大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:223『玄室・1』

2024-01-04 10:33:04 | 時かける少女
RE・
223『玄室・1』ブリュンヒルデ 




「さあ、行きましょう」


 背嚢を担いだテルを見送ると、イザナギ殿は静かに腰を上げた。

 けして逸ることなく、しかし断固とした決意が伺える。

 これは将領が出陣する時の姿だ。

――臆してはなりません、しかし、将たる者、逸ってもなりません。臆しては兵を動揺させ、逸り過ぎては躓かせてしまいます。漁師が海の色を見て船を出すごとく、農夫が麦を刈に畑に牛や馬を入れるがごとく泰然として采配を振るわなくてはなりませんぞ――

 初陣のころからトールが言っていた将の戒めを体現している。

 玄室に続く羨道は、やっと背の高さ、横幅はなんとか人一人が前を向いて歩ける程度だ。

「狭いところも慣れているみたいですね」

「戦車に乗っていることが多かったし、ドワーフとの戦いは洞窟戦ばかりだったから大丈夫だ」

「それは心強い。タングニョーストさんもよろしくお願いします」

「心得ています」

 短い会話、いや、言葉を発することで三人の気息を整えているんだ。

 トールはこんな話もしていた。

 異世界に西郷隆盛という英雄が居て、敵に夜襲をかけようと夜の林の中を進んでいた。初陣の者も多く、みなガチガチに緊張していた。
 隆盛はボソッと、こう言った。

「まるで、好いた女に夜這いをかけにいくみたいだなぁ……」

 みんな思わず「プ( ´艸`)」と噴き出しかけて、いっぺんに緊張が解れたという。イザナギ殿の言葉には隆盛のような面白さは無いが、その分、誠実さが滲み出ていて好ましい。
 

 それからは、無言で羨道を進む。

 ……二分ほど進んだところで、微かに空間の広がりを感じる。

 玄室が近い。

 三人揃って腰を落とし目を細める。

 薄闇に順応し、この先の状況を把握するためだ。

 慣れると、僅かに青い鬼火が四方に燃えているのが分かる。

 玄室の中央には石の台があって、人が横たわっている。

 夜明け前、ようやく白み始めた空の下に浮かび上がった山の稜線のようで、その輪郭の内は知ることができない。

 だが、微かに臭う。

 救援の要請を受け、野を超え山を越え半月余りもかけてたどり着いた戦場の臭いだ。ただれて膿み崩れた腐肉の臭い。死者の体臭だ。

 正視してはならない。死者を辱めることになる。

 タングニョーストもイザナギ殿も、その機微は承知して、輪郭をとらえた後は、羨道と玄室の狭間で、ただただ俯いて待っている。

 根競べになるかと思った時、イザナギ殿が俯いたまま言葉を発した。

「悪いと思いましたが、ここまで来ました。この沈黙は、イザナミ、あなたの抗議であろうと思います。戒めを破ってここまでやってきた無礼を咎めているのが分かります」

「……………」

「しかし、もう待てません。この国は、時の流れを乱したまま前に進んでいます。神代の時と、源平合戦の時代と、はるか二千余年先の時代とが……いや、まだ見てはいないけれど、他の時代も現れているかもしれません。わたしは、いくつもの時代が時の理を超えて現出しているのを、そのままに受け入れ寿いできました。寿ぐことが天之御中主神 (あめのみなかぬしのかみ)はじめ八百万の神々に託された役目だと信じるからです」

「……………」

「どうか、戻ってきてください。黄泉の神々にもお願いいたします、どうかわたしの妻を戻してください。国生み神生みさえ済めば、妻を……いえ、このイザナギも共にこの黄泉の幽世に参りましょう、この国の弥栄のために、どうかどうか、どうか……」

 イザナギ殿は飄々と旅をしてこられた。時を超え時空の理りさえ乱して現れてしまった我々を喜んで受け入れてくれているように思えた。だが、実は、こんなにも苦悩していたんだ。
 わたしは、このブリュンヒルデは、自分の世界の乱れも争いも収められず満足に浄化も出来ず、繕うことさえできず、ヴァルハラに戻り父オーディンと対決することもせずに、この世界に来てしまった。

 恥じていないわけではないが、もっと努めなければならない!
 
 ここでブリュンヒルデがなすべきことは、イザナギ殿を助けることだ。

 なんとしても、イザナギ・イザナミの神を元に戻してあげることだ!

 体が熱くなってきた。

 思わず思いが迸りそうになった! と……イザナギ殿が顔を上げた!

 同時に四方の鬼火が照度を増して石台を照らすと、イザナミ殿が身を起こした!

