大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:227『黄泉の国決戦・2』

2024-01-31 09:48:43 | 時かける少女
RE・
227『黄泉の国決戦・2』テル 




 数……数が多い! 多すぎる……!

 力の限り矢を射かけ、石ツブテを投げ、そして呆然とした。もう弓矢や石ツブテでどうこうできる数ではない。逃げるにしても、あの勢いでは数十秒のうちに追いつかれてしまう! 洞窟の出口までは一本道、逃げ込む枝道も無い!

「時間を稼ぎます!」

 そう言うと、イザナギさんは髪を結んでいた紐を解いて鬼ども目がけて投げつけた。

 シュル! シュルシュルシュルシュルシュル!

 紐は、たちまち無数に分裂して、迫りくる鬼たち醜女たちを絡めとっていく。

 バシュ バシュ バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

「今のうちです!」「全速後退!」

 イザナギさんが叫びヒルデが号令をかけ、みんな一目散に洞窟を走った!

「オッチャン、今のはなんだ!?」

「あれは、髪を括っていた蔦カズラです」

「すげえもの持ってんだなぁ」

 こんな時に質問する桃太郎二号の好奇心もすごいが、きちんと答えるイザナギさんも立派だ。

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

「え、もう解いて追いかけてくるやつがいるぅ!」

「あの蔦カズラでも足りなかったんだ!」

「あと半分! 頑張って!」

 シュシュシュ!

 与一さんが、皆を励ましながら矢を射る! それに倣ってケイトも、ほかのみんなも手当たり次第に石ころを投げ、僅かに時間を稼ぐ! 稼いではまた駆ける! 逃げる! 全速で駆ける! 全速で逃げる!

「少しは遠のいたかぁ(;'∀')?」

 わずかに鬼ども醜女どもの気配が消えたが、すぐに、それに倍する勢いで追いついてくる。

「オッチャン、追いついてきたぞぉ(;'▢')!」

「まだ手はあります」

 落ち着いて言いながら髪にさした竹櫛を取り、ポキポキ折っては足下と後ろに投げる。

 おお!

 櫛の歯は一本ごとに一叢のタケノコになって、それが瞬くうちに十倍百倍に増えて、一面のタケノコ平原になる。

「そうか、あれを餌にするんだな、オッチャン!?」

「今のうちです!」

 そう、見とれている場合ではない、背後に気を配りながらも距離を稼ぐ。

「すげえよ、オッチャン!」

 醜女や鬼たちは、足もとのタケノコを引っこ抜くと、一瞬で皮を剥いて生のままボリボリと食べ始めた。

 しかし、石の坂道を三つ上がったところでタケノコよりも鬼たち醜女たちの方が多くなって、またまた追いつかれる。

「かくなる上は……」

 シャリン!

 腰に下げているだけで一度も抜かなかった天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)を抜き放つイザナギさん!

「たとえ、妻を取り返すためとはいえ、殺生はしたくなかったんですが……チェストー!!」

 ズシ! ズサ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ!

「スッゲー!」

 瞬くうちに、百匹あまりの敵を切り伏せ、さしもの鬼と醜女どもも十メートルほどの間合いを取って立ち止まった。

「さすがは天叢雲剣! イザナミ、聞こえているか!? 余計な殺生はしたくない、黄泉の戦闘員たちを退かせて、わたしと一緒に帰……」

 言い切らないうちに、鬼ども醜女どもは斃された以上の数に増殖し、一斉に飛びかかろうと腰をかがめた。

「やはり通じませんか、かくなる上は!」

 ズチャ

「………ウ、剣が持ち上がらない……」

「おっちゃん、電池切れぇ(^_^;)」

 数百匹切ったイザナギさんは、それが限界だったのだろうか、もうまともに剣を構えることもできない様子だ。

「無念……これは使う者の体力、気力を一度に出させるようです」

「ここは退くぞ、テル、イザナギ殿に肩を貸せ! 他の者は、立ち向かって時間を稼ぐぞ!」

「「「オオ!」」」

 来る時には気付かなかったけど、黄泉の国は重層的な構造になっている。

 三つ目を上がったところで風を感じた。

「出口が近い!」

 ヒルデが気づき、タングリスは持てるだけの石ツブテをかき集め、他のみんなもそれに倣う。

 ウワワァ~~~ン

 坂道の下の方から鬼ども醜女どもの声が木霊しながら上って来る。

「よし、体力も戻ってきたようです!」

「さすがは神さま、復活が早いぜ!」

「しかし、天叢雲剣はひかえた方がいい。今度は意識が戻らないかもしれん」

「承知しています……オリャアアアア!」

 ドガガガガガガガガガガガガ!

