大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・80『B国潜入』

2023-10-19 09:31:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

80『B国潜入』そのいち 

 

 

 何度かたとえてきたが、高原の国のポジションは日暮里から西の山手線内側に似ている。

 

 北方の埼玉県が、すでに、その軍門に下っている足立・葛飾両区を前に立て、まだ旗色を明らかにしていない台東区・荒川区を嚇し日暮里・鶯谷の崖を駆け上がって山手線の内側に攻め入ろうとしている。

 位置的にA国は荒川区、B国は台東区にあたる。

 A国はほぼ高原の国に取り込まれそうになっているが、B国は踏みとどまっている。

 高原の国の王妃はB国王室の出身で、B国皇太子はアデリヤ王女の従兄弟に当る。

 

 その血の繋がりに掛けて、王女とわたしは日暮里の崖を下ってB国を目指している。

 

 A国との国境には国境警備司令のドーカンが王女のコスを着た女性兵士を載せ、ジープで牽制に向かっている。司令部の監視哨には帝キネのポスターから抜け出てきたえいちゃん(長瀬映子)が二次元の身でありながら王女に扮装してA・B両国の目を惑わしてくれている。

 わたしと本物のアデリヤ姫は遊牧民のナリでラクダに跨ってB国の草原に紛れ入っている。

 早朝の爆発騒動は、そのA・Bどちらか、あるいは別の勢力によるものか明らかにならないまま収まって、遊牧民たちは逃げ散った羊やラクダを集めにかかっている。その中に紛れているのだ。

 

「よし、ここらでいいだろう」

 

 ラクダを下りると鞍や装具を外して放してやる。

 尻をペシペシ叩いてやると、ラクダは振り向きつつも北に向かって歩きはじめる。

「ラクダで足がつかないのですか?」

「だいじょうぶ、元々A国の草原から迷い込んできたラクダだから。じゃあ、行くわよ」

「はい」

 装具のリュックを背負って街道に向かう。

 

 三十分ほど歩いたところの臨時の検問所で誰何される。

 

「待て、おまえたちは何処へ行く」

「トゥテシ村から逃げてきたの、また、あんな爆発騒ぎがあったらかなわないから。男たちは残ってるけど、女子供はね……」

 他にも国境付近から逃げてきた者がチラホラ、見た目にも十代の少女の二人連れなので難なく通してもらえた。

「ありがとう、兵隊さん」

 リュックを揺すり上げた手には日焼け色の迷彩ドーランを塗った上に砂をまぶしてある、パッと見には分からない。

「あら」

 検問所の裏に王室のトラックが停まっている。荷台には『救護移送』の横断幕がかけられている。

「これで、避難キャンプに行けるみたいですね」

「時間が稼げる」

 荷台には、少し余裕があったけど、避難者十数名を載せてトラックはエンジンをかけた。

 荷台のスピーカが、諸注意をする。

『走行中は立ち上がらないこと、緊急の時はドライバーの指示に従ってくれ。緊急事態の時は、スピーカー横のインタホンで伝えること、行先は王室牧場、到着までは三時間だが状況しだいでは変更がある。それから、この緊急措置は皇太子殿下の発意であるから感謝すること。では、出発する』

 ブロロン……

 十分も走ると、朝から歩き詰めだった者も多く、大方の者が荷物を抱いて居眠りし始めた。

 わたしたちも、眠った風を装って二人でもたれ合う。

「王室牧場は、ちょっと王宮とは離れすぎてませんか?」

 闇語りに近い小声だけども、王女には伝わるようだ。下を向いたまま小さく応えた。

「サマルは気が小さい、おそらくはキャンプに来ている」

「それはラッキーです」

 なぜ、気が小さいとキャンプに来ているのかは分からないが、わたしの質問は姫の精神状態と健康状態を探るためのものなの。しっかりした返答をしてもらったことで十分だ。

 もう一言聞いてみようかと思ったら、姫は、ほんとうに眠ってしまっていた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

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RE・トモコパラドクス・52『友子の夏休み 軽井沢・4』

2023-10-19 06:01:59 | 小説7

RE・友子パラドクス

52『友子の夏休み 軽井沢・4』 

 

 

 バニラエッセンズがやってくることになった!

