大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・058『第二回MITAKA(みんなで楽しく語る会)』

2023-10-22 17:28:21 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

058『第二回MITAKA(みんなで楽しく語る会)』   

 

 

 え、ストーブ?

 

 思わず出た声は微妙に非難がましく聞こえたのか、セッティングしながら10円男が機嫌悪そうに背中で応える。

「仕方ないだろ、応接室は北向きで冷えるんだから、女子は冷やしちゃダメだろ」

 いや、そういう意味じゃないんだけどね。

 自動販売機かっちゅうくらいに大きなエアコンが据え付けてあるのに、なんで、暖房に切り替えないでストーブにしてるんだと思うんだよ。北向きにある応接室はマジ寒いんで暖房することに意義はない。

 あーーそうか。

 冷静に考えると、昭和45年というのはエアコンが普及していない。PTAの好意で据え付けられてるのは単なるクーラーなんだった。

 ボン

 ちょっとした爆発音をさせてストーブが点く。

 ポリバケツを逆さにしたぐらいの円筒形で、ちょっと鳥かご的。鳥かごの中に鳥は居なくて、いっぱい穴の開いた素焼きの筒が立っている。

 その筒がチリチリ音を立てながら穴の縁を朱色に染めていく。

「小学校のストーブよりはマシだろ」

「え?」

「ダルマストーブだったろ」

 ダルマのストーブ?

「先生しか点けちゃいけなかったし、石炭取りにいかなきゃならなかったし、臭いもひどくて温もるの遅かったしなぁ」

「あ、ああ、そうだよね(てきとうに合わせておく)。でも、よく借りられたねえ、教室は暖房12月からでしょ?」

「ああ、それについては栗原さんに感謝だな」

「あ、ああ……」

 栗原さんは、最初風邪の症状だったらしい、それが命に係わる病気だって分かったときには手術以外に手が無くって、宗教上の理由で手術できなくって命を落とした。

「教師集団はMITAKAには警戒してるけど、生徒の健康に関わるとなると弱い。だから『生徒の心の火と健康の火を消さないでください!』と迫って一発で貸してくれた」

 なるほど、心の火はMITAKAで、健康の火はストーブというわけか。10円男もたまにはいいこと言う。

 

 嬉しい、ストーブ点いてる!

 

 入って来るなり真知子も感嘆の声を上げてストーブ守に加わる。

真知子:「加藤君には、そういう才能あるって、わたしは踏んでいたのよ。ありがとうね(^▽^)」

10円男:「い、いや、MITAKAは、まだ緒に就いたばかり、一回一回大事にしなきゃなあ(#'∀'#)」

巡:「あ、赤くなってるぞぉ」

10円男:「ああ、ストーブもころあいに温もってきたからな(;゚Д゚#)」

真知子:「ほんとだ、スケルトン赤くなってきたね」

 スケルトン……10円男かわいそう(^_^;)

真知子:「スケルトンって、中の筒みたいなのよ」

巡:「え? あ、ああ、そうかぁ!?」

10円男:「し、失敬な! 俺のことだと思ったのかぁ!?」

巡:「アハハ、めんごめんごぉ」

 

 バカを言ってるうちに、他の参加者も集まってきて、第二回MITAKA(みんなで楽しく語る会)が始まった。

 

 やっぱり話題は栗原さんのことになる。

 

たみ子:「基本的にはお家のことだし、宗教のことだから、あまり深くは言えないけど、考えなくちゃだよね」

 たみ子が切り出すと、四組から参加している子たちが俯いてしまう。

真知子:「あ、誰かを責めようって話じゃなくて」

たみ子:「ごめん、言い方悪かったぁ」

佳奈子:「うん、わかるよ。あたしセッターやってるけど、セッターの肝は仲間の気持ちを汲むことだからね。繋げる球を上げて繋ぐのに似てる」

四組女子A:「栗原さんのこと、ちっとも知らなくって」

真知子:「いいのいいの、誰かを責めようって話じゃないんだから」

四組女子B:「いいのって、栗原さん帰ってこないのよ」

ロコ:「この話は、またにしませんか」

真知子:「そうね、ごめんなさい」

四組女子A:「うん、でもクラスが違っても気にかけてくれて嬉しい。ね、B子」

四組女子B:「う、うん、それはそう。ごめん、変な言い方して」

 それから真知子は文化祭と体育祭のことに話題を振った。

たみ子:「接近しすぎてるのよ体育祭と文化祭」

四組女子A:「うん、文化祭の前に体育祭の練習とか準備とかでかり出されると、劇とかやってると大変困る」

 うんうんと頷く者が多い。

 初参加の二年生が手を挙げた。

二年男子:「演劇部なんだけど、うちは、体育祭もそうだけど、クラスの取り組みとかにも人をとられて、ほんとうに稽古できなくて困った。一度、学校行事の有り方とか考えた方がよくないかなあ」

10円男:「異議なし!」

真知子:「そうね、まずぶっちゃけようか。深堀はまたにして」

 異議なし! うんうん! 賛成! 

社研男子:「文化祭前日は泊まり込み可にしてほしい」

一年女子:「消耗品とか買うのに、見積もりとってからというのは勘弁して」

二年女子:「模擬店の規制緩めて欲しい」

10円男:「模擬店やったら全員検便はナンセンス!」

 模擬店をやった女子が顔を赤くする、よく言った10円男!

ロコ:「文化祭の最後にファイアーストームやらせてほしいですね」

 異議なし! いいねぇ(^▽^)/ 賛成!

