大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・79『埴生の宿』

2023-01-09 06:29:41 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

79『埴生の宿』 

 

 


 稽古が始まって十日ほどがたった。台詞もほとんど入って、ダンドリは分かってきた。

 でも、最初読んだとき面白かったお芝居も、やってみると難しさだけが際だってくる。

 だってね、この芝居、新派、新劇、歌舞伎、狂言、吉本などなど、ありとあらゆる芝居のエッセンスのテンコ盛り。そもそも最初から、歌舞伎風の口上で始まるんだよ(^_^;)。

―― 東西東西(とざい、とーざいー……てな感じで言います)一段高うはございますが、口上なもって申し上げます。まずは御見物いずれも様に御尊顔を拝したてまつり、恐悦至極に存じたてまつります……てな感じで、かみまくり(ほんとに舌噛んじゃった)

 動画で、それらしいのを見たりして研究中。前途多難のキザシ。

 そこへもってきて、あの気配……だんだん強くなってきて、このままじゃ稽古にならない……と思い始めた昼休み。三人で、明日は潤香先輩のお見舞いしようって、中庭で相談をしていた。

 すると、聞こえてきた……あの『埴生の宿』

「ね、聞こえない!?」

 思わず口に出てしまった。

「え、なにが……?」

「歌が聞こえる……」

「まどか……」「どうしたの……」


 二人の声が遠くなっていく……そして……気がついたら、談話室の前にいた。
 

「……埴生の宿も、わが宿。玉の装い、羨まじ……♪」

 その人は、旧制中学の制服を着て、ピアノを弾きながら唄っていた。

 バルコニーの外は桜が満開。小鳥のさえずりなんか聞こえて、春爛漫の雰囲気……そよと風が春の香りを運んできた。

 春の香りは、桜の花びらになって頬を撫でていく……何枚目かの花びらが、左目のあたりをサワって感じで通っていって、わたしは我に返った。

「……おお、わが窓よ~楽しとも、たのもしや~♪」

 その人も、ちょうど唄いきって、ゆっくりと笑顔を向けてきた。

「ごめんね、こんな誘い方をして」

「あなたは……」

「あけすけに言えば……幽霊……かな」

 あんまりのどかな言いように、予想した怖さは、どこかへいって、暖かい笑いがこみあげてくる。

「……フフフ」

「よかった。怖がらせずに話しができそうだ」

「さっきまでは、怖かったんです」

「うん、だから昼間にお招きしたんだ。僕の趣味で春にしたけど、よかったかな」

「はい、わたしも、この時期が大好き」

「君は、僕の気配が分かる。このままじゃ脅かして、稽古を台無しにしてしまいそうだから、僕の方から挨拶しておこうと思って」

「でも。とても幽霊さんに見えません」

「ハハ、それはよかった」

「ノブちゃんみたいな幽霊さんもいますから」

「そうだね、ちょっと漫画みたいな幽霊さんだけど、あんな感じ」

「怨めしや~、なんてやるんですか?」

「めったに居ないよそんな人。まあ、掛けて話そうよ」

 その人が指を動かすと、音も無くバルコニーのガラス戸が開いた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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