大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・93『奥つ城』

2024-01-11 12:15:16 | 小説3
くノ一その一今のうち
93『奥つ城』そのいち 




 忍者に教範とか教科書めいたものはないけど、もし教範を作って『忍者の基本姿勢』というページがあったら、忍者の待機姿勢の見本に使えそう。

 そんな感じで蹲っている多田さんだけど、次の行動が読めない。

 重心の位置、筋肉の緊張、そして滲み出るオーラ、そういったもので七割がたの予測はつく。
 しかし、トラスの重なりの向こうの多田さんには、そう言うものはない。
 
 ひょっとしたら傀儡(人形)かと疑うほどだ。

 深夜に田舎の道を走っていると、急に警察官が見えることがある。本物じゃない。長方形のパネルに蛍光塗料でひしゃげたL字が描かれている。それが夜道では警察官の帯革に見えるのだ。お祖母ちゃんは「忍者の知恵だ」と言っていた。その類かと思った。

 思った瞬間、わずかに笑って多田さんは姿を消した。

 ……もう、多田さんが姿を現すことは無いような気がした。

 
 外周警備本部の屋根裏を抜けて奥つ城に向かう。


 ついさっきまで内城の街を歩き、その直前には外城の外も一周した。えいちゃんが観察した上空からの情報も頭に入っている。
 
『カメラの位置は、あそこと、あそこと……』

 えいちゃんが監視カメラの位置を教えてくれて、避けられるものは避け、避けきれないカメラには目つぶしをかける。

 奥の方で人の出入り、警備の厳重なところを見ると作戦指導の施設。独裁国家だから、統帥権は国王、実質は王子が握っている。その王子は猿飛佐助が化けているか、あるいは傀儡にしている。

 機甲旅団の不始末はとっくに知られて当面の対策はとられている。外周警備本部は、機甲旅団の生き残りの収容と警備の強化に忙しくしていたしね。

 城内の街にも混乱の様子は無かったし、内城もアンテナが立っているエリアを除いては落ち着いている。
 
 作戦の失敗というイレギュラーな状況でも、いたずらに混乱させない。

 さすがに中央アジアに覇を唱えようとする国だ。

 王子の指揮能力、人心収攬の技はなかなかのものだ。
 
 堀を超え宮殿奥の王子執務室、ドアの前に警備兵が二名小銃を持って立っている。

 小さな石ころを拾って壁に当てる。

 チャリ

 二人とも小銃を構えて音のした壁に寄っていく。

『中に王子はいませんね』

 えいちゃんの言う通りだ、こういう場合、最低でも一人はドアに張り付いて動かないのが警備のセオリーだ。

 このエリアの概要を思い浮かべる。

 建物の向こう、外とは二重の塀で隔てられた庭がある。おそらくは、執務に疲れた王子が休憩をとるためのプライベート庭園だ。

 多分、そこだ。

 プライベート庭園といっても小学校のグラウンドほどの広さに明治神宮にありそうなたくましい木々があって、その中ほどに二つの四阿(あずまや)と温室がある。

 目を凝らすと、四阿のベンチで王子が居眠っている。

 作戦指導に疲れて、しばしの微睡……のように見える。

 しかし違う。

 四阿の裏には、もう一人の王子が月を愛でるように顔を上げているのだ。

 ちょっとシュール。

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第47話《コクーン・4》

2024-01-11 08:46:44 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第47話《コクーン・4》さつき 




――Y a-t-il quelqu'un qui peut piloter un avion de ligne à réaction ? ――


 英語と日本語の後、フランス語でただならぬことをアナウンスした!


「どうしたんでしょ?」

「……これから詳しい事を言うだろう」

 小林一佐の言うとおりだった。数秒の沈黙のあと、別のCAがフランス語で喋り始めた。

『機長と副機長が二人とも身体的な理由で操縦ができません。自動操縦で飛んでおりますので、今すぐ危険だというわけではありません。ただ、このままでは着陸ができませんので、どなたか操縦できる方を探しております。出来る方がおられましたら、近くのキャビンアテンダントまでお知らせください』

 早口で、少し聞き取り辛かったが意味は分かった。フランス語の分かる少数の乗客に動揺が走った。続いて英語、日本語、そして中国語と別のCAがアナウンスした。

「いかん、クルーがパニック寸前だ。母国語を喋るCAが、それぞれ話しているぞ」

 あたしたちのビジネスクラスにも動揺が走った。女性のCAが、こわばった笑顔で通路を歩く。

「どなたか、操縦出来る方……」

 かえって乗客の不安をあおっている。

「大丈夫、これはボーイング777だ、400人以上乗っている。一人ぐらいいるさ。落ち着いて」

 小林一佐が、CAの手を取り、優しく言った。軍服の力だろうか、キャビンは少し落ち着いた。しかし15分が限界だった。CAが三度目にやってきたときには、またキャビンに動揺が走り出した。

「さっきの軍人さん。あんたら出来んのかね!?」

 アメリカ人らしいオッサンが、小林さんに言った。

「申し訳ない、わたしはアーミー(陸軍)でね。いや、きっと経験者がいますよ。今頃手を上げるタイミングを計ってるでしょう」

「ああ、きっとル・モンドが注目するのをね」

 アメリカのオッサンは、こんなときにもユーモアを忘れない。ル・モンドとは、フランス最大手の新聞社だけど、直訳すれば「世界」だ。そんなことを思いながらも、あたしは手足が冷たくなって行くのを感じた。

「そんなに寒がらなくてもいい。ボクがなんとか……してもいいですか、サンダース?」

「君がか、レオ?」

「父はフランス空軍のパイロットでした」

「で、君は、陸自の施設科だぜ」

「施設科のモットーは、利用できるモノはなんでも利用しろ。そして、最後まで諦めるなです。大丈夫、777はシシミュレーターで何度もやっています」

「実物は?」

「自衛隊でもシミュレーターのあとで、本物に乗せてるじゃないですか」

「じゃ、この777のコクーンは君が預かれ」

 一瞬真剣に目を見交わしたあと、レオタード君が立ち上がった。

「ボクが操縦します。交通違反で免停中ですが、腕は確かです」

 レオタード君は、三カ国語で話して、乗客の人たちから拍手をもらった。

「責任上、わたしが上官として立ち会います。そして、精神的なサポーターとして、このさつきさんにも付き添ってもらいます」

「え……」

「無事成功の暁には、連隊長であるわたしが、二人の仲を公認いたします」

 小林一佐が、とんでもないことを言った。

「この特別なオペレーションとカップルの出現に、元アメリカ海兵隊大尉として立ち会えることを光栄に思います。大佐!」

「サンキュー、メルシー、ありがとうございます」

 レオタード君は、三カ国語で礼を言って、あたしの肩に手を回した。その手が震えていることは、あたしの生涯の秘密にしようと誓った。

「大佐、よければ、このオペレーションに名前を付けさせて下さい」


 アメのオッサンが言った。


「ほう、オペレーション・トモダチ・2とか?」

「いいえ、『オペレーション・コイビト』であります」

 パチパチパチパチ!

 キャビン中から前にも増す拍手が起こった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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