大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・38『ベターハーフ・1』

2023-10-05 14:00:31 | 小説7

RE・友子パラドクス

38『ベターハーフ・1』 

 

 ペシ

 

 後頭部に当たりそうになった消しゴムのカケラを、友子は見事に打ち返した。

「イテ(>д<)!」

 友子の見事な反撃とイケメン保健委員の情けない叫びに、教室は軽いどよめきの後クスクスと笑いが広がった。

「……授業中は静かにしろぉ……」

 板書の書き写しが終わるのを腕組みして待っていたアズマッチは、心ここにあらずという感じで言うだけだった。

――へんだなあ……?――

 そう思いながら、亮介はダメ押しに誤ってみた。

「すみません。ニキビをさわってたら潰れてしまったんです」

 なるほど、亮介のオデコには五ミリほどの赤いシミがついている。

「ニキビなあ…………」

 アズマッチは、ボーっと、なんだか思いに耽っていった。みんな、少し意外だった。

 日ごろ明るいアズマッチなら、持ち前の三枚目キャラで楽しく授業を脱線させるところだ。

「……次いくぞ」

 アズマッチは、淡々と板書の続きを書き始めた。

 

 この半月余り、亮介は、友子への消しゴム投げに熱中していた。

 

 最初は授業が退屈なために消しゴムを刻んでもてあそんでいたら、大きなクシャミが出て、それが、たまたま友子の背中に当たったのが始まりだった。面白くなった亮介は、二発目を指の先で弾き、今度は友子の後頭部にヒットした。

 友子は無反応だった。

 友子は、そのころ娘の栞と命がけの戦いをやっていたので、こんなアホらしいことに付き合っているひまがなかった。が、履歴には残っている。

「亮介、一発目はクシャミの偶然、二発目はただのビギナーズラックだからね。今度はちゃんと狙ってみそ」

 で、友子も了解した上で、この消しゴム投げは始まったのである。

 ただし、回数は、授業一時間につき三回までと決めていた。午前中の四時間で四割を超えないと、亮介は昼ご飯を奢ることになっていた。

「だめだねえ、亮介は。今日は三割二分だよ」

 そう言いながら、友子は奢らせたタヌキそばをすする日々が続いた。いまでは、クラスみんなのちょっとした娯楽になっている。

 それが、今日のアズマッチの時間に、友子は初めて反撃したのである。ひょいと身をかわすとシャーペンを鋭くスゥイング。消しゴムは、時速五十キロのスピードで、亮介のオデコにヒットしたのである。

「なんで、打ち返してくんだよ」

「動かない的じゃ、つまんないでしょーが(^血^)」

「ようし、それなら……」

 休み時間の会話から、消しゴム投げは、反撃ありの試合になってきた。

 

 友子にとっては憩いの時間であった。

 

 栞とも和解し、C国と不正な関係を持っていた長官は逮捕された。宇宙人アイも、何も言ってこない。幽霊の水島君も、すっかり女子高生水島結衣として生き始め、Jポップのルーキー『バニラエッセンズ』としてオリコンのトップテン入りを果たした。

 友子にとっては、初めての息抜きキャンパスライフだ。

 それで、亮介とのゲームをおもしろくしてみたのである。

 その日の昼休み、亮介の顔のシミは十二個に増えていた。

 

「まだ、続けるでしょ( ̄ω ̄)?」

 

 戦利品のA定食を食べながら、友子はほくそ笑んだ。

「明日は、こんなわけにはいかないからな!」

 亮介は闘志満々だった。

 

 しかし、食堂の帰りに廊下で、担任のノッキー先生に見とがめられた。

 

「どうしたの、徳永君、その顔の赤いブツブツ」

「あ、いえ、これは……(;'∀')」

 そのまま、保健室に連れて行かれた。責任上、友子も付いていった。

「こりゃ、全部打撲だわね」

 保健室の先生には、あっさり見抜かれた。

「なんで、こんな打撲があるのよ!?」

「いや、実は先生……」

 友子が、亮介を庇って、真実を言った。保健室の先生は笑っていたが、生真面目なノッキー先生は怒り心頭。

「授業中に、なにやってんのよ、ったく!!」

 

 真面目なノッキー先生は、自分のところで済まさず、二人を生徒指導室に連れていった。

 

「ごめん、亮介……」

「ノッキー、チョーまっすぐだから」

「なに、しゃべってんの!?」

「こりゃ、たいした腕だ……」

 生指部長の梅田先生は、叱る前に感心してしまった。亮介の制球も見事だが、友子の打撃も立派だった。

「先生、叱ってやってください!」

 ノッキー先生の一言で、一応叱られておしまい。

 問題は、そのあとに起こった。

 

 廊下ですれ違ったアズマッチは、堅い表情でノッキー先生に普通に目礼したが、友子は気づいてしまった。

 

 呼吸、目の潤い、心拍数、微妙な筋肉のこわばり……

 アズマッチはノッキー先生のことが好きなんだ!!

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
コメント
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