大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・073『今年もヨロ~(^▽^)/』

2024-01-08 09:31:38 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
073『今年もヨロ~(^▽^)/』   




 ちょっとハメられた気分。


 1970年の宮之森高校で、イヴの集いをやった。

 大成功だった。

 中庭の池を囲んで300人ぐらい、あとで聞いてみると一年生が半分近く。二三年生は合わせて150くらい。
 二学期で実質高校生活終わったも同然の三年生、とっくに受験体制に入ってる二年生。それを考えると二三年生150というのは大したものだと真知子はほくそ笑んでいた。昭和の女子高生は偉いと思った、充実感も達成感もあったしね。

 でもさ、大晦日に大叔母の徒(かける)さんが来た。

 しばらく音沙汰の無かった大叔母は独身のはずだったけど、なぜか結婚していて、旦那と一緒に台湾に行って会社を興すって!

 それだけでも、ビックリなのに、その旦那がさぁ、事もあろうに10円男の加藤高明ですよ!
 
 どうやら、イヴの集いをやったことで少しばかり歴史が変わったみたい。

 ひょっとしたら、お祖母ちゃんは、そういうことを狙って孫娘を昭和の高校に通わせたぁ?

 疑問がわいたけど、口に出して聞くとまずいんじゃないかという気がして、聞かなかったよ。

 まあ、自分的にもいい体験だったし、面白かったし。


 元日に、ちょっと困ったことが起こった。


 郵便受けを開けると年賀状の束が入っている。その年賀状をリビングで仕分けしているとビックリ。

 真知子たちから来てるじゃん!

「なんで、50年前から年賀状来るの!?」

「あ、ああ……」

 お餅を焼くお祖母ちゃんの手が停まった。

「まあ、徒の人生が変わるんだから、これくらいのことはあるさ(^_^;)」

「返事とかどうしたらいいのぉ!?」

 年賀状書いたことないし。

「あ……志忠屋に行くといい」

「タキさんとこぉ?」

「あそこはそういうお店だから」


 ということで、元日のあさから志忠屋に向かった。


「え、ただの白紙だよ、タキさん?」

 カウンターに出された葉書は裏も表も真っ白。

「書けたら年賀状の体裁にしたる。メグリ、おまえ年賀状て書いたことないやろが」

「え、ああ、いつもスマホでアケオメだからねえ(^_^;)」

「ほら、その筆記用具自由に使たらええさかい」

「あ、ありがとう、書くものとか全然頭に無かったよぉ」

 というか、手紙を書くなんて、ま、葉書なんだけど、小学校の授業で『手紙の書き方出し方』というのを習った時以来だからねえ。

「わあ、なにぃ、ハンコとか入ってるしぃ♪」

 筆記用具の箱はカステラが二本はいるくらいに大きくて、一通りの筆記用具の他に、スタンプやらハンコやらがいっぱい入ってる。

「字ぃばっかり書いてられへんやろ、まともに書いたらTwitter一回分でもスカスカやからなあ」

「え……あ、そうだよねえ。あ、今はエックスって言うんだよ」

「エックス?」

「イーロン・マスクが変えたんだよ」

「ああ、そんなこともあったなあ、さっさとやらんと間に合わんぞ。11時には外のポスト集めに来よる」

「え、あ、そうなんだ!」

 志忠屋に来るまでは年賀状の五枚や十枚なんでもないと思ってたけど、じっさい書き始めるとなかなか。
 けっきょく、お道具箱のスタンプやらシールやらを総動員しても、十枚足らずの年賀状を書くのに二時間近くかかってしまう。

 できたぁ!

 パチパチパチ!

