大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・074『宮之森連隊戦友会』

2024-01-15 12:07:04 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
074『宮之森連隊戦友会』   




 震度5という地震は初めてだ。


 三つになるかならないかで東日本大震災に遭ってるんだけど記憶がない。

 まあ、たかだか16年の人生だからね。

 震源地の能登半島ではかなりの被害が出て、輪島では火事が起こった。

 道路は寸断されて、駆けつけた消防団は二つしかなくって、おまけに陸地が隆起して川や海から水を取ることも難しく、ほとんど自然に燃え尽きるのを待つしかない状態だったってニュースでやっていた。

「お祖母ちゃん、魔法少女は地震を防いだりとかはできないの?」

 テレビの中継を観ていて、思わず聞いてしまった。

 お祖母ちゃんは、それには応えずに、肩を寄せて十年ぶりぐらいに頭を撫でてくれるだけ。

 自分でも分かってる。これは質問じゃなくて、ほとんど悲鳴だったんだ。

 明くる二日には羽田空港で日航の飛行機と海上保安庁の飛行機が衝突。

 空港のカメラとかが撮っていて、まるで映画の特撮シーンみたいに鮮明で、それが何度も何度も流されて、ちょっとトラウマ。
 日航の300人以上の人たちは奇跡的に全員無事、海上保安庁の人たち5人が亡くなった。


 四日の日には橋を渡って1971年でアルバイト。


 写真館のアルバイトも、もうニ十回以上。そのほとんどが結婚式場の撮影。
 時々、お葬式や会社とかの行事の記念写真。

「今日はね、戦友会の記念写真だよ」

 ホンダZのハッチバックに機材を載せながら直美さん。

「戦友会?」

 ちょっとピンとこない。

「うん、宮之森連隊の」

「宮之森レンタイ?」

「うん、伯父さんが居た連隊なんだけどね、その縁で毎年呼んでもらえるの」

「えと、レンタイって?」

「え、ああ、そこから分からないか(^_^;)」

 レンタイと言われると連帯という漢字に変換してしまう。アクセントでは変態と同じだもんね(^・^;)。

 会場の大浜の旅館に着くまで「わたしも詳しくないんだけどねぇ」と言いながらあれこれ教えてくれる。
 その伯父さんの上にもう一人伯父さんが居て、上の伯父さんは海軍でパイロットをやっていたそうだ。


「いやあ、直美ちゃん、今年も世話になるよ(^▽^)」


 応対に出てきた幹事のオジサンは、まだ五十がらみで頭もフサフサ。
 まだ、戦後26年だから、そんなものなんだけど、令和で生きてると戦争にいった人って若くても90代後半だから、勘が狂う。

「じゃあ、お酒が入る前にシャンとしたところを撮りましょう!」

「アハハ、去年は揃うの待ってから撮ったから出来あがっちゃってたからねえ。おーい、みんな先に撮るぞぉ!」

 中に呼びかけて、大広間に100人近くのオジサンが集合。

「まず、黙祷します。三列横隊、並べ!」

 オジサンが掛け声をかけると、意外な機敏さで並ぶ。右手を腰に当てチマチマと間隔を正していくところなんか、軍隊式なんだろうけど、ちょっと可愛い。そして、並んだ向きは、なぜか斜め。

 それで、なんと黙祷は二回行われた。

 最初は、戦死した仲間たちと戦後病気とかで亡くなった仲間たちへの黙祷。

 斜めなのは靖国神社の方角を向いているからなんだそう。なるほど。

 あれ?

 二回目はオジサンの号令で、全員回れ右。

「三河地震犠牲者の霊に黙とうを捧げます……黙祷!」

 え、三河地震?

「じゃあ、お写真撮らせていただきます」

「写真撮影隊形に並べ!」

 これもオジサンの号令でキビキビと並んで、結婚式場の撮影よりも早く済んだ。


「三河地震ってなんですか?」


 いっしょに飲んでけと言われ「いやあ、まいったなあ」と笑顔で一杯だけビールで乾杯……と思ったら、ほとんど一本と日本酒に付き合う直美さん。わたしは、さすがにオレンジジュース。
 
 これは運転代行頼まなきゃ……と思ったら、まさかの飲酒運転!?

