大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・94『月が綺麗だぞ』

2024-01-18 10:43:58 | 小説3
くノ一その一今のうち
94『月が綺麗だぞ』そのいち 




 ――月が綺麗だぞ――


 いきなり思念が飛び込んできた……動けない。


 姿も気配も完ぺきに隠していた。

 実戦では多田さんにも敵わない。まして、その棟梁の猿飛佐助には勝てない。これまでにも何度かぶつかったことはあるけど、勝負にならなかった。

 でも、手出しをせずに見ているだけなら気づかれることは無い。

 これでも風魔流の統帥なんだ、自分の力量は分かっている。

――そこはな、ムクドリの休憩場所なんだ。その休憩場所にムクドリの気配がない。ということは、そこに誰かが居る。すっかり気配を消していたんだろうけど、今ので動揺して気配が漏れてソノッチだと分かったぞ――

 ク……そういうことか。

 立ち上がると最短距離で佐助の横に座る。

「大胆だな」

「見つかってしまったのなら、少しばかりの距離を置いても同じですから」

「そうだな、的確な判断だ」

「どうしたんですか?」

「満月と云うのは魂の道しるべという言い伝えがある。星々でもしるべにはなるんだがな、満月は星の何十倍も明らかに死者の魂を冥界に誘ってくれる」

「はあ……」

「太閤殿下が身罷られた時はあいにくの曇り空で、月はおろか星も出ていなかったという……太閤殿下の御霊は、往生できずに淀の方様に憑りついて豊臣の家の行方を誤ったと言われている」

「そうなんですか?」

「どうだ、月をしるべに飛んで行く魂が見えないか?」

「え?」

 何を言ってるんだ、昼間の戦闘で命を落とした者たちのことか? いや、佐助は人の死にいちいち感傷を抱くような男ではない……!?

 ハッとして俯せている王子の方に目がいく。

「王子は眠らせてある、動揺が激しいんでな」

「?」

「国王が死んだ」

「え……ええ!?」

「腹上死だ」

「フクジョウシ……?」

『愛し合っているうちに突然死することですッ』

「え(#'∀'#)」

 えいちゃんが教えてくれて、あたしは狼狽えて佐助は声を出さずに笑った。

「ノッチ、お前はいい助手をもったな」

 しまった。

「王子に全権を握らせるために、国王は好きにさせていた。王子については十分すぎるほどに気を付けていた。必要な時は、こんな風に俺が代役をやっていたしな。しかし、親父の国王はノーマークだった。まだ52歳だし、健康には何の問題も無かったしな……草原の国は戦争どころでは無くなってしまった」

「どうするんですか?」

「国王の死は伏せてあるが、じきに知れてしまう。医者と側室には『極秘』を言い渡してあるがな、どこまでもつか……しばらくは混乱が続く。我々は当分手を引く」

「え、そうですか」

「おまえ……」

「はい?」

「こういう時でもタメ口にならないんだな」

「え、あ……」

「忍びにあるまじき美点だ」

「はあ」

「褒めてるんだぞ」

「ども……あの……」

「なんだ」

「素朴な質問なんですが、どうして国王に化けなかったんですか? 最高権力者は国王なんだから、国王に化けた方が確実じゃないですか?」

「アハハハ(ᵔᗜᵔ*) 」

「なんで笑うんですかぁ!?」

「まあ、しっかりやれ、俺たちが次の手を考えるまではな」


 ほんの一瞬月が陰ったかと思うと佐助の姿はかき消えていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第54話《あかぎ奇譚・1》

2024-01-18 07:21:47 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第54話《あかぎ奇譚・1》惣一 





 なにから話せばいいだろう。


 まあ、どこから話しても、めでたい話が一つと何一つ記録も証拠も残っていない話なので気楽にいこうか。

 まずは、めでたい話から。

 この春に昇進したボースン(熟練下士官)杉野曹長が結婚した話。

 陸に上がると、杉野曹長は杉野さんだ。なんといってもメンコ(在職年)が違う。オレも、この四月に二尉に昇進したけど、メンコは防大を入れても8年にしかならない。ところが杉野さんは、6の前に20が付く。艦長に並ぶくらいのメンコの数だ。

 この自衛隊と結婚したような杉野曹長がリアルにおいても結婚した!

 それも相手は十五も年下のテレビ局のアナウンサー。

 どうも去年「あかぎ」の一般公開のときに、何だかきっかけがあったようだ。

 おれは、妹のさくらのために、AKBのフォーチュンクッキーを踊らされて恥をかいたことしか記憶にないが、そのとき、いっしょに乗艦していたテレビ局のオネーサンとできてしまったらしい。


 事実を知ったのは、四月一日に陸に上がる寸前だった。


「杉野君の披露宴のスピーチ、これでいいかなあ?」

 士官食堂で、艦長から、そう言われたのが最初だった。

「す、杉野って、うちのボースンですか( ゚Д゚)!?」

 聞くまでもない。「あかぎ」の乗り組みで杉野というのは、あの杉野曹長しかいない。


 披露宴で、新郎の席に着いた杉野さんはとても四十代半ばのオッサンには見えなかった。なんともブキッチョに緊張した姿は、少年のようにウブだった。花嫁さんは、アナウンサーだけあって、あか抜けたウェディングドレスで、にこやかに微笑んでいる。

 艦長が、海自の士官としては申し分のないスピーチをやってのけたが、新婦側のゲストはみんなマスコミ関係、ウィットも話題も豊富で、海自側は押され気味だった。特に、オレのスピーチの直前に出たディレクターのオッサンが、こともあろうに妹のさくらのことを話題にしたので、若者用語で言えばテンパッテしまった。

「えー、ここで初披露になりますが、新郎杉野さんの上官であられる佐倉二尉の妹さん佐倉さくらさんが、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の実写版に出演されることになりました……」

 おかげで、オレのスピーチは急遽妹のことから入らざるを得なくなり、「あいつが入ったあとのトイレは格別に臭く……」などとやってしまった。ネイビーの士官のモットーは、スマートとウィットである。トイレの話はウケたが、我ながら品性に欠ける。

 そのあとも、新郎側は押されっぱなしだった。

 とどめに出てきたのが新郎の祖父、もう百歳になろうかというしなびた老人であった。完敗を覚悟した。

「ええ、本日は……不肖の孫のために……ゴホンゴホン(ここで痰を切った)我が家は、私の祖父の代からのネイビーでありますが、三代目のわたしが不甲斐ないために、海自のみなさんには戦後ずっと肩身の狭い思いをさせてまいりました。艦長はじめ乗り組みのみなさんには……」

 あとの言葉は明瞭ではなかったが、旧海軍の出であるということで、我々の背筋が伸びた。

「なんの船に乗っておられたのか?」

 艦長が、司会を務めていた砲雷長に聞いた。驚くべき答が返ってきた。


「大和だそうです」


 艦長が起立した。

「お祖父さまは、大和の乗り組みであられた。総員起立、敬礼!」

 しなびたお爺さんの背筋が五センチほども伸び、見事な答礼を返された。

 期せずして、新郎側の一発逆転になった。しかし、その二日後にお爺さんは、静かに逝かれた。あの答礼で、ネイビーのなんたるかを自分達に伝えて逝かれたような気がした。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする