オフステージ(こちら空堀高校演劇部)43
『オヤジはヒラヒラと手を振った』
学校へ戻る道すがら、啓介は不思議に思った。
啓介たちが説明をする前に腐敗臭の種類を言い当てられていたのだ。
薬局のオヤジは「干し魚とかスルメとかの魚介たんぱく質」と臭いの原因を知っていた。
なんでだろう?
そして学校に着くと、薬局のオヤジはスイスイと仮部室になっているタコ部屋に向かうのだ。
――トランク事件の時は野次馬で来てたなあ、校舎の屋上も知ってたし……地元やからなあ――
釈然としないまま部室に着いた。
「廊下側の窓開けて、中に入ったらタコ部屋の窓も開けんねんで」
空気の流れを作って臭いを拡散させないためだと知れるが、なんとも的確、的確すぎる。
部室のドアも、わずかに持ち上げて滑らすというコツを知っているのだろう、スム-ズに開ける。
「ああ……これやなあ」
テーブルの上のトランクを認めると、応急処置のガムテを剥がした。
「ちょっと留め金具が……」
介添えしようと手が届く前にオヤジは蓋を開ける。
「……なるほどなあ」
一瞬しみじみとして、ゴム手袋をはめ、その瞬間だけは慎重にミイラ美少女を持ち上げた。
一人で持ち上がるのかと心配したが、うまく関節を支えているので、簡単に広げた新聞紙の上に寝かせた。
「トランクの中の匂いの元はゴミ袋に入れて、この薬を振りかけて口を密閉」
須磨たちが恐る恐るやっているうちに、オヤジはミイラの服を脱がせた。
「あー、こんなふうになってんねんなあ」
ミイラは、手足や頭こそは精密に作られていたが、服で隠れていた部分は発泡スチロールだ。
「これで臭いが消えれば怖くないですね」
千歳が胸をなでおろし、須磨とミリーは興味津々で覗き込むが、あまりの臭いにすぐにのけ反る。
オヤジは二つのポーションを取り出し、空のボトルに入れてシェイクしだした。
「なんか、カクテル作るみたいですね」
「ハハ、学生の頃はバーテンのバイトやってたからなあ……そこの噴霧器の蓋開けて受けてくれるかな」
「はい」
程よくシェイクした中身を噴霧器に戻すと、ペットボトルの水を混ぜた。
「交代や、噴霧器持って一分間シェイクしてくれる」
「合点」
啓介が交代すると、オヤジはドサッと椅子に収まり汗を拭きだした。
「何から何まですみません」
須磨が年長者らしく礼を言うと、オヤジはヒラヒラと手を振った。
「なんのなんの、このミイラ作ったん、このわしや」
「え、ええ!?」
演劇部の四人はブッタマゲテしまった……。