 この時代は少々のアルコールは平気みたい(^_^;)

 で、車が走り出してから聞いた。

「うん、終戦の年の1月13日に三河地震があってね、大勢人が亡くなったのよ。戦時中だからいっさい報道はされなかったんだけど、宮之森の兵隊さんたちはみんな救援に駆り出されたんだって」

「そんな地震があったんですか?」

「うん、前の年の昭和19年にも大きな地震があって、戦災もあって、ここいらは踏んだり蹴ったりみたいだったって言うわよ」

「そうだったんですかぁ……」

「東京から疎開に来て、東京の家は無事だったけど、地震で亡くなった小学生とかね……」

「そうなんですか……」

「教頭先生居たの気づいたぁ?」

「え?」

「教頭先生、兵隊だったのよ宮之森連隊の」

「え、そうだったんですか!?」

「メグッチ、公式にはバイトの許可とってないでしょ」

「え、許可いるんですか!?」

「生徒手帳に書いてある」

「そうだったんですかぁ」

 ちょっとヤバイかなあ。

「アハハ、守ってる子なんて半分も居ないけどね。まあ、気づかれなかったってことよ。めでたしめでたしぃ(#^_^#)でOKよ!」

 あ、酔ってる。

 帰り道は、なんと交番のお巡りさんにも挨拶するしぃ。

 いやはや、昭和の宮の森は平和に年が明けた。
 


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第51話《クランクイン》

2024-01-15 08:58:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第51話《クランクイン》さくら 





 クランクインは大阪だ。


 まあ、舞台の大半が大阪なんだから、当たり前。


 最初は鶴橋駅でのシーンから。


 はるかが初めて母といっしょに鶴橋の駅経由でアパートに帰る道すがら、ホームにまで立ちこめる焼き肉の匂いに母子もお腹の虫もびっくりするところ。

「日本で一番おいしい匂いのする駅だ」

 はるかの独白から始まる。で、エスカレーターの乗り方が東京と逆で、歩く人のために左側を空ける。それを知らずに左側に立ち、邪魔になってオッサンに怒鳴られる。

「大阪っておっかなーい」

 この十数秒のカットと、他に5カットのために、終電が出たあとの鶴橋駅を借りる。エキストラは50人だけど、CG処理で、数千人に見せるそうだ。で、この撮影に、あたしは参加していない。鶴橋駅では出番がないから。


 二日目の志忠屋の撮影から参加した。


 志忠屋が実在の店であることは知っていたけど、15坪15席の店内が、広く見えるようにレイアウトしてあるのにはビックリ。撮影用じゃなくて、普段からそうだと、マスターの滝川さんに聞かされて感心した。
 マスターの滝川さん役は、監督と作者の大橋先生が相談して、リアル本人にやってもらうことになっている。

 おお( ゚Д゚)

 本人を見て納得した。シェフのナリをしていなかったら、どう見ても、その道の玄人。子分の百人もいようかという風格。それに若い頃は役者の真似事もやっていたようで、芝居もお上手らしい。


「お、はるか……ちゃんやな?」

 これがマスター……がっしりした上半身がカウンターの中で、ロバート・ミッチャムの顔をのっけて振り返る。でもってチョンマゲ!

「母がお世話になっています。ご……坂東はるかです。マスターさんですか?」

「まあ、お座り」

「あ、はいっ!」

 すると、奥のトイレからジャーゴボゴボと音をさせて、お母さんが出てきた。

「あ、はるか。思ったより早かったじゃない」

「初日だもん。でも中味は濃かった!」と、立ちかける。

「タキさん。トイレ掃除完了。あとやることあります?」

「ないない、トモちゃんも落ち着こか」

 タキさん、トモちゃん……初日から、もうお友だちかよ。

「お母さん、これから教科書と制服いくんだよね……!」

 ドアに向かう。

「え、ああ、あれね……」

 あ、また忘れたってか……!? 自動ドアに挟まれそうになって止まる。

「あれ、行かなくってもいいことになった」

「え、どういうこと(まさか、また学校替われってんじゃないでしょうね)!?」

「送ってもらうことにしたから。今夜には家に着くわ」

「だったら、言ってよ。わたし友だちのお誘い断ってきたんだからね!」

「あら、もう友だちできちゃったの!?」

「さすが、トモちゃんの娘やなあ」

「原稿の締め切り迫ってるからさあ……」

「まあ、昼飯にしよ。はるかちゃんも、口さみしいやろから、これでも食べとき。それから、オレのことはタキさんでええからな」

 タキさんは、サンドイッチを作って、オレンジジュ-スといっしょに出してくれた。

 そして、タキトモコンビの前には、毛糸にしたら手袋一個と、セーター一着分くらいのパスタが置かれていた。想像してみて、セーター一着ほどいた毛糸の量のパスタを!!

