大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 147『信長版西遊記・敦煌・2・美人菩薩』

2023-10-18 15:13:18 | ノベル2

ら 信長転生記

147『信長版西遊・敦煌・2・美人菩薩信長 

 

 

 いやはや恐れ入ったものだ。

 

 タクラマカン砂漠を大海に例えるならば、この莫高窟(ばっこうくつ)が穿たれている鳴沙山(めいさざん)は三国志の中華に打ち寄せる大波。だとしたら、この奇観は、その大波が神か悪魔の力で石化したものに違いない。

 石化した大波には七百余の石窟が穿たれ、その五百近くの石窟には絢爛たる壁画や仏像が残されている。

 石窟は三層、高いところでは五層になり、1600メートルも連なって、初めて見た転生学院の校舎の連なりよりも迫力がある。

 見ようによっては城壁なのだが、城壁に有りがちな『防御』という拒絶を伴う単純な属性はない。

 ここには人をゾクゾクひれ伏させる酒精を帯びた攻撃性がある。

 壁画や仏像は仏教という理屈の密林に人や国を迷い込ませひれ伏させるための象徴、いや呪物だ。

 上手く利用すれば、見た目の凄さで人を酔わせ、刀槍を用いずして天下を支配する。この攻撃性と世俗の権力が一つになれば天下が取れるのかもしれない。

 俺はやらない。

 これは、俺がぶちのめした比叡山の禍々しさに通じるものだ。

 力とは、秩序と豊かさだ。安心安全に日々の暮らしが成り立ち、作物が成り、ものが作られ、迅速確実な物流に載って売り買いが出来ることだ。コケ脅しの呪物でひとの目を眩ますものではない。

 おっと、信長に戻ってしまってはことを仕損じる。

 俺は玄奘三蔵を天竺から連れ帰る一番弟子の孫悟空、今は妖怪どもを平らげるために自ら三蔵の姿に化けて妖どもの注意をひきつけているところなのだ。

 

 ウキ!

 

 見通しただけで、千余の聖俗どもがチョロチョロと巣穴に出入りする蟻のように窟壁を出入りしている。石窟の中や市内に居るものを含めれば万を超える者たちがこの西域のほとりの街に蠢いているだろう。

 石窟群の前には、安土の楽市を思わせる大小の露店が並び、道を挟んで常設の店や公司、その甍のむこうには敦煌の家並がひしめいている。

 おそらくは、この賑わいに隠れて何者かが居る。

 

 まずは三蔵らしく石窟群の見学をしよう、俺の鍛え上げた勘は、ここに何かが居ると囁いている。

 

 最初の石窟に入って、クラクラしてしまう。

 四方の壁はおろか、天井や柱にまで仏画が描かれている。

 そのほとんどがハガキ大の仏のバストアップ。一つ一つは驚くほどのものではないが、数の迫力。数万の人間に見つめられているようで気持ちが悪い。

 

 次の石窟も、細密に描かれた仏たちの絵で埋め尽くされてはいるが、正面に三尊像。

 印を結んだ釈迦を中心に、菩薩と観音、脇には羅漢たちが人間的な表情で立っている。さらに外側の脇には金剛力士像。憤怒の表情ではあるが、どこかユーモラスだ。元来は仏の守護神なのだろうが、大衆受けするためには取っつきやすい方がいい。こういう合理的な解釈は好みだ。坊主らしく合掌して次へ……

 

 第57窟。

 ちょっと人が多いのでパスしようかと思ったのだが、運よく人波が切れたので覗いてみる。

 おお……!

 思わず唸ってしまった。

 絵の主題は樹下説法図、菩提樹の下で釈迦が説法しているのを菩薩や観音や仏弟子たちが聞きいっている図だ。

 主役の釈迦は絵の具の劣化か黒ずんでいるが、それを差し引いても凡作だ。

 しかし、その向かって左で緩やかな姿勢で立っている菩薩は見事な美形だ。

 仏は両性具有とか性を超越したものだと言われるが、こいつは完全に女だ。ごく緩いS字に撓らせた姿勢、媚びるほどではないが顎近くまで寄せられた左手の甲、なよやかな胴は頭よりも細く腰はひきしまり、コスと髪型を変えればアルテミス沐浴の図だ。

 これを目にしたアクタイオーンは牡鹿の姿に変えられたという。そのエピソードを知っている西域の画工がアルテミスをモチーフに描いた……そんな菩薩像だ。

 釈迦を描いた画工と菩薩像を描いた画工は違うのではないか。

 釈迦が親方ならば菩薩の方はその弟子か……親方はともかく、弟子の方は仏画を描いた意識などはないだろう、己の記憶の中で――美しい――と時めいたもののエッセンスを纏めて昇華した憧れなのだ。

 いかん、これに見入ってしまっては、平山郁夫のように模写するために通い詰めるハメになる。井上靖のように長編小説を書くことになってしまう。

 

 俺は、ちょっと格好をつけ坊主らしく合掌して次の石窟に移動した。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

 

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RE・トモコパラドクス・51『友子の夏休み 軽井沢・3』

2023-10-18 07:06:11 | 小説7

RE・友子パラドクス

51『友子の夏休み 軽井沢・3』 

 

 

「おはよう……あれ?」

 朝、ダイニングのテーブルに着くと、いちおうの用意はできているがパンのバスケットが空で「ちょっと待ってて!」のメモが貼り付けてある。そして、今朝の食事係りの妙子の姿が無い。

