くノ一その一今のうち
「ドーカン、状況はどうなっておる!?」
王女は警戒の兵の頭越しに呼ばわった。
兵たちは、その声だけで声の主が分かったようで右往左往。
「王女!?」「姫君!」「ちょ、司令!」「お声が……!」「お待ちを!」
すぐに、二階建ての司令部から、髭の司令官が飛んで出てきた。
「殿下!?」
「A・B国でいざこざがあったと聞いて、様子を見に来た。状況報告せよ!」
なんちゅう剥き出し(-_-;)。
これでは、王女ここにありと宣伝しているようなものだ、A・B両国の監視哨も近く、その気になればピンポイントで狙撃されてしまいかねない。
「場所をかえます、こちらへ」
司令官も分かっているようで、副官に一言耳打ちして、自らトレンチ(塹壕)に下りて、姫とわたしを先導する。
掩体壕を二つ経由して、地下壕に向かっていると分かる。チラリと見えた司令部のポールには花のデザインの王女旗がスルスルと上っていくのが見えた。
「もう敵には知られておるでしょうから、はっきり示した方が安全ですので」
もっともだ、明確に王女の滞在を示しておけば、簡単には攻撃もできないだろう。
「ドーカンは心配性だなあ」
「万一のことがあってはなりませんので。こちらは、日本から来られたお客人ですか?」
「ああ、主演女優の付き人兼セキュリティーだ。臨時にわたしの副官を務めてもらっている」
「そうですか、基地司令のドーカンです。お名前は?」
「風間そのです、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
過不足のない笑みで挨拶してくれる。
実直そうな司令官は、名前の通り日暮里の駅前に立っている銅像の太田道灌に似ていなくもない。
「それで、状況は?」
「はい、未明にAB国境付近で爆発音がありました。音から推量すると旧ソ連製の地雷です。古い地雷なので自然に暴発したともとれるのですが、原因は不明です。その後A国が機銃、迫撃砲を発砲。迫撃砲は延べ35発。いずれもB国の監視哨施設は外しております」
「単なる威嚇か?」
「とも申せません。そう思わせて、一気に本格的な攻撃に出る場合もあります。じっさい、昼前から予定外の補給トラックが10台入ってきました。うち一台は早期警戒レーダーを積んでおり油断ができません」
「B国は、どうか?」
「よく耐えています。刺激して攻撃の口実になるのを避けているように思えます」
「このままで済みそうに思えるか?」
「分かりません、最悪は、AB共同で奇襲してくる可能性もあります。むろん、背後で草原の国が糸を引いていると考えるべきでしょう」
「その場合、この国境警備隊で持ちこたえられるのか?」
「無理です。玉砕覚悟で抵抗し、時間を稼いで応援を待つのがセオリーです」
「可能性は?」
「あるとしか申せません。判断するのは統合参謀本部で、決意されるのは総理の輔弼を受けられた陛下です」
「そうだな。分かった、しばらく滞在するぞ」
「……承知しました、お部屋を用意いたします」
微妙にためらって、ドーカン司令は内線電話でなにやら指示すると、地下道を通って司令部棟の一室に我々をあんないした。
部屋のドアには『司令官室』のプレートがかかっていた。
急場のことで自分の部屋を提供するのが一番と考えたんだ。自分はオペレーションルームに寝袋でも持ち込むんだろう、この実直さは好ましい。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
- アデリヤ 高原の国第一王女