 ここで怒っても仕方ないので説明。

 目の前で、アッケラカンとパソコンを叩いている坂東友子。つまり、わたしの母は、つい一週間前に離婚したばっか。

 離婚の理由は、長年夫婦の間に蓄積されてきたもので一言で言えるようなもんじゃない。

 でも、離婚に踏み切れた訳はこのパソコン。

 わたしが、まだお腹の中にいたころに暇にまかせて書いた小説モドキが、ちょっとした文学賞をとっちゃって、以来、この人は作家のはしくれ。

「ハシっこのほうで、クレかかってるんだよね」

 そう言って、怖い目で見られたことがある。だって、本書きたって年に二百万足らずしか収入がない。
 最初はよかった。お父さんはIT関連の会社を経営していて、お家だって成城にあって、住み込みのお手伝いさんなんかもいた。

 でも、わたしが五歳のときに会社潰れて、お父さんは実家の印刷会社の専務……っても、従業員三人の町工場。で、そのへんからお母さんの二百万足らずが、我が家にとって無視できない収入源になってきて、あとは、世間によくある夫婦のギスギス。

 かくして夫婦の限界は、先週臨界点を超えてしまい決裂。

「よーく分かったわ。はるか、明日この家出るから、寝る前に用意しときなさい」

 二人の最後の夫婦げんかは、明日の天気予報を確認するように粛々と終わっていた。わたしも子どもじゃないから、ヤバイなあ……くらいの認識はあった。でも、こんな簡単に飛躍するとは思っていなかった。

 そして、まさか大阪までパートに来るとはね……。

 作家というのは意表をつくものなんですなあ……って、タキさんもなんか書いてる!?

「ああ、これか……おっちゃんも、お母さんと同業……かな」

「タキさんは、映画評論だもん。ちょっと畑がちがう……」

 カシャカシャカシャと、ブラインドタッチ。

「せやけど……それだけでは食えんという点ではいっしょやなあ……」

 シャカ、シャカ……と、老眼鏡に原稿用紙……なんというアナログ!

「おれは、どうも電算機ちゅうもんは性に合わんのでなあ」

 ロバート・ミッチャムはポニーテールってか、チョンマゲをきりりと締め直した。店を見回すと、壁のあちこちに映画のポスターやら、タキさん自筆のコメント。

「……ところで、はるか、学校はどないやった? もう友だちはできたみたいやけど……」

 百年の付き合いのような気安さで、タキさんが聞いた。

「うーん……ボロっちくって暗い。でも人間はおもしろそう。今日会ったかぎりではね」

「どんな風にボロっちかった?」

 原稿用紙を繰りながら、横目でタキさん。

「了見の狭い年寄り。ほら、こめかみに血管浮かせて、苦虫つぶしたみたいな」

「ハハハ、ええ表現や。たしか真田山やったな?」

「あ、わたし演劇部に連れてかれちゃった!」

「え、はるか、演劇部に入んの!?」

 お母さんが目を剥いた。

「図書の先生がね、演劇部の顧問。でね、本を借りたら、そういうことになっちゃって」

「演劇って、根性いるんだよ。その場しのぎのホンワカですますわけにはいかないんだよ」

「なによ、その場しのぎのホンワカって!」

 当たっているだけに、むかつく。ちなみにホンワカは、東京以来のわたしの生活信条。

「はるかは、本を読んではおもしろがってるしか、能がない子なんだよ」

 あ、暴言! それにはるかの苦労は、あなたが元凶なんですぞ。母上さま……!

「で、どや、おもしろかったんか?」

「大橋っておじさんがコーチ。変なオヤジかと最初思ったけど、わりとおもしろそう」

「大橋て、ひょっとして大橋むつおか? 字ぃのへたくそな」

「うん、有名な人なの?」

「オレのオトモダチや」

「「え!?」」

 母子は同時に驚いた。



 これだけのシーンが、ランスルー、カメリハ、そして本番は一発で決まった。

 あたしは、次のシーンに備えて見てるだけだったけど、このシーンの柱になっているのがタキさんだということがよく分かった。

「いやあ、タキさんは若い頃から、極道寸前の人生やったから、並の役者では味が出えへん」

 大橋先生の弁。いや、おっしゃる通りです。

 大橋先生は、見学に、新幹線で出会った車内販売の岸本というオネーサンを連れてきていた。先生は、とっくに現役の教師は辞めていたが、アフターサービスの行き届いた人だ。休憩中なんかには、岸本さんの話をよく聞いていた。どうやら、夫婦関係で悩みがありそう。