 

「妙子、どうしたの?」

 もう一人の朝食当番の純子に聞いてみる。

「ごめんなさい、わたしがいけないの」

 なぜか純子が謝った。

「なんか、あった?」

「ジョンレノンが、毎朝パンを買いに行ってたお店のこと話したの……」

「あ、わたしのせいだわ! 夕べ……ジョンレノンの朝食はフランスパンだったって、お話したの(^_^;)」

 梨花がフォローにまわった。

「それで、朝食の用意しながら、そのパン屋さんの名前教えたら、自転車で、妙子がすっとんでった」

「え、そこって、どのくらいかかるるの?」

 紀香が分かっていながら聞く。

「旧軽銀座通りにあるパン屋さんで、往復で四十分ばかり」

 その間、妙子を悪者にしてやってはかわいそうなので、ジョンレノンのことを話題にして、梨花のお父さんが大事にしているアナログのステレオでジョンレノンの曲をかけた。

「これ、三日も続けたら、ジョンレノン聞いただけでヨダレの出る子になりそう(^_^;)」

「アハハ、パブロフの犬」「パブロフの麻子!」「ワンワン!」

 お腹は空いたが、楽しい朝のひと時。

 

『スタンド・バイ・三―』が『ラブ』に替わって『ウーマン』『イマジン』と続いたところで玄関が騒がしくなった。

 

「ごめん、遅くなって! 今、パン切るからね!」

 

『イマジン』が流れるなか妙子が帰ってきて、大急ぎでフランスパンを切ってお皿に盛りつけてきた。

「はい、お待ち!」

 大皿に、ドーンとフランスパンが載っけられ、テーブルに鎮座した。

「妙子、ご厚意はありがたいけど、汗ビチャじゃん」

「走ってる間は、平気だったんだけど、やっぱ、軽井沢も夏なのねぇ」

 妙子は、サマージャケットを脱ぐとタンクトップ一枚になった。

「朝ご飯食べたら、シャワーの浴び直ししといでよ」

「そのあと、ジョンレノンゆかりの地を回ろうって、話がついたとこだし」

「うん、グッドアイデア! あ、ジョンレノンがかかってる!?」

 今頃気づいた妙子であった。

 

「キャー!!」

 

 日頃の発声練習からは思いもつかない妙子の悲鳴がバスルームに響いた。

「どうしたの妙子!」

 急いでバスルームに向かい、ドアを叩いた。

「変な男達が、そこの窓の隙間から覗いてた!」

 妙子は、勝手に欠点と思っている胸を懸命に隠して声を震わせた。

 友子と紀香には、声の主は分かっていた。軽井沢に着いた早々、邪魔してくれた竹内興産のセガレどもだ。

 仲間で一番先に目が覚めた友子は、一番にシャワーを使った。その時からヤツラの存在には気が付いていたが、微妙に自分の立ち位置を変えて、裸が見えないようにし、うまく物置の上に昇った彼らが物置の上から落ちる位置に誘導したので、彼らは揃って屋根から落っこちた。

 でも、若さとは凄いモノで、その物音に気が付いたのは、同じ義体の紀香だけで、みな爆睡していて、だれも気づかなかった。

 敵も敵で、性懲りもなくまたやって来てくると予想していたので、紀香と友子はすぐに庭に回った。

「懲りないわね、あんたたち!」

「ちょっと痛い目にあってもらおうか……」

 紀香と友子は、ものすご~く手加減してニイチャンたちの相手をしてやった。骨折はしないが、二三日は痛みの残る程度に。

「あんたたちの様子は防犯カメラでバッチリだからね。それから、全員のスマホ預かったから」

「あ、おれ達のスマホ!」

「くそ、いつのまに!?」

「中の情報は全部コピーしといたから」

「そ、そんなこと出来るわけないだろ!」

「竹内興産は、経産省と仲ががよろしいようで……先月の初めにも、お父さん霞ヶ関に行って、いろいろなさってるみたい」

「そ、それは!」

「分かってもらえた? あたしたち、こういうのには強いの。ほら」

 友子は、全員のスマホを投げて返してやった。

「あたしと友子の番号は入れておいて上げたから。軽井沢にいる間仲良くしてあげるわ(^〇^)」

「懲りずに、またおいでぇ(^▽^)」

 ヒエエエエエ~!

 男たちは、悲鳴ともののしりともつかない声を上げて逃げて行った。

 

「うわー、さすがジョンレノンが泊まったホテルだ!」

 

 朝食の片づけが終わると、みんなでジョンレノンゆかりの地を見て回った。例のパン屋さんを回った後、ジョンが定宿にしていた万平ホテルにまわった。起源は江戸時代にさかのぼるというホテルには気品さえ漂っていた。

 そして……ラウンジではジョンレノン親子がくつろいでいる姿が見えた。

 むろん幽霊ではない。この万平ホテルの空間が記憶している姿で、時に勘の良い人には、これが見えて幽霊騒ぎになることもある。友子のパッシブセンサーはこういうものも見えるようにアップグレードしている。みんなにも見せてやりたいと思う友子だが――きっと大騒ぎになる――紀香の忠告で自重した。

 

 しかし、この能力は数日後、思わぬところで役にたつことになるのだった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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