送られる。

「黙祷終わり……それでは、教室に戻って一時間目の授業になります。午前中の授業は五分短縮の45分、午後は通常の50分授業になります。では、一年生から教室に戻ってください」

 教頭先生の言葉に生指部長の若杉先生が続く。

「グランドから出る時、上履きの泥を落として、校舎に入る時も、もう一度泥に気を付けるように」

 杉野先生は、ちょっと不満そうな顔で戻っていく――ちぇ、一時間目無くなると思ったのに――あいかわらず、授業のきらいな先生だ。

 四組の女子たちは、泣きの涙、お互いに支え合いながら教室に戻っていく。

 

 ……お祖母ちゃん気が付いていたんだ……本番の時、ギャラリーに居るご両親に気付いていたし。

 

「今日は、もう自習な」

 ひとこと言うと、杉野先生は教室に入りもしないで帰って行ってしまった。

 すれ違いに花園先生が階段を上って来る。手に花瓶と栗原さんの写真が入った写真立て。

 ちょっと持ちにくそう、杉野先生、知らんふりして……あ、花園先生よろめいた!

 

「持ちます」

 

 気が付いたら、階段の踊り場まで出て花園先生を支える。

「あ、ありがとう時任さん」

「いいえ、どういたしまして」

 四組は、一日授業にならなかった……授業に来た先生たちも、そっとしておいたり、自習にしたりしていた。

 

 休み時間、職員室の前を通って愕然とした。

 先生たちの話が聞こえてしまったんだ。

 

――じゃあ、やっぱり最後まで手術しなかったんですか――

――ええ、宗教上の理由で、身体にメスを入れられなくって――

――そんなことって……――

 

 ええ!?

 

 そこだけが聞こえて、あとの会話はくぐもって聞こえなくなった。

「ちょっと、メグリン、だいじょうぶですか?」

「え、ああ、ロコか(^_^;)」

「ボーっとしてぇ、魂ぬけたみたいですよぉ」

「え?」

 あれ、職員室の前に居たはずなのに。

「あの……」

「なに?」

「一時間目も、いっしゅん消えたかと思ったら、花園先生の荷物持ってあげて前の廊下歩いてましたよ」

「あ、それは!」

「あ、ちょ……」

 佳奈子が飛んできてロコを引っ張って行ってしまう。

 窓際の席にお仲間が集まって、目が合うと「あははは(^_^;)」と困ったような笑顔を返してきた。

 

 きょうのわたし、ちょっと不思議。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・43『東京異常気象・2』

2023-10-10 07:14:23 | 小説7

RE・友子パラドクス

43『東京異常気象・2』 

 

 

 劇団季節が大橋むつおの『ステルスドラゴンとグリムの森』をやっていたのが不幸のもとだった。

 

 全ての芸術がそうであるが、演劇もインプットとアウトプットが必要である。たまには人の芝居も観て肥やしにしなければならないということで、演劇部三人娘の友子・紀香・妙子の三人は、理事長先生からもらったチケットで劇団季節『ステルスドラゴンとグリムの森』を観ての帰りであった。

 帰りの地下鉄は混んでいた。

 芝居帰りの乗客も多かったが、その二つ向こうの東京ドームでは、これから始まるAKRのライブがあり、そこに向かう乗客が、その何倍も乗っていたのだ。

「うわぁぁぁぁ(꒪ꇴ꒪ ; )!」

 地下鉄に乗ったとたん、のんびり屋の妙子は、要領の良い友子や紀香とはぐれてしまい、車両の端のシルバーシートのところまで、押しやられてしまった。

 妙子は、情けない顔をしていたが、車両中央で妙子のポニーテールの頂が見えている友子と紀香は、半分意地悪な気持ちで寛いでいる。

 なんといっても同じ車両だ。それに妙子の周りは女の子ばかりで、痴漢の心配もなさそう……が、次の駅で若い男が緊張した顔で乗り込んできて妙子の左斜め後ろに立った。妙子は痴漢ではないかと気になったが、友子がサーチしたところ痴漢の気配はなかった。それどころか、ガラに似合わず頭の中はAKRのヒット曲がヘビーローテーションしている。

――なんだ、ちょっとイカツイけど、ただのファンじゃないの――

――しばらく妙子にはスリル味わってもらおうか――

 友子と妙子は気楽に構えた。

 三つ目の駅に着いたとき、事件が起こった。

 

「け、警察呼んで下さい( #꒪⌓꒪#)!」

 

 妙子が震える声で叫んだ。震えていても、演劇部なので声は良く通る。

 若い男は、ビックリして車両を飛び出した。妙子は男のシャツを掴んでいる。妙子はそのまま車両のドアから出てしまった。

 友子と紀香は瞬時に状況を把握して行動を起こした。

――動かないで!――

 友子は声を出さずに男を威圧した。

「だめじゃない、妙子、谷口さんを痴漢と間違えちゃ」

「「え……?」」

 二人の口から同じ声があがった。かわいそうだが、妙子の意思を友子は支配した。

「なんだ、痴漢じゃなかったんですか」

 駆けつけた駅員も、ホッとしていた。

「すみません、知り合いのお兄さんなんです」

「谷口さんだとは思わなかった、どうもご迷惑かけました」

 男は、訳が分からなかったが、ひとまず安心した。

「まあ、スタバでゆっくり話でもしましょうか……谷口三等海佐」

 谷口三等海佐はギクリとしたが、友子がかわいく掴んだ左の人差し指が万力で挟まれたようにビクともしなかった。

 直ぐ後に来た地下鉄に妙子を乗せ、友子は谷口三等海佐とスタバに向かった。

 

「考えたわね、AKRの『秋色ララバイ』がアイポッドから聞こえたら女にUSBを渡すことになっていたのね」

「な、なんの話だい?」

 谷口は開き直った。友子はテーブルの下で、谷口の足を500キロの力で踏みつけた。

「い……(>д<)!」

「これでしょ、あなたが女に渡したの」

 友子は、スマホの画面を見せた。USBの外観が現れたあと、その中身がサーっと画面を流れていった。

「建造中の『あかぎ』のスペックとイージス艦の展開予定が全部入っている。ひっかかったのねぇ……ハニートラップに。日本人として近づいてきたけどC国のスパイだった。気づいたのは体の関係ができてからね。仁科亜紀って日本名しかしらないようだけど、あいつは宋美麗ってコードネームのスパイなのよ」

「宋美麗……?」

「日本の諜報って、この程度なのね、オニイサン」

「キ、キミは、いったい(;゚Д゚)?」

「ヤダー、へんな目で見ないでよ、ただの軍事オタク少女。たまたまヒットしただけですぅ」

 

 そのころ、紀香は宋美麗のあとを着けて地下鉄のエスカレーターを上がっていくところであった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

 

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