 気になったあたしは、午後の休憩で聞いてみた。

「あの、岸本さん、夫婦関係の悩みだったんじゃないんですか?」

「せや。でも撮影現場見て決心しよった」

「どんな風に?」

「別れよる」

「別れさせたんですかぁ!?」

「あいつは最初から結論持っとった、俺は後押ししただけや。年寄りの仕事。しかし、さくらも、人間に興味があるようで結構や。役者は、こうでないとな。せやけど、今の話は内緒な」

 知り合って、まだ三回しか会ったことのない先生だけど、もう百年の知り合いのよう。はるかさんの人生は、こういう距離感の取り方の人たちの中で決まっていったんだ。

 自分の鈴木由香という役が一歩近くなったような気がした。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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銀河太平記・199『劉宏のファッション』

2024-01-15 07:39:35 | 小説4
・199
『劉宏のファッション』越萌マイ 




 アポロキャップにポニーテール。

 オーバーオールの下にはチェックの赤シャツ、首にはブルーのバンダナ巻いて、足もとはカーキのバッシュ。

 妹がお姉ちゃんのお下がりを貰ってようやく身についたという出で立ちは、ファッションとして斬新なものではないけど、この似合い方は新鮮だ。

 レトロ……モダン……トラディッシュ……カジュアル……カントリー……

 相応しい形容詞が浮かぶけど、どれも不十分、全て合わせるとレトロモダントラディッシュカジュアルカントリー……なんと長ったらしく陳腐なことか。

 いっそ、そのまんまにリュウコウ……うん、流行にも通じてぴったりだ。

 リュウコウルック リュウコウファッション 

 さて、どっちがいいか……メイに教えてやったらシマイルの商品開発に役立ちそう。まずは観察させてもらおう。


 オイドから降りてきた劉宏はPIして王春華のボディーになっている。


 王春華とは昨年、ちょうどこの場所で戦った(157『邂逅する者たち・5・王春華』)

 あの時の印象は、完ぺきな女性型ロボットファイター。わたしのコスモスボディーよりもスペックが高く、こっちの経験値が高くなければ危ないところだった。

 視覚的な印象が一回り小さい。

 戦闘モードではないこと、ソウルが劉宏に置き換わっている、劉宏の巧みな自己演出のなせる業かもしれない。
 
 まあ、もうしばらく、このお岩食堂の物干しで観察だ。

 劉宏の視察を知った島民や兵隊が続々と集まりつつある。しばらくは気が付かれないだろう。


「大統領、本日の視察まことに名誉なことで、連絡所隊員一同感激に耐えません!」

 所長の中佐がカチカチの敬礼をする。

「いやぁ、済まない。別の視察が中止になって思い付きでね、視察とは名ばかりの骨休めみたいなものだから、どうか、気を遣わないで。軍服も着てないしね(^_^;)」

「ハ、承知しております。自分は不器用な職業軍人ですので、以後の案内は広報担当の胡盛媛中尉にいたさせます。中尉!」

「ハ、ハイ!」

 所長以上に緊張して敬礼する胡盛媛中尉、いやフーちゃん。

「ああ、キミがフーちゃんかぁ」

「はい、胡盛媛中尉、本日大統領閣下のご案内役を務めます」

「お世話になります、ナイショで来ようと思ってたんだけどね、バレてしまって(๑´ڤ`๑)テヘ 」

「い、いいえ、大統領閣下のご案内を承り、胡家末代までの栄誉であります!」

「そうだね、お父さんは、ここで戦死されたんだよね……あ、ごめん」

 フーちゃんは答礼してもらえないので敬礼のしっぱなし。ようやく気付いた大統領が、そこだけビシッと敬礼を決めて、元の笑顔に戻る。

「まず、所員一同をご紹介します」

「うん」

 後ろで並んでいる所員を一人一人紹介、これにはファッション寄りの柔らかさで応える。

 次に劉宏は氷室神社に向かう。ちょっと意外。

「うわ、ちょ、爺ちゃん! うちの神社に行くよ( ゚Д゚)!」

 ハナが慌ててエプロンと襷を外し神主のシゲ老人を引っ張っていく。

 型通りきれいに拝礼し、シゲ宮司の挨拶を受けると、振り返って手を振った……え?

 視力を光学八倍に上げると、その視線は、ハッキリとわたしの顔を向いていた。

――いまから行くよ(^▽^)――

 口の形で気持ちを伝えると、スタスタとこっちに向かって来る。

 今度は、わたしが慌てる番だった!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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