大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・81『サマル王子だっちゃ』

2023-10-25 11:35:28 | 小説3

くノ一その一今のうち

81『サマル王子だっちゃ』そのいち 

 

 

 かつて潜入した草原の国は買ったばかりの緑の絨毯のようだった。

 

 それに比べ、救護トラックの荷台から見えるB国の草原は廃棄寸前の玄関マットのように禿げてみすぼらしい。

 大昔、国境など無かった時代はひとくくりの草原でそれほどの優劣は無かったんじゃないだろうか。

 よく見ると、擦り切れた草むらの間にひしゃげた軍用車両や赤さびた何かの残骸が見える。

「旧ソ連時代、この辺りは演習場や射爆場だった。戦術核の実験場にされたこともあって、まだ十分に回復してないのよ」

 いつの間にか目覚めたアデリヤ姫が説明してくれる。

「でも、ほら……」

 王女が指差した向こうに王都が見え、王都からこちらは青々と草が茂っている。

 トラックに乗っている避難民も、やっとオアシスを見つけた砂漠の迷子のように安堵の表情になっている。

「サマルが旗を振って作った草原牧場、日本人が見れば立派に見えるかもしれないけど、国土面積の2%にも満たない。普段はサマルの箱庭と呼ばれてるけど、まあ、今度の避難民を収容するには十分ね」

 さらに進むと、カーキ色の軍用テントの群れが見え始める。

 テント村はまだ設営中のものもあって、兵士たちが設営と難民受け入れに分かれて忙しく働き、一部のテントでは先客の難民たちが荷物を整理したりテントの中を整えたりしている。

 

「え……」

 

 中央のテントで地図を睨んでいた将校の一人が顔を上げた。

 なにかのコスプレかと思うほどに髭も軍服も似合っていない将校は少佐の階級章を付けていて、初めてジャンボリーに参加したボーイスカウトのように可愛く力んでいた。

「続けていてくれ」

 そう言うと、少佐殿はトラックから下りたばかりの我々のもとに寄ってきた。

「大変だったねみんな、テントは設営中だが、君たちが入る分はもうできているよ。准尉、みんなを案内してあげてくれ」

「イエッサー!」

 ベテラン准尉のおっさんが――あとはお任せを――という顔で敬礼し、部下の兵隊に指図する。

 ボーイスカウトは、部下たちにウンウン頷くと、わたしたちのところに寄ってきた。

「なんで、アデリヤがいるんだ?」

「どこか話の出来るところに案内してちょうだい、少佐どの」

 ボーイスカウトは髭を捻ると、偉そうに後ろ手組んで真新しいテントの一つに歩いて行った。

 

「お久しぶり。思ったとおり、段取りのいい皇太子殿下ね、髭も良く似合ってる」

 

 けして誉め言葉ではない挨拶をすると、傲然と睨み上げるアデリヤ姫。

「国民の保護は国家第一の責務だからね。こちらは、ただの侍女には見えないけど?」

「日本から来た映画の撮影隊のメンバーだ」

「ああ、やっぱり映画は作るんだ。高原の国は平和主義の原則を貫くんだねぇ、うんうん」

「主演女優鈴木友子の付き人で、風魔そのいちと申します」

「そのいち……微妙に長いねぇ、ソノッチって呼んでいい?」

「はい、みんなにもそう呼ばれています。殿下は日本人の愛称にも詳しくていらっしゃいますね」

「うん、日本のアニメやラノベは大好きだっちゃ。ぼくの日本語イケてるだっちゃ(^_^;)?」

「はい、とてもお上手です」

 ――だっちゃ――って、いつごろのアニメだっちゃ!?

「それで、どうすんのよB国は?」

「あ、だから難民の保護を……」

「そんなもん、サマルがやらなくったって、工兵隊の一個大隊もあてがってりゃできるでしょ。いま、大事なのは……」

「あ、ちょ、アデリヤ!」

 意外な力でサマルを外に引っ張り出すと、テント群の向こう、城壁の向こうのそのまた向こうに聳える王城を指さした。

「あそこでは、A国に倣って草原の国に味方するか、我らの高原の国に味方するか、伯父さんの国王や大臣たちが頭をひねってるんでしょ!」

「ああ、アデリヤとは従兄妹同士だし、今までのこともあるし、悪いようには決まらないよ。それに、草原と高原って、よく似てるし。ひらがなで書いたら『そ』と『こ』の違いだけだから。な、似てるってことは、きっとうまくいくってことで……」

「漢字で書いたら、草原の国は『草』よ、クサ! クサの味方する奴はウンコだからな!」

「ウ、ウンコ……!(꒪ꇴ꒪)

