大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・82『B国王城接見の間』

2023-10-31 15:25:08 | 小説3

くノ一その一今のうち

82『B国王城接見の間』そのいち 

 

 

「サマラ(アデリヤの母)は元気にしておるか?」

 

 アデリヤ姫に言葉を向ける国王は、サマラ王妃の兄というよりは父親、いや祖父かと見間違えるほどに老けている。

 サマル王子が父親似だということが初対面でも知れるのだけど、刻まれた皴や目の縁のクマ、丸くなった背中に国王として置かれた立場が容易なものではないことを物語っている。ここのところの草原の国からの圧力、軍事的緊張で心身ともに擦り減っているんだろう、王立牧場の難民キャンプでボーイスカウトみたいに生き生きしているサマル王子とは対照的すぎる。

「はい、大臣たちが父をよく輔弼し、国連や友好国からの援助も受け、緊張感はありますが、いたって前向きに過ごしております。母も、そんな父に安心して明るく過ごしております」

「そうか、それはよかった。王族第一の役目は臣民たちを安心させることだからな、なによりのことだ」

「父上は気に病み過ぎです、我がB国にも優秀な軍人や役人が山ほど居ります。みな、父上を輔弼し、我が国の進路過たぬように努力しております」

「え、あ、そうであったな……しかし、サマル、そなたも皇太子なのだから、少しは城に居て大臣たちの話に加わらぬか」

「我が国は、三権も軍事も国王が最終最高の権能を持ちます。むろん、大臣たちの輔弼を受けてのことでありますが、国事の最高意思決定を国王隣席の御前会議で行うのは、その基本を外さぬためであります。その席に皇太子たる自分までが同席するのは大臣たちへの圧が強すぎましょう。闊達に意見を交わし、過たぬ決定をするには要らぬ圧力になりかねないことは控えるべきかと。いま、国民と世界の目は難民への対応に向いております。これを抜かりなく処理するのが、陸軍少佐でもある、このサマルの役目かと存じます」

「む、そうではあるが……このままでは、A国と肩を並べてアデリヤの国に攻め入ることになりかねないぞ」

「陛下は国家の良心であります、常に臣民と地域の安定発展に向けた決断をされるものと信じております」

「弁えておるのう」

「はい、国家の意思決定にあっては皇太子と言えど、一臣民にすぎません」

「やれやれ、百年前の革命のおりにサマル一世が残した言葉であったな……そう言えば、アデリヤ、その衣装は映画の撮影のためか?」

「これは……」

「そうなのですよ、父上。B国は、いよいよ『バトル オブ ハイランド』の製作に入るのです。世の中が平和な証拠です」

 キャンプから直接王城までやってきたので、わたしもアデリヤ姫も変装のままだ。

「『バトル オブ ハイランド』は三国がまだ一つであった頃の物語、あの時代もいろいろ争いはありましたが一つにまとまりました。この難局もA国とB国、それに高原の国も加わり、多少の困難があってもまとまるに違いありません」

「そうか……そうであれば良いがのう……で、アデリヤ、それは何の役の衣装なのだ?」

「はい、難民の衣装です。ひょっとしたら、映画だけではなく、アデリヤの普段着になるかもしれませんが」

 

 コンコン

 

 接見の間のドアがノックされ、侍従が御前会議の時間が迫っていることを告げに来た。

「すまん、日本のお方には挨拶もできなかったな。落ち着いたら、またゆっくりと話しができたらと思う」

「恐れ入ります、陛下」

「それではな……」

 侍従に先導され、国王は会議の間に向かわれた。

「では、僕はキャンプに戻るよ、君たちはどうする?」

「今夜はお城に居る。もう少し伯父上とお話しできたらと思うし」

「そうか、では近衛には話を通しておく。万一のことがあっても、二人を敵認定しないように。明日の朝には迎えを寄こす、最終的な身の振り方はキャンプで決めるといいだっちゃ」

 バシっと敬礼を決めると軽い足取りで接見の間を出て行った。

 

 侍女に案内されて客間に通される途中、中庭の木の間隠れに軍服姿が見えた。

 

 慌てて身を隠していなければ、ここいら旧ソ連の国々は似たような軍服、草原の国の将校とは気が付かなかっただろう。

 事態は、姫やわたしの想像を超えて進み始めているようだ。

 

 ガタガタ ガタガタ

 

 通された客間、窓の建付けが悪いと思ったら、窓枠にえいちゃんが挟まってもがいていた(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

 

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RE・トモコパラドクス・64『お隣の中野さん・2』

2023-10-31 05:37:03 | 小説7

RE・友子パラドクス

64『お隣の中野さん・2』 

 

 

「中野のオジサン、自己嫌悪なんて簡単なところに逃げ込まないでねぇ、通報したりしないから」

 正直、中野は自己嫌悪というような麗しげなものではなく、ただパニックに落ち込んでいるだけだった。しかし、七十歳にもなろうかという元高校教師に自己分析をさせ、正しい十年余りの余生(日本人の平均寿命から割り出した)を、心静かに送ってもらうには、自己嫌悪のうちに閉じこもっているだけでは、なんの進歩ももたらさない。

 なんと、友子は七十歳の元教師をソクラテスのように論破し、中野の精神を救済させようとしているのだ!

