大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・027『御息所のおりいった話・2』

2024-01-29 10:17:37 | カントリーロード
くもやかし物語 2
027『御息所のおりいった話・2』 




 じつは……


 と、少し顔を上げて本題に入る御息所。

 顔を上げると小じわもほうれい線も目立たなくなる。

「去年、二丁目断層がやってきたことがあったでしょ?」

「え、あ、わたしに化けて来た」

「はい、ほんとうはまっくろくろすけなんですけどね」

 二丁目断層というのは、家と学校の間の坂道。一丁目の家から三丁目の学校に行く間に坂道があって、昔々に、断層がズレて坂道になった。
 その断層じしんが妖で、ふだんはまっくろくろすけ。

 その二丁目断層が、わたしに化けて会いに来たことがある(やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』)。

「チカコの話とかしに来たんだよね」

 そうだ、あれから色んなところに行って、みんな収まるところに収まって、気が付いたらうちの妖たちはわたしの部屋から卒業していったんだよ。チカコももとの親子(ちかこ)、すなわち和宮内親王になって家茂さんと再会してうちを出て行ったんだ。

「あれは、全部やくも、あなたの力があったからできたことなんですよ」

「え、そうなの?」

 いろいろ走り回っていろんな目に遭ったけど、じぶんがやったって自覚はない。なんというか、災難に巻き込まれた感じだったしね。

「やくもの胸には大きなタマが宿っているんです、ソウルとも言います」

 ソウル……デラシネもそんなこと言ってたなぁ。

「ところが、そのタマを実際の力にするためのタマノオが未熟」

「み、みじゅくぅ(;'∀')」

「ところが、やくもの家族は、タマは弱くて小さいんだけども、タマノオは十分以上に持っているんです。まあ、言ってみればデバイスやバッテリーが無いのにケーブルだけがいっぱいあるみたいな」

 ああ、ケーブルって、本体がダメになっても捨てられないよね。

「方や、やくものタマにはタマノオが無い。それで、密かに家族のタマノオをやくもの胸に移植したのです」

「え、ええ!?」

「静かに、ルームメイトが起きてしまいます」

「あ、あ、ごめん(^△^;)」

「だからこそ、チカコもみんなも有るべきところに収まったんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「そこで、こんどはデラシネを助けてやって欲しいのです」

「デラシネを……」

「デラシネは森の王の血筋なのです」

「森の王?」

 森の王といえばティターニア、いやオーベロン?

「本来ならばあの子の家系が王の血筋なのですが、さまざまな経緯があって、本来は傍系であったティターニアの家系が王位を継いでいるのです」

「それって……」

 日本での思い出がよみがえる。

 いろんなイザコザに巻き込まれたけど、たとえ妖でも、やっつけたりぶちのめしたりというのは、ちょっとコリゴリなんだよ。

「ぶちのめす的なことでは解決しないと思いますよ」

「え、じゃあ、どうすれば……」

「軽々とは言えません……というか、分かりません」

「そんなぁ」

「ちょっと失礼します……」

「ムグ!?」

 御息所の手が胸の中に入ってきた!

 痛みとかは無いんだけども、ゲームのバグみたい気持ちが悪い。

「よいしょっと……よし、学校関係者にデラシネのことは見えないようにしておきましたから。やくもの周囲一キロ以内では気づかれません。必要なら森の住人からも見えなくできますが、トラブルのもとになりそう……まあ、慣れれば、やくもが自分で操作してくださいな」

「ええ、わたし任せなのぉ!?」

「大事なことは、デラシネに根を下ろす場所を見つけてやることでしょうねえ……あ、そろそろルームメイトがお目覚めになりそう」

 え?