 

 バニラエッセンズとは、この春まで東京ドームの横っちょでヘブンアーティスト(東京都が発行している路上アーティストの許可書)で、ディユオをやっていたコンビ。そこに、わが乃木坂学院に長年住み着いていた幽霊の水島君が、宇宙人マイの戦争のお手伝いしたお礼に、かわいいアテンダントの義体をもらって女子高生として、この世に復活。そして、このデュオが気に入って仲間入り。名前もバニラからバニラエッセンズと改名、いまでは「いきものがかり」にならぶ男女混成ユニットとして有名になってきた。

 で、水島……いや、清水結衣の夏休みとして、ボーカルの結衣が友だちの夏休みにお邪魔するという企画が急に決まったのだ。

 

「お早うございます!」

 

 にこやかにやってきた結衣の後ろには、メンバーの岩崎と西川、そして画面には映らないが、カメラや音声、スタッフの面々がゾロゾロ。で、その後ろには、軽井沢に避暑に来ている老若男女がゾロゾロゾロゾロ……。

 何も聞いていない梨花たちはオロオロ、その能力で、あらかじめ知っていた友子と紀香はオロオロのふりをしながら、スタッフに混じって、場内整理にかかった。で、この際、社会的なマナーを身につけさせてやろうと竹内興産のセガレグループも呼んでやったのだ。

 最初は結衣を中心にして、デビュー前の思い出、乃木坂駅前のパンケーキ屋さんの話なんかに花が咲き、なぜか用意されていたパンケーキをみんなで食べ、ヘブンリーアーティスト時代の苦労話。そんな中、毎日岩崎と西川の演奏を聞きに来た結衣との運命的な出会い。それぞれの学校時代、結衣は、まだ現役の女子高生だけど、そんな話に発展し、この軽井沢がジョンレノンにゆかりの地であることに話題が移った。

 

「それでは」

 

 ということで、バニラエッセンズが即興でビートルズやジョンレノンの曲にチャレンジしてみせるという、まるでアドリブのような構成台本通りに進んだ。

 結衣には、もう幽霊時代の記憶はない。三月前以前の記憶は作られたものだが、それだけに美しかった。

 宇宙人マイが作った結衣の経歴はドラマチックであった。

 中学のころは新聞配達のバイトで母子家庭の家計を助け、高校授業料無償化のおかげで、思いもかけず乃木坂学院に入学。気後れから、なかなか友だちが出来ず、ようやく友だちになってくれたのが、この軽井沢に来ている友子たち、そして生まれもった音楽の才能を開かせてくれたバニラの二人。

 友子は気づいていた。

 プロダクションは、あたかも偶然のように見せかけて、次のアルバムでジョンレノンの曲をカバーさせようと狙っていること。そして、結衣が自然にジョンレノンやビートルズに触発されるように演出していることも。

 少し手の込んだヤラセなのだが、友子も結衣には自然な跳躍になると、進んで協力した。

 竹内興産のセガレグループを運転手と案内人に仕立て、紳士的に軽井沢を案内させた。

 そして、これは予想外だったけど、メンバーの西川君が、雰囲気にイマジネーションをうけ、『軽井沢の思い出』という曲を休憩時間に創ってしまった。まだ、詩はできていなかったので、結衣はスキャットで合わせて、もう、それがジョンレノンへのオマージュになっていた。

「良い曲だなあ……( ノД`)(゚´Д`゚)(*´□`*)

 竹内興産のセガレグループは本当に感動の涙を流し、昨日まで、あんなに嫌がっていた純子たちもホロリときた。

 

――うまくいった……けど、ちょっと面白くないぞ。思わないかい、友子ぉ?――

――うん、美談すぎぃ――

――美しすぎる思い出はからだにわるいぞ――

――毒だよねえ――

――じゃあ、もう一つ夏の思い出つくってやるかぁ――

――とびきり楽しい思い出をね――

 

 ウシシシシシ(*`艸´)( ´艸`)

 

 いいところ持って行かれそうになった友子と紀香はある企みを企てるのであった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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