巡:「体育祭の時ぐらいブルマやめてほしいです」

 おお……( ゚Д゚)

 普通のことを言ったのに、みんな目からウロコって顔になる。

二年女子:「うんうん、男どもの視線ヤラシイものね!」

たみ子:「ああ、そういや、サングラスの先生とかいたよねえ」

 ああ……!

 で、調子にのってしまった。

巡:「もう、ブルマなんて廃止すべき! ぜったいセクハラです!」

 セクハラぁ?

 え、通じない?

ESS女子:「それって、セクシャルハラスメントのこと?」

巡:「え、あ、うん、そうだけど」

ロコ:「メグリン、英語すごいですぅ。で、どういう意味ですか?」

ESS女子:「セクシャルは性的な、ハラスメントは……(すごい早さで辞書を引く)嫌がらせという意味」

ロコ:「性的イヤガラセ(#^_^#)」

巡:「え、あ、いや、そんなことないよ」

ESS女子:「セクシャルハラスメントなんて、ネイティブでなきゃ言わないわよ」

巡:「いや、たまたまよ、たまたま(^_^;)」

真知子:「いやあ、いろいろ出てくるわねえ(^▽^)」

10円男:「熱くなってきたなぁ」

ロコ:「足もと寒いかなあ……」

10円男:「これで目いっぱいなんだけどなあ」

四組女子A:「そこの扇風機まわしたら?」

ロコ:「え、扇風機?」

佳奈子:「そうか、かき回したら均一になるか」

四組女子B:「いくよぉ」

 ブゥゥゥ~ン

たみ子:「ちょっと空気も入れ替えよう」

 

 空気を入れ替えたら、熱気まで冷めてしまうんじゃないかと思ったけど(中学までの経験だと、たいてい冷める)、それからも下校の放送がかかるまで熱く語り合った。

 みんなで高校生集会というのに行くことが決まる。

 高校生集会……よく分からない。

 でも、聞いたら恥っぽいので聞かなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

 

 

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RE・トモコパラドクス・55『友子の夏休み in 東京・1』

2023-10-22 06:57:18 | 小説7

RE・友子パラドクス

55『友子の夏休み in 東京・1』 

 

 

 ム…………


 古風な丸眼鏡を掛けた梨花の祖父王貞勇は、友子が持ってきた絵を見るなり、言葉を失ってしまった。

「芳子さん、少しの間、このお嬢さんと二人きりにしてくださらんか」

 かろうじて、秘書の川島芳子に笑顔を向けると黙り込んでしまった。

 

 コトリ

 

 アイスティーの氷がでんぐり返ったのを合図であったかのように、貞勇翁は口を開いた。

「この絵が残っていたとは……いやはや、感謝のしようもありません」

「いえ、わたしにもよく分からないんです。別荘を出る朝に『あの絵を持ち出さなきゃ』それだけ思って、あとは、気が付いたら、ここにお邪魔していたって感じなんです」

「ほんとうですか……」

「はい」

「やはり、この絵の伝説は本物だったんだなあ……」

「本物……ですか?」

「これは、わたしの爺さんの孫悟なんです。孫文先生に心酔していましてね。苗字まで孫にしちまった。もっとも、オヤジの代で帰化したときに、もとの王にもどしましたがね」

「あの、どこも傷んでいませんか。そんな大事な絵とは知らずに運んでしまったもので」

「いや、大丈夫。大切に扱ってくださった」

 その暖かい笑みは友子への気遣いだけとは思えなかったので、友子は貞勇翁の心を覗いてしまった。

 どうやら、眼鏡に秘密があるらしく、サインのところを見ると書かれていない中華の二文字が浮かび上がり、その真贋が分かる仕組みになっているようだ。そして、この絵は、精巧なダミーが作られていて、ダミーの方は銀行の貸金庫の中に隠され世間では本物とされている。中国の秘密組織は、そこまでつきとめて別荘を襲撃したようだ。

 でも、なぜ自分が、それを予測して、この絵を持ち出したかは思い出せなかった。

 ただ、翁の思念を探って絵自体ではなく、絵の中に隠された暗号のようなものこそが重要であることが分かった。しかし、その暗号が、どのように重要なのかまでは、翁にも分からないようだった。

 

「梨花は、少しは変わりましたか?」

 

 お爺ちゃんの、もう一つの心配は直接口をついて出てきた。

「はい、眠くなると、人前でもアクビができる程度には」

「おお、それは大進歩だ。小さなころから行儀作法は仕込んだが、年頃に相応しい感情表現が苦手な子になってしまったようで、貴女たちお友だちに期待しておったんですよ」

 友子は、旅行中の梨花のほどよくリラックスした写真を見せた。

「おお、この無防備な大あくびが良い。わたしのスマホに送ってくださらんか。いいや、本人には見せやしません。孫の成長を陰ながら見られればいいんです。もっとも、本人が、これを見ても笑って済ませられるぐらいに成長したら……そうだ、結婚式のスライドにしてやろう!」

「ハハ、それまで、梨花のこと、もっと鍛えておきます」

「あなた方なら安心だ。ぜひよろしく」

「ところで、お爺様。この絵と同じサイズの絵があったら、頂けません?」

「かまわんが、どうしてかね?」

「敵は、どこかで、あたしがこの絵をここに持ち込んだことに気づいていると思うんです……」

「囮になるつもりなのかね!?」

「任せてください、鬼ごっこには自信がありますから」

 ここで、友子は軽い催眠術を翁にかけた。そうでもしないと、このお爺ちゃんは、女子高生に危ない真似など、絶対にさせないからだ。

 こうして、友子は同じサイズの絵を元の紙に包んで、王交易公司をあとにした。

 

 そして、地下鉄の駅の近くで、予測通り四人組の男女に拉致させてやった……。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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