 いきなりの拍手に振り返ると、カウンターの中にはペコさん、テーブルにはアイ・マイ・ミーの三人の猫又さんたちが振り袖のお正月仕様。

「タキさん、魔法で呼び寄せた?」

「ふつうに来よった、メグリが気ぃつけへんかっただけや」

「あ、すいません。みなさん、あけましておめでとうございます(^〇^;)」

「「「「おめでとうございま~す(^◇^) 今年もヨロ~(^▽^)/」」」」

「メグちゃん、すごいスタンプ押したのねえ!」

 ペコさんが覗き込んでビックリしてる。

「え、ああ、これですか。なんか漢字がいっぱい入ってて目出度そうだったから」

「ウ……まあ、魔よけやからええんちゃうか(^_^;)」

 阿毘羅吽欠蘇婆訶 ……意味も分からないし読み方も分からないけど、カッコいいからいい。

 それから、ペコさんや猫又さんたちに去年のお礼を言って、今年もよろしくとか挨拶。

 みんなは、グラスで、わたしは御猪口にほんの一杯だけ頂いて、いそいで表のポストに走る。

 投函する前に確認したら、ちゃんと1971年、昭和46年の年賀状になっていた。

 そしてお店に戻って、みんなで楽しく新年会というほどじゃないけど、楽しく過ごして家に戻る。

「ただいまあ……」「おかえりぃ」

 すっかりレギュラーな感じで言葉を交わしたとたん。

 グラっときた。

 え……あ……地震だッ( ゚Д゚)!!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第44話《コクーン・1》

2024-01-08 06:32:38 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第44話《コクーン・1》さつき 




 みんなを驚かせてしまった。


「結婚する」と言っても、ここまでは驚かなかっただろう。

 もっとも、驚くと言っても「ヒエー!」「ギョエー!」「ウワー!」などという声はあがらない。一瞬沈黙になったあと「……いつ決めたの?」お母さんがそう聞いただけだ。


「一カ月前」


 そう答えると「ふーん」という声が返ってきて、それっきり。


 あたしは慎重に準備を進め、全て決まってから、家族が全員揃うのを待って、フランスへの留学を家族に伝えた。
 それが、昨日の晩ご飯のあとのリビングだった。「ごちそうさま」と言ってリビングを出ようとしたさくらを引き留めるところから始まった。


「ちょっと待って、みんなに話しておきたいことがあるの」


 で、沈黙になり、お母さんの「……いつきめたの?」に繋がるわけ。


 精一杯、言葉をつくして説明した。で、なんだか気まずい雰囲気になったので、あたしは自分の部屋に戻った。


 実際やることはいっぱいあった。パスポートのことから、クレルモンの大学からの書類。この留学先の書類が面倒だった。取得単位の読替などは、大学の学務課がやってくれたが、あたし個人に関わることが煩雑だった。身長、体重、血液型とかの体に関することでも、瞳の色、髪の色、宗教、そして宗教上配慮しなければならないことなど、様々だ。

 一番困ったのは、志望動機だ。

 あたしは、留学するにあたって、希望の学部を、こともあろうに日本文学にしていた。
 日本という国は、日本人が日本に居る限りコクーンのようなものだ。世界的な水準から言っても、治安を筆頭に環境は、まさにコクーン(繭)のように心地いい。
 大げさに言うと、このコクーンから一度飛び出してしまわないと、あたしはコクーンの中で、成虫にならないまま一生を終わってしまうんじゃないかと感じていた。
 大学の一年間で、巨大な幼虫のまま歳を重ねてきたような大人をたくさん見てきた。大学の中で、バイト先で、そして東京という大きな街の中で。
 そして、そういう巨大な幼虫のまま大人になりそうな若者達を。


 で、そんなこんなが留学に結びついたことと、日本文学に行き着いたことを、新聞一面分くらいの英文で書かなくっちゃいけないのだ。


 I think that……と、打ち始めたところで、ノックもせずにさくらが入ってきた。やっと湧いてきた英文が、あっという間に消えてしまった。

「……ノックぐらいしなさいよ」

 そう言ってやると、さくらは改めてドアをノックした。素直なんだかオチャラケているのか、我が妹ながら判断がつきかねる。

「お姉ちゃん、質問に答えてないよ」

「なにも質問しなかったじゃないよ」

「お母さんの質問……一カ月前だけじゃ、ホテルの予約確認みたいじゃないのさ」

「ああ……」

 あたしは、自分が喋るだけで、たった一つの親の質問には答えきっていなかった。でも、お母さんの質問は、わたしの話を促すきっかけのようなものだ。それに、さっきの話の中身でおおよそは分かってもらえただろう。そう思っていた。

「鈍いなあ、お姉ちゃんは!」

 じれったそうに、さくらが言った。

 あ……

 表情が魅力的になったなあと、女優の世界に片足を突っこんだ妹を見なおした……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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