 ヒルデの心配は承知していたようで、イザナギさんは天叢雲剣を鞘ぐるみのままで、周囲の岩肌を削って大量の石ツブテを作った。

「これを投げましょう!」

「「「「オオ!」」」」

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ!

 再び一層分ほど鬼ども醜女どもを退けたが、数回息を継ぐうちにまた滲みだすようにして満ち溢れてきた!

「くそ、もう上って来やがる!」

 一瞬、天叢雲剣の柄に手をやるイザナギさん。

「イザナギ殿、赤ランプが点いているぞ!」

 見ると、柄頭のところが『危険』の文字を浮かび上がらせて点滅している。

「ああ、もう手の打ちようがありません(#-_-#)」

 さすがのイザナギさんも種切れの様子だ。

「あと一息なのに……」

 ケイトが尻餅をつく。

「オ、オレがなんとかする!」

「なんとかって、桃太郎二号」

 スックと立った桃太郎二号の頬は真っ赤に染まり、見開いた目には涙を浮かべ、ズルリと鼻水まで垂らしているが、それを涙と一緒に拳で拭うと顔の半分を口にして叫んだ。

「オッチャン、いい国作ってくれよな! みんなも元気で!」

 そう言うと、桃太郎は一足飛びに坂の下まで飛び降りた。

「「「「「桃太郎!」」」」」

 一回転して着地すると桃太郎二号は、ニョキニョキと音を立てて一本の桃の木になった!

 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ!

 そして、あっという間に鈴なりの桃の実を付けた!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 鬼どもは、あれだけのタケノコを喰らいつくしたというのに、あさましく桃の木に群がって、桃の実を喰らい始める。桃の木は食べられても実を実らせて、鬼ども醜女どもの食欲を満たしていく。

 桃太郎オオオオオオオオオオオ! 

「行きましょう!」

 イザナギさんの言葉に、後ろ髪をひかれながらも、まだ少しむこうの出口を目指す!
 
 みなさーーん! こっちぃー!

 雪舟ねずみとヨネコの声がして岩角を曲がると、すぐそこが出口だ!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 もう追いついてきた!

 セイ! トー! オリャア! 

 それぞれ力を振り絞って最後の一跳び!

 ズザザザ

 ドサッ

 スライディングしたり前転しながら飛び出すと、イザナギさんは素早く傍らの大岩に取りついて、あっという間に黄泉の出入り口を封じてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第67話《爆弾が落ちてくる音》

2024-01-31 06:03:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第67話《爆弾が落ちてくる音》さくら 




「反戦の『は』の字も言わないで戦争を表現しようとしてるんだ。僕らには、そうやって伝えなきゃならないもんがあるんだ……」

 監督の一言は痛かった……。

「監督、よかったら、こんなのがありますけど」

 CG担当のディレクターが、ネットショッピングの見本を見せるようにノーパソを持ってきた。

「なんだい、動画サイトのサンプルかい。それなら、たいがいのは見たぞ」

「いいえ、仕事柄世界中の同業者と資料や映像を提供しあってるんです。ま、プロジェクターに出しますんで、見てください」


 で、どんなものが出てくるのか、興味津々だった。


「え……アハハハ」

 思わず笑ってしまった。

「バーター交換で出した、ボクの資料です」

 それは、結果的にはなんのCMか忘れたけど、こんなの。

 四五歳の男の子達がタオルを持ってお風呂にフルチンで行進。仲良く湯船に浸かるところまではニコニコ。
 でも、途中で一人の男の子の側にポカンと泡が立つ。次の瞬間、他の子たちは男の子から離れ、浴槽の隅に固まって、泡の原因になった男の子をジト目で睨んでる。泡の原因になった子は「だって、しかたないもん」という顔で湯船に浸かっている。

