大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 161『三蔵法師大説法会プラスアルファ・3』

2024-01-23 13:53:09 | ノベル2
ら 信長転生記
161『三蔵法師大説法会プラスアルファ・3』二宮忠八 




 扶桑と美称される転生の国には二つの学校がある。

 性別が変わった転生者の通う『転生学院』と、元の性別のままの転生者が通う『転生学園』だ。
 転生の国では『学院』『学園』と略す、近ごろでは『イン』『ソノ』と約めて呼ぶ者もいるけど、僕は学院・学園と呼ぶ。

 僕は生まれ変わっても前世と同じくというか、死んだことで中断してしまった研究がしたかったので前世と同じ男として生まれ変わって学園に居る。

 生徒会長の乙女さん(坂本龍馬のお姉さん)が理解のある人で、校舎裏の倉庫を貸してくれて、好きに実験やら研究をさせてくれている。
 もう一度現世に転生しなければできないと思っていた研究ができるんで、もう次の転生はしなくてもいいくらいだよ。

 今度の信長さんの遠征には、この二宮忠八、持てる力の全てを注ぎ込んだ。

 双ヶ岡から射出した紙飛行機は、はるか彼方のタクラマカン砂漠まで飛んでいって、信長さんたちを三蔵法師一行に変態させ、数々の冒険の末に豊盃まで進出させることに成功した。

「紙飛行機が馬に変わったのにも驚いたけんど、馬の付属品にしか見えざった三蔵法師があんなに有能ながにはびっくりしたぜよ」

 日課のように足を運んでくれる乙女さんが土佐之盛の焼き酒粕を齧りながら感激してくれる。その横には信玄さん謙信さんたち学院の人たちも来てくれて、モニターの大画面の中継を見ている。

 モニターには『三蔵法師大説法会プラスアルファ』の中継が流れている。

 大橋(だいきょう)さんのあいさつの後、イントロが長いことで有名なボレロのリズムが続いて、出てきたのが孫悟空・猪八戒・沙悟浄の三人。軽快にボレロのステップを踏み出すと、続いてステージ奥から、衣の袖を閃かせて三蔵法師!
 大説法会の触れ込みなので、有難くも、ちょっと退屈な説法が始まるのかと思っていたけど、予想を裏切って胡旋舞を思わせる情熱的なボレロ!

 さすがは、呉の大橋紅茶妃! 意表を突く粋な演出!

 パチパチパチパチパチパチ!

 モニターの中の観衆も、うちのモニターを見ている学園と学院の人たちも思わず拍手した。

「いや、まだまだこれからだろう……」

 信玄さんが顎を撫でてニヤニヤ、その横では謙信さんがポーカーフェイスのまま方頬で笑っている。

 オオ!

 会場でもこちらでもドヨメキが起こった。

 次にステージに踊りこんだのは学園一番の問題児と言われていたリュドミラだ!

 下手(しもて)から踊りこむと、三蔵法師と三人の弟子を瞬くうちにバックダンサーにしてしまい、プリマドンナよろしく華麗に情熱的にダンスを決めてくれる。

「おお、リュドミラもやるやいか!」

「スナイパーだと思っていたが、こんな才能があるとはなあ……」

 トモエさん(巴御前)も腕を組んで感心している。

「極めれば、踊りも武術に通じるものがある……エエイ!」

 二本の刀を抜いて感動するのは宮本武蔵。

 会場でもこちらでもヤンヤヤンヤの喝采の後、再び大橋さんがステージ端に立って「それでは、いよいよ三蔵法師さまの御説法になります。三蔵法師さま、中央の演壇にお進みください!」

 三蔵法師は合掌でこれに応えて、ステージの演壇に進んだ。

「みなさん、本日は愚禿三蔵の拙い法話のため、かくも大勢集まってくださり、ありがとうございます……」

 ついさっきのボレロの疲れも見せず、穏やかに語り出す三蔵に、観客は一瞬で説法に耳を傾ける姿勢に変わる。

「天竺では万余の経典を読み、数百の学僧高僧の教説を聴聞いたしましたが、それの一つ一つを述べている余裕はありませんし、さして有益でもありません」

 奥ゆかしく話を進める三蔵法師。

「仏の道を知るためには、幾百幾千幾の修業の道があります。それぞれに宗派があって、その道の為に修業に励んでおられます。いずれも尊い道で、極めれば、それぞれに悟りを得ることができましょう」

 穏やかで聞いているだけで心身が浄められる感じがして有り難い。

 だけど、新鮮味はない。

 仏教にはいろんな宗派があって、それぞれに修業に励んで、そのいずれもが正しいと言ってしまっては思考も感性も、そこで尻餅をついてしまう。

「しかし、大半の人々は修業を最後まで成就させることができません。凡夫の悲しさ、人とは忙しく、忘れやすいものなのです」

――ならば、どうすればいいのですか?――

 聴衆から声が上がる。

「信じておれば、いえ、たとえ信じていなくとも、仏は、その臨終の枕辺に顕現され浄土に連れて行ってくださいます。仏の救いに分け隔てはありません」

――何もしなくともよいのですか!?――

「そうです。ただ、ただ人間は心寂しい存在ですので、これでは頼りなく思います。ですから、時には、このように集まって信仰を確かめ、喜びを共有することが望ましいと思います。そして、この世は、人の世は不安で不完全なものです。心穏やかに日々を送り、お浄土に生まれ変わるその日まで、この世を少しでも豊かで穏やかな世の中にしましょう。この世を豊かで穏やかな国にすることが、仏の願いにも、みなさんの幸せにも繋がるのです。さっきのリュドミラさんのボレロに、わたしも弟子たちも、みなさんも穏やかに且つビビットに沸き立ちました。では、どうでしょう、みなさん、もう一度ボレロを踊りましょう。今度は、少しずつメロディーもリズムも変わります。今日、こうしてみなさんと出会えた喜びを体と心で表現してみましょう……ミュージックスタート!」