 

 過去になにか確執があったのかウンコの破壊力はすごく、完全にアデリヤ王女がマウントをとった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

 

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RE・トモコパラドクス・58『友子の夏休み グータラ編・1』

2023-10-25 07:16:47 | 小説7

RE・友子パラドクス

58『友子の夏休み グータラ編・1』 

 

 

 夏休みも、とっくに後半。

 前半は犬のウンコを踏むという何事かを暗示するような不幸から始まった。軽井沢で少しは楽しめたが、義体の能力フル回転で電脳を休ませる間がないほどに事件が続いた。帰路についたとたん、別荘は爆発炎上、肖像画の秘密事件に巻き込まれ東京湾に沈められながらも、10万馬力の力で朱元基たち大陸系マフィアと渡り合うというSFアクション映画そのままのあわただしさであった。

 

 だから、残り二週間は、当たり前に女子高生をやってみようと思う友子であった。

 

 友子は緊急アラームだけを残して、あとの機能を停止させた。つまり、義体であることをしばらく忘れ、ほとんど人間として夏休みを過ごすことにした。

 で、今日は父であり弟でもある一郎が広告代理店からもらってきた優待券で、家族三人で評判のアニメを見に行くことにした。

「化粧品と飛行機の違いはあるけど、モノを作る情熱や、憧れという点ではいっしょだからな」

 と、一郎の言う通り、戦前に戦闘機開発に青春を捧げた若者たちのドラマであった。

「わたしは、死を覚悟の上のロマンスが楽しみ。ハンカチ三枚持って来ちゃったぁ、あ、もう並んでる!」

 と、義母である春奈も少女のようにウキウキと開場前の列に突進する。

 友子は、その気になれば映画館に行かなくても、映画の中身を知ることなど朝飯前だが、家族である一郎や春奈と同じ映画を映画館で観て共感したかった。

「お。鈴木さんじゃりませんか?」

 お隣の中野と一緒になってしまった。

「あ、こりゃぁ中野さん。お一人で映画ですか?」

「ええ、なにかと忙しいもんで、映画に行くぐらいが精一杯でしてねぇ」

「いやはや、うちも同じですよ」

「ま、このご時世、忙しいのはなによりですよ。どうですか、また新聞お願いできませんか?」

 と、中野は如才ない。

 中野は、いわゆる団塊の世代で、高校の教師を退職してからは、K党の党員活動を生き甲斐にしているオッサンである。なぜか体を横向きにして列の中で三人分ほどのスペースを取っている。

「いやあ、まだ景気好循環の恩恵にあずかれませんでねぇ、流行り病以来、給料も下げ止まったままですよ」

「それに、オタクの新聞、来月から値上げでしょ。うちも、夏の休日、仕事でもらったチケットで映画観るのが精一杯ですから……」

 春奈はニベもない。

「まあ、景気が戻りましたら、またよろしく」

「あら、今の政権じゃ、景気回復は見込めないというのが、党の見解じゃなかったですか、おじさん」

 友子も遠慮がない。

「これ、友子、失礼じゃないか」

 一郎がたしなめていると、二十代前半とおぼしき女の子が二人小走りでやってきた。

「中野先生、どうもお待たせしました。地下鉄一本乗り損ねたものでぇ」

「いやいや、わたしも今来たところだから、さ、順番は取っておいたから、ここに並びなさい」

「いいんですか、わたしたちなら後ろ回りますけど」

「いやいや、最初から三人分確保しておいたし、そんなに混んでもいないから」

 たしかに、七分ほどの人数だが、ミナコは少し不愉快だった。いつもなら、並んでいる人たちの心を読むのだが、今日は封印している。見回した感じでは迷惑顔な人はいなかったし、他にもポップコーンを買いにいったりして、「おまたせえ!」と、横から入ってくる人もいたので、まあいいかと抑えた。

 映画は美しく、感動的だった。

 命のはかなさ。しかし、はかないが故に「生きめやも」と強く願う人間の可憐さ、愛おしさ。そして突き抜けるような空への憧れに満ちていた。

 一郎は、鼻をかむフリをして。春奈は、堂々と三枚目のハンカチを涙でぬらしていた。ミナコも、人間モードになっていたので、正直に感動した。限りある命、限りない夢のパラドクスが、愛おしく羨ましくも思えた。

 

「兵器を作る人間の葛藤が描かれとらん……」

 

 気がつくと、前の席に女の子と並んだ中野のオッサンが、やや大きな声でぼやいていた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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