「中野のオジサンは、これまでずっと独身でぇ、教師と党員であることを生き甲斐に生きてきたのよね」

「その命題の置き方は間違えている。わたしがずっと独身であったことと、教師、党員であったことを並列にしては誤謬に満ちた結論しか導き出せない」

「もう、ムツカシイこというんだからぁ。ガチガチの教師で、コチコチの党員だったから、女性に巡り会う機会が無かったのよ。あ、話は最後まで聞いてね。オジサンは、そうでありながら、求めている女性像は、まるで違った……ここに不幸があった」

「……どういうことかね?」

「オジサンは、自分と同じ教師だったり党員だったりする女性には魅力感じなかったのよ」

「それは意味が違う。彼女たちは、同志であり、そういう対象なんかではないのだ!」

「じゃ、簡単な実験」

 友子はタブレットを出した。

「今から、ここに八人づつ女性の写真が出てきます。時間は一秒間。ただ見てくれるだけでいいから」

「見るだけで、いいのか?」

「うん、いくよ」

 友子は、八人づつ、延べ1600人の若い女性の写真を見せる。それは、過去に中野が出会った、同僚、後輩、そして生徒。それに、通勤途中で電車の中で、チラ見したのから無意識な憧れを持った女性などから選ばれた人たちであった。友子は、一秒間の間に中野がどの女性を見たか、瞳孔の開き具合から血圧、心拍数まで計って結論を出す。

「じゃ、今から、一つのグループを一人0・2秒ずつ見てもらいます……」

 中野の瞳孔は小さくなり、心拍数、血圧も低くなっていった。簡単にいうと興味が無いのだ。

「じゃ、次のグループ行きますねぇ……」

 中野の瞳孔は大きくなり、心拍数、血圧も高くなった。要するに、好みの女性達であったのだ。

「なんだか、懐かしいような顔もあったような気がするが」

「オジサンが、興味を持たなかったのは、同業の党員、またはそういう傾向を持った女性。興味を持ったのは、そういう思想的な傾向とは真逆な女性達。で、魅力を感じた女性の平均値を出すと……これ!」

 それは、オカッパに近いボサボサ髪、今で言うとボブに分類される女学生の姿であった。試しにほんの0・1秒水着姿にしたが、中野には変化が無かった。

「オジサン、やっぱりダテに七十年生きてないね。反応がとても複雑だわぁ(^_^;)。憧れと、反感が両方あるよ」

「そ、そうかな、自分じゃ意識してないけど」

 友子は、その平均値を数値化して、自分の電脳のデータと照合してみた。

―― え? ――

 なんと、一番の近似値は友子自身だった。

 でも、不思議だった。普段、隣から感じる中野の視線は胸とお尻で、単純なスケベエジジイだと思っていたが、さっきの水着姿には反応していない。本当の関心は、顔となんとなくの雰囲気だ。

『また資本論なんか読んで。こんなもんで世界なんか理解できないわよ。弟が時代遅れのマルクスボーイだなんて、姉ちゃんやだからね!』

 瞬間、中野のお姉さんの姿が言葉といっしょに浮かび上がった。

―― そうかぁ、女性の理想像はお姉さんなんだ……十七で亡くなってる。これが意識下にあったんだ。ちょっと、あたしにも似てるかなあ ――

 甘いと思われるかもしれないが、友子は、その日のことは何も誰にも言わなかった。それどころかSNSから、中野と共通の友人が一人いる59歳の女性にフレンド依頼を中野宛てに出させた。自然で無理のないタイプの女性だった。

 心拍数などを計っていて友子には分かってしまった。中野の寿命は、あと二三年。友子でも手の施しようがない心臓と、血管の障害がある。若い頃の教師時代の無節操が祟っている。

 中野は彼なりに、いい教師を勤め上げた気で居る。
 
 資本論をバイブルに、タイプの女性と晩年に仲良くなって生涯を閉じてもいいんじゃないかと思う友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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