 再び、ゆっくりとボレロのリズム、それからリズムも旋律も様々に変わる。

 あるところでは盆踊りのように、別のところではアイリッシュダンスのように、またあるところではコサックダンスのように、次にはマイムマイムのように、会場の大慶公園は踊りと念仏と声明のカオスになっていった。

「忠八くん……君はとんでもないものをつくってしまったんだねぇ……」

 美的感覚には人の何倍も優れた古田織部さんが陶然と溜息を漏らす。

「いえ、三蔵法師は、紙飛行機のほんの一部でできたオブジェでしかないんです、とてもこんな……」

「悟空の頭の……緊箍児(きんこじ)と言ったか、あの輪っか」

 信玄さんが身を乗り出して背景に収まっている悟空の頭を指さした。

「信玄も気づいたか……あれは指輪が大きくなったものよ。緊箍児なら、真ん中で切れて端っこが拳のように丸まっているわ」

「なるほど……」

 謙信さんが指摘する。

「忠八くん、あの輪っかを拡大して」

「はい、織部さん!」

 マウスを五回クリックすると緊箍児は画面いっぱいに広がった。

 横にうっすらと花菱の紋が連なっている。

「あれは……御山の紋ではないか?」

 信玄さんが思いついて、みんなが身を乗り出して画面を見つめた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第59話《大阪府立真田山学院高校》

2024-01-23 07:23:35 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第59話《大阪府立真田山学院高校》さくら 





 連休の後半は大阪だ。


 前半の三日は埼玉H市のホールを借り切ってコンクールのシーンを撮った。そして、四日からは大阪に飛んで、舞台となる大阪府立真田山学院高校を丸三日間借りての撮影。現場近辺のシーンも含めると五十シーンを超える。

 撮りやすいモブシーンから入った。

 テスト中の教室、昼休みの中庭、演劇部の稽古場になっているプレゼンテーション教室、休み時間の廊下、昇降口、職員室。そのほとんどにはるかさんは出ている。自分自身の役とは言え、映画はお芝居だ。現実にいた友達とは違うエキストラのクラスメートを相手に、春、夏、秋のシーンを撮る。当然クラスメートとの距離感が違ってくる。

「カットォ! はるかとの距離の取り方がウソっぽい。興味はあるけど、近寄りがたい。でもってそれぞれの生活感。夕べ見たテレビの話とか、新しく開店した駅前のお店とか、宿題大急ぎでやってるとか……そういう各人の生活出して」

 監督の抽象的なダメを助監督の田子さんが演技プランに変えて一人ずつつけていく。はるかが転校してきたころの教室のシーンだけでも半日かかってしまった。

 いや、半日ですんだというべきか……。

「そこさぁ、目だけ教科書見て、目の端っこで、はるかを見るの。まず顔ね。そいで上半身、下半身、そいで全体の印象。でもって自分やクラスの人間と引き比べて距離感つかむの」

 そうアドバイスしてくれたのは、東亜美役一ノ瀬さんの従姉さん。

 H市のロケだけで終わるはずのエキストラだったけど、意外な演技力があるので大阪まで来てもらった。

 で、これを直接頼み込んだのが、はるかさん。やっぱり見る目と行動力が違うと思った。薫さんて言うんだけど、人の心を掴むのも上手い。休憩時間には自然に他のエキストラと会話して、すぐに本物のクラスメートのようにしてしまった。

「シーン増やすよ」

 監督の言葉で、薫さんとはるかさんの絡みが増えた。

「あのぉ……」

「あ……?」

 最初のよそよそしさから、テスト終了後、目だけで「できた?」「ううん」までやってのけた。で、昼には学級委員長という「役」になり、モブシーンを教室やら廊下で撮った。とりあえず場面のブリッジになるようなシーンばかりで、その多くは編集の段階で切られてしまう。

「薫さん。なんで、そんなに勘いいの?」

 思わず聞いてしまった。

「よくないっすよぉ。ただ、学校じゃ頭打ちながら生きてきたから、いろんなパターンが頭の中にあるだけで(^○^;)」

 気楽にロケ弁代わりの学食ランチを食べながら、なんだか昔からの友だちのように話した。

「このカラマヨドンての、いけますね!」

 わたしも同感だった。丼ごはんの上に唐揚げとマヨネーズと、薄目の出汁がかかっていて、東京じゃ絶対考えられないメニューだった。

「これ、連休明けから十円上がるんです」

 エキストラで、保健委員の役を演っている三好清海(はるみ)さんがグチった。

 清海さんは真田山学院高校演劇部のリアル部長。ちょうどはるかさんと入れ替わりに入学した人で、たった二人になった真田山学院高校演劇部を一人で支えている。
 しょぼくれるのが嫌なんで、「大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ」をネットで流して、内と外からクラブを守ろうとしている。同じ高校生でも、あたしなんかより立派な子がいるのが分かった。

 でも、こんなに集まるのは、やっぱはるかさんの人徳だろうね(^_^;)。


 昼からは、一番むつかしいシーンを撮った。


 わたしの演ずる由香が、はるかに張り倒されるシーン。

 二人ともバイオレンスには縁がない。

 はるかさんは、昔現実にやらかして停学をくらったシーンなんだけど、自分が演技で演るのは別物のようだ。殺陣師の人が入るときれいになるんだけど、高校生らしさが抜けてしまう。

 テイク5で救世主が現れた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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