「このCM覚えてるよ。たった15秒で、世界中を笑わせた名作。ただ、なんのCMか忘れてしまうのが欠点だったけどな」

「これ、45年前の世界CMグランプリで優勝したやつなんですけど、原版が無くなってて、ボクが見つけてリマスターしたんです。で、ユーゴの友だちが送ってくれたのが、これです……」

 それは、ユーゴの内戦当時の映像だった……と言ってもユーゴの内戦なんて知らないから、あとでディレクターに説明してもらったんだけど。

 不安そうに、街の道路沿いの塀に身を隠す人たち。女の人や子ども、それにお年寄り。若い人も少しは混じっていたけど、みんな身をかがめ寄り添いかばいあっている。

「そう……空襲警報が出て、防空壕に入ったときなんか、こんなだった……」

 所作指導のお婆ちゃんが呟いた。

 しばらくすると、爆弾が落ちてくる音がし始めた。みんな、これ以上できないくらいに体を小さくし、お母さんは、まるでもう一度自分のお腹の中に戻すように子どもを丸抱えにしてお腹に押しつけていた。お祖父ちゃんだろうか、その上を母子共々に覆い被さるようにして目を閉じている。臆病そうなおじいちゃんだけど、その姿は崇高だった。中島みゆきの『地上の星』を思い出した。

「この爆弾は落ちてきませんよ……ヒューヒューっていうのは遠くに落ちる爆弾、まだ大丈夫」

 オバアチャンの言うとおり遠くで爆弾が炸裂する音がした。それが二三回したあと、今度は蒸気機関車が空から走ってくるような音がした。

「あ……」

 オバアチャンは、思わず腰を浮かせた。画面のお祖父ちゃんは悪魔を呪うように顔を空に向けた。お母さんと子供たち、背景の市民の人たちが、アナログの画面を通しても震えているのが分かった。

 そして、次の瞬間画像が乱れ、一面もうもうとしたホコリ、砂煙、そして舞い上がった小石や何かの断片がパラパラと落ちてくる。

 画面は横倒しになったまま動かない……やがてホコリがおさまると、倒れた人たちが縦になっている……?

「これ撮ったカメラマンは即死だったそうです。でも、奇跡的にカメラは無事で回り続けていたんです」

 みんなが縦になっているんじゃない。カメラが持ち主の手に握られたまま横倒しになっているんだ。

「思い出したわ、七十年ぶりに……最後の爆弾が落ちてくるとこ、音だけください」

 オバアチャンは、スタジオの真ん中で、七十年前の自分を再現した。誰かと抱き合うようにしてオバアチャンは小さくなってしゃがんだ。そして爆発の音と共に固まってしまい、ゆっくりと起こした顔は蒼白だった。

「大丈夫ですか、小林さん……?」

 監督が声を掛けた。


「トモチャンの首が無かった……そのおかげで、あたし助かったんだ……」


 小林のオバアチャンは、演技ではない嗚咽を漏らした。

「……すみません。不用意にお見せしてしまって……」

「いいの、これは思い出しておかなきゃならない記憶だったのよ。いっぱしに覚えてるつもりだったけど、自分を守るために忘れてしまっていたのよ……」

 スタジオは声一つたたなかった。

「あたし、やります。今の衝撃が生々しいうちにやってしまいます」


 一発でOKが出た。


「よし、CGのマサカドさんとシンクロさせてみよう」

 わたしは、初めてCGのマサカドさんを見た。しっかりした可愛い女学生だった。今のお人形さんのようなキャラじゃない。違いを探してみた……目と口元が違った。

 良く言えばしっかり今風にいえば「マジな顔」。でも、それだけでは言い表せないなにかがあった。CGのディレクターはたいしたもんだと思った。あたしは、とても、こんな表情はできない。

「今の小林さんを参考に少し手を入れてみます」

「うん、そうしてくれ」


 わたしは十分だと思ったけど、プロ根性というのは大したものだと思った。


「さくらも、そのプロの一人なんだぜ」

「あ……」

 監督に見透かされた。

「その、バカみたいに分かり易いとこが、さくらの長所だ」


 バカだけ余計……。


※ マサカドさん……『はるか わけあり転校生の7カ月』に出てくる傷みつけられた幽霊

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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