 チラッとネルのベッドに目をやると、ネルはまだ静かに寝息を立てている。

 ハッと思って向きなおったら、もう御息所の姿は無かったよ。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第65話《够朋友gòu péngyou》

2024-01-29 06:32:52 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第65話《够朋友gòu péngyou》さつき 





「够朋友(gòu péngyou)」


 二人の女にトイレから連れ出されると、別の二人の女子高生が声をかけてきた。
 
 最初の二人の女は、うろんな顔した。

――確保しろ!――

 小さな声がした。

 脇の死角から四人のOL風やら学生風やらが現れて、あっという間に二人の女を掴まえた。二人の女子高生は女二人の口に錠剤のようなものを放り込んで、二人の女は、口から泡を吹きだして、ぐったりとした。

「脱水症やわ、救急車呼んでぇ!」

 女二人を確保した一人が、そう言うとあたしは、いっしょに地上に運ばれた。

 大阪の救急隊って手回しいい……ぼんやりした頭で、そう思った。救急車に赤いラインも赤色灯も無いことも不思議にも思わなかった。

 救急車は、そのまま走り出した。女二人は車の中で手錠をはめられそうになったが、リーダーと思われる男が制止した。

「持ち物を調べろ」

「外交官のパスを持ってます」

「じゃ、やっぱり二人は脱水症だ。B地点に救急車。スマホのデータはコピーしとけ」

 しばらくすると、本物の救急車と出くわし、二人の女は救急患者として救急車に乗せられて行ってしまった。

「あの二人はC国の工作員。ただ外交官の資格をもってるので、これ以上の拘束ができないの。さつきさんは、このままS駐屯地に送らせてもらうわね」

 サブリーダーと思われる女性が、そう言った。

「さっきの女子高生は、なんと言ったんですか?」

 やっと、質問する余裕がでてきた。

「够朋友、ゴーパンヨー。『友だち甲斐があるわね』 おかげで気付かれずに、あの二人の脇にまわれた」

「なんで、高校生の女の子が?」

「ハハ、ああ見えてもあたしの先輩。当然年上だけど」


 S駐屯地に着くと、簡素で小振りな隊舎に連れて行かれた。


「途中大変な目に遭われたようですね。警備が後手になって申し訳ない」

 一佐の階級章を付けたオジサンが頭を下げた。

「これって、どういうことなんでしょう?」

「全部話してあげた方がいいでしょう。予想外の展開になってきましたから」

 司令の札が付いたデスクに座っている別の一佐が、優しく言った。

「佐倉さつきさん。あなたを日本によこしたのは大学じゃないんです。陸上自衛隊です」

 理解ができなかった。兄の惣一は自衛隊でも海上自衛隊。陸上はエールフランスの飛行機でスペクタクルをいっしょに体験したクロウドと小林一佐がいるだけだ。二人とも、あれ以来会ってもいない。

「さくらさん、あなた、エールフランスの事故以来、ときどきクロウド三曹と小林一佐のことが頭に浮かぶようになったでしょう?」

「あ、はい……」

 顔が赤くなってきた。

「あの事故では、クロウド君が操縦し、さくらさんと小林一佐が、それを見守った。そして、クロウド君は初めての操縦ながら無事に機体を空港に着陸させた」

「はい、大したものだと思いました。お父さんのシミュレーターで経験はあったみたいですが、あんなに無事にいけるとは思わなかったです。あたしは、ただ彼の肩に手を載せて無事を祈っていただけです」

「それなんですよ。あの危機を三人で乗り切ったことで、さつきさんはクロウド君と心が通じるようになってしまったんです。一種のテレパシーです」

「え、そうなんですか!?」

 驚きの中に、かすかに喜びが混じっていることにうろたえた。

「動揺されるのも無理はない。ただ、わたしたちは困っています」

「え……」

「クロウド・レオタール君は、四ヵ国語に通じ電子機器についても詳しいやつで、専門的な通訳としては実に頼りになります。もうお分かりかと思うんですが、彼はその職責上、機密に触れることが多い」

「はい……」

「それが、あなたの頭の中にも入ってくるんです」

「え、そんな自覚ありません。時々クロウド君のことが頭に浮かんでくるのは確かですけど」

「さつきさん。あなたの頭脳はハッキングされているんです」

 え、ええ…………!?

 あたしは声も出なかった……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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