かの世界この世界:146
リスの化身だとは思えなかった。
ロキが抱きとめた体は華奢だったけど、同性のあたしが見てもきれいだ。
見たことは無いけど、月の女神アルテミスが居たとしたらこんな感じ。
腕も脚も細いんだけど、駆けたり跳んだりする機能が集約された美しさはカモシカみたい。チュニックに包まれた胴はロキの腕の中でグッタリしているけど、かえってしなやかなで美しいラインを顕わにしてトールボウ(あたしの武器の弓)のしなりを思わせた。
でも、感動したのは一瞬だ。
みるみるナフタリンの体は、ロキが握っている手の先を除いて透け始めた。この世界の事には疎いあたしでも、ナフタリンに危機が迫っているのが分かった(;'∀')。
「ケイト、ケアルを!」
テルが叫ぶのとケアルの呪を唱えるのと同時だった。
「……ブロンズケアル!」
最弱の回復術しか使えないあたしは、せめて渾身の力を籠めた!
ホワワワーーーーーーン!
「……ケアルラだ!」
テルに言われるまでもなく、あたしの手から湧き出したオーラは赤みを帯びたブロンズケアルではなく。白光に近いシルバーケアルラのそれだった!
「すごい、いつの間にレベルアップしたのだ!?」
姫が自分のスキルが上がったように感動してくれている。いろいろ我儘なお姫さまだけど、こういう時に素直に感嘆の声をあげられるのは、姫の魅力でもあるし、本人も自覚しない品性のようなものだと思う。むろん、ロキもテルも驚いているし、ユーリアは涙を流してさえいる。
そして、いちばん驚いているにはナフタリンだ。
「回復した……こんな状態で回復するなんて……ありえねえ……やっぱりブリュンヒルデのお仲間……礼を言いうよ」
「それで、ナフタリン、ユグドラシルに行ってはならないと言うのはどういうことなのだ?」
「それは……ユグドラシルの八つの世界はバラバラなんだ。シナプスは大方断ち切れちまって、血管を失った臓器みたいに壊死していくのを待つばかりの状態なんだ」
「そんなに悪いの?」
あたしが聞くと、タングリスとテルから――よせ――という空気を感じた。
「わたしに遠慮することは無い。心にあるままに言え」
姫が促す。
「時の流れが滞っていんだ。先のラグナロクで燃えきれなくって……時の女神は新しいユグドラシルを芽吹かせるために地に潜っていやがる。地上の光を持ちこたえさせるためにヴェルサンディだけはヘルムに向かったんだけどな」
「そういう事情だったのか……」
「姫のせいではありません」
「いいんだタングリス。ナフタリン、続けてくれ」
「うん、ユグドラシルの八つの世界は、いまや骸に湧くウジ虫のようなクリーチャーだけが暴れまわる世界になり果てちまった。だから、次のユルドラシルが芽吹くまで待っておくれ」
「そうか、そういうことであるならば、いっそう行かなければな!」
「姫!」
「進路を指示してくれ。ラタトスクなら容易いことだろう。タングリス、操船を任せる」
姫の決意にタングリスもテルも頷くしかなかった……。
☆ ステータス
HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長