 
☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第40話《はるかさんと待ち合わせ》

2024-01-04 07:05:35 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第40話《はるかさんと待ち合わせ》さくら 




『春を鷲掴み』で、間所健さんと坂東はるかさんとも『お友だち』になった。でも、二人ともキャリアが違いすぎる。って、あたしのキャリアがなさすぎなんで、お仕事仲間はみんな、遠近の違いはあっても先輩だ。とても対等な友だちとは言えない。

 でも、はるかさんは、日に何度もメールをくれる。

――おはよう。もう起きた? わたしはこれから寝るところで~す――
――今から○○の収録。朝は苦手。でも、いってきま~す――
――○○の収録終わり。とりあえず問題なし――
――もう寝たぁ? 今から来月の舞台の打ち合わせ、たぶん午前様で~す――
――おはよう。もう起きた? わたしは、これから爆睡しま~す――

 最初は、この五本のメール。

――おはよう。今からお仕事。いってきまーす(^▽^)/――
――聞いて聞いて、今夜の仕事、相手役の急病でオフになっちゃった!――
――肝心なこと忘れてた、よかったら、今夜晩ご飯付き合ってください(^□^)!――

 じつは、この間に十五本もメールが入っていたんだけど、今どこそこにいまーすというようなものばかりなので、このお話の展開に関係あるやつだけ並べました。

 あたしは、この五日間入試で学校は休みだった。駆け出しの業界人の仕事は、こないだの『春を鷲掴み』とラジオの生があっただけなので、リアルはがない女子高生のあたしは、数少ない友だちのまくさと恵里奈とカラオケ行った以外は、チュウクンのお相手してるのかされているのか分からない付き合いがあったきり。喜んで、先輩女優のゴチになる。


 場所は乃木坂近くのKETAYONAってお店。


 一応店のありかは教えてもらっていたけど、スマホの道案内に頼ることもなく着くことができた。

「あのう、はるかさんと待ち合わせている佐倉っていいますけど……」

 そこまで言うと「どうぞ」と奥の個室に通された。

「ごめんね呼び出して。お家大丈夫?」

「大丈夫です。はるかさんといっしょだって言ってありますから。はるかさんの信用は、家じゃ一番なんです」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。ま、とりあえず乾杯で、お料理は任せてね!」

「あたし、未成年ですから」

「大丈夫。わたしアルコールだめだから、ジンジャエールで乾杯」

 そして、ノンアルコールで乾杯したあと、ひとしきりお料理をぱくつき、ソロリとお話に入っていった。

「あたし、この店初めてって気がしないんですよね」

「目立たないお店なのにね」

「えと……『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てきませんでした?」

「え、さくらちゃん、あの本読んだの!?」

「はい」

「おお、心の友よ(∩˃o˂∩)♡!」
 
 はるかさんはジャイアンのようなことを言ってハグしてきた。ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?

「あの本読んでる人って、めったにいないんだよね」

「いいラノベなんですけどね」

「まあ、出版不況だからね」

「あたし、姉妹作の『真田山高校演劇部物語』も読みましたよ」

「え、あれ出版されてないわよ!?」

「ネットで掲載されてるの読みました」

「うーん、ういヤツじゃそなたは。あれ、今度本になるんだよ『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』ってタイトルで、春には出るよ」

「あたし、最初の読者になります!」

「なかなかの心がけよのう(o^―^o)」

「あの話は、実話なんですか?」

「多少の誇張はあるけどね、マンマよ」

「じゃ、小さい頃は成城のお嬢さんだったんですか?」

「まあ、五歳までね。あとは本の通り。お父さんの会社が倒産して……ハハ、オヤジギャグだ」

「南千住の実家に越して、高二で大阪に引っ越して……」

「さくらちゃん、優しいねぇ。親の離婚飛ばしてくれるのね……」

「あ、話端折っただけです」

「いいのいいの、そこ抜きにしちゃ、今のわたしにたどり着かないから」


 あたしは、とことん付き合う気になっていた。


 はるか先輩は、とても行儀が良い。やっぱ成城のお嬢さんの時代に身に付いたものがあるんだろう。

 ら抜き言葉を使わないし、一人称も「あたし」じゃなくて「わたし」だ。あたしも「わたし」だけど、油断してると「あたし」になる。どうかすると「あし」とか「たし」だしね。

「青春て、めくるページの早さが速いじゃない。今いっしょのページに居たかと思うと、次のページには居ないのよね……人間って、みんな一冊ずつ自分の本を持ってるのよね。で、この人生の本と言うのは、人のと重なったり離れたり。いつも友だちや、身内が同じページに居るとは限らない……今、わたしのページはね、わたし一人きり。人はいるけど、みんな背景に溶け込んじゃって、物言わぬ書き割りみたいなものになっちゃった……」


 気が付くと、外は久々の雪になっていた。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド           Claude Leotard  陸自隊員 

 


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