大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・023『ゆく年くる年』

2024-01-01 10:37:15 | カントリーロード
くもやかし物語 2
023『ゆく年くる年』 




 ほた~るのひか~りぃ♪ ま~どのゆぅ~き~ぃ♪


 日本語で歌うと、みんなの視線が集まってきた。

 え……あ……(#^_^#)

「日本でもAuld Lang Syne (オールド・ラング・ザイン)歌うのねえ!」

 ハイジと並んでいたコーネリアが上品に手を組んだまま感動している。

「え、あ……英語の歌詞はむつかしくて」

 英語は喋れるんだけど、歌が唄えるほどじゃない。

 それにメロディーは完全に『蛍の光』だったし。

 大晦日の夜はダイニングに集まって年越しをしたんだ。

 それで、メイソン・ヒルが「Auld Lang Syneを歌いながら新年を迎えようじゃないか」と凛々しく提案して、ハイジが「それ、知らねえぞ」って言って、他にも何人か知らない子がいたので、メイソン・ヒルが「練習しよう!」て言って、みんなで歌い出したとこ。

 わたしも感動したよ。

 だってさAuld Lang Syneなんて聞いたことないタイトル言われて、それで前奏が始まったら完ぺきに蛍の光だったから、日本人なら自動的に「ほた~るのひか~りぃ♪ ま~どのゆぅ~き~ぃ♪」って歌ってしまうよ。

「わたしたちも入れてくれるぅ?」

 声がかかったかと思うと、入り口に王女さまが詩(ことは)さんの車いすを押して立っている。

「わたしも、コトハも日本の学校だったから、やっぱり蛍の光になるかなあ」

「じゃあ、三人で一度歌ってもらえませんか!」

 メイソン・ヒルがとびきりの笑顔で提案して三人で歌ったよ。

 そして、一番を歌い終わったら、みんな待ちきれないで、そのままAuld Lang Syneのコーラスになって、途中からは、どこからかバグパイプの演奏も加わって、とってもいい雰囲気で新年を迎えた。


 そして、二時くらいまでは、みんな起きていてお喋りしたりして過ごした。


「ねえ、初日の出見に行こうよ!」

 朝まで起きていたのは10人も居ないんだけど、王女さまが明るく提案すると、半分くらいが目を覚まして付いてきた。

「日の出見ると、なんかいいことあるのかあ~」

 目が覚め切っていないハイジは王女さまがいるのも忘れてプータレる。

「元日の太陽は、一年でいちばん力があるのよぉ」

 王女さまが言うとロージー・エトワーズ(お祖父ちゃんがマフィアの大物だったって噂がある)が、がぜん元気になって、みんなの前に出た。

「知ってる! エジプトだって、そうでさ、元日の太陽で秘密の扉が開くピラミッドがあるんだって!」

 ホホー ヘエー とか笑いの混じった声が上がる。

「ホントだからね」

「こんなのもある」

 声を上げたのは、ちょっと堅物のアイン・シュタインベルグ。

「日露戦争最後の戦いだった奉天の戦いで、総参謀長だったコダマ大将は毎朝日の出に祈って大勝利を得たって」

 ホォ……

 ウクライナじゃロシアとの戦争の真っ最中。静かな反応だけど、ちょっと真剣みがある。

 でも、話を膨らます者はいない。

 雪は降っていないけど、やっぱ寒い。

 なんせ、日の出前なんで、みんな懐中電灯で足元を照らしている。


 わたしたちが向かっているのは湖のほとり。日が昇ると湖面に朝日が照り返して、きっと二倍はきれいだから。


 オオオオオオオオオオオ


 ちょうど山の端を太陽が昇ってくるところで、予想通り、湖面はキラキラと光の妖精たちが踊っているように煌めき始めた。

 それから、みんなは、一様に押し黙って、お日様が完全に姿を現すのを見守った。

 そして、わたしは、そんな私たちを見ている者の気配を感じていた。


 これは、たぶん……デラシネだ。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第37話《陸自の記者会見》

2024-01-01 07:14:45 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第37話《陸自の記者会見》さつき 




 陸自 女子大生を撥ねて記者会見! 


