大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・200『お岩食堂の物干しにて』

2024-01-20 11:02:44 | 小説4
・200
『お岩食堂の物干しにて』越萌マイ 





 わあ…………ほどよい見晴らしだねぇ!


 挨拶する前に劉宏は感動した。

 お岩食堂の物干しは天井の高い店舗部分の上に継ぎ足しで作られた二階部分のその上にある。
 普通の建物の基準で言えば四階建の屋上にあたるから、学校の屋上ほどの高さ。

「士官学校も物干場(ブッカンバ)は屋上にあってね、ちょうど高さもこんな感じ……あ、ブッカンバというのは物干しのことね。日本語の言語設定にすると軍隊用語のまんまで……ちょっと変えるね」

 コクンと頷くような仕草。

「オフの時は、このボディーのデフォルトにしてるの」

「元は、王春華なのよね」

「うん、春華も大統領秘書なんかやってたから大人ぶってたけど、ベースはこんな感じ。春華はもういないけど、せめてオフの時はね」

「そうね、それがいいわね」

「身に合わない高さから見てると……」

 判断を誤る?

「疲れるでしょ……洗濯物の匂いも素敵、シキシマ石鹸かな?」

「日本の洗剤も分かるの?」

「士官学校では青島石鹸使ってたの。青島石鹸はシキシマが漢字の敷島だったころに技術移転したから同じなのよ。絹物とかには向かないけど木綿や化学繊維には絶大な洗浄力。なんと言っても安いしね」

「そうなんだ、青島っていえばビールかと思ってたけど、洗剤もあったのね」

「わたしはね……漢明と世界の関り方を見直そうと思ってるの」

「関わり方?」

「うん、中国というのは古来統一と分裂を繰り返してきた。今の漢明は東北部や西部を手放しているわ」

「え、ひょっとして、今度は漢明じゃなくて大唐帝国にでも拡大するつもり?」

「ああ、それはナイナイ(^〇^;)」

 両手をワイパーのようにハタハタさせる、この可愛さは反則だ。

「ただね、離合集散は東アジアの生理みたいなものだから、大統領のわたしがドーコー言っても抗えるものじゃないと思うの。日本が古来から一つにまとまっているのも生理だと思う。それと同じ、っていうか、現象的には真逆だけどぉ、これから一つになっていこうとするのを押しとどめるのは、かえって漢明にも、周囲の国々にも良くない気がする」

「うん、半分分かるかなあ……」

「それぞれの国や地方が自治権を持ったままで、ゆるやかな国家連合的な?……みたいな?……ぽいもの? そんな感じ」

「アメリカ的な?」

「南北戦争とかはしたくないし」

「むつかしいねぇ……」

「まあ、その第一歩として西之島といい関係でありたいわけですよ」

「それは同感……でも、なんで、そんな話をわたしに? 食堂の物干し場で話すことでもないような気がするけど?」

「あ、そうね。石鹸の匂いが同じなんで、ついね、話が膨らんじゃった(^_^;)」

「フフ、よかったら、あとで釣りでもする? 神社の裏良く釣れるし、魚はこの食堂でいくらでも調理してくれるし」

「あ、うん、いいね!」

「よし!」

 話がまとまったところで、下からお岩さんの呼ぶ声。


 お偉いさんが、みんな集まって来てるよお!


 ふたり、手を振ったり頭を下げたりして下りていった。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第56話《あかぎ奇譚・3》

2024-01-20 07:01:05 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第56話《あかぎ奇譚・3》惣一 




 案の定、あかぎは南西諸島海域への哨戒任務に回された。


 このことの意味は大きい。海自最大最新の護衛艦を哨戒任務に就かせると言うことは、我が国の「本気度」を一段階上げたことになる。当然周辺諸国を刺激する。まあ、それも任務なのだから仕方がない。

 しかし、政府の煮え切らない姿勢が、ここでも出てしまった。「あかぎ」は空母型の護衛艦で、現状ではヘリコプターしか積んでいないが、将来的にはオスプレイやF35の搭載も視野に入れた艦で、飛行甲板の材質や強度などのスペックは極秘になっている。

 この極秘こそが周辺諸国には脅威なのである。種子島の南海上で、第七艦隊と合流して、ヘリとオスプレイの離発着を何度かやった。現実にはやっただけで、べつに米軍機が「あかぎ」に移動してきたわけではない。C国の監視衛星などがこれを見ている。C国は、この移動のフリを恐怖心から過大に評価する。ここに狙いがある。つい先日アメリカの大統領が「尖閣諸島は明確に、日米安保の保証の中にある」と言ったばかりである。C国としては神経質にならざるを得ない。

 しかし「あかぎ」の行動は単艦なのである。普通空母が移動するときには対空対潜能力の優れた駆逐艦数隻を付けるのが常識で、アメリカならば複数のイージス艦を必ず随伴させる。
 でも、それをやれば、見てくれは機動部隊になってしまい刺激しすぎるという判断である。正直素人の心配である。「あかぎ」単艦での行動の方が、「あかぎ」にどれだけの能力や搭載機があるか分からない状況では、誇大にその能力や意図を解釈される恐れがある。

 案の定、黄海に入ったとたんにC国の哨戒機が頻繁に接触してくるようになった。Y-8DZが二機べったりとはりついている。これは日本の新聞社なども撮影「高まる南西諸島方面での緊張!」とかの記事になり、A新聞などはそのお先棒になることは目に見えていた。

 脅威は潜水艦である。これは新聞社の飛行機からは見えない。米軍も「あかぎ」もC国の潜水艦の接触には気が付いているが、詳細は公表できない。こちらの対潜能力知られてしまうからだ。「潜水艦も展開している模様」としか公表はできない。

 もう一つ怖いのは、漁船などの小型船舶に擬装した監視というよりは妨害である。これらの小型船舶の多くは木造小型で、水上レーダーにもかかりにくい。半分捨て身で接触されると沈没させてしまう可能性もあり、そうなると、「あかぎ」がC国の漁船を沈めたと騒がれるのは目に見えている。


 宮古島の西にでたところで、濃霧と言っていい霧が立ちこめ始めた……。


「対水上監視を厳となせ」


 艦長の警戒命令が出た。本来の監視要員以外の者も哨戒任務に就く。

 信じられないだろうが、この21世紀の最新護衛艦でも、最後の哨戒は視認によるものである。簡単に言えば双眼鏡でひたすら海を見続けるという百年前の日露戦争と変わらない方法によっている。

「右舷後方五時より大型船接近しつつあり!」

 杉野曹長が信じられないことを叫んだ。
 
 わたしは直後双眼鏡を向けた……。

 確かに五海里の彼方で、緑と赤の幻灯が光っているのが見える。それが次第に近づいてくる。本艦は15ノットの巡航速度だが、相手は20ノットは出しているだろう。商船としては高速と言える。

 さらに驚いたことに、これだけの船がレーダーに写っていない。ブリッジは混乱していた。

「対水上監視を倍にしろ、手空きの乗員は、上甲板で視認に努めよ!」

 艦長の指令が艦内に響き、乗員の半分が右舷の最上甲板に集まった。


 そして、それは、十分後には「あかぎ」の右舷後方に姿を現し、併走するようになった。


 信じられないが、その船は……少なくとも、その外見は戦艦大和であった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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