大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・025『お風呂に現れたデラシネ』

2024-01-16 09:55:07 | カントリーロード
くもやかし物語 2
025『お風呂に現れたデラシネ』 




 え、ボディーソープだ!


 頭を三回ガシガシやって気が付いた。

 まだ馴染み切っていないボディーソープを拭ってお湯で流して、シャワーをジャブジャブ。
 子どものころ――ま、いいや――と思って、そのままシャンプーして髪がバサバサのガシガシになったことがある。
 だから、もったいないけど流してやり直し。

 両横にはネルもハイジもいるんだから言ってくれればいいのに……と思うのはわたしの我がまま。人が掴んだのがシャンプーかボディーソープかいちいち見てないよね。

 やっと洗ってシャワーで流すと……え、誰も居ない。

 振り返ると浴槽にも洗い場にも人の姿が無い。

 え……?

 ネルとハイジの他にも五六人は居たはずなのに。

 耳を澄ますと、隣の男風呂の方にも脱衣場の方にも人の気配がない。

 日本ではさんざんあやかし達に出会ったので、その経験から騒いだりはしない。こういう時にうろたえると、事態はややこしくなるばかりだからね。

 ザップーーン

 しばらくすると大きい方の湯船に水柱が上がってデラシネが上がってきた!

「チ、なんで落ち着いてんだぁ!」

「いったい、どこから?」

 福の湯は四方に結界が張られて、あやかしは入って来れないはずだ。

 それに、人が居なくなってるし。

「あたしを完全に封じることなんかできないのよ」

「それにしては時間がかかったわね。福の湯が開業してから一週間も経ってるわよ」

「こっちにも都合があるんだよ」

「で、なんの用?」

 いずれは現れると思っていた、会いたいわけじゃなかったから、少し邪険にしてさっさと済ませるにかぎる。サッと立ち上がって浴槽に浸かる。

「いさぎいいな」

「いやなことはサッサと済ませる主義なの」

「お、おう」

 横に並んでやると、微妙にたじろぐデラシネ。

「さっさと言いなさいよ、長風呂は嫌いなんだから」

 体格は、わたしの方が微妙に大きい。こういう時は居丈高に出て、先にマウントをとる。
 
 すると敵は半分お湯に隠れたわたしの胸を見る。

 ジィィィィィィ(¬_¬)  

 いっしゅんたじろいだけど顔には出さない。わたしの方が微妙に大きいのを知っているからだ。

「おまえ、胸を手術したな」

「え、そんなのしてないよ」

 胸を隠したくなる衝動をなんとか堪える。

「オッパイじゃない、中身の方だ」

「え?」

「ソウルコードが移植されてる」

「それがどうしたの」

 ソウルコードって、言葉の意味さえ分からないけど、ここで「なにそれ?」なんて聞いたらマウントをとられてしまう。

「ヤクモ、お前のソウルは規格外だ。だから、それを繋ぎとめておくコードは並のものではもたないんだと思う。だから、ここ一年くらい前に丈夫なコードに入れ替えられている……日本語では、たしか『タマノオ』だ……おまえが強いのは、これが原因……ほんとに記憶にないのかぁ……大手術だったはずだぞ」

「知らないわよ」

「まあいい、実は仲直りして頼みごとがあったんだけどな。その傷を見てしまった、出直すよ」

 そう言うと、デラシネはゆっくりお湯に浸かって姿をくらました。


 脱衣場に上がると、ハイジやネルたちがスゥエットやパジャマで、髪を乾かしたりコーヒー牛乳を飲んだり寛いでいる。

「長湯だったなヤクモ」

「え、ああ、シャンプーとボディーソープ間違えちゃって」

「え、そんなのどっちでもよくね?」

「みんな、ハイジみたいな野生児とは違うんだよ」

「なんだってぇ!」

 髪を触ってみると、頭頂部のとこだけ少しパサついている。

 タオルで拭くふりをして胸を見ると、やっぱり傷跡なんかは無かった。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第52話《半日留学》

2024-01-16 06:23:35 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第52話《半日留学》さくら 




 コップの氷がコトリと音をたてて、それがスイッチのように由香が切り出した。

「はるか、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」

「カットォ!」


 ああ、これで四度目のNGだ(-_-;)。


 大阪弁は方言指導の先生も入ってくださって「完ぺき」のお墨付きをいただいたが、雰囲気が大阪の高校生ではないという難しいダメだった。監督やら原作者が何か相談している。身の縮む思いだよ。

「由香のシーンは、明日まとめ撮りします。さくらちゃんは、ちょっと大阪のお勉強しましょう」

「すみません(◞‸◟)」

 わたしは頭を下げるしかなかった。


「まあ、ゆっくり大阪を楽しんできてよ」


 はるかさんの慰めの言葉をあとに、わたしは、マネージャーと大橋先生に連れられて、タクシーに乗り込んだ。

 これは、心斎橋とか道頓堀とか、コテコテの大阪の街の探訪かと思った。


「え?」


 着いた先は、タクシーで十分ほどの府立高校だった。


「大阪グローバリズムハイスクール。略称OGH。名前はハイカラやけど、大阪では標準的な高校」

 と、一言だけ説明を受けて応接室に通された。いかつい顔の先生がいた。

「2年3組の担任の岩田です。四時間目から入ってもらう準備ができてます。制服は11号でいけるでしょ。これです」

「じゃ、さくら。隣の部屋で着替えて」

 なんだか分からないうちに、あたしは他の生徒と同じナリにさせられた。

「うーん、やっぱり、大阪の……少なくとも、うちの生徒には見えまへんなあ」

 着替えたあたしを見て、岩田先生が言った。

「まあ、とにかく教室入ってもらいますか」

「お願いします」
 
 わたしは休み時間が終わろうとしている校内を2年3組の教室に案内された。

 廊下で出会う生徒がチラ見していく。わたしも目の端で生徒を見る。

 どことは言えないけど、わたしの学校とは様子が違う。公立と私学、女子高と共学校の違いを超えた、えと……なにか根本的なところが違う……としか言えない。

「みんな、注目。急な話やけど、4時間目から放課後まで、特別転校生が入ります。佐倉さくらさん。数時間の付き合いやけど、みんな、よろしくな。ほんなら佐倉さん。挨拶を」

 この時点で、何人かには正体がばれていた。

「えー!?」「いま売り出し中の!?」「さくらちゃん、ちゃうん!?」「ソックリさん?」「ホンマもんや!」など、教室がかまびすしくなってきた。

「えと、もう正体ばれてるみたいですけど。佐倉さくらです。いま『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の撮影で大阪に来てます。大阪の高校生の役なんですけど、どうも大阪の匂いがしないってことで、半日みなさんに教えてもらうことになりました。なにをするのか、あたしにもよく分かってないんですけど、よろしくお願いします」

 パチパチパチパチ! ヒューヒュー!

 拍手と歓声が上がった。クラスのみんなが吉本なんじゃないかってぐらい、ノリがいい。

「一応、お世話係決めとくわな……」

 先生が言い終わらないうちにスズメの子のピーチクみたいに手が上がる。

 ハイハイハイハイハイ!

「じゃかましい! オレが指名する。佐藤、お前がお世話係。出席番号も、お前の前やし、演劇部やさかい、ちょうどやろ」

「任務は虫除け!」

「その通り」

「ラジャー('◇')ゞ!」

 まだ学年が始まって間がないんだろうけど、先生と生徒は阿吽の呼吸のようだ。簡単にいうとツーカーの仲。

 わたしの世話係というのは、佐藤明日香という子で、偶然にもはるかの住んでいた高安に家がある。で、放課後は佐藤さんの家に泊めてもらうことが急に決まった。

 教科書やノートもあっという間に一人前がそろった。

 授業の始まりからタマゲタ。

 国語の授業だったけど、先生のノリがいいのか、これが普通なのか、みんなで写真を撮るところから始まった。クラスのみんなとは、顔を合わせて十分ほどしかたっていなかったけど、もう入学以来の知り合いのノリ。男女を問わず距離を詰めてくる。もう、なんだかモミクチャのうちに何百枚と写真が撮られた(^_^;)。

「ほんなら授業!」

 先生の声で、みんなは一応席につくけど、ざわつきは収まらない。

「佐倉さんの出てた『限界のゼロ』やけど、あの『覚悟はできていますか』いう佐倉さんの一言で映画が締まった。あれはアドリブやそうで……せやな、佐倉さん?」

「あ、まあ……」

 また話のサカナにされるのかと思うと、ちょっとやな気がした。

「人生において大事なことが、ここにあります。臨機応変ちゅうか空気を読むいうこと。それが佐倉さんにはできる。で、こうやって女優をやってる。で、その佐倉さんをもってしてもどないにもならんのが、大阪の空気や!」

 どっと笑いがおこる。

「その空気が読めたんが兼好法師。教科書41ページ。『仁和寺の法師』佐藤読んでみて」

「はい」

 バラエティー並に段取りがいい。みんなを程よくのせておいて、いわゆる「つかみ」をしっかりやり、動機付けもちゃっかりやって授業に入る。で、ノリと流れがいいと、みんなも素直に授業に入っていく。

 ちょっとだけだけ、大阪が分かったような気がした。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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