 A新聞が三面記事のトップにした。


「うそ( ゚Д゚)!?」


 慌ててSNSを検索した。新聞と同じ写真が、動画になって出ていた!


 隊長の河内一尉と、当事者のクロウド一等陸士が大勢の記者の前で謝罪会見をおこなっていた。


「幸い被害者の女子大生の方は、軽い打撲で今朝退院されました。しかし、事故であったことには間違いありません。法律遵守の自衛隊には、あってはならない事故でありました。被害者の女性の方はもちろんのこと、警察を始め関係の方々にご迷惑をおかけしたことを心からお詫び致します」


 河内一尉とクロウド一等陸士が同時に起立し、深く頭を下げた。カメラのフラッシュが一斉に光った。


 あとA新聞とM新聞が執拗に質問というよりは、非難をくり返した。Y新聞とS新聞はメモを取るだけだった。あまりのしつこさにS新聞の記者が声を上げた。


「要は、歩行者の女性の不注意。赤信号で道路を横断し、車と接触転倒され軽傷。事故後の救護や警察への連絡や対応も法規通り処理された。昨日百余件有った東京の交通事故の一つだったというわけ。自動車が不利なのは分かってるけど、終わった問題なんでしょ」

「それじゃ、自衛隊には問題無いって言うようなもんじゃないか!」

「無いとは言ってない。前方不注意はあるだろうけど、ただの交通事故。で、軽傷、事故後の対応にも問題なし。他になんかあるのか!」

「ただの? 自衛隊が起こした事故なんだぞ!」

「おたくの新聞社が、同じ事故おこしたら、こんな記者会見やんのかよ!」

「あ、Sご自慢の問題のすり替え」

「なんだと、そっちこそすり替えねつ造の常習じゃねえか!」


 この記者たちの口げんかの間も、河内一尉とタクミ一士は頭の下げっぱなしだった。あたしは見ていられなくなって×印をクリックした。すると、下からお母さんの声が上ってきた。


「さつき、自衛隊の方が、こられてるよ!」


 玄関に出ると、今まで動画サイトで見ていた河内一尉とクロウド一士が三和土に立っていた。


「すみません。あたしが悪いのに、大変な目に遭わせてしまって」

「いいえ、こちらこそ、記者会見などに追われてしまい、最初にお伺いしなければならないところ、遅くなって申し訳ありませんでした」

「「本当に申し訳ありませんでした」」


 出したお茶にも手を付けずに二人は、記者会見同様、ただただ頭を下げるばかりだった。


「どうぞ、頭をお上げになってください」


「お父さん」

「あなた」

 勤務中であるはずのお父さんが、リビングに入ってきた。

「職場に、A新聞が来ましてね、お二人が来られることを匂わせましたんで。時間休をとってきました」

「それは、わざわざ申し訳ありません。お父様には、この後お伺いするつもりでした」

「河内さん、職場なんかに来られたらAやM新聞の餌食ですよ。うちは静謐第一の図書館ですから、その前で騒いで、区民の非難やら迷惑顔を撮りたいんですよ」

「ご配慮、痛み入ります」

「うちも、長男が海自におります、自衛隊のお立場は分かっているつもりです。レオタードさん、あなたが娘の不注意のあと、きちんとして下さったのは、これからもよく聞いております」

「お父さん、レオタールさんよ!」

「あ、これは失礼。A新聞の記者がそう言っていたものですから」

「いや、いいんです。基地内でも、レオタードで通っていますから(^_^;)」


 上げたタクミ君の笑顔は意外なほど子どもっぽかった。


「そうだ、いいアイデアがある!」

 お父さんが膝を叩いた。

「今度、息子の船が、横須賀に戻ってくるんです。一般公開がありますから、娘といっしょに行かれませんか。互いにゴタゴタがないことのいい宣伝になります。そうだ、さくらにも声を掛けよう。あいつがいっしょなら宣伝効果が倍になる」

「え……佐倉さくらさんて『限界のゼロ』に出てらっしゃる、さくらさんですか!?」

 クロウド君の目が、さらに子どもっぽく輝いた。


 プンプン!


 最後のところで